封止・層間絶縁膜・最外層を、1 種類の樹脂で兼ねてよいのか。兼ねられれば界面が減り、装置もレシピも 1 つで済みます。
実際に兼ねた例があります。ただし「兼ねられた理由」として最初に思い付く説明は、成り立ちません。
同じ樹脂が、封止と層間と最外層の 3 か所に出る
微小発光素子のディスプレイ用モジュールを、パネルレベルのファンアウトで作った例です。工程を追うと、同じ材料が 3 回出ます。
| 役割 | 使っている材料 |
|---|---|
| 封止 | ビルドアップフィルム |
| 再配線の層間絶縁膜 | ビルドアップフィルム |
| 最外層(はんだの濡れ止め) | ビルドアップフィルム |
通常なら、封止は成形材の圧縮成形、層間はポリイミドかビルドアップフィルム、最外層は別材料です。ここでは 3 つとも同じ。
効果も書かれています。圧縮成形の代わりにラミネートにしたことで、背の低いモジュールが得られた。
界面の数が減ります。
3 役を 1 材料へ揃えると、消える界面は 2 本。同じ材料どうしなら接着の代わりに融合になり、熱膨張差もゼロです。
工程の側も揃います。ラミネート条件が 3 役とも同じ 2 段です。
| 段 | 温度 | 圧力 | 時間 | 圧力 × 時間 |
|---|---|---|---|---|
| 1a | 120 ℃ | 真空のみ | 30 秒 | — |
| 1b | 120 ℃ | 0.68 MPa | 30 秒 | 20.4 MPa·s |
| 2 | 100 ℃ | 0.58 MPa | 60 秒 | 34.8 MPa·s |
2 段目は 20 ℃ 低く、圧力も低いのに、圧力と時間の積は 1.71 倍です。1 段目は、真空のまま 30 秒流し込んでから加圧する順序になっています。
低損失のビルドアップフィルムそのものを主題にした2025 年の報告1があるとおり、この材料系は層間絶縁膜として作り込まれてきたものです。
「要求が一致していた」を 3 項目で済ませてよいか
兼ねられた理由として、まずこう読みたくなります。3 つの役の要求がどれも「絶縁して、平らで、レーザで穴が開けられる」で一致していた、と。
判断の向きとしては正しいのですが、検査の粒度が粗すぎます。
高密度配線用の誘電体を選ぶときの検討項目は、3 つの代わりに 8 つあります。低損失化そのものを主題にした2025 年の報告1は、この一覧のうち 1 項目だけを深く掘った仕事にあたります。
| 項目 | |
|---|---|
| 1 | 低誘電率(4 未満) |
| 2 | シリコンに近い低熱膨張係数 |
| 3 | 良好な機械特性(高い伸び、高い破壊靭性) |
| 4 | 良好な密着(銅・アルミ、そして基材へ) |
| 5 | 低吸水 |
| 6 | 400 ℃ までの熱安定性 |
| 7 | 低溶剤吸収 |
| 8 | 加工性(ピンホールの無い膜、平坦化、ビア形成) |
「絶縁・平坦・レーザ穴あけ」で確かめたのは、8 項目のうち 3 項目です。
優先順位はまるで別。それでも 1 材料で足りた
残る 5 項目で 3 役を照らすと、要求が割れる箇所が出ます。
| 項目 | 封止 | 層間絶縁膜 | 最外層 |
|---|---|---|---|
| 低吸水 | 中(外気に触れる) | 低(埋まっている) | 高 |
| 銅への密着 | 低(素子と樹脂) | 高(両面が銅) | 中(開口部のみ) |
| シリコンに近い熱膨張係数 | 中 | 高(銅配線を挟む) | 低 |
| 低誘電率 | 低 | 高(配線間) | 低 |
4 項目とも、最高の要求が来る役が別々です。低吸水は最外層、残る 3 つは層間絶縁膜。
だから「要求が一致していたから兼ねられた」という説明は成り立ちません。
正しい読み方はこうです。
この材料は、もともとビルドアップ基板の層間絶縁膜です。厚い誘電体と細い導体を組み合わせる枠組みを主題にした1981 年の報告2の系譜に属します。表の真ん中の列に最適化されたものを、両側へ流用しています。
判断基準の使い方が動きます。
| 読み方 | 手順 |
|---|---|
| 要求が一致するか | 3 役を対等に見て、共通項を探す |
| 律速の役で選ぶ | 最初に律速の役を 1 つ決め、そこで選び、残りで検算する |
後者は 1 回の選定で済み、前者は 3 役ぶんの比較が要ります。前者は、共通項だけを拾うので、いちばん厳しい要求を落とすという失敗を含みます。
平坦化の度合いは
8 項目のうち「加工性」を、さらに分解します。平坦化はこう定められます。堆積し硬化した誘電体が、下地の凹凸に対してどの程度覆っているか。理想は、上面が下地に沿う代わりに平らであること。
式にします。下地の段差を 、積んだ誘電体の厚みを 、上面に残る段差を として
| 状態 | DOP | |
|---|---|---|
| 完全に下地へ沿う | 0 | |
| 完全に平ら | 0 | 1 |
「誘電体が厚いほど平坦化の度合いが大きくなる」は、 が比 の増加とともに小さくなる、という意味です。
塗布膜の平坦化を解析的に解いた1998 年の研究3や、膜厚と線密度を同時に振って局所平坦化を解析した2002 年の研究4、そして段差被覆そのものを主題にした1972 年の報告5があるとおり、段差と膜厚の比が、この量を握っています。
2 つの は揃わず、揃える方法もない
膜厚と段差の比が平坦化を握ることは1998 年の解析3のとおりで、以下はその比を 2 つの役について計算する作業です。2 つの役で、厚みが 6 倍違います。
| 役 | 誘電体の厚み |
|---|---|
| 封止 | 150 µm |
| 層間絶縁膜 | 25 µm |
「比 を揃えるために厚みを変えている」という読み方が成り立つかどうかを、数で確かめます。
層間絶縁膜が覆うのは、数 µm の銅配線です。 µm とすると
封止が同じ比になるには、発光素子の高さが
という 1 点だけです。
この種の発光素子は、これよりはるかに背が高い。だから
が、素子の高さによらず成り立ちます。
| 素子の高さ | 封止の | 層間 ÷ 封止 |
|---|---|---|
| 50 µm | 3.00 | 2.8 倍 |
| 80 µm | 1.88 | 4.4 倍 |
| 100 µm | 1.50 | 5.6 倍 |
| 150 µm | 1.00 | 8.3 倍 |
2 つの比は揃わず、揃える方法もありません。
ずれの向きが、そのまま理由です。
層間絶縁膜の上には次の配線が載るので、平坦な面が要ります。封止の上は最終面です。覆えば済みます。
だから厚みを役ごとに変えているのは、比を揃えるためより、その層の上で次に何が起きるかに合わせるためです。
揃えるのはレシピ、変えるのは厚み
兼ねるときの手順が、これで 2 行になります。
ここが逆になっていると、2 通りに壊れます。
| 誤り | 結果 |
|---|---|
| 封止が薄すぎる | 素子の頭が出る |
| 層間が厚すぎる | ビアの形状比が破綻する |
層間の厚みには上限もあります。ビアの形状比が、 とビア径で決まるからです。
平坦化は を増やしたがり、ビアは を減らしたがる。厚い誘電体と細い導体を組み合わせて微細パターンを作る枠組みを主題にした1981 年の報告2が対象にするのも、この押し合いです。
1 パネル 62 万個、実験は 11.8%
| 値 | |
|---|---|
| パネル | 515 mm × 510 mm |
| 設計上の素子数 | 629,712 個 |
| 実験で載せた数 | 74,064 個 |
理由は「素子を節約するため」と書かれています。全数の 11.8% です。
モジュールの構成も数で出ます。
1 モジュールは 1.2 × 1.2 mm なので
パネル面積の 28.8% がモジュールです。残る 71.2% は切り代と周辺。
モジュール内の密度は
素子間の間隔は 80 µm。これだけの数を載せる工程そのものが課題で、レーザで転写と接合を同時に行う工程窓を主題にした2024 年の報告6や2023 年の研究7、そして欠陥検査のための位置決めを主題にした2026 年の研究8が、その周辺にあります。
62 万個のうち 1 個の欠落が、そのまま画素の欠落です。11.8% を載せた実験は、その歩留まりを測る手前に立っていることになります。