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VOL.04 先端パッケージングの寸法 第 42 回 / 全 42 回

ワイブル寿命の推定精度:10% 寿命の不確かさは特性寿命の 2.2 倍

機械学習で接合寿命を予測した報告は、実測との比較を 63.2% が壊れる特性寿命で行っています。ところが設計で保証するのは 10% が壊れる寿命のほうで、こちらは同じ標本数でも推定がずっと不確かになり、同じ精度には 5 倍近い本数が要ります。

28 分 応用 式 17 出典 9

この回の目次(7 節)
  1. §1 AI が減らしたのは解析の回数で、試験はその手前で減っていた
  2. §2 63.2% は、形状母数が厳密に落ちる唯一の点
  3. §3 低パーセンタイル寿命の不確かさは、 の何倍かが先に決まる
  4. §4 24 本を 96 本にしても 1.098 倍どまりで、必要なのは 116 本
  5. §5 小標本のずれは、危険側へ向く
  6. §6 2 構造の比較は、自由度が 0
  7. §7 アンサンブルの床は

この回で示すこと

  1. 63.2% は、ワイブル分布で形状母数が寿命の式から厳密に消える唯一の故障率。
  2. 10% 寿命の相対不確かさは特性寿命の 2.20 倍で、標本数にも形状母数にもよらない。モンテカルロでは 2.17〜2.20。
  3. 同じ精度を 10% 寿命で得るには 24 本の代わりに 116 本が要り、96 本では 1.098 倍にとどまる。
10% 寿命の相対不確かさ(特性寿命比) 2.20 倍
24 本の特性寿命と同じ精度に要る本数 116 本
96 本での到達点 1.098 倍

熱サイクル試験を 1,000 サイクル回すには数か月かかります。そこへ機械学習を入れた報告があり、精度で逆転が起きています。

予測寿命実測との差
実測1013 サイクル—
有限要素解析98231(3.1%)
アンサンブル学習102916(1.6%)

訓練データは解析結果そのものなのに、学習モデルのほうが実測へ近づきました。面白い結果ですが、この記事の主題はその先にあります。

比べている「寿命」が、どの寿命なのか。ここで使われている 1013 も 1037 も、ワイブル分布の特性寿命——累積故障率 63.2% に達するサイクル数です。設計が守るのは 10% 寿命のほうです。

この 2 つには、決まりやすさに固定の落差があります。その落差は、標本数にも形状母数にもよらず、先に決まっています。比は 。

AI が減らしたのは解析の回数で、試験はその手前で減っていた

  1. 昔 — 試験体を作って加速熱サイクル試験を回す。1 点あたり数か月
  2. 解析の普及後 — 有限要素解析で当たりを付け、試験を減らす。1 点あたり数時間
  3. いま — 解析データで学習モデルを訓練し、解析を回す回数を減らす。1 点あたり数秒

段が 1 つ違います。試験を減らしたのは解析のほうで、学習モデルが減らしたのは解析です。

この位置取りは、公開された枠組みにもそのまま出ます。有限要素法そのものを訓練の教師に使う2026 年の手法1は、要素の逆等径写像を使った演算子を組み立て、既存の有限要素コードを訓練へ流用することを狙っています。訓練形状を増やすほど未知形状での誤差が下がった、という報告です。減らす対象は、実験の手前にある解析のほうです。

もう 1 か所、目立ちにくい使い方があります。はんだの構成則の係数を実験曲線から取り出す仕事です。2023 年の報告2は、Garofalo・Anand・Chaboche の各構成則について SAC305 の係数を神経回路網で抽出し、ベイズ推論で分布まで出しています。学習モデルが解析を置き換える使い方と、学習モデルが解析の入力を作る使い方は別物です。後者は解析を残したまま使えます。

そのうえで、本題は精度の比較のほうです。

63.2% は、形状母数が厳密に落ちる唯一の点

ワイブル分布の累積故障率は

で、 が特性寿命、 が形状母数です。故障率 に達するサイクル数を と書くと

対数を取ります。

が入る項は 1 つだけで、その係数は です。 で微分すると

これが厳密に 0 になるのは 、つまり のときだけ。 を解いて

63.2% の正体は、形状母数が寿命の式から厳密に落ちる、ただ 1 つの故障率という点です。

これが、特性寿命が寿命指標のなかでいちばん狭く決まる理由です。いちばん決めにくい母数の寄与が、この故障率の選び方によって射影で消してあります。加速係数の換算を特性寿命の上で組む2010 年の大規模試験3が、パッケージ種・合金・ピッチ・ダイ寸法・基板厚・試験条件を横断した比較の土台に を選んでいるのも、この安定さゆえです。

「1.6% で当たった」という数字は、その点の上で測られています。

低パーセンタイル寿命の不確かさは、 の何倍かが先に決まる

から へ移ると、 の不確かさが の重みで入ってきます。どれだけ入るかを、最尤推定の情報量から出します。

完全データのワイブル最尤推定について、標本数 での漸近分散は次の 3 つで書けます。

と書いて を摂動すると

分散を取ります。

ですから、割ると

も も約分で消えました。括弧の中に残るのは だけ、つまりどの故障率を尋ねるかだけです。

故障率 (、)
1%+4.6003.839451 サイクル
5%+2.9702.686606
10%+2.2502.196690
20%+1.5001.711791
50%+0.3671.115971
63.2%01.0001037

10% 寿命の相対不確かさは、特性寿命の 2.20 倍。1% 寿命なら 3.84 倍。63.2% 点で厳密に 1 に落ちるのは、前節の がそのまま入っているからです。

漸近式に頼った導出なので、推定量そのもので確かめます。ワイブル乱数から最尤推定を 12 万回ずつ回し、 と の標準偏差の比を測りました。

2.502.1732.1872.195
5.532.1892.1822.204
12.02.1742.1872.191

形状母数を 4.8 倍、標本数を 17 倍振っても、比は 2.17〜2.20 の帯に収まります。予言した 2.196 と、標本 24 本でも 1% 以内で一致します。ワイブルの区間推定を条件付き枢軸量・尤度比・Birnbaum 統計量で比べた2005 年の研究4が示すとおり、区間の作り方によって幅そのものは動きますが、ここで問うている比は推定量の情報行列の側で決まっているので、作り方の差を越えて保たれます。

24 本を 96 本にしても 1.098 倍どまりで、必要なのは 116 本

比が固定されている、という結果には続きがあります。

も も で縮みます。縮み方が同じなので、標本を増やしたとき動くのは全体の水準だけで、比はそのままです。

そこで比較対象を具体化します。標本 24 本で得た特性寿命と同じ相対精度を、10% 寿命で得るには何本要るか。

116 本。24 本の 4.82 倍です。

ここで、よくある増やし方を当てはめます。24 本を 96 本へ、つまり 4 倍にした場合。

4 倍にしても、まだ 1.098 倍。24 本の特性寿命が持っていた精度まで、10% 寿命はあと 9.8% 残します。「標本を 4 倍にする」という、予算としてはかなり大きい決断で、ようやくこの距離です。

故障率をさらに下げると、要求はもっと伸びます。

目標標本 24 本の と並ぶのに要る本数
10% 寿命116 本
5% 寿命174 本
1% 寿命354 本

熱サイクル試験は 1 点に数か月かかる試験です。加速係数の定数そのものがパッケージ構成ごとに引き直されている——2012 年の研究5は銅コア基板とコア無し基板、9 通りの試験条件で SAC305 の Norris-Landzberg 加速係数と、それに対応する材料定数を主成分回帰で組み直しています——ことを考えると、354 本という数は、実務では現実的ではありません。

だから比は、払い切れる見込みの薄い固定の割増です。

小標本のずれは、危険側へ向く

幅の話で切り上げると片手落ちです。中心がどちらへずれるかも測ります。

同じモンテカルロで、推定値と真値の比の中央値を取りました。

121.0841.0290.997
241.0411.0140.999
481.0201.0070.999
961.0101.0041.000
4001.0021.0011.000

形状母数は高めに出ます。標本 24 本で中央値が真値の 1.041 倍、12 本なら 1.084 倍。形状母数を減らすよう補正した最尤推定を提案する2023 年の研究6が、完全データと第 I 種打切りの両方でこの偏りを主題にしているのは、そのためです。

で ですから、 が高く出ると は 1 へ近づきます。つまり 10% 寿命は長めに出ます。

標本 24 本での中央値は 1.014 倍。幅に比べれば小さい偏りですが、向きが問題です。標本を削るほど、10% 寿命は実際より長いほうへ出ます。安全側の逆向きです。

特性寿命のほうは 0.999 倍で、実質そのままです。63.2% 点は、幅が最小であるうえに、偏りもほぼ持たずに済みます。使いやすい量ではあります。ただし使いやすさは、守りたい量であることとは別です。

もう 1 つ。標本 24 本での の標準偏差は で、漸近値の より 15% 広く出ました。小標本では、漸近式が幅を控えめに言います。上で出した 116 本は、その意味で下限です。

2 構造の比較は、自由度が 0

ここまでは「絶対値を当てる」話でした。実務でよく使う、もう 1 つの読み方を検算します。

解析は絶対値では外すが、2 構造の比なら当たる、という経験則です。実例が出ています。6 面モールド版と通常版を同じ温度条件で解いて、両方を実際に試験したもの。

隅のはんだの累積クリープひずみ特性寿命(実測)
6 面モールド0.0361,037 サイクル
通常版0.099368 サイクル

寿命則を と書くと、同じ材料・同じ温度条件で解いた 2 構造の比では が約分で消えます。

ひずみの比 、寿命の比 。指数を 1 とした素朴な換算で、差は 2.4%。絶対値で 3.1% 離れた解析が、比では当たったように読めます。

2 つの比から指数を逆算できるからです。

報告された 2.4% は、この が 1 からどれだけ離れているかと、同じ量です。

左辺の実測値は 0.0241、右辺は 0.0244。一致します。つまり「解析の比が 2.4% で当たった」という文は、「はんだの疲労指数が 1 から 2.4% ぶんだけ離れている」と言い換えても情報量が同じです。解析の出来について語る部分は、ここで空になります。

自由度で書くと、もっと端的です。2 構造からは独立な比が 1 つ取れます。合わせ込む自由な母数は指数 の 1 つ。。残差を測る余地は、はじめから空です。 構造なら比が 本、自由度は 。この検算が反証可能になるのは、構造が 3 つ並んだときからです。

指数が 1 の近くに居たことには、公開文献の側で裏付けが付きます。クリープひずみエネルギー密度を基準に取ると、2021 年の解析7が書くとおり破断サイクル数は平均クリープひずみエネルギー密度に反比例します。エネルギー基準での指数は 1 です。き裂進展速度をひずみエネルギー密度基準で組んだ2004 年の研究8も同じ骨格に立っています。ここで使われた「累積クリープひずみ」は、エネルギー的な量の代役として働いていたことになります。

代役が崩れる場合を数えておきます。ひずみ基準の指数は 2 前後になることがあります。同じ、完璧に正しい解析を、指数 1 として読んだ場合のずれ方です。

真の指数予測される寿命比指数 1 と読んだときのずれ
1.02.750.0%
1.54.5639.7%
2.07.5663.6%
2.816.9983.8%

動かしたのは指数だけで、解析の質はそのままです。それで 2.4% が 63.6% になります。「比なら当たる」の当たり具合を決めているのは、解析の精度の代わりに、指数が 1 からどれだけ離れているかです。

対照として、自由度が立っている検算も同じ報告の中にあります。ランプ時間とドウェル時間を振った 4 条件の寿命表に加速係数の式を当て、全条件で 0.6% 以内。4 つの実測値に対して自由な定数が 2 つなら、自由度は 2 です。こちらは落ちる余地のある検算で、実際に通りました。同じ報告の中に、自由度 2 の検算と自由度 0 の検算が並んでいます。自由度を数えてから進む手間が、そこで要ります。

アンサンブルの床は

最後に、学習モデル側の設計を検算します。3 つのアルゴリズムと、その組み合わせの表です。

モデル最大テスト誤差平均テスト誤差
ANN66(4.1%)8.1
RNN82(8.9%)8.0
GPR69(6.3%)11.3
ANN + RNN63(6.8%)7.0
ANN + GPR70(6.4%)8.7
RNN + GPR77(5.7%)8.8
全部67(5.9%)7.9

平均誤差は、ほぼ同じ帯に留まります。理由を数で示します。

個のモデルを等重みで平均したとき、個々の誤差の分散を 、対ごとの誤差相関を とすると

この式を について解き、表の数字を入れます。

組み合わせ実測誤差が独立なら逆算した
ANN + RNN7.05.690.512
ANN + GPR8.76.950.598
RNN + GPR8.86.920.653
全部7.95.350.617

4 通りの組み合わせが、0.51〜0.65 という揃った相関を指します。別々に解いた 4 本の式が同じ帯へ入るので、等重み平均という仮定ごと裏が取れた形です。

この が床を決めます。全モデルの誤差分散が等しい場合、上の式は

なら床は 。アルゴリズムを無限に並べても、平均誤差は単体の 77.5% までです。 で既に 0.894、 で 0.856。2 本から先は、残り 13% を取りにいく作業になります。

平均精度を上げる目的でアンサンブルを組むなら、2 本目までで打ち止めです。表の「全部」が ANN + RNN より悪いのも、これで筋が通ります。

さらに、等重みという選び方そのものを検算します。ANN(8.1)と GPR(11.3)、 の最小分散重みは

組み方平均誤差
ANN 単体8.10
等重み(0.500)8.70(単体より 7.4% 悪い)
最適重み(0.870)8.01(単体より 1.1% 良い)

GPR を足したときの悪化は、GPR の素性と、等重みという足し方の両方から来ます。最適重みなら単体を下回ります。ただしその下回り方は 1.1% で、手間に見合うかは別の判断になります。回帰型のガウス過程と神経回路網を同じ課題で並べた2019 年の研究9も、両者がそれぞれ内挿と外挿で使えることを示しつつ、データの偏りが結果を左右する点を主題にしています。混ぜる相手より、混ぜ方が先に結果を左右します。

なお、この節の相関は平均誤差から逆算したもので、最大誤差のほうは別の量です。最大誤差は 8.9% から 5.7〜6.8% へ確かに縮んでいます。アンサンブルが改善するのはそちらです。

出典

  1. 1 FE-PINNs: Finite-element-based physics-informed neural networks for surrogate modeling (2026) doi:10.1063/5.0299671
  2. 2 Coefficient Extraction of SAC305 Solder Constitutive Equations Using Equation-Informed Neural Networks (2023) doi:10.3390/ma16144922
  3. 3 Characteristic Life Based Acceleration Transforms for Lead-Free Solder Joint Reliability under Thermal Cycling Conditions (2010) doi:10.4071/isom-2010-tp2-paper3
  4. 4 One-Sided confidence interval estimation for Weibull Shape and scale parameters (2005) doi:10.15517/rmta.v12i1-2.251
  5. 5 Norris-Landzberg Acceleration Factors and Goldmann Constants for SAC305 Lead-Free Electronics (2012) doi:10.1115/1.4006863
  6. 6 Maximum likelihood estimation of the Weibull distribution with reduced bias (2023) doi:10.1007/s11222-023-10236-0
  7. 7 Solder joint reliability based on creep strain energy density for SAC305 and doped SAC solders (2021) doi:10.1051/matecconf/202134302005
  8. 8 Strain Energy Density Criterion for Reliability Life Prediction of Solder Joints in Electronic Packaging (2004) doi:10.1115/1.1773855
  9. 9 Centrifugal Compressor Performance Prediction Using Gaussian Process Regression and Artificial Neural Networks (2019) doi:10.1115/imece2019-11936