積層メモリの層数を決めているのは、穴を底まで開けられるかどうかです。成膜と露光は、その後ろに来ます。
「開けられるか」は、2 つの独立した条件に割れます。イオンがまっすぐ底まで届くか。反応する中性種が底まで届くか。
穴の角度受容は
幾何から入ります。直径 、深さ の穴、アスペクト比 。
鉛直から角度 で入ったイオンは、深さ を進むあいだに横へ だけ動きます。側壁へ当たらずに底へ届く条件は
| アスペクト比 | 角度の予算 |
|---|---|
| 20 | 2.862° |
| 50 | 1.146° |
| 100 | 0.573° |
| 200 | 0.286° |
| 500 | 0.115° |
アスペクト比 100 の穴に残された入射角の幅は、0.573 度です。イオンの入射角分布そのものを設計変数にした研究1が成り立つのは、この予算が装置の分布幅と同じ桁だからです。
穴の中心へ入ったイオンが横へ動ける幅は までなので、そちらの予算は半分になります。上の表は、最も甘い側の見積もりです。
必要な縦方向エネルギーは、アスペクト比の 2 乗
角度の予算を、エネルギーの要求へ翻訳します。
イオンはシースで縦方向に加速され、横方向には元の熱運動を残したまま入ってきます。縦方向のエネルギーを 、横方向を とすると、入射角はおよそ
これを へ入れます。
アスペクト比の 2 乗です。 eV を代入します。この値は手順を示すために据えたもので、実測値と別です。
| アスペクト比 | 要る ( eV) |
|---|---|
| 20 | 40 eV |
| 50 | 250 eV |
| 100 | 1.0 keV |
| 200 | 4.0 keV |
| 500 | 25 keV |
100:1 で 1 keV、500:1 で 25 keV。逆に解くと、使えるバイアスからアスペクト比の上限が出ます。
| 使える | |
|---|---|
| 500 eV | 71 |
| 1 keV | 100 |
| 2 keV | 141 |
| 5 keV | 224 |
実用的なバイアスの範囲で、1 回のエッチが届くのは 100 から 140 の桁です。
横方向のエネルギーは、シースの中の衝突でも増えます。1991 年の衝突性 rf シースにおけるイオンと中性種の角度・エネルギー分布の研究2が、この分布を追っています。 は気体の温度だけで決まる量より、圧力とシース厚みの関数です。
だから低圧化が乗ります。2026 年の高アスペクト比 SiO₂ 構造の超低圧誘導結合プラズマエッチング3は、3 mTorr の超低圧で安定な工程を作り、190 nm/min のエッチ速度を垂直な側壁とともに得ています。低周波バイアス電力はイオンエネルギー駆動の表面反応を増やして速度を単調に上げ、ソース電力はプラズマ密度と反応種流束を増やして異方性を保ったまま速度を上げた、という切り分けです。
バイアスは の側、ソースは流束の側。上の 2 つの条件へ、別々のつまみが対応しています。
中性種の側は、100:1 で底へ届くのが 1.33%
もう 1 つの条件へ移ります。
穴の中は分子流なので、中性種は壁で跳ね返りながら進みます。長い円筒の透過確率(クラウジング係数)は、長さ ・半径 に対して
アスペクト比の 1 乗の逆数です。
| アスペクト比 | 透過確率 |
|---|---|
| 50 | 2.67% |
| 100 | 1.33% |
| 200 | 0.67% |
| 500 | 0.27% |
2023 年の高アスペクト比形状のエッチングにおける中性種の輸送4が、この値を計算で確かめています。深さと直径の比が 100:1 の形状では、底での流束は入射流束の 1.3% にとどまる。上の式が返す 1.33% と一致します。
同じ研究は、対処の方向も示しています。表面拡散があると、定常の透過確率が有意に上がる。吸着した中性種の自然脱離や衝突誘起脱離それ自体が動かすのは、定常の透過確率より、そこへ到達する時間のほうだ、という切り分けです。
壁を「跳ね返る面」から「運ぶ面」へ変えると、1 乗の壁が緩みます。
低温化が乗るのは、この経路です。2025 年のフッ化水素ガスを用いた低温プロセスによる高アスペクト比の穴エッチング5は、深さ 10 µm 超・アスペクト比およそ 100 の ONON 構造の穴を、フッ化水素とリン含有ガスの低温プラズマで開けています。機構として、低温での水の副生成物とフッ化水素エッチャントの共吸着、そしてリン含有種による水の吸着のさらなる促進を挙げている。
吸着を増やす方向の設計です。表面に座る量が増えれば、表面拡散で運べる量も増える。
イオンは 2 乗、中性種は 1 乗
2 つの条件を同じ表にします。
| 条件 | アスペクト比への依存 | を 2 倍にすると |
|---|---|---|
| イオンのエネルギー | 4 倍 | |
| 中性種の透過 | 半分 |
エッチ時間は、両方から掛かります。深さは 、速度は透過確率に比例するので 。
時間もアスペクト比の 2 乗です。
| アスペクト比 | イオンエネルギー | 透過確率 | 相対時間 |
|---|---|---|---|
| 50 | 250 eV | 2.67% | 0.25 |
| 100 | 1.0 keV | 1.33% | 1.00 |
| 200 | 4.0 keV | 0.67% | 4.00 |
| 500 | 25 keV | 0.27% | 25.0 |
アスペクト比を 2 倍にすると、エネルギーと時間が同時に 4 倍になります。2 つの資源が同じ指数で増える。深さ 10 µm 超・アスペクト比およそ 100 の穴5が新しい化学を必要としたのは、この 2 乗を 1 段で引き受けたためです。
臨界アスペクト比では、速度がゼロへ落ちる
上の表は滑らかですが、実際には不連続が入ります。
2005 年の深堀り反応性イオンエッチングにおける到達可能な最大アスペクト比の研究6は、見かけのエッチ速度がアスペクト比とともに単調に減るのをやめ、急にゼロへ落ちる点を臨界アスペクト比と名付け、その機構をモデル化しています。
モデルの中身は、時分割エッチの 3 つの副工程です。
| 副工程 | 内容 |
|---|---|
| 1 | フルオロカーボンの保護層を付ける |
| 2 | 溝の底でその保護層を削る |
| 3 | 露出したシリコンを削る |
臨界アスペクト比は、保護層のエッチ速度が「堆積速度 × 堆積とエッチの時間比」と等しくなる点で決まる、という結論です。
つまり、底で保護層を破る力が均衡した時点で止まります。シリコンを削る能力が残っていても、そこへ到達する手前で釣り合う。
この形は前の節の 2 つの条件とは別の壁です。イオンのエネルギーが足りていて、中性種も届いていても、時分割の比が合わなければ止まる。3 つ目の条件として、別の行で持ちます。
側壁の側にも独立した条件があります。2018 年の高アスペクト比 Si 穴エッチングにおける基板温度と側壁侵食の研究7が、基板温度が側壁の侵食へ及ぼす影響を追っています。底を掘る条件と、側壁を守る条件が、同じ温度のつまみを奪い合います。
ウェーハの端では、エネルギーと角度の両方が広がる
ここまで 1 つの穴の話をしてきました。ウェーハ全面では、 と の分布が場所で動きます。
2026 年の誘導結合プラズマエッチングにおけるチャンバ半径の調整によるイオンエネルギー分布と角度分布の最適化1は、流体と電磁場を結合した 2 次元モデルでこの分布を求め、エッチングの端効果を報告しています。
イオンエネルギーと入射角の両方が、ウェーハの端の近くで発散が大きくなる。原因は膨張チャンバ内のプラズマ密度の不均一で、それがシース厚みの不均一につながる。
入射角の発散が広がるということは、上の の予算を食うということです。アスペクト比 100 の 0.573 度に対して、端での広がりが直接引かれる。
同じ研究は、駆動チャンバ半径がプラズマ密度分布とシース厚みの一様性を動かし、それがシースの通過時間を通じて 2 つの分布の一様性へつながることを示しています。ただし最適値は運転条件と装置寸法の両方に依存する、とも。
だから「この装置で が通った」という報告には、測った半径位置を添えます。端まで通す条件は、中心の条件より厳しい側にあります。
2 段に割ると、1 段あたりの要求が 4 分の 1 になる
の依存には、明るい面があります。
深さ を 段に分けて掘ると、1 段あたりのアスペクト比は 。要るエネルギーと時間は 分の 1 になります。
| 段数 | 1 段の (全体 200) | 1 段の | 1 段の相対時間 |
|---|---|---|---|
| 1 | 200 | 4.0 keV | 4.00 |
| 2 | 100 | 1.0 keV | 1.00 |
| 3 | 67 | 0.45 keV | 0.44 |
| 4 | 50 | 0.25 keV | 0.25 |
全体で を、2 段の に置き換えると、1 段あたりのエネルギーが 4 分の 1 です。
代償は継ぎ目です。 段なら 箇所で、上下の穴を合わせる必要がある。直径 の穴を だけずらすと、いちばん狭いところの幅は 。断面積の比は
nm、 nm で数を入れます。
| 段数 | 継ぎ目 | 残る断面積 |
|---|---|---|
| 2 | 1 箇所 | 81% |
| 3 | 2 箇所 | 66% |
| 4 | 3 箇所 | 53% |
段を増やすほど、穴そのものが細ります。断面積を 90% 以上に保つ条件は
なら 。直径 100 nm の穴に対して、合わせ精度 5.1 nm。10 µm 離れた 2 つの工程のあいだで、この精度が要る。
の壁を段数で割るか、合わせ精度の壁を受け取るか。2 つの壁のどちらを取るかが、段数の選択です。1 段で到達したアスペクト比およそ 1005 を基準線にすると、段数はそこから先の深さを何で割るかの話になります。
現場で動く判断
- 角度の予算は です。 で 0.573 度。穴の中心へ入るイオンでは、その半分です。
- 要る縦方向エネルギーは です。 eV で なら 1 keV、 なら 25 keV。使えるバイアスから が出ます。
- は圧力とシース厚みの関数です。衝突性シースでの角度・エネルギー分布2。低圧化は を下げる操作として勘定へ入れます。
- 表面拡散が、1 乗の壁を緩めます。表面拡散があると定常の透過確率が有意に上がる4。低温での共吸着を使う工程5が、この経路です。
- エッチ時間もアスペクト比の 2 乗です。深さが 、速度が 。 を 2 倍にすると、エネルギーと時間が同時に 4 倍になります。
- 臨界アスペクト比では、速度が急にゼロへ落ちます。保護層のエッチ速度が堆積速度と時間比の積に等しくなる点6。エネルギーと流束が足りていても止まる、3 つ目の条件です。
- ウェーハの端で、エネルギーと角度の両方の発散が広がります。シース厚みの不均一が原因1。通った には、測った半径位置を添えます。
- 段に割ると、1 段あたりの要求が 分の 1 になります。 を 2 段にすると 4 keV が 1 keV へ。代わりに継ぎ目の合わせ精度が要ります。
- 継ぎ目 1 箇所で断面積が になります。90% を保つには nm で nm。段数の選択は、 の壁と合わせ精度の壁の取り替えです。