DRAM のセルキャパシタで高κ材料を選ぶとき、比べる対象は κ の数字になります。
ところが公開されたスタックを逆算すると、EOT 予算の 4 割前後を、挟んだ薄い低κ層が占めていました。
κ が買っているのは、物理膜厚だけ
平行平板の容量は、面積 、物理膜厚 、比誘電率 で
同じ容量になる SiO₂ の厚みを EOT と呼ぶと、 として
この式が言っているのは 1 つだけです。κ の大きい材料は、同じ容量に達するまで物理的に厚く積める。
| 物理膜厚 | κ = 20 | κ = 30 | κ = 45 | κ = 100 |
|---|---|---|---|---|
| 3.5 nm | 0.682 nm | 0.455 nm | 0.303 nm | 0.137 nm |
| 4.5 nm | 0.878 nm | 0.585 nm | 0.390 nm | 0.176 nm |
| 5.6 nm | 1.092 nm | 0.728 nm | 0.485 nm | 0.218 nm |
| 6.1 nm | 1.190 nm | 0.793 nm | 0.529 nm | 0.238 nm |
κ の見積もりの不確かさが、そのまま等価厚みの不確かさになります。同じ 3.5 nm の膜が、κ 20 なら 0.68 nm、κ 30 なら 0.46 nm。
どの酸化物がどの κ とどのバンドオフセットを持つかは、計算と実測の両方で公開されています。2002 年の高誘電率酸化物のバンドオフセットとショットキー障壁高さの研究1が、局所密度汎関数の擬ポテンシャル法で多数の候補酸化物の電子構造とバンドオフセットを計算し、光電子分光と内部光電子放出の実測値とも突き合わせたうえで、バンドオフセットの観点で許容できる酸化物として ZrO₂、HfO₂、La₂O₃、Y₂O₃、Al₂O₃、ケイ酸塩、アルミン酸塩を挙げています。
リークは膜厚に指数、バリアには平方根
矩形障壁を WKB 近似で抜けるトンネル確率は、厚み (Å)とバリア高さ (V)で
厚みは指数の中に 1 乗、バリア高さは 1/2 乗どまりです。
V、 Å なら指数は 、。トンネルが無視できる領域の目安と一致します。
10 進の桁で表すと使いやすくなります。
| バリア高さ | 1 Å あたりの桁数 | 1 桁あたりの厚み |
|---|---|---|
| 1.0 V | 0.439 桁 | 2.28 Å |
| 2.0 V | 0.620 桁 | 1.61 Å |
| 3.2 V | 0.785 桁 | 1.27 Å |
| 4.0 V | 0.877 桁 | 1.14 Å |
V なら、1.27 Å 薄くするごとに 1 桁リークが増えます。6.0 nm から 3.5 nm へ 25 Å 薄くすれば 19.6 桁。
キャパシタスタックの要求が「段差被覆性・高い誘電率・ A/cm² 未満のリーク」の 3 つ同時になるのは、この指数の急さのためです。
A/cm² が実際に達成されている水準であることは、公開の実測で確かめられます。2023 年の DRAM キャパシタ向けヘテロ構造2が、±0.5 V でこの値を下回るリーク電流密度を報告しています。数字の出どころは後の節で分解します。
κ を上げてよい条件は、
2 本の式を、同じ EOT のもとで結びます。 を指数へ代入すると
EOT をそのままに材料を替えるなら、指数の大小を握っているのは という 1 つの積だけです。
リークを保ったまま κ を上げられる条件は、この積が同じか増えること。つまり
より速くバリアが落ちなければ、κ を上げる側が勝ちます。
| κ の変更 | 許されるバリアの低下 |
|---|---|
| 9 → 30 | 元の 9.0% まで |
| 30 → 50 | 元の 36.0% まで |
| 30 → 100 | 元の 9.0% まで |
| 45 → 100 | 元の 20.2% まで |
実際のバリアがそこまで落ちるかどうかが、材料を選ぶ基準になります。
κ とバンドギャップのあいだに逆相関があることは広く知られています。2018 年の非酸化物誘電体の誘電率とバンドギャップの高スループット第一原理計算3が、「 と の逆相関のため、両方が大きい材料はまれである」と書いたうえで、二元系の炭化物・窒化物・硫化物・リン化物・塩化物・フッ化物 869 化合物を自動計算で走査し、フッ化物が酸化物に匹敵する – 関係を示すことを報告しています。
逆相関の典型的な強さは κ の 1 乗の側であり、上の基準線は 2 乗。 がバンドギャップに比例して落ちる範囲なら、κ を上げる操作には 1 乗ぶんの余地が空いています。
だから「κ を 50〜100 へ上げるとリークで負ける」という読み方は、直接トンネルだけを根拠にするかぎり早すぎます。断りは 2 つ。 が指すのはバンドギャップそのものより、電極のフェルミ準位と絶縁体伝導帯のオフセットなので、 は上限の目安まで。κ の大きい材料ほど多結晶になりやすく、粒界がトラップ伝導の通り道になりえます。κ を上げて負ける経路があるとすれば、直接トンネルよりトラップ伝導の側です。
界面層は EOT に足し算で乗る
高κ層の外側には、必ず何かが挟まります。直列の容量は逆数で足し合わさるので
両辺に を掛けると、等価厚みは素直な足し算になります。
の極限で第 2 項が消え、。
どれだけ良い誘電体を持ってきても、EOT は界面層が作る床で止まります。床の位置は と の 2 つだけで決まります。
超高κを検討する側が先に測る数字は、κ より手前のこの 2 つです。
この効果は電極の側にも出ます。2012 年の RuO₂ 電極による ALD HfO₂ の EOT スケーリングの研究4が、標準の Pt ゲートに比べて EOT を約 0.5 nm 縮められることを、EOT 0.8〜2.5 nm の範囲で報告しています。機構は HfO₂/RuO₂ 界面での誘電デッドレイヤー効果の抑制で、電極の遮蔽長の内側で RuO₂ 自身がイオン分極しうるため、と記しています。
0.5 nm という値の大きさを、κ の側と比べます。
| 操作 | 稼げる EOT |
|---|---|
| nm で κ を 30 から無限大へ | 0.455 nm |
| nm で κ を 30 から無限大へ | 0.728 nm |
| 電極のデッドレイヤー抑制 | 0.5 nm |
3.5 nm の膜では、電極を替えるほうが κ を無限大にするより大きい。材料の κ を争う前に、電極と界面の側にこれだけの量が転がっています。
公開スタックを逆算すると、芯の κ は 69〜94
具体的な公開データで確かめます。
2023 年の EOT 5.1 Å・低リークの DRAM キャパシタ向けヘテロ構造の研究2が、TiN/Al₂O₃(0.2 nm)/Hf₀.₅Zr₀.₅O₂(5.6 nm)/Al₂O₃(0.3 nm)/TiN で、誘電率 約 46.7(EOT 約 5.1 Å)、±0.5 V でのリーク電流密度 A/cm² 未満を得ています。手は 2 つで、Hf₁₋ₓZrₓO₂ をモルフォトロピック相転移の領域へ合わせて t 相と o 相の比を作り変えること、そして広いバンドギャップを持つ Al₂O₃ の極薄層を挿入すること。
まず積層平均の κ を再現します。物理膜厚の合計は nm なので
報告値 46.7 と一致します。ここまでは検算です。
次に、その 46.6 を分解します。Al₂O₃ が合計 0.5 nm 入っているので、その κ を振って芯に要る κ を解きます。
| Al₂O₃ の κ | Al₂O₃ が使う EOT | EOT 予算に占める割合 | 芯に要る κ |
|---|---|---|---|
| 7 | 0.279 nm | 54.6% | 94.4 |
| 8 | 0.244 nm | 47.8% | 82.0 |
| 9 | 0.217 nm | 42.5% | 74.5 |
| 10 | 0.195 nm | 38.2% | 69.3 |
厚み 0.5 nm の Al₂O₃ が、0.51 nm の EOT 予算の 38〜55% を占めています。
芯の Hf₀.₅Zr₀.₅O₂ は、κ 69〜94 の範囲でようやく勘定が合います。報告されている 46.7 が指すのは積層平均のほうで、材料そのものの κ とは別の量です。
κ の数字を材料間で比べるとき、この差が桁の手前に入ります。同じ材料が、挟むものしだいで 46.7 とも 74.5 とも書かれる。比べる前に、その κ が単層の値か積層平均かを数えます。
界面層を減らす利得は、κ を 45 から 65 へ上げる利得と同じ
同じ枠組みで、界面層を減らした側の公開データを当てます。
2013 年の界面層低減と高誘電率 t-ZrO₂ の研究5が、Ge(001) 上で界面層をほぼゼロまで減らした状態と、誘電率 45 ± 3 の正方晶 ZrO₂ を作り、EOT 0.39 nm、リーク電流密度 A/cm² を得ています。界面層の再成長は、GeO₂/Ge へのリモートプラズマ処理で作る極薄 GeON 層が Ge と O の相互拡散を遅らせることで抑えています。
物理膜厚を逆算すると nm。上の表の「4.5 nm・κ 45」の行がそのまま 0.390 nm です。
2 つの公開スタックを表にします。
| 芯の材料 | 界面層 | EOT | リーク | |
|---|---|---|---|---|
| Al₂O₃ 挟み込み | Hf₀.₅Zr₀.₅O₂ 5.6 nm | Al₂O₃ 0.5 nm | 0.51 nm | A/cm² |
| 界面層ほぼ無し | t-ZrO₂ 4.5 nm | ほぼ無し | 0.39 nm | A/cm² |
EOT の差は 0.12 nm。同じ 4.5 nm の膜で κ を上げてこの差を埋めるなら、 の関係から κ を 45 から 65 へ上げるのと等価です。
界面層を 0.5 nm 減らす操作は、κ を 1.4 倍にするのと同じ利得を返しました。
ただしリークは 4.3 桁以上離れています。ここが交換条件です。
この差が厚みだけから出るかどうかを計算します。EOT の差 1.2 Å は、κ 45 の膜では物理膜厚 13.8 Å に相当します。上の表の V・0.785 桁/Å を当てると
矩形障壁の見積もりは 10.9 桁を返しますが、観測された差は 4.3 桁でした。式のほうが 2.5 倍ぶん過大です。
2 つは基板も電極も別なので、直接の引き算には無理があります。それでも向きは共通です。厚みだけの見積もりは、実測より大きな差を予言する側へ振れる。
その向きに正面から答えた報告があります。2003 年の高誘電率薄膜におけるリーク電流の膜厚依存の研究6が、同じ外部印加電界のもとで、誘電体を薄くするとリークが減るという実験結果を報告し、電極/誘電体界面での熱電子放出と、低移動度・高誘電率の誘電体、そして界面の低誘電率層(デッドレイヤー)を組み合わせたモデルで記述しています。
「薄くすれば必ずリークが増える」が成り立つのは、この領域の外です。界面の低κ層が電界の配分を変えるので、符号が反転しうる。設計の起点に据えるのは、直接トンネルの式より、界面層を含んだ電界配分のほうです。
反強誘電が買っているのは、電界をかけたときだけ立つ κ
上の公開スタックが「モルフォトロピック相転移の領域へ合わせる」と書いていたものを、容量の言葉へ翻訳します。
電極に溜まる自由電荷の面密度は電束密度 に等しく、容量は 。厚み の膜では なので
線形な誘電体では が一定なので κ も一定です。反強誘電体では、ゼロ電界で隣り合う副格子の分極が打ち消し合って 、ある電界で極性相へ切り替わると が跳ね上がる。その電界の近くで が大きくなり、 が跳ねます。
を分極の言葉へ直しておきます。
| 1 MV/cm あたりの分極変化 | ||
|---|---|---|
| 30 | F/m | 2.57 µC/cm² |
| 46.7 | F/m | 4.05 µC/cm² |
| 74.5 | F/m | 6.51 µC/cm² |
| 100 | F/m | 8.77 µC/cm² |
積層平均 46.7 に届くには 4.05 µC/cm²/(MV/cm)、芯の 74.5 には 6.51 µC/cm² が要ります。相転移の急さに対する要求が、ここで µC/cm² の数になります。
反強誘電体が強誘電体より先に候補へ来る理由も、DRAM の側から素直に出ます。2023 年のヘテロ構造2が Zr 組成と woken-up の工程で t 相と o 相の比を作り変えているのは、この を作る作業そのものです。強誘電体はゼロ電界で分極が残る。不揮発メモリではそれが情報ですが、DRAM のキャパシタでは残留分極はインプリントとして働きます。
上の公開スタックが「woken-up プロセス」と「t 相と o 相の比の制御」の 2 つを並べているのは、この相の割合が κ の値そのものだからです。組成と熱履歴が κ を作り、その κ が EOT を作る。材料名を選ぶ作業は、ここでは相を選ぶ作業になります。
現場で動く判断
- κ が買っているのは物理膜厚だけです。。κ の見積もりの不確かさは、そのまま等価厚みの不確かさとして出ます。
- リークは厚みに指数、バリアに平方根です。 V なら 1.27 Å で 1 桁、25 Å で 19.6 桁。「少しだけ薄く」が成り立つ範囲は Å の桁です。
- κ を上げてよい条件は です。κ を 30 から 100 へ上げるなら、バリアは元の 9.0% まで落ちても指数は同じ。逆相関の強さは κ の 1 乗の側3なので、1 乗ぶんの余地が空いています。
- κ を上げて負ける経路があるとすれば、直接トンネルよりトラップ伝導です。バンドオフセットの観点で許容される酸化物の一覧1は公開されているので、候補の絞り込みはそこから始められます。
- 界面層は EOT に足し算で乗り、床を作ります。床は と の 2 つだけで決まる。超高κを検討する側が先に測る数字は、κ より手前のこの 2 つです。
- 電極のデッドレイヤー抑制は 0.5 nm の EOT4に相当します。3.5 nm の膜で κ を 30 から無限大へ上げても 0.455 nm。電極のほうが大きい。
- 公開スタックの積層平均 κ 46.62 は、厚みと EOT から再現します。ところが 0.5 nm の Al₂O₃ が EOT 予算の 38〜55% を占めるため、芯の κ は 69〜94 の範囲に入ります。
- κ の数字は、単層の値か積層平均かで 1.6 倍動きます。同じ材料が 46.7 とも 74.5 とも書かれる。比べる前に、どちらの値かを数えます。
- 界面層をほぼ無くした膜は EOT 0.39 nm5 で、Al₂O₃ 挟み込みの 0.51 nm より 0.12 nm 小さい。κ を 45 から 65 へ上げるのと同じ利得を、界面の側で取っています。ただしリークは 4.3 桁以上離れます。
- 厚みだけの見積もりは、実測より大きな差を予言する側へ振れます。矩形障壁なら 10.9 桁のところ、観測は 4.3 桁。同じ電界で薄くするとリークが減る場合すらある6ので、起点に据えるのは界面層を含んだ電界配分です。
- 反強誘電が買うのは、電界をかけたときだけ立つ κ です。。積層平均 46.7 には 4.05 µC/cm²/(MV/cm)、芯の 74.5 には 6.51 µC/cm² が要ります。
- 残留分極は、DRAM ではインプリントとして働きます。強誘電より反強誘電が候補になる理由がそこにある。材料名を選ぶ作業は、ここでは相の割合を選ぶ作業です。