SemiMapサイト内検索

講座集 / 信頼性と試験の統計 / 第 1 回

1 / 31

VOL.05 信頼性と試験の統計 第 1 回 / 全 31 回

管理図の見逃し:WECO ルールが取りこぼす変化と運用の落とし穴

管理図の定番の判定ルールは、上下しながらじわじわ上がっていく変化を見逃します。点どうしの前後関係を数える判定ならこの形を拾え、誤警報率も順列から計算できます。チャンバの混在や異常点の削除など、運用で判定を狂わせる落とし穴も取り上げます。

17 分 標準 式 6 図 3 出典 8

この回の目次(6 節)
  1. §1 上がっているかどうかを、順位で切り分ける
  2. §2 運用側の4つの落とし穴
  3. §3 異常点は、消す前に手が要る
  4. §4 実データで、動く量を出しておく
  5. §5 失うのは自由度より、位置のほう
  6. §6 実務での使い方

この回で示すこと

  1. WECO の第 4 ルールは中心線からの位置だけを追い、上下しながら上がる変化を取りこぼす。
  2. 点どうしの前後関係を数える判定の誤警報率は順列で出て、 なら 。
  3. 寿命データの異常点を 1 つ消すと残りのプロット位置が動き、24 個中 15 故障の例では 2 番目の点が 6.97% から 2.99% へ移る。
N = 6 の順位判定の誤警報率 0.139 %
異常点を消したときの 2 番目の点の移動 2.3 分の 1

管理図が 57 点にわたって沈黙したままでした。この工程は安定していた、と言ってよいのでしょうか。点の並びを追うと、50 点目から 65 点目にかけて明らかに上がっているのに、合否ルールのどれも素通りです。何が視野から漏れているのか。拾うには何を数えればよいのか。

管理図の合否ルールを、完成したものだと思っていました。1956年の Western Electric ルール(WECO)には、いまも空いたままの穴があります。

4つのルールはこれです。

  1. 1点が 3σ を超える
  2. 連続3点のうち2点が 2σ を超える
  3. 連続5点のうち4点が 1σ を超える
  4. 連続8点が中心線の同じ側にある

4番目に限界があります。単調さを欠く上昇トレンドが素通りします。

例で追います。等温 EM 試験(Iso-EM)をインライン信頼性モニタとして 57 点回し、中心線 0.254、3σ の下限 0.143・上限 0.365 が引かれているとします。

50点目から65点目にかけて明らかな上昇があるのに、単調増加の形に収まらず4番のルールを素通りします。上下しながら上がっていく形では、片側8点連続の条件が手前で途切れるからです。

図 01
A. 上下しながら上がる形は、片側 8 点連続の手前で途切れる 50 〜 65 点目 3σ 上限 0.365 中心線 0.254 3σ 下限 0.143 10 20 30 40 50 60 点の順番 上昇しているのに、中心線の片側へ 8 点続かず。第4ルールは沈黙。 3σ も一度も超えず。管理図の沈黙は、工程が安定している証拠にはならない。 B. 位置より、点どうしの前後関係を数える 位置で追う(第4ルール) 中心線 片側に固まらず → 沈黙 順序で追う:τ = スコア ÷ 最大スコア すべての組で「後の点が大きいか」を数える 0=完全な下降 無作為 最大=完全な上昇 C. 管理限界の厳しさは、対象ごとに向きが逆 装置の再認定 2σ を推奨 用力設備 3σ より広く 0 1σ 2σ 3σ 4σ 「厳しくすればよい」も「緩くすればよい」も的を外す。 他に:チャンバ混在・非時系列・図種の誤り。
中心線 0.254、3σ 0.143〜0.365 の Iso-EM モニタ。50 点目から 65 点目にかけて上がっているのに、上下しながら上がる形は中心線の片側に 8 点続かず、WECO の第4ルールは沈黙したまま。位置より点どうしの前後関係を数えれば拾えます。管理限界の厳しさは、装置の再認定と用力設備で向きが逆になる。

上がっているかどうかを、順位で切り分ける

そこでトレンド検定を使います。候補は Spearman の ρ と Kendall の τ1 で、単一標本のラン検定より検出力が高いとされています。順位だけでトレンドを追う検定は、ノンパラメトリックな枠組みとしてまとめられています2。

Kendall は τ を逆順(reverse arrangement)の数で書きます。この「逆順を数える検定」は、統計の事典に独立した項目として載っています3。

逆順を数えるだけで、なぜトレンドが分かるのか

データを時間順に並べ、すべての組み合わせについて「後の点のほうが大きいか」を数えます。完全な上昇なら全部の組で後が大きく、スコアは最大になります。完全な下降ならゼロ。無作為なら中間の値に落ち着きます。

値そのものより順序関係だけを追うので、分布の形への仮定が不要です。異常点1個の影響も、順位1つぶんに収まります。

「連続8点が片側」が失敗するのは、そのルールが中心線からの位置だけを追うからです。上下しながら上がる形は、位置で追うと片側に固まらないまま通ります。逆順を数える方法は点どうしの前後関係を追うので、上下していても全体として上がっていることを拾えます。

誤警報率(FAR)は、順列を厳密に数え上げれば求まります。しきい値 以上になる並びの数を で割るだけです(この記事での計算)。

連続点数 Nしきい値 R 以上逆順の上限該当する並びの数FAR
61501 / 7200.1389%
826235 / 40,3200.0868%
103964,015 / 3,628,8000.1106%
125511431,886 / 479,001,6000.0902%

どれも 0.1% 前後に揃えてあります。しきい値 は、そうなるように選ばれた数字。

理論FARは、どこから来ているのか

表の数字は、どこから来ているのか。手で出せます。出してみると、この検定が何を仮定しているのかが浮かびます。

点から作れる組は 通りなので、スコアの最大値は

なら 。表のしきい値が、ちょうどその 15 です。つまり の検定が鳴るのは、6 点が完全に単調増加したときに限ります。

工程が正常なら 6 点の並び順は 通りが等確率で、そのうち完全増加は 1 通り。だから

表の理論FARと、そのまま一致します。

も同じ数え方です。 で、しきい値が 26 なので、逆順が 2 個以下の並びを数えます。逆順の個数の分布はよく知られていて、0 個が 1 通り、1 個が 通り、2 個が 通り。合計 35 通りを で割ると

これも表の値です。 と も、逆順の個数の分布を母関数 から出せば同じ数え方で出ます。

図 02
A. N = 6:しきい値 15 が、最大スコアそのもの 6 点が完全に増加する並び 15=最大 → 鳴る 上下しながら増加する並び 手前で止まる → 沈黙 最大スコア = 6×5/2 = 15。しきい値も 15。 並び順は 6! = 720 通り。 そのうち完全増加は 1 通りだけ。 FAR = 1/720 = 0.139% B. N = 8:逆順 2 個までを数える 逆順 0 個 1 通り 逆順 1 個 7 通り 逆順 2 個 27 通り 合計 35 通り 最大スコア = 8×7/2 = 28。しきい値は 26。 だから逆順 2 個以下を数える。 8! = 40320 通りのうち 35 通り。 FAR = 35/40320 = 0.087% 分母の N! は「工程が正常なら並び順は等確率」という仮定そのもの。 チャンバを混ぜる・時系列を崩す、の 2 つはこの仮定を壊す。設計した FAR は成り立たなくなる。
しきい値は最大スコアそのものなので、N = 6 の検定が鳴るのは 6 点が完全に増加した 1 通りに限ります。720 通りのうち 1 通りだから誤警報率は 0.139%、N = 8 は逆順 2 個以下の 35 通りで 0.087%。順列を数えるだけで表の理論値が出る一方、分母の階乗は「並び順が等確率」という仮定そのものなので、チャンバ混在と非時系列はこの分母のほうを壊します。

この理論値は、モンテカルロで検算されることがあります。小数点以下 5 桁まで一致する。ところが理論値のほうは順列を数えただけの厳密値なので、一致して当然です。その種の検算で確かめられるのは検定の理論より、乱数生成と実装が正しいことのほうです。

ここに、もっと大事なものが写っています。分母の は「工程が正常なら並び順は等確率」という仮定そのものです。この仮定が崩れれば、FAR は設計値から離れます。次に挙げる落とし穴の 1 番と 2 番——チャンバを混ぜる、時系列を崩す——は、ちょうどこの仮定を壊す 2 つです。

運用側の4つの落とし穴

理論より効いていたのは、こちらでした。合否ルールを足したときの平均ラン長は、1987 年に厳密解として求められ4、2006 年にも各種の解釈ルールで比較されています5。それでも現場の失敗は、ルールより実装の側に出ます。

  1. チャンバを混ぜている。複数チャンバのデータを1枚の管理図へ載せる。統計的にマッチングされていても、チャンバごとに性能は別です。混ぜるとばらつきが膨らみ、チャートの感度が大きく落ちる。チャンバごとに1枚が正解。
  1. 時系列が崩れている。SPCは安定性を追う道具で、暗黙に時間と結びついています。時間順を崩したデータを入れると、結論が誤ります。
  1. 管理限界の引き方が不適切。装置の再認定に 3σ を使うのは、推奨される 2σ より緩すぎる。逆に、用力設備(ファシリティ)のSPCでは 3σ より広く取ることが推奨されます。特性が別なので、誤警報を減らす側へ振る。
  1. 管理図の種類が不適切。離散データと連続データで図が別です。連続データでも群のサイズで向き不向きが出ます。群サイズが5どまりなら – 図を避け、– 図を使う。指針として ISO 8258 や GB/T 4091-2001 が挙がっています。

3番がいちばん効きます。「厳しくすればよい」も「緩くすればよい」も的を外し、対象によって向きが逆です。装置の再認定は厳しく、用力設備は緩く。

異常点は、消す前に手が要る

寿命データ特有の注意です。管理図の側でも、異常点に引きずられにくい頑健な推定で限界を引く手法6が提案されています。「消す」より「引きずられにくくする」が、統計側の第一の答えです。

ESD(HBM)試験の確率プロットで、最初の点が異常点の顔をする。それを除けば正規分布に乗る。ここで異常点を消したくなりますが、そこに手が要ります。

理由が2つあります。

  1. まず故障解析で根本原因を掴む必要がある
  2. 消すと総サンプル数が減り、残りの点の累積分布関数(CDF)が全部動く

2番目が見落としやすいところです。メディアンランクは Bernard の近似で

とします。分母に総数 が入っています。1点消すと が動き、残った全部の点のプロット位置がずれます。

だから逆向きの使い方が勧められます。対数正規確率プロットの最小・最大パーセンタイルから、サンプル数の妥当性を概算する。異常点を消す道具より、サンプル数が足りているかを確かめる道具として使う。

実データで、動く量を出しておく

「全部の点が動く」がどれくらいの話なのかは、実際の試験データを当てると分かります。

六面モールド PLCSP の熱サイクル試験7は、試料 24 個、そのうち故障 15 個で、1,300 サイクルで打ち切っています。合否はデイジーチェーンの抵抗が 50% 増えた時点で、最初の 1 接合が壊れたサイクルをそのパッケージの寿命とする。

そこでも同じ Bernard の近似が使われます。 で、 は故障の順番、 はサンプルサイズ。

は 24 です。故障した 15 とは別。

この 1 行が、上の注意を数字にしてくれます。1 つだけ手で通します。、 なら 。最初に壊れたパッケージは、2.87% の位置に打たれます。同じ計算を、3 通りの数え方で一覧にします。

数え方 = 1 の位置 = 2 の位置
正しい:試料数で数える242.87%6.97%
誤り:故障数で数える154.55%11.04%
最初の点を消して採番し直す232.99%7.26%

3 行目を読んでください。

最初の点を異常点として消すと、もともと 6.97% にいた 2 番目の点が、1 番目になって 2.99% へ移ります。位置が 2.3 分の 1 になる。消した点だけの話で収まらず、残り全部へ及びます。

2 行目も同じくらい怖い。打ち切りデータで に故障数を入れると、低いほうの点が 2.87% から 4.55% へ、1.6 倍高い側へずれます。ワイブルプロットの左下は、 の傾きと の外挿が全部乗っている場所です。そこだけが系統的に持ち上がる。

図 03
分母 n を替えると、点は横へ動く メディアンランク F = (j − 0.3) / (n + 0.4)  分母に総数 n が入っている 正しい:試料数で数える n = 24 2.87% 6.97% 誤り:故障数で数える n = 15 1.6 倍高い側へ 同じく高い側へ 4.55% 11.04% 最初の点を消して採番し直す n = 23 2 番目だった点が 1 番目へ(2.3 分の 1) 2.99% 7.26% プロット位置 F [%] 024681012 1 点消して失うのは自由度より、残り全部の位置。
同じ試験データでも、分母 n に何を入れるかでプロット位置が横へ動く。正しい試料数 24 なら最初の 2 点は 2.87% と 6.97% だが、故障数 15 を入れると 4.55% と 11.04% へ 1.6 倍高い側へずれ、最初の点を消して 23 で採番し直すと 6.97% にいた点が 2.99% へ 2.3 分の 1 まで戻る。動くのは消した点より残り全部なので、1 点の判断がワイブルの左下ごと動かします。

打ち切りを完全データとして計算すると寿命を短く見積もる、という注意も同じ形です。確率プロットを作る手順そのものが、2 群を比べる手順の第 1 段階に入っているので、プロット位置が動けば、そこから先の比較指標もそっくり動きます。異常点を 1 点消す一手は、比較の結論を動かす一手です。

失うのは自由度より、位置のほう

「1 点減っても、統計的な損失は小さいはず」という感覚が、いちばん危うい場所です。

少数データでのワイブル推定8では、形状パラメータの相対的な誤差が故障数 に対しておよそ で縮みます。90% の区間なら半幅は です。数字を入れます(この記事での計算)。

1 点消して、区間の半幅は 0.331 から 0.343 へ。3.5% 広がるだけです。つまり、

異常点を消して失うものは、サンプル数より残り全部のプロット位置です。

前者は 3.5%、後者は 2 倍以上。「1 点くらい」という直感は、間違った量を見ています。

実務での使い方

合否ルールを足したときに平均ラン長がどう動くかは、1987 年に厳密解として求められています4。下の 5 点は、その厳密解の手前にある話です。 管理図の沈黙は、工程が安定している証拠にはなりません。WECOの4ルールは、上下しながら上がる形を取りこぼします。トレンド検定を別に回してください。

まずチャンバごとに分けてください。混ぜているなら、そこが感度低下のいちばん大きい原因です。

管理限界の厳しさは、対象ごとに逆向きに設定します。装置の再認定は 2σ、用力設備は 3σ より広く。

寿命データの異常点は、消すと残り全部が動きます。故障解析が先です。実データでは、2 番目の点が 6.97% から 2.99% へ動きます。

Bernard の には、故障数より試料数を入れてください。24 個中 15 故障で = 15 とすると、低いほうの点が 1.6 倍高い側へずれます。 と低パーセンタイル外挿が、そこに乗っています。

最後の 2 つは、どちらも に何を入れるかという 1 点に戻ります。この記事の答えは「故障数より試料数」でした。その試料数の数え方そのものを動かす手も存在します。たとえば不揮発性メモリの耐久試験で、サンプルを「チップ数」から「チップ数 × セクタ数」へ数え直せば、 が 3 桁増えて区間も低パーセンタイルの外挿も一気に楽になる。ただしそれは「セクタが独立に同じ故障確率を持つ」という仮定の上に載っていて、その仮定は、この記事で FAR が敷いていた の仮定と同じ種類のものです。数字が楽になったときほど、下に敷いた仮定を数え直してください。

出典

  1. 1 Kendall, A New Measure of Rank Correlation (1938) doi:10.1093/biomet/30.1-2.81
  2. 2 Mann, Nonparametric Tests Against Trend (1945) doi:10.2307/1907187
  3. 3 Castiglioni, Reverse Arrangement Test (2014) doi:10.1002/9781118445112.stat05529
  4. 4 Champ・Woodall, Exact Results for Shewhart Control Charts With Supplementary Runs Rules (1987) doi:10.1080/00401706.1987.10488266
  5. 5 Jamali ほか, Average Run Length Performance of Shewhart Control Charts with Interpretation Rules (2006) doi:10.1109/INDIN.2006.275852
  6. 6 Darmanto ほか, The effectiveness of robust RMCD control chart as outliers' detector (2017) doi:10.1088/1742-6596/943/1/012039
  7. 7 Lau ほか, Thermal Cycling Test and Simulation of Six-Side Molded Panel-Level Chip-Scale Packages (2021) doi:10.4071/imaps.1421341
  8. 8 Ross, Bias and standard deviation due to Weibull parameter estimation for small data sets (1996) doi:10.1109/94.485512