管理図が 57 点にわたって沈黙したままでした。この工程は安定していた、と言ってよいのでしょうか。点の並びを追うと、50 点目から 65 点目にかけて明らかに上がっているのに、合否ルールのどれも素通りです。何が視野から漏れているのか。拾うには何を数えればよいのか。
管理図の合否ルールを、完成したものだと思っていました。1956年の Western Electric ルール(WECO)には、いまも空いたままの穴があります。
4つのルールはこれです。
- 1点が 3σ を超える
- 連続3点のうち2点が 2σ を超える
- 連続5点のうち4点が 1σ を超える
- 連続8点が中心線の同じ側にある
4番目に限界があります。単調さを欠く上昇トレンドが素通りします。
例で追います。等温 EM 試験(Iso-EM)をインライン信頼性モニタとして 57 点回し、中心線 0.254、3σ の下限 0.143・上限 0.365 が引かれているとします。
50点目から65点目にかけて明らかな上昇があるのに、単調増加の形に収まらず4番のルールを素通りします。上下しながら上がっていく形では、片側8点連続の条件が手前で途切れるからです。
上がっているかどうかを、順位で切り分ける
そこでトレンド検定を使います。候補は Spearman の ρ と Kendall の τ1 で、単一標本のラン検定より検出力が高いとされています。順位だけでトレンドを追う検定は、ノンパラメトリックな枠組みとしてまとめられています2。
Kendall は τ を逆順(reverse arrangement)の数で書きます。この「逆順を数える検定」は、統計の事典に独立した項目として載っています3。
逆順を数えるだけで、なぜトレンドが分かるのか
データを時間順に並べ、すべての組み合わせについて「後の点のほうが大きいか」を数えます。完全な上昇なら全部の組で後が大きく、スコアは最大になります。完全な下降ならゼロ。無作為なら中間の値に落ち着きます。
値そのものより順序関係だけを追うので、分布の形への仮定が不要です。異常点1個の影響も、順位1つぶんに収まります。
「連続8点が片側」が失敗するのは、そのルールが中心線からの位置だけを追うからです。上下しながら上がる形は、位置で追うと片側に固まらないまま通ります。逆順を数える方法は点どうしの前後関係を追うので、上下していても全体として上がっていることを拾えます。
誤警報率(FAR)は、順列を厳密に数え上げれば求まります。しきい値 以上になる並びの数を で割るだけです(この記事での計算)。
| 連続点数 N | しきい値 R 以上 | 逆順の上限 | 該当する並びの数 | FAR |
|---|---|---|---|---|
| 6 | 15 | 0 | 1 / 720 | 0.1389% |
| 8 | 26 | 2 | 35 / 40,320 | 0.0868% |
| 10 | 39 | 6 | 4,015 / 3,628,800 | 0.1106% |
| 12 | 55 | 11 | 431,886 / 479,001,600 | 0.0902% |
どれも 0.1% 前後に揃えてあります。しきい値 は、そうなるように選ばれた数字。
理論FARは、どこから来ているのか
表の数字は、どこから来ているのか。手で出せます。出してみると、この検定が何を仮定しているのかが浮かびます。
点から作れる組は 通りなので、スコアの最大値は
なら 。表のしきい値が、ちょうどその 15 です。つまり の検定が鳴るのは、6 点が完全に単調増加したときに限ります。
工程が正常なら 6 点の並び順は 通りが等確率で、そのうち完全増加は 1 通り。だから
表の理論FARと、そのまま一致します。
も同じ数え方です。 で、しきい値が 26 なので、逆順が 2 個以下の並びを数えます。逆順の個数の分布はよく知られていて、0 個が 1 通り、1 個が 通り、2 個が 通り。合計 35 通りを で割ると
これも表の値です。 と も、逆順の個数の分布を母関数 から出せば同じ数え方で出ます。
この理論値は、モンテカルロで検算されることがあります。小数点以下 5 桁まで一致する。ところが理論値のほうは順列を数えただけの厳密値なので、一致して当然です。その種の検算で確かめられるのは検定の理論より、乱数生成と実装が正しいことのほうです。
ここに、もっと大事なものが写っています。分母の は「工程が正常なら並び順は等確率」という仮定そのものです。この仮定が崩れれば、FAR は設計値から離れます。次に挙げる落とし穴の 1 番と 2 番——チャンバを混ぜる、時系列を崩す——は、ちょうどこの仮定を壊す 2 つです。
運用側の4つの落とし穴
理論より効いていたのは、こちらでした。合否ルールを足したときの平均ラン長は、1987 年に厳密解として求められ4、2006 年にも各種の解釈ルールで比較されています5。それでも現場の失敗は、ルールより実装の側に出ます。
- チャンバを混ぜている。複数チャンバのデータを1枚の管理図へ載せる。統計的にマッチングされていても、チャンバごとに性能は別です。混ぜるとばらつきが膨らみ、チャートの感度が大きく落ちる。チャンバごとに1枚が正解。
- 時系列が崩れている。SPCは安定性を追う道具で、暗黙に時間と結びついています。時間順を崩したデータを入れると、結論が誤ります。
- 管理限界の引き方が不適切。装置の再認定に 3σ を使うのは、推奨される 2σ より緩すぎる。逆に、用力設備(ファシリティ)のSPCでは 3σ より広く取ることが推奨されます。特性が別なので、誤警報を減らす側へ振る。
- 管理図の種類が不適切。離散データと連続データで図が別です。連続データでも群のサイズで向き不向きが出ます。群サイズが5どまりなら – 図を避け、– 図を使う。指針として ISO 8258 や GB/T 4091-2001 が挙がっています。
3番がいちばん効きます。「厳しくすればよい」も「緩くすればよい」も的を外し、対象によって向きが逆です。装置の再認定は厳しく、用力設備は緩く。
異常点は、消す前に手が要る
寿命データ特有の注意です。管理図の側でも、異常点に引きずられにくい頑健な推定で限界を引く手法6が提案されています。「消す」より「引きずられにくくする」が、統計側の第一の答えです。
ESD(HBM)試験の確率プロットで、最初の点が異常点の顔をする。それを除けば正規分布に乗る。ここで異常点を消したくなりますが、そこに手が要ります。
理由が2つあります。
- まず故障解析で根本原因を掴む必要がある
- 消すと総サンプル数が減り、残りの点の累積分布関数(CDF)が全部動く
2番目が見落としやすいところです。メディアンランクは Bernard の近似で
とします。分母に総数 が入っています。1点消すと が動き、残った全部の点のプロット位置がずれます。
だから逆向きの使い方が勧められます。対数正規確率プロットの最小・最大パーセンタイルから、サンプル数の妥当性を概算する。異常点を消す道具より、サンプル数が足りているかを確かめる道具として使う。
実データで、動く量を出しておく
「全部の点が動く」がどれくらいの話なのかは、実際の試験データを当てると分かります。
六面モールド PLCSP の熱サイクル試験7は、試料 24 個、そのうち故障 15 個で、1,300 サイクルで打ち切っています。合否はデイジーチェーンの抵抗が 50% 増えた時点で、最初の 1 接合が壊れたサイクルをそのパッケージの寿命とする。
そこでも同じ Bernard の近似が使われます。 で、 は故障の順番、 はサンプルサイズ。
は 24 です。故障した 15 とは別。
この 1 行が、上の注意を数字にしてくれます。1 つだけ手で通します。、 なら 。最初に壊れたパッケージは、2.87% の位置に打たれます。同じ計算を、3 通りの数え方で一覧にします。
| 数え方 | = 1 の位置 | = 2 の位置 | |
|---|---|---|---|
| 正しい:試料数で数える | 24 | 2.87% | 6.97% |
| 誤り:故障数で数える | 15 | 4.55% | 11.04% |
| 最初の点を消して採番し直す | 23 | 2.99% | 7.26% |
3 行目を読んでください。
最初の点を異常点として消すと、もともと 6.97% にいた 2 番目の点が、1 番目になって 2.99% へ移ります。位置が 2.3 分の 1 になる。消した点だけの話で収まらず、残り全部へ及びます。
2 行目も同じくらい怖い。打ち切りデータで に故障数を入れると、低いほうの点が 2.87% から 4.55% へ、1.6 倍高い側へずれます。ワイブルプロットの左下は、 の傾きと の外挿が全部乗っている場所です。そこだけが系統的に持ち上がる。
打ち切りを完全データとして計算すると寿命を短く見積もる、という注意も同じ形です。確率プロットを作る手順そのものが、2 群を比べる手順の第 1 段階に入っているので、プロット位置が動けば、そこから先の比較指標もそっくり動きます。異常点を 1 点消す一手は、比較の結論を動かす一手です。
失うのは自由度より、位置のほう
「1 点減っても、統計的な損失は小さいはず」という感覚が、いちばん危うい場所です。
少数データでのワイブル推定8では、形状パラメータの相対的な誤差が故障数 に対しておよそ で縮みます。90% の区間なら半幅は です。数字を入れます(この記事での計算)。
1 点消して、区間の半幅は 0.331 から 0.343 へ。3.5% 広がるだけです。つまり、
異常点を消して失うものは、サンプル数より残り全部のプロット位置です。
前者は 3.5%、後者は 2 倍以上。「1 点くらい」という直感は、間違った量を見ています。
実務での使い方
合否ルールを足したときに平均ラン長がどう動くかは、1987 年に厳密解として求められています4。下の 5 点は、その厳密解の手前にある話です。 管理図の沈黙は、工程が安定している証拠にはなりません。WECOの4ルールは、上下しながら上がる形を取りこぼします。トレンド検定を別に回してください。
まずチャンバごとに分けてください。混ぜているなら、そこが感度低下のいちばん大きい原因です。
管理限界の厳しさは、対象ごとに逆向きに設定します。装置の再認定は 2σ、用力設備は 3σ より広く。
寿命データの異常点は、消すと残り全部が動きます。故障解析が先です。実データでは、2 番目の点が 6.97% から 2.99% へ動きます。
Bernard の には、故障数より試料数を入れてください。24 個中 15 故障で = 15 とすると、低いほうの点が 1.6 倍高い側へずれます。 と低パーセンタイル外挿が、そこに乗っています。
最後の 2 つは、どちらも に何を入れるかという 1 点に戻ります。この記事の答えは「故障数より試料数」でした。その試料数の数え方そのものを動かす手も存在します。たとえば不揮発性メモリの耐久試験で、サンプルを「チップ数」から「チップ数 × セクタ数」へ数え直せば、 が 3 桁増えて区間も低パーセンタイルの外挿も一気に楽になる。ただしそれは「セクタが独立に同じ故障確率を持つ」という仮定の上に載っていて、その仮定は、この記事で FAR が敷いていた の仮定と同じ種類のものです。数字が楽になったときほど、下に敷いた仮定を数え直してください。