「信頼性は作り込むもので、出口で測るものではない」——標語としては誰でも言えます。作り込みを実際にやろうとすると、最初に当たるのは装置の空きです。
ウェハ状態で加速ストレスをかける信頼性試験の装置は、稼働率が 95% を超えます。埋まっている。だから現場から出る要求は「より経済的な、試験時間を短くする方法」になります。
なぜ現場の要求が「装置を足す」の代わりに「時間を縮める」へ向かうのか。理由は、95% という数字 1 つから出ます。
空き時間で買える本数は
記号を決めます。装置の総能力を (装置時間、h)、いま載っている負荷を (h)とすると、稼働率は
試験 1 本が 時間かかり、いま 本載っているので です。
まず、空き時間へ試験を足す手。追加できるのは のぶんだけなので、本数にすると 。いまの本数に対する比で書くと
増やせるのは 5.3% どまりです。
ウェハレベルとパッケージレベルの信頼性が別の数字を返すことは2001 年の配線エレクトロマイグレーションのウェハレベルとパッケージレベルの比較1が主題にしているとおりで、どちらで測るかは装置の能力次第です。その能力の伸びが 5.3% どまり、というのがここでの状況です。
短縮まで含めると の 1 本になる
次に、1 本あたりの時間を縮める手。 とします( は短縮の倍率、 で半減)。
いまの 本の負荷は に落ちます。空きは 。そこへ 1 本 の試験を入れると
この 1 本が全部です。 を入れると
前節の式に戻ります。「装置を足す」は、短縮倍率 という特別な場合です。2 つの手は 1 つの式の上にあり、 の値だけが別です。
(半減)を入れます。
110% 増やせます。試験時間を半分にすると、載る本数は 2 倍を超えます。
ウェハ上で直接ジュール加熱して配線寿命を測る1999 年のエレクトロマイグレーション試験2や、オンウェハで容量の寿命を測る2007 年の TDDB 試験法3は、まさにこの を上げる仕事にあたります。
増幅率は ——95% で 21 倍、99% で 101 倍
2 つの手の比を取ります。
なら
| 足す() | 半減() | 増幅率 | |
|---|---|---|---|
| 0.80 | 25.0% | 150.0% | 6.0 倍 |
| 0.90 | 11.1% | 122.2% | 11.0 倍 |
| 0.95 | 5.3% | 110.5% | 21.0 倍 |
| 0.99 | 1.0% | 102.0% | 101.0 倍 |
でちょうど 21.0 倍。 が割り切れます。
分母が なので、稼働率が上がるほど増幅率は際限なく伸びます。
装置が埋まっていくほど、短縮以外の手が消えていきます。半導体工場の能力とリードタイムを待ち行列モデルで管理する2010 年の報告4が主題にするとおり、稼働率が 1 に近い領域は待ち行列が急に伸びる領域でもあります。同じ が、両方の分母に居ます。
分子の はほぼ 1 です。0.80 で 1.20、0.99 で 1.01。動いているのは分母だけ。半減で買える本数がほぼ横ばい(150% → 102%)なのに対し、足して買える本数が 25% から 1.0% へ崩れる。増幅率の 6 倍から 101 倍への広がりは、ほとんど全部が足す側の崩れです。
1 割の増設に、時間の半減がちょうど要る
逆向きに解きます。本数を 倍にしたいとき、要る短縮倍率 は
目標の成長率 に対して、 は線形です。 で数を入れます。
| 欲しい増分 | 要る | 試験時間を今の |
|---|---|---|
| +10% | 1.995 | 50% へ |
| +25% | 2.137 | 47% へ |
| +50% | 2.375 | 42% へ |
| +100% | 2.850 | 35% へ |
わずか 1 割の増設が、ちょうど時間の半減を要求します。。
を 10 倍(+10% から +100%)にしても、 の動きは 1.995 から 2.850 までです。1.43 倍です。
傾きが そのもの。最初の 1 割がいちばん高く、その先は安い。「まず 1 割だけ増やしたい」という要求が、いちばん重い短縮を呼びます。
加速寿命試験と認定試験の関係を主題にした2002 年の報告5があるとおり、試験時間は規格・合否基準・外挿モデルが先に固めています。その中で 50% まで縮める作業は、重い注文です。
その 5% には、すでに持ち主がいる
ここで数字の出どころを疑います。95% は「詰まってしまった値」なのか、それとも「狙った値」なのか。
後工程の装置群では、稼働率 95% 超を設計目標に掲げ、残る 5% は即応保全のために予約されます。それを支えるのが、主要な装置と施設のパラメータの統計的工程管理です。
重ねると、前節の計算の意味が動きます。
設計どおりに回っている系では、足す方向の余地はちょうど 0 です。空きが残って映るのは、設計目標へ届く手前の状態だけ。
増幅率は 21 倍を通り越して発散します。短縮が唯一の手になります。
95% は、投資で緩む種類の数字ではありません。詰まった結果の値なら投資で下がりますが、目標として掲げた値は掲げ続けられます。動的ディスパッチで 300 mm 工場のサイクルタイムを改善する2003 年の報告6のような仕事は、同じ稼働率でより多くを流す方向、つまり の側に乗ります。
能力を増やしても埋まる:需要が 2.33 倍になる
「95% が続くのは投資の不足だ」という受け取り方から離れます。早期検出が重要になったので試験能力は増え続けています。増やしても埋まる。需要側の内訳で確かめます。
公開されている構成比の変化はこうです。
| 以前 | 先端ノード | |
|---|---|---|
| 前工程 | 70% | 30% |
| 配線工程 | 30% | 50% |
| 中間工程 | 0% | 20% |
前工程の試験本数そのものは、層構成がほぼ変わらない以上、ほぼ一定です。そこを固定点に取ります。総本数を とすると
総需要が 2.33 倍になります。
配線工程が 3.89 倍、中間工程が新規で旧総量の 47%。銅と低誘電率膜の配線で TDDB の機構と寿命モデルをまとめた2012 年の報告7があるとおり、層が増えれば追うべき故障モードが増えます。
分子が構造的に 2.33 倍になる以上、稼働率は投資額では決まりません。投資は現状維持の費用にあたり、余地を作る費用は別、ということです。
目標が 1000 分の 1 になると、要る標本は 1000 倍
締め付けはもう 1 方向から来ます。早期故障率の目標が ppm から ppb の時代へ入りました。加速条件と認定試験の噛み合わせを主題にした2002 年の報告5が対象にするのは、まさにこの「短い試験で低い故障率を示す」という要求です。
故障ゼロで上限を示すのに要る標本数を出します。真の故障率を 、標本数を とすると、故障 0 件の確率は 。信頼度 でこれを棄却するには
なら なので
| 目標 | 要る |
|---|---|
| 1 ppm | |
| 1 ppb |
は に正比例するので、目標を 1000 分の 1 にすると標本が 1000 倍です。信頼度の選び方()は係数の側にだけ入り、90% と 95% で 2.303 対 2.996、動きは 1.30 倍どまりです。
二重の締め付けが数になりました。要求は 1000 倍、装置の余地は 0。この 2 つの間を埋める量が、 です。
短縮の筋が精度の話に映るのは、ここで両者が同じつまみにつながるからです。試験時間を決めているのは読み取り点と打ち切り基準で、打ち切りを早めれば分解能が落ちる。「許容できるリスクのもとで」という条件節は、その分解能をどこまで手放してよいかを指しています。
人で買える 3 日と、装置で買える 6 か月
時間の側にも、2 つの時定数があります。工場の能力計画を待ち行列で組み立てる2010 年の報告4がリードタイムを主題に据えるのも、この時定数の差があるからです。
需要の山に対しては 24 時間操業を発動でき、要員手配のために 3 日前の判断が要ります。装置のほうは、ほとんどが 6 か月級の調達リードタイムを持ちます。
60 倍。四半期(90 日)の内側で確かめます。
| 手 | 四半期に何回打てるか |
|---|---|
| シフトの発動(3 日) | 30 回 |
| 装置の追加(180 日) | 0.5 回 |
四半期の内側で伸ばせるのはシフトだけです。装置を足す判断は、2 四半期前に済んでいる必要があります。
外注という逃げ道もありますが、たいていの場合、外注のほうが結果まで長くかかります。機密性の取り決めも条件に入ります。逃げ道のほうが遅い、という配置です。
深いほど止まりやすい:2 / 4 / 5
試験の停止要因は、装置以外にもあります。ウェハ上で直接測る方式とパッケージ後に測る方式で紐づく物が別になることは、2001 年の両者の比較1が対象にする構造の差から素直に出ます。1 回の試験に紐づける物の数を、プラットフォーム別に数えます。共通項目(作業者、案件の持ち主、ストレスチャンバ、前後の試験、ウェハとマップ、製品・ロット・ウェハの ID)に加えて、
| プラットフォーム | 固有の追跡項目 | 数 |
|---|---|---|
| ウェハレベル | プローブカード、テスタ | 2 |
| 製品レベル | 試験用担体、サイドブレーズ、DUT ボードとソケット、テスタ | 4 |
| 製品診断レベル | 試験用担体、チップキャリア、DUT ボードと BI ボード、ソケット、テスタ | 5 |
2、4、5。深いほど増えます。1 項目が 1 つの停止要因なので、「消耗品で試験が停止する」と言うときは、どのプラットフォームの話かを先に固める必要があります。ウェハレベルの答えはプローブカードですが、製品レベルではサイドブレーズ、製品診断レベルではチップキャリアが同じ位置に来ます。
再利用が、この費用を割ります。配線工程向けのサイドブレーズは、ダイアタッチとワイヤボンドの最適条件に専用の洗浄レシピを組み合わせると 5 回の再利用に届きます。
再利用の目標は工程層ごとに別々に定まります。汚染と熱履歴の残り方が層ごとに別なので、再利用できる回数は担体の性能の側より、何を試験したかで決まります。
累積ストレスが規定の限界に達した消耗品は、点検か交換の頻度を上げる必要があります。治具にも寿命があり、その寿命が試験結果の信頼度に乗ってきます。
軽元素の線は、原子番号 10 と 11 のあいだ
装置の話から、解析の道具へ移ります。故障解析で「軽元素なら電子エネルギー損失分光、重い側ならエネルギー分散 X 線分析」という使い分けがあります。その「軽元素」がどこで切れるのか。
両手法の原理と使い分けを正面から主題にした2015 年の電子エネルギー損失分光とエネルギー分散 X 線分析8が示すとおり、2 つは測っている量が別です。X 線のエネルギーを測る側は、原子番号が小さいほど信号が弱くなります。電子が失ったエネルギーを測る側は、軽元素でも感度が保たれます。
線は原子番号で引けます。
| 元素 | 向く手法 | |
|---|---|---|
| 1 | 水素 | 損失分光(理論上の下限) |
| 5 | ホウ素 | 損失分光(実用上の下限) |
| 6–8 | 炭素・窒素・酸素 | 損失分光 |
| 9 | フッ素 | 損失分光 |
| 10 | ネオン | 損失分光 |
| 11 以上 | ナトリウムなど | X 線分析 |
よく例示される炭素・窒素・酸素(6、7、8)は、規則の真ん中にいるだけです。上端はネオン(10)、実用上の下端はホウ素(5)。フッ素(9)も損失分光の側、ナトリウム(11)以上は X 線分析の側、と機械的に決まります。
X 線側が軽元素に弱い理由は 2 つあり、装置で解けるのは片方です。
運用のほうは真空の管理で改善の余地があります。物理のほうは装置を替えても同じです。だから「損失分光へ乗り換える」という手が要るのは、前者に当たったときだけ。2 つを分けずに進めると、真空を直せば済む話に高い装置を買うことになります。