銅と樹脂が細かく入り混じった層を解析へ入れるとき、1 つの等価な材料へ潰します。使うのは混合則です。その 1 つの数字を、材料物性としてそのまま使ってよいのか。
混合則には 2 つの形があります。全成分が同じひずみを受けるとした算術平均(上界)と、全成分が同じ応力を受けるとした調和平均(下界)。2 つは候補より、1 つの区間の両端です。
区間が狭ければどちらでもよく、広ければ両方とも範囲外です。
上界と下界の比は、1 本の恒等式で書ける
2 成分で書きます。体積分率を と 、物性を 、 として
比を取ります。
展開すると と交差項が出ます。ここで を引くと、交差項だけが残ったままです。
これは算術平均と調和平均の比なので、物性が何であっても成り立つ恒等式です。
読み取れることが 3 つあります。
3 つめが、混合則の限界そのものです。材料の比率が同じでレイアウトだけ別の構造は、この式では区別できません。繊維集合組織を持つ薄膜で上界と下界が一致する条件と等方面を主題にした2021 年の二軸弾性率の研究1があるとおり、2 つの境目が一致する場合は存在します。そのとき の項が消えます。
混合則を使ってよい線:物性比 2.38 倍まで
恒等式を逆に解きます。幅を 倍以内に収めたいとき、物性比 について
最悪の ()で解きます。
| 許す幅 | の上限 | の上限 |
|---|---|---|
| 1.10 倍 | 2.40 | 1.86 |
| 1.20 倍 | 2.80 | 2.38 |
| 1.50 倍 | 4.00 | 3.73 |
物性比 2.38 倍まで。「数倍なら混合則で足りる」という感覚に、具体的な線が引けます。繊維強化複合材の等価弾性率を主題にした1994 年の研究2のように、成分の物性比が大きい系では、この線を超えます。
体積分率が偏っていれば、もっと大きい まで許されます。 なら なので、同じ で 、 まで伸びます。
公開されている等価ブロックを、4 つとも再現する
実際に使われている等価ブロックで検算します。2 つの構造が公開されています。
有機インターポーザ(合計 62.5 µm、9 層)
| 材料 | 厚み合計 | (GPa) | CTE (ppm/K) |
|---|---|---|---|
| 感光性誘電体(5 層) | 38.5 µm | 2 | 60 |
| 銅の再配線(4 層) | 24 µm | 121 | 16.3 |
| 公開されている等価ブロック | 62.5 µm | 47.70 | 43.22 |
厚みの割合から体積分率が出ます。銅が 、誘電体が 。
2 つとも一致します。
ビルドアップ基板(合計 1,960 µm、25 層)
| 材料 | 厚み合計 | (GPa) | CTE (ppm/K) |
|---|---|---|---|
| ソルダレジスト(2 層) | 40 µm | 7 | 38 |
| 銅(12 層) | 180 µm | 121 | 16.3 |
| ビルドアップフィルム(10 層) | 300 µm | 13 | 20 |
| コア | 1,440 µm | 33 | 6 |
| 公開されている等価ブロック | 1,960 µm | 37.49 | 9.74 |
こちらも 2 つとも一致します。多層基板の反りを配線構造ごとに解析した2023 年の報告3が対象にするのと同じ種類の積層で、4 つの数字はすべて厚み加重の算術平均です。
体積 38.4%、剛性 97.4%——そこで 2.48 倍が生まれる
面内の等価 CTE には、もう 1 つの形があります。
分子と分母の両方に が入ります。剛性加重です。熱曲げを受ける複合材の等価 CTE を正面から主題にした1999 年の研究4や、3 相系で等価剛性と熱膨張を同時に求める2021 年の報告5が対象にしているのは、この形のほうです。
インターポーザに入れます。
厚み加重が 43.22、剛性加重が 17.43。2.48 倍、率にして +148% です。
理由は、重みの分布にあります。
| 材料 | 体積の割合 | 剛性の重み |
|---|---|---|
| 感光性誘電体 | 61.6% | 2.6% |
| 銅の再配線 | 38.4% | 97.4% |
銅は体積の 38.4% で、剛性の 97.4% を握ります。面内の寸法を実際に決めているのは剛性の大きい側なので、等価 CTE は銅の 16.3 の側へ落ちます。出てきた 17.43 は、銅そのものの値から 6.9% の位置です。
厚み加重の 43.22 は、誘電体の 60 の側へ落ちた値です。体積では多数派でも、剛性で 2.6% にとどまる相に引っ張られています。
同じ手順で、ビルドアップ基板のずれは 1.8% どまり
同じ計算を、もう 1 つの構造へ当てます。
同じ式、同じ手順で、こちらの動きは 1.8% どまりです。
| 材料 | 体積の割合 | 剛性の重み |
|---|---|---|
| ソルダレジスト | 2.0% | 0.4% |
| 銅 | 9.2% | 29.6% |
| ビルドアップフィルム | 15.3% | 5.3% |
| コア | 73.5% | 64.7% |
コアが体積で 73.5%、剛性で 64.7%。2 つの重みがほぼ揃っています。揃っていれば、どちらで平均しても同じ値へ落ちます。
同じ 1 つの手順が、片方で 2.48 倍ずれ、もう片方では 1.8% どまり。反りを基板組立の工程側から詰める2016 年の報告6の対象は後者の側で、厚み加重のままでも実害が出る手前に留まります。
見分ける数字は、体積比と剛性比の食い違い
見分けに使える 1 つの数字が出ます。等価剛性と等価熱膨張を 1 つの枠組みで同時に求める2021 年の 3 相系の報告5が示すとおり、2 つの量は同じ重みの分布の上に乗っています。
支配する相について、この比を取ります。
| 支配する相 | 体積 | 剛性 | ||
|---|---|---|---|---|
| インターポーザ | 銅 | 38.4% | 97.4% | 2.54 |
| ビルドアップ基板 | コア | 73.5% | 64.7% | 0.88 |
が 1 から離れているほど、2 つの平均は離れます。 なので、この見分けに要るのは成分のヤング率と等価ヤング率だけです。CTE を計算する前に出せます。
が 1 から離れるのは、硬い相が少数派のときです。薄い金属層が柔らかい樹脂の中に入った構造——つまり再配線層そのものが、いちばん危うい形です。
パターン層では、幅 4.82 倍の中を実値が 2.44 倍動く
面内に配線が走る 1 枚の層では、話がさらに動きます。材料の構成比をそろえたままレイアウトだけを変えた 9 通りについて、有限要素で等価ヤング率を解いた結果が公開されています。
| 手法 | 値 | 9 通りで |
|---|---|---|
| 算術平均(上界) | 19.17 GPa | 同じ |
| 調和平均(下界) | 3.98 GPa | 同じ |
| 有限要素の平均 | 4.84 〜 11.83 GPa | レイアウトで動く |
上下界の幅が 4.82 倍、実値の振れが 2.44 倍。実値は区間の中に収まっていますが、区間の広さの半分ぶんを使っています。
上界を使った場合の誤差を出します。
最良のレイアウトでも 62% 過大、最悪では 296% 過大。下界を使えば 18% から 66% の過小。どちらも設計の判断の手前で止まります。
恒等式との突き合わせも可能です。 GPa を銅として、上下界の 2 つを同時に再現する 2 相系を解くと
恒等式が 4.82 を返します。公開されている上下界は、この 2 相の組と整合します。
同じ混合物で CTE の幅も出しておきます。 を使って
| 量 | 物性比 | 幅 |
|---|---|---|
| ヤング率(121 と 2) | 60.5 | 14.84 倍 |
| CTE(60 と 16.3) | 3.68 | 1.46 倍 |
同じ体積分率で、ヤング率の幅は CTE の幅の 10.15 倍。層状組織を持つ共晶セラミックの等価熱膨張を主題にした2011 年の研究7のように、CTE のほうが成分間の差が小さいので、区間も狭くなります。
見分けは の 1 回で済みます。数倍なら混合則で足り、1 桁を超えたら有限要素か、レイアウトを入力に取る別の手が要ります。
積層では、等ひずみは仮定より手前の拘束
最後に、混合則を使ってよいかどうかの、精度より手前の切り分けを 1 つ。
| 構造 | 面内ヤング率 |
|---|---|
| 積層(層が厚み方向に重なる) | 算術平均が厳密 |
| パターン層(面内に配線が走る) | 算術平均と調和平均は上下界 |
積層では、層が固着している限り面内のひずみが全層で同じ値を取ります。等ひずみは仮定より手前の、幾何学的な拘束です。だから算術平均は近似ではなく、厳密解になります。サンドイッチ構造の等価弾性率を実測と突き合わせた2003 年の研究8の対象も、この側にあります。
パターン層では、材料が面内で横に並んでいます。等ひずみも等応力も範囲外なので、2 つは上下界にとどまります。
ただし、積層で厳密なのはヤング率のほうだけです。等価 CTE には、この記事の中心にある剛性加重が要ります。「積層だから算術平均で厳密」と 1 行で済ませると、CTE のほうで 2.48 倍を取り違えます。