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講座集 / 信頼性と試験の統計 / 第 27 回

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VOL.05 信頼性と試験の統計 第 27 回 / 全 31 回

回帰手法の選び方:保証されるのは精度より凸性

回帰の手法を精度の数字で比べても、どれも似た値になって決め手がありません。選ぶ根拠になるのは、初期値によらず同じ解に着く凸性や、何を最小化しているかの違いです。入力を減らして得た改善のうち、本数を減らしただけで出る分も切り分けます。

29 分 応用 式 22 出典 8

この回の目次(9 節)
  1. §1 凸だから、初期値によらず同じ解に着く
  2. §2 最小化している対象が別:構造リスクと経験リスク
  3. §3 は精度のつまみより、複雑さのつまみ
  4. §4 最小二乗が止まるのは、最後の 1 手だけ
  5. §5 リッジは固有値を持ち上げる——条件数に上限が付く
  6. §6 潰れた方向を「縮める」か「捨てる」か
  7. §7 強く出る変数ほど、振れ幅が小さい
  8. §8 カーネル行列が壁: の記憶と の仕事
  9. §9 入力を 4 本削った 33% のうち、18.4 点は本数のぶん

この回で示すこと

  1. 凸な問題なら初期値によらず同じ解に着き、選ぶ基準は精度の外にある。
  2. リッジは固有値を持ち上げ、条件数に の上限を付ける。
  3. 入力を 12 本から 8 本へ削った 33% の改善のうち、18.4 点は本数を減らした分。
本数を減らしただけで出る改善 18.4 点
入力 12 → 8 本での誤差の改善 33 %

実装分野の寿命予測に機械学習を使うとき、候補の手法は 10 個以上あります。では、何を基準に 1 つを選ぶのか。

精度で選ぼうとすると、たいていどれも似た数字になって決め手を欠きます。この記事が対象にするのは、精度以外の基準です。

最後に、実際に効果が出た 1 件を分解します。入力を 12 本から 8 本へ削って誤差が 33% 落ちた事例の、内訳です。

凸だから、初期値によらず同じ解に着く

サポートベクター回帰は、条件付き二次計画問題として書かれます。目的関数が凸で、条件式が線形。

だから、どこから探索を始めても同じ解に着きます。

ニューラルネットワークは違います。目的関数が非凸なので、初期の重みが変われば別の谷に落ちます。同じデータ、同じ構造、同じハイパーパラメータでも、乱数の種が違えば結果が動く。

サポートベクター回帰ニューラルネットワーク
最適化問題凸(二次計画)非凸
得られる解大域最適が保証される局所最適(初期値と経路に依存)

損失関数が凸かどうかという軸そのものを両者で比べた2026 年の研究1があるとおり、この差は実装の巧拙ではなく、問題の形から来ます。

この性質が、現場の要求と直結します。機械学習を入れる動機が「人ごとの答えを揃えること」なら、種で答えが動くモデルが満たすのは、その動機の半分どまりです。

最小化している対象が別:構造リスクと経験リスク

2 つめの差は、目的関数そのものにあります。

前者は手元のデータ上の誤差だけを小さくします。後者は誤差と複雑さの和を小さくします。

「正則化を入れれば同じでは」という反論が来ます。

罰則の重みは外から選ぶ量なので、選び方しだいで経験リスクへ戻せます。構造リスクの側では、外すという選択肢がありません。

訓練データが有限要素解析の出力で数百件規模だとすると、経験リスクは原理的に過学習しやすい側にいます。特性曲線の当てはめに一般回帰型のニューラルネットを使った2013 年の報告2のような手法は、そのぶん点数を要求します。

は精度のつまみより、複雑さのつまみ

サポートベクター回帰が探すのは、点を通る曲線ではありません。幅 の帯を引き、帯の中に収まった誤差は損失への寄与がゼロです。

だから解を動かしているのは、帯の外側にある点だけです。それがサポートベクターになります。

サポートベクターモデル
大きいわずか単純
小さい多い複雑

が、そのままモデルの複雑さのつまみです。この損失の形そのものを主題にした2023 年の逐次最小最適化による研究3や、異常点に強い形へ切り替えた2023 年の報告4があるとおり、帯の設計が手法の性格を決めます。

「できるだけ平坦に」という目的も同じ向きです。平坦とは、重みの大きさが小さいこと。入力の変化に対する出力の応答が鈍いので、外挿での暴れが小さくなります。

最小二乗が止まるのは、最後の 1 手だけ

多重共線性の問題を、式の上で正確に辿ります。最小二乗の損失は

で偏微分してゼロとすると

ここまで逆行列の出番はゼロです。正規方程式そのものは、いつでも立ちます。

手が止まるのは、この最後の 1 手だけです。入力どうしに強い相関があると がフルランクを失い、逆行列が求まらなくなります。

多重共線性がパラメータ推定を危うくすることを正面から主題にした2020 年の研究5があるとおり、これは回帰に共通の病です。実装分野の設計パラメータは、まさにこれが起きます。チップ厚とパッケージ厚、はんだ高さと立ち上がり高さ、パッド径とバンプ径。独立に振っているつもりでも、物理的に連動しています。

リッジは固有値を持ち上げる——条件数に上限が付く

罰則を足すと解けるようになる理由を、固有値で書きます。損失へ を足すと

は対称かつ半正定値なので、固有値 はすべて 0 以上。単位行列の 倍を足すと、固有値だけが ずつ持ち上がります。

ゼロだった固有値も正になるので、逆行列が必ず存在します。

条件数に上限が付きます。

が消えます。どれだけ潰れた方向があっても、条件数は だけで抑えられる。 のとき

罰則なし

上限の式から が落ちるので、2 行が同じ値になります。多重共線性への対処としてのリッジを主題にした2020 年の研究5や、推定量へ条件を課した2021 年の報告6が対象にするのは、この持ち上げの設計です。

代償は不偏性です。バイアスを受け入れて分散を下げる、という取引。潰れていた方向は、 の分だけ持ち上げられた形で生き延びます。

潰れた方向を「縮める」か「捨てる」か

同じ特異性に、別の手が 2 つあります。主成分を取る手と、出力との共分散で取る手です。

手法振れ幅の乏しい方向を何を基準に選ぶか非線形
リッジ/カーネルリッジ縮めるだけ。残す罰則の重み一律カーネルで可
主成分回帰捨てる の分散だけ不可
部分最小二乗捨てる と の共分散不可

主成分回帰が参照するのは の分散だけです。考えているのは情報損失の最小化だけなので、入力と出力の相関は計算に入っていません。

潜在構造への射影として定式化された2010 年の部分最小二乗の総説7が主題にするとおり、部分最小二乗は との共分散で方向を選びます。「振り幅は小さいが、出力をよく動かす」方向が生き延びます。

強く出る変数ほど、振れ幅が小さい

主成分回帰の危うさを、現場の条件で言い換えます。潜在変数を との関係で取る枠組み(2010 年の総説7)が生まれた動機も、ここにあります。

「変動が小さい」は、しばしば「重要である」ことの証拠になります。

実装設計のデータでも同じことが起きます。寸法の振り幅は物理的に許される範囲で決まり、層によって桁が別です。壊れるのは、振れ幅の乏しい層のほうです。

だから使い分けが線で引けます。

カーネル行列が壁: の記憶と の仕事

カーネル法の限界も数で出ます。 点のカーネル行列は 要素、解くのに 。

要素数倍精度の記憶
1,0008.0 MB
10,000800 MB
30,0007.2 GB
100,00080 GB

数千点までは快適で、数万点でつまずきます。

分割して解く手が使われます。 点を 個のクラスタへ等分すると、1 クラスタは 点。

クラスタ数の 2 乗で速くなります。 で なら 100 倍。大規模なカーネル法を部分空間のクラスタリングで主題にした2023 年の研究8が対象にするのも、この壁です。

ただし分割した時点で、クラスタをまたぐ相関を捨てています。速さと引き換えに落としているのはそこで、「精度を大きく損なわずに」という条件節は、この捨てた分を指します。

判断の目安が 3 つ揃いました。データが数千以下、出力がスカラー、再現性が要る。実装分野の寿命予測は、ちょうどこの条件に当てはまります。

入力を 4 本削った 33% のうち、18.4 点は本数のぶん

最後に、効果が出た 1 件を分解します。入力の本数そのものが推定の分散へ入る構図は、推定量へ条件を課す 2021 年の報告6が対象にする枠組みと同じ土台に乗ります。層間絶縁膜の信頼性予測で、候補の入力は 12 個ありました。相関係数の 値を取り、 の 4 つを落とします。

出力選抜前選抜後減少率
早期不良率2.21%1.48%33.0%
絶縁破壊電圧の平均6.01493.902935.1%
絶縁破壊電圧の標準偏差1.93851.366529.5%

この 33% を、そのまま選抜の手柄と受け取るのは早いです。

入力を減らせば、選び方が下手でも誤差は下がります。最小二乗の予測の分散は、入力の本数 とサンプル数 で

誤差の大きさが分散に支配されているなら、それは標準偏差、つまり に比例します。

この 18.4 点は、どの 4 本を落としても得られます。差し引きます。

出力全体の減少本数のぶん選び方のぶん
早期不良率33.0%18.4%18.0%
絶縁破壊電圧の平均35.1%18.4%20.5%
絶縁破壊電圧の標準偏差29.5%18.4%13.7%

おおむね半分が本数、半分が選び方です。

分解した意味は、次の一手にあります。本数のぶんは で決まるので、削り続ければ必ず得られます。選び方のぶんは、落とした 4 本の寄与が小さかったことの証拠です。

この分解を通さずに「選抜で 33% 改善」と報告すると、手法の実力を 1.8 倍に見積もります。次に 8 本から 6 本へ削るときは、 で本数のぶんが 13.4% に落ちるので、同じ手法でも改善幅は必ず小さくなります。

出典

  1. 1 Convex Loss Functions for Support Vector Machines and Neural Networks (2026) doi:10.22541/au.177105075.51386086/v1
  2. 2 Application of General Regression Neural Network in Characteristic Curve Fitting (2013) doi:10.4028/www.scientific.net/amm.441.116
  3. 3 Epsilon-Insensitive Least Squares Support Vector Regression with Sequential Minimal Optimization (2023) doi:10.1142/s2972370123500046
  4. 4 Robust Online Support Vector Regression with Truncated Epsilon-Insensitive Pinball Loss (2023) doi:10.3390/math11030709
  5. 5 Ridge Fuzzy Regression Modelling for Solving Multicollinearity (2020) doi:10.3390/math8091572
  6. 6 Restricted Ridge Regression estimator as a parameter estimation in multiple linear regression model with multicollinearity (2021) doi:10.1088/1742-6596/1725/1/012021
  7. 7 Partial least squares regression and projection on latent structure regression (2010) doi:10.1002/wics.51
  8. 8 Large-Scale Subspace Clustering Based on Purity Kernel Tensor Learning (2023) doi:10.3390/electronics13010083