実装分野の寿命予測に機械学習を使うとき、候補の手法は 10 個以上あります。では、何を基準に 1 つを選ぶのか。
精度で選ぼうとすると、たいていどれも似た数字になって決め手を欠きます。この記事が対象にするのは、精度以外の基準です。
最後に、実際に効果が出た 1 件を分解します。入力を 12 本から 8 本へ削って誤差が 33% 落ちた事例の、内訳です。
凸だから、初期値によらず同じ解に着く
サポートベクター回帰は、条件付き二次計画問題として書かれます。目的関数が凸で、条件式が線形。
だから、どこから探索を始めても同じ解に着きます。
ニューラルネットワークは違います。目的関数が非凸なので、初期の重みが変われば別の谷に落ちます。同じデータ、同じ構造、同じハイパーパラメータでも、乱数の種が違えば結果が動く。
| サポートベクター回帰 | ニューラルネットワーク | |
|---|---|---|
| 最適化問題 | 凸(二次計画) | 非凸 |
| 得られる解 | 大域最適が保証される | 局所最適(初期値と経路に依存) |
損失関数が凸かどうかという軸そのものを両者で比べた2026 年の研究1があるとおり、この差は実装の巧拙ではなく、問題の形から来ます。
この性質が、現場の要求と直結します。機械学習を入れる動機が「人ごとの答えを揃えること」なら、種で答えが動くモデルが満たすのは、その動機の半分どまりです。
最小化している対象が別:構造リスクと経験リスク
2 つめの差は、目的関数そのものにあります。
前者は手元のデータ上の誤差だけを小さくします。後者は誤差と複雑さの和を小さくします。
「正則化を入れれば同じでは」という反論が来ます。
罰則の重みは外から選ぶ量なので、選び方しだいで経験リスクへ戻せます。構造リスクの側では、外すという選択肢がありません。
訓練データが有限要素解析の出力で数百件規模だとすると、経験リスクは原理的に過学習しやすい側にいます。特性曲線の当てはめに一般回帰型のニューラルネットを使った2013 年の報告2のような手法は、そのぶん点数を要求します。
は精度のつまみより、複雑さのつまみ
サポートベクター回帰が探すのは、点を通る曲線ではありません。幅 の帯を引き、帯の中に収まった誤差は損失への寄与がゼロです。
だから解を動かしているのは、帯の外側にある点だけです。それがサポートベクターになります。
| サポートベクター | モデル | |
|---|---|---|
| 大きい | わずか | 単純 |
| 小さい | 多い | 複雑 |
が、そのままモデルの複雑さのつまみです。この損失の形そのものを主題にした2023 年の逐次最小最適化による研究3や、異常点に強い形へ切り替えた2023 年の報告4があるとおり、帯の設計が手法の性格を決めます。
「できるだけ平坦に」という目的も同じ向きです。平坦とは、重みの大きさが小さいこと。入力の変化に対する出力の応答が鈍いので、外挿での暴れが小さくなります。
最小二乗が止まるのは、最後の 1 手だけ
多重共線性の問題を、式の上で正確に辿ります。最小二乗の損失は
で偏微分してゼロとすると
ここまで逆行列の出番はゼロです。正規方程式そのものは、いつでも立ちます。
手が止まるのは、この最後の 1 手だけです。入力どうしに強い相関があると がフルランクを失い、逆行列が求まらなくなります。
多重共線性がパラメータ推定を危うくすることを正面から主題にした2020 年の研究5があるとおり、これは回帰に共通の病です。実装分野の設計パラメータは、まさにこれが起きます。チップ厚とパッケージ厚、はんだ高さと立ち上がり高さ、パッド径とバンプ径。独立に振っているつもりでも、物理的に連動しています。
リッジは固有値を持ち上げる——条件数に上限が付く
罰則を足すと解けるようになる理由を、固有値で書きます。損失へ を足すと
は対称かつ半正定値なので、固有値 はすべて 0 以上。単位行列の 倍を足すと、固有値だけが ずつ持ち上がります。
ゼロだった固有値も正になるので、逆行列が必ず存在します。
条件数に上限が付きます。
が消えます。どれだけ潰れた方向があっても、条件数は だけで抑えられる。 のとき
| 罰則なし | |||
|---|---|---|---|
上限の式から が落ちるので、2 行が同じ値になります。多重共線性への対処としてのリッジを主題にした2020 年の研究5や、推定量へ条件を課した2021 年の報告6が対象にするのは、この持ち上げの設計です。
代償は不偏性です。バイアスを受け入れて分散を下げる、という取引。潰れていた方向は、 の分だけ持ち上げられた形で生き延びます。
潰れた方向を「縮める」か「捨てる」か
同じ特異性に、別の手が 2 つあります。主成分を取る手と、出力との共分散で取る手です。
| 手法 | 振れ幅の乏しい方向を | 何を基準に選ぶか | 非線形 |
|---|---|---|---|
| リッジ/カーネルリッジ | 縮めるだけ。残す | 罰則の重み一律 | カーネルで可 |
| 主成分回帰 | 捨てる | の分散だけ | 不可 |
| 部分最小二乗 | 捨てる | と の共分散 | 不可 |
主成分回帰が参照するのは の分散だけです。考えているのは情報損失の最小化だけなので、入力と出力の相関は計算に入っていません。
潜在構造への射影として定式化された2010 年の部分最小二乗の総説7が主題にするとおり、部分最小二乗は との共分散で方向を選びます。「振り幅は小さいが、出力をよく動かす」方向が生き延びます。
強く出る変数ほど、振れ幅が小さい
主成分回帰の危うさを、現場の条件で言い換えます。潜在変数を との関係で取る枠組み(2010 年の総説7)が生まれた動機も、ここにあります。
「変動が小さい」は、しばしば「重要である」ことの証拠になります。
実装設計のデータでも同じことが起きます。寸法の振り幅は物理的に許される範囲で決まり、層によって桁が別です。壊れるのは、振れ幅の乏しい層のほうです。
だから使い分けが線で引けます。
カーネル行列が壁: の記憶と の仕事
カーネル法の限界も数で出ます。 点のカーネル行列は 要素、解くのに 。
| 要素数 | 倍精度の記憶 | ||
|---|---|---|---|
| 1,000 | 8.0 MB | ||
| 10,000 | 800 MB | ||
| 30,000 | 7.2 GB | ||
| 100,000 | 80 GB |
数千点までは快適で、数万点でつまずきます。
分割して解く手が使われます。 点を 個のクラスタへ等分すると、1 クラスタは 点。
クラスタ数の 2 乗で速くなります。 で なら 100 倍。大規模なカーネル法を部分空間のクラスタリングで主題にした2023 年の研究8が対象にするのも、この壁です。
ただし分割した時点で、クラスタをまたぐ相関を捨てています。速さと引き換えに落としているのはそこで、「精度を大きく損なわずに」という条件節は、この捨てた分を指します。
判断の目安が 3 つ揃いました。データが数千以下、出力がスカラー、再現性が要る。実装分野の寿命予測は、ちょうどこの条件に当てはまります。
入力を 4 本削った 33% のうち、18.4 点は本数のぶん
最後に、効果が出た 1 件を分解します。入力の本数そのものが推定の分散へ入る構図は、推定量へ条件を課す 2021 年の報告6が対象にする枠組みと同じ土台に乗ります。層間絶縁膜の信頼性予測で、候補の入力は 12 個ありました。相関係数の 値を取り、 の 4 つを落とします。
| 出力 | 選抜前 | 選抜後 | 減少率 |
|---|---|---|---|
| 早期不良率 | 2.21% | 1.48% | 33.0% |
| 絶縁破壊電圧の平均 | 6.0149 | 3.9029 | 35.1% |
| 絶縁破壊電圧の標準偏差 | 1.9385 | 1.3665 | 29.5% |
この 33% を、そのまま選抜の手柄と受け取るのは早いです。
入力を減らせば、選び方が下手でも誤差は下がります。最小二乗の予測の分散は、入力の本数 とサンプル数 で
誤差の大きさが分散に支配されているなら、それは標準偏差、つまり に比例します。
この 18.4 点は、どの 4 本を落としても得られます。差し引きます。
| 出力 | 全体の減少 | 本数のぶん | 選び方のぶん |
|---|---|---|---|
| 早期不良率 | 33.0% | 18.4% | 18.0% |
| 絶縁破壊電圧の平均 | 35.1% | 18.4% | 20.5% |
| 絶縁破壊電圧の標準偏差 | 29.5% | 18.4% | 13.7% |
おおむね半分が本数、半分が選び方です。
分解した意味は、次の一手にあります。本数のぶんは で決まるので、削り続ければ必ず得られます。選び方のぶんは、落とした 4 本の寄与が小さかったことの証拠です。
この分解を通さずに「選抜で 33% 改善」と報告すると、手法の実力を 1.8 倍に見積もります。次に 8 本から 6 本へ削るときは、 で本数のぶんが 13.4% に落ちるので、同じ手法でも改善幅は必ず小さくなります。