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講座集 / 信頼性と試験の統計 / 第 26 回

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VOL.05 信頼性と試験の統計 第 26 回 / 全 31 回

等価 CTE の誤差:厚み加重と剛性加重の差は共分散そのもの

等価な熱膨張係数を厚みで平均した値と剛性で平均した値の差は、層ごとの剛性と膨張の共分散にちょうど一致します。「支配的な層があるか」で判断すると見落とすことがあり、重みの取り方ひとつで比較の結論が逆転し、損傷の見積もりも 2 倍以上動きます。

28 分 応用 式 22 出典 8

この回の目次(8 節)
  1. §1 力の釣り合いから、重みが で出る
  2. §2 弾性率は厚み加重で正しい——分母だけが入れ替わる
  3. §3 2 つの差は、剛性と膨張の共分散そのもの
  4. §4 「両方で支配する層がある」では見分けられない
  5. §5 比較が反転する:9.13 高いから 0.58 低いへ
  6. §6 下流まで通すと、5.93%/サイクルが 2.56% になる
  7. §7 温度でもう一度反転する
  8. §8 壊れたのは CTE 差が小さいほう

この回で示すこと

  1. が、 層で厳密に成り立つ。
  2. 銅が厚みでも剛性でも支配していても、共分散が残れば 2.11 倍ずれる。
  3. 重みの取り方で比較が +9.13 から −0.58 へ反転し、下流の損傷率は 5.93%/サイクルから 2.56% へ動く。
共分散が残るときの厚み加重と剛性加重のずれ 2.11 倍

積層を有限要素で 1 つの等価ブロックへ潰すとき、その熱膨張係数を厚みで平均する解析があります。その平均は、いつ正しくて、いつ 2 倍ずれるのか。

その形から、よく使われる見分け方——「厚みでも剛性でも支配する層があるか」——が使えない理由も出ます。銅が両方で支配していても、2.11 倍ずれます。

力の釣り合いから、重みが で出る

層が互いに固着していれば、面内ひずみは全層で共通です。層 の面内応力は

外力が無いので、断面の力の総和はゼロです。

について解くと、複合体の自由膨張ひずみが出ます。

重みは ではなく、 のほうです。熱曲げを受ける複合材の等価 CTE を正面から主題にした1999 年の研究1や、3 相系で等価剛性と熱膨張を同時に求める2021 年の報告2が対象にするのも、この形です。

仮定は 3 つだけです。面内応力の総和がゼロ、全層が完全に固着、材料は線形弾性。どれも積層の面内では素直に成り立ちます。

弾性率は厚み加重で正しい——分母だけが入れ替わる

同じ仮定から、面内弾性率も出ます。単位幅の断面へ面内力 を掛けると、層 が受け持つ力は 。合計が なので

ブロック全体の見かけの応力は を全厚で割ったものなので

こちらは厚み加重平均です。サンドイッチ構造の等価弾性率を実測と突き合わせた2003 年の研究3が対象にする形でもあります。

2 つの式を、同じ行へ書き出します。

分子はどちらも を含み、分母だけが入れ替わります。弾性率は で、熱膨張は で割る。

この 1 か所の入れ替わりが、事故の源です。弾性率を厚み加重で求めた手が、そのまま熱膨張へ伸びます。片方は正しく、もう片方は過大に出る。

2 つの差は、剛性と膨張の共分散そのもの

ずれの大きさを閉じた形で求めます。厚み分率を とします。

差を取ります。

分子は、 を重みとする共分散そのものの形です。

層数は何枚でも成り立ちます。3 つの積層で確かめます。

積層
超大型インターポーザ47.7043.22−1,230.1−25.7917.43
感光性誘電体の積層68.5435.58−1,281.0−18.6916.89
ビルドアップフィルムの積層65.3226.45−587.2−8.9917.47

3 つとも、厳密に一致します。

符号の意味がそのまま読めます。硬い層が低膨張の層でもあるとき、共分散は負。

金属と樹脂を混ぜた積層は、ほぼ必ずこの形です。金属は硬くて膨張が小さく、樹脂は柔らかくて膨張が大きい。厚み加重は必ず過大に出ます。

共分散がゼロになる場合も、式が教えてくれます。 が全層で同じか、 が全層で同じなら、共分散は消えて 2 つの平均が一致します。上界と下界が一致する条件を主題にした2021 年の二軸弾性率の研究4と、同じ構図です。

「両方で支配する層がある」では見分けられない

よく使われる見分け方を、この式で検査します。「等価ブロックの中に、厚みでも剛性でも支配する層があれば、厚み加重のままで実害が出る手前に留まる」というものです。

感光性誘電体の積層で確かめます。銅 19 µm(121 GPa、16.3 ppm/K)と誘電体 15 µm(2.1 GPa、60 ppm/K)。

層厚みの割合剛性の割合
銅55.9%98.6%
誘電体44.1%1.4%

銅が両方で支配しています。ところが

2.11 倍ずれます。見分け方が機能していません。

理由は式にあります。共分散は「どの層が支配するか」より、 と が層をまたいでどれだけ逆向きに並んでいるかで決まります。銅が剛性の 98.6% を持っていても、残る 1.4% の相が で 3.7 倍離れていれば、共分散はそのまま残ります。

正しい見分けは、共分散そのものか、その等価な形です。相の数が増えても剛性と熱膨張を同じ重みの上で同時に求める2021 年の 3 相系の報告2が示すとおり、要るのは支配関係より重みの分布のほうです。

積層支配する層の
超大型インターポーザ(銅)
感光性誘電体の積層(銅)
ビルドアップフィルムの積層(銅)

が 1 から離れるほど、剛性の重みと厚みの重みが割れます。3 つとも 1.7 を超えています。厚みと剛性の「支配」が揃っていても、重みの分布は別々のままです。

比較が反転する:9.13 高いから 0.58 低いへ

いちばん困るのは、絶対値より比較のほうです。同じ設計のインターポーザを、2 種類の誘電体で作って比べます。

誘電体銅樹脂
感光性誘電体19 µm15 µm、2.1 GPa、60 ppm/K68.54 GPa
ビルドアップフィルム27 µm26 µm、7.5 GPa、37 ppm/K65.32 GPa

2 つの等価 CTE を、2 通りの重みで求めます。どちらの重みで平均しても、熱曲げの下で複合体が示す膨張は1999 年の研究1が対象にする 1 つの量へ収束するはずで、以下はその 2 通りの見積もりです。

感光性誘電体ビルドアップフィルム差
厚み加重35.5826.45前者が 9.13 高い(+34%)
剛性加重16.8917.47前者が 0.58 低い(−3.3%)

符号が反転します。

厚み加重では「感光性誘電体のインターポーザは 34% 膨張しやすい」と読めます。剛性加重では 3.3% 低い。ほぼ同じです。

理由は銅の剛性寄与です。前者は銅が 98.6%、後者は 94.4%。どちらも銅の 16.3 に張り付くので、差が出る余地は別のところにあります。

弾性率の差も 5% どまりです。つまり剛性加重で作り直すと、2 つの等価ブロックはほぼ同じブロックになります。

そうすると、この 2 つを有限要素で比べる意味が動きます。等価ブロックへ落とした時点で、2 つの誘電体の違いは弾性率の 5% だけ。実際に観測された差は、等価ブロックが捨てた情報から来ているはずです。

下流まで通すと、5.93%/サイクルが 2.56% になる

重みの誤りが、解析の出力で何になるか。サンドイッチ構造で等価弾性率を実測と突き合わせた2003 年の研究3のように、等価物性は最終的に実測と照らす対象です。非弾性ひずみを作るのはシリコン(2.7 ppm/K)との差なので

熱膨張差が 0.43 倍。逆に言えば、厚み加重のままの解析は実物より 2.32 倍厳しい世界で設計しています。

非弾性ひずみは差にほぼ比例するので、細いバンプの 5.93%/サイクルという予測は

5.93% と 2.56%。どちらを見て「細いバンプが弱点だ」と言うかで、対策へ振る予算の桁が動きます。

安全側へ倒れているように映ります。ところが安全側へ倒れた解析は、効かない対策を正当化するので、費用の側で必ず返ってきます。

温度でもう一度反転する

比較はもう一度ひっくり返ります。今度は温度で。

誘電体25〜150 ℃ の CTE150〜240 ℃ の CTE弾性率破断伸び
感光性誘電体60300 ℃—2.1 GPa60%
ビルドアップフィルム(インターポーザ)37156 ℃987.5 GPa5.4%
ビルドアップフィルム(基板)39153 ℃1175.0 GPa5.6%

室温では 37 < 60 で、ビルドアップフィルムが有利に映ります。

ところが実装のピークは 245 ℃ です。

感光性誘電体は 300 ℃ なので、ピークがその手前で止まります。60 のまま。

順序が逆になります。熱応力が熱膨張係数とガラス転移点の両方を動かすことは1977 年の研究5が主題にしており、 を跨ぐかどうかは材料の性質より、工程の温度が決めます。

室温の表だけで材料を選ぶと、組立温度で逆の材料を選んだことになります。

壊れたのは CTE 差が小さいほう

実測の結果が、さらにもう一段ひっくり返します。チップと基板を接合した後の導通試験で、ビルドアップフィルム側だけが全数合格の手前で止まりました。壊れたのはインターポーザと基板の間の接合部です。

その接合部を挟む 2 者の CTE 差を出します。リフロー中なので、どちらもガラス転移点より上の値を使います。

インターポーザ側基板側差200 K での強制ひずみ
感光性誘電体6011757 ppm/K1.140%
ビルドアップフィルム9811719 ppm/K0.380%

壊れたほうが、差が小さい。57 対 19 で、3.0 倍の開きが逆向きです。

熱膨張差は、この結果の順序を決めていません。効いているのは別の量です。

容量と要求を、同じ単位へ揃えます。

容量(破断伸び)要求(強制ひずみ)余裕
感光性誘電体60%1.140%53 倍
ビルドアップフィルム5.4%0.380%14 倍

3.0 倍きつい要求を受けながら、余裕は 3.7 倍あります。高い伸びを持つ感光性誘電体材料の開発そのものを主題にした2017 年の報告6や、サブミクロン解像と低誘電率を両立させた2025 年の感光性ポリイミド基板の研究7、そしてビルドアップフィルム側の低損失化を主題にする2025 年の報告8があるとおり、この 2 系統は別々の軸で伸びています。

ひずみの行き先を定める問題です。このどちらも、均質な等価ブロックでは表せません。破断伸び 11.1 倍も、 の 144 ℃ 差も、等価ブロックが持つ 2 つの数字には入っていません。

重みを直すと差が消えて、本当の原因を探しにいく必要が出ます。厚み加重で 9.13 ppm/K の差が立っているうちは、その差が結論を作っているように映ってしまいます。

出典

  1. 1 On the Effective Coefficient of Thermal Expansion in Thermal Bending of Composites Undergoing Linear Thermal Loading (1999) doi:10.1177/002199839903300204
  2. 2 Effective stiffness and thermal expansion of three-phase multifunctional polymer electrolyte coated composites (2021) doi:10.1088/2631-6331/abec64
  3. 3 Characterization of the Effective Elastic Modulus of an Integrated Sandwich Composite (2003) doi:10.1177/0021998303037013001
  4. 4 Biaxial modulus in fiber-textured thin films - Coinciding Voigt and Reuss bounds and planes of isotropy (2021) doi:10.1063/5.0041016
  5. 5 The effect of thermal stress on the thermal expansion coefficient and glass transition temperature (1977) doi:10.1002/pol.1977.180150904
  6. 6 Novel Low-Temperature Curable Positive-Tone Photosensitive Dielectric Materials with High Elongation (2017) doi:10.37665/wakjozj11835
  7. 7 Low-Dielectric and Submicron-Resolution Photosensitive Polyimide Substrate for Large-Scale Pattern Construction (2025) doi:10.1002/adfm.202509278
  8. 8 Ultra-low Loss Build-up Film Dielectric for Advanced Packaging (2025) doi:10.4071/001c.129509