積層を有限要素で 1 つの等価ブロックへ潰すとき、その熱膨張係数を厚みで平均する解析があります。その平均は、いつ正しくて、いつ 2 倍ずれるのか。
その形から、よく使われる見分け方——「厚みでも剛性でも支配する層があるか」——が使えない理由も出ます。銅が両方で支配していても、2.11 倍ずれます。
力の釣り合いから、重みが で出る
層が互いに固着していれば、面内ひずみは全層で共通です。層 の面内応力は
外力が無いので、断面の力の総和はゼロです。
について解くと、複合体の自由膨張ひずみが出ます。
重みは ではなく、 のほうです。熱曲げを受ける複合材の等価 CTE を正面から主題にした1999 年の研究1や、3 相系で等価剛性と熱膨張を同時に求める2021 年の報告2が対象にするのも、この形です。
仮定は 3 つだけです。面内応力の総和がゼロ、全層が完全に固着、材料は線形弾性。どれも積層の面内では素直に成り立ちます。
弾性率は厚み加重で正しい——分母だけが入れ替わる
同じ仮定から、面内弾性率も出ます。単位幅の断面へ面内力 を掛けると、層 が受け持つ力は 。合計が なので
ブロック全体の見かけの応力は を全厚で割ったものなので
こちらは厚み加重平均です。サンドイッチ構造の等価弾性率を実測と突き合わせた2003 年の研究3が対象にする形でもあります。
2 つの式を、同じ行へ書き出します。
分子はどちらも を含み、分母だけが入れ替わります。弾性率は で、熱膨張は で割る。
この 1 か所の入れ替わりが、事故の源です。弾性率を厚み加重で求めた手が、そのまま熱膨張へ伸びます。片方は正しく、もう片方は過大に出る。
2 つの差は、剛性と膨張の共分散そのもの
ずれの大きさを閉じた形で求めます。厚み分率を とします。
差を取ります。
分子は、 を重みとする共分散そのものの形です。
層数は何枚でも成り立ちます。3 つの積層で確かめます。
| 積層 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 超大型インターポーザ | 47.70 | 43.22 | −1,230.1 | −25.79 | 17.43 |
| 感光性誘電体の積層 | 68.54 | 35.58 | −1,281.0 | −18.69 | 16.89 |
| ビルドアップフィルムの積層 | 65.32 | 26.45 | −587.2 | −8.99 | 17.47 |
3 つとも、厳密に一致します。
符号の意味がそのまま読めます。硬い層が低膨張の層でもあるとき、共分散は負。
金属と樹脂を混ぜた積層は、ほぼ必ずこの形です。金属は硬くて膨張が小さく、樹脂は柔らかくて膨張が大きい。厚み加重は必ず過大に出ます。
共分散がゼロになる場合も、式が教えてくれます。 が全層で同じか、 が全層で同じなら、共分散は消えて 2 つの平均が一致します。上界と下界が一致する条件を主題にした2021 年の二軸弾性率の研究4と、同じ構図です。
「両方で支配する層がある」では見分けられない
よく使われる見分け方を、この式で検査します。「等価ブロックの中に、厚みでも剛性でも支配する層があれば、厚み加重のままで実害が出る手前に留まる」というものです。
感光性誘電体の積層で確かめます。銅 19 µm(121 GPa、16.3 ppm/K)と誘電体 15 µm(2.1 GPa、60 ppm/K)。
| 層 | 厚みの割合 | 剛性の割合 |
|---|---|---|
| 銅 | 55.9% | 98.6% |
| 誘電体 | 44.1% | 1.4% |
銅が両方で支配しています。ところが
2.11 倍ずれます。見分け方が機能していません。
理由は式にあります。共分散は「どの層が支配するか」より、 と が層をまたいでどれだけ逆向きに並んでいるかで決まります。銅が剛性の 98.6% を持っていても、残る 1.4% の相が で 3.7 倍離れていれば、共分散はそのまま残ります。
正しい見分けは、共分散そのものか、その等価な形です。相の数が増えても剛性と熱膨張を同じ重みの上で同時に求める2021 年の 3 相系の報告2が示すとおり、要るのは支配関係より重みの分布のほうです。
| 積層 | 支配する層の |
|---|---|
| 超大型インターポーザ(銅) | |
| 感光性誘電体の積層(銅) | |
| ビルドアップフィルムの積層(銅) |
が 1 から離れるほど、剛性の重みと厚みの重みが割れます。3 つとも 1.7 を超えています。厚みと剛性の「支配」が揃っていても、重みの分布は別々のままです。
比較が反転する:9.13 高いから 0.58 低いへ
いちばん困るのは、絶対値より比較のほうです。同じ設計のインターポーザを、2 種類の誘電体で作って比べます。
| 誘電体 | 銅 | 樹脂 | |
|---|---|---|---|
| 感光性誘電体 | 19 µm | 15 µm、2.1 GPa、60 ppm/K | 68.54 GPa |
| ビルドアップフィルム | 27 µm | 26 µm、7.5 GPa、37 ppm/K | 65.32 GPa |
2 つの等価 CTE を、2 通りの重みで求めます。どちらの重みで平均しても、熱曲げの下で複合体が示す膨張は1999 年の研究1が対象にする 1 つの量へ収束するはずで、以下はその 2 通りの見積もりです。
| 感光性誘電体 | ビルドアップフィルム | 差 | |
|---|---|---|---|
| 厚み加重 | 35.58 | 26.45 | 前者が 9.13 高い(+34%) |
| 剛性加重 | 16.89 | 17.47 | 前者が 0.58 低い(−3.3%) |
符号が反転します。
厚み加重では「感光性誘電体のインターポーザは 34% 膨張しやすい」と読めます。剛性加重では 3.3% 低い。ほぼ同じです。
理由は銅の剛性寄与です。前者は銅が 98.6%、後者は 94.4%。どちらも銅の 16.3 に張り付くので、差が出る余地は別のところにあります。
弾性率の差も 5% どまりです。つまり剛性加重で作り直すと、2 つの等価ブロックはほぼ同じブロックになります。
そうすると、この 2 つを有限要素で比べる意味が動きます。等価ブロックへ落とした時点で、2 つの誘電体の違いは弾性率の 5% だけ。実際に観測された差は、等価ブロックが捨てた情報から来ているはずです。
下流まで通すと、5.93%/サイクルが 2.56% になる
重みの誤りが、解析の出力で何になるか。サンドイッチ構造で等価弾性率を実測と突き合わせた2003 年の研究3のように、等価物性は最終的に実測と照らす対象です。非弾性ひずみを作るのはシリコン(2.7 ppm/K)との差なので
熱膨張差が 0.43 倍。逆に言えば、厚み加重のままの解析は実物より 2.32 倍厳しい世界で設計しています。
非弾性ひずみは差にほぼ比例するので、細いバンプの 5.93%/サイクルという予測は
5.93% と 2.56%。どちらを見て「細いバンプが弱点だ」と言うかで、対策へ振る予算の桁が動きます。
安全側へ倒れているように映ります。ところが安全側へ倒れた解析は、効かない対策を正当化するので、費用の側で必ず返ってきます。
温度でもう一度反転する
比較はもう一度ひっくり返ります。今度は温度で。
| 誘電体 | 25〜150 ℃ の CTE | 150〜240 ℃ の CTE | 弾性率 | 破断伸び | |
|---|---|---|---|---|---|
| 感光性誘電体 | 60 | 300 ℃ | — | 2.1 GPa | 60% |
| ビルドアップフィルム(インターポーザ) | 37 | 156 ℃ | 98 | 7.5 GPa | 5.4% |
| ビルドアップフィルム(基板) | 39 | 153 ℃ | 117 | 5.0 GPa | 5.6% |
室温では 37 < 60 で、ビルドアップフィルムが有利に映ります。
ところが実装のピークは 245 ℃ です。
感光性誘電体は 300 ℃ なので、ピークがその手前で止まります。60 のまま。
順序が逆になります。熱応力が熱膨張係数とガラス転移点の両方を動かすことは1977 年の研究5が主題にしており、 を跨ぐかどうかは材料の性質より、工程の温度が決めます。
室温の表だけで材料を選ぶと、組立温度で逆の材料を選んだことになります。
壊れたのは CTE 差が小さいほう
実測の結果が、さらにもう一段ひっくり返します。チップと基板を接合した後の導通試験で、ビルドアップフィルム側だけが全数合格の手前で止まりました。壊れたのはインターポーザと基板の間の接合部です。
その接合部を挟む 2 者の CTE 差を出します。リフロー中なので、どちらもガラス転移点より上の値を使います。
| インターポーザ側 | 基板側 | 差 | 200 K での強制ひずみ | |
|---|---|---|---|---|
| 感光性誘電体 | 60 | 117 | 57 ppm/K | 1.140% |
| ビルドアップフィルム | 98 | 117 | 19 ppm/K | 0.380% |
壊れたほうが、差が小さい。57 対 19 で、3.0 倍の開きが逆向きです。
熱膨張差は、この結果の順序を決めていません。効いているのは別の量です。
容量と要求を、同じ単位へ揃えます。
| 容量(破断伸び) | 要求(強制ひずみ) | 余裕 | |
|---|---|---|---|
| 感光性誘電体 | 60% | 1.140% | 53 倍 |
| ビルドアップフィルム | 5.4% | 0.380% | 14 倍 |
3.0 倍きつい要求を受けながら、余裕は 3.7 倍あります。高い伸びを持つ感光性誘電体材料の開発そのものを主題にした2017 年の報告6や、サブミクロン解像と低誘電率を両立させた2025 年の感光性ポリイミド基板の研究7、そしてビルドアップフィルム側の低損失化を主題にする2025 年の報告8があるとおり、この 2 系統は別々の軸で伸びています。
ひずみの行き先を定める問題です。このどちらも、均質な等価ブロックでは表せません。破断伸び 11.1 倍も、 の 144 ℃ 差も、等価ブロックが持つ 2 つの数字には入っていません。
重みを直すと差が消えて、本当の原因を探しにいく必要が出ます。厚み加重で 9.13 ppm/K の差が立っているうちは、その差が結論を作っているように映ってしまいます。