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VOL.03 薄膜成膜の物理と化学 第 1 回 / 全 19 回

CVD の反応:熱力学で保証される選択成長は 20 nm まで

タングステンの選択 CVD で、熱力学が保証してくれるのは、Si を食って W に置き換わる最初の薄い層だけです。厚く積むために H₂ を足すと選択性は反応速度の問題に変わり、潜伏時間を過ぎて核ができると一気に崩れます。

24 分 標準 式 19 図 5 出典 7

この回の目次(5 節)
  1. §1 平衡計算が答える範囲
  2. §2 反応の次数を与えるのは律速段階のほう
  3. §3 表面では、被覆率がほとんど全部を左右する
  4. §4 30 年後の現場に、同じ 3 つがそのまま出ている
  5. §5 実務での使い方

この回で示すこと

  1. WF₆ は SiO₂ 上で 700 K・+420 kJ/mol、 で析出せず、Si 上の選択成長は約 20 nm で自己停止する。
  2. WF₆ + 3H₂ の反応は係数どおりなら 4 次だが、実測は WF₆ に 0 次・H₂ に 1/2 次で、律速は W 表面での H₂ の解離吸着。
  3. 速度論による選択性には潜伏時間があり、核ができるとその W が触媒になって選択性が一気に崩れる。
熱力学で保証される選択成長の上限 20 nm
SiO₂ 上の WF₆ の平衡定数(700 K) 1×10⁻³¹
H₂ に対する反応次数 1/2 次

選択成長は、何が保証しているのか。熱力学だと思っていました。半分だけ当たっていました。

熱力学が本当に保証してくれるのは、WF₆ だけを流したときの約 20 nm までです。それより厚く積むために水素を足した瞬間、選択性の根拠は熱力学から速度論へ移ります。速度論による選択性には、有効期限があります。

同じ 1 つの反応を、平衡・気相速度・表面素過程の 3 通りで解く。工程が壊れる時刻を教えてくれるのは、3 番目だけでした。

図 01
A. WF₆ だけ流す:平衡が保証する。ただし 20 nm 膜厚 時間 20 nm Si の上:ΔrG° = −707 kJ/mol Si が W を通って拡散できる あいだだけ進む → 自己停止 SiO₂ の上:ΔrG° = +420 kJ/mol、K = 10⁻³¹ 生成気体を 10⁻¹⁰ atm 以下に保って初めて析出側へ進む だから WF₆ 単独なら、W が付くのは Si の上だけ B. H₂ を足す:厚く積める。ただし期限つき 膜厚 時間 Si の上:伸び続ける SiO₂ 上:わずかに進む 潜伏時間 選択性の有効期限 化学量論では 4 次。実測は WF₆ に 0 次、H₂ に 1/2 次 律速は W 表面での H₂ の解離吸着 C. 選択性が崩れる連鎖 SiO₂ 上でも表面反応 速度はわずかに残る 物理吸着だけなので低い 潜伏時間ののち W 核が 1 個できる 傷や汚染島でも同じ その W の上で H₂ が解離吸着する Ea が下がる 核の上だけ 急に速くなる 選択性を失う D. 平衡で釣り合わせるほうが信頼できる 副生成物の HCl を足すと、Si の上では堆積が進み、SiO₂ の上では生まれた核が HCl にエッチングされる 釣り合いを平衡で作れば、核ができても消えるので、時間が経っても保たれる 速度論による選択性は、潜伏時間だけでなく、傷や汚染島のような偶発的な活性サイトでも破れる
WF₆ だけを流すと Si 上でだけ W が析出しますが、Si が W 膜を通って拡散する必要があるため約 20 nm で自己停止します。厚く積むには H₂ を足す。すると選択性の根拠は平衡から速度論へ移り、SiO₂ 上でも堆積速度がゼロを上回ります。潜伏時間のあとに核が 1 個できると、その W が H₂ の解離吸着の場になって活性化エネルギーを下げ、選択性は一気に失われます。

平衡計算が答える範囲

まず平衡から入ります。ただし最初に断りが要ります。Besmannが1977年に公開した SOLGASMIX-PV は、複雑な化学系の平衡関係を計算するプログラムで、この種の計算の出発点にあたります1。

CVD 反応器は、平衡から離れた状態で動きます。反応物を生成物へ変える正味の変化を出し続けているからです。平衡は正味の変化がゼロの状態を指します。実際には、意図的に平衡から遠ざけることのほうが多い。粉の生成を避けるため、あるいは大面積で堆積速度を揃えるため、反応できる速さよりずっと速くガスを流すからです。

それでも平衡計算は出発点として便利です。どんな反応が起こりうるか、平衡の極限までいけばどこまで進むかが分かる。実際にどこまで進むかは、反応速度と気相拡散が決めます。

最小化する量と、書き下せる形

定圧で動く系は、全 Gibbs 自由エネルギー が最小になったところで平衡になります。(定容なら Helmholtz 自由エネルギー ですが、CVD は常に定圧です。)ここでの は系全体の kJ で、kJ/mol とは別の量です。

は のモル数、 Pa 1 atm。理想気体の は他の化学種の存在から独立なので、 はその化学種を元素の標準状態から作るときの標準生成自由エネルギー と同じものになります。元素の標準状態は 10⁵ Pa・298 K でのふつうの相で、その相は 10⁵ Pa のすべての温度で と決めます。便覧やオンラインのデータベースにあり、 は温度のゆるやかな、しばしばほぼ線形な関数です。

凝縮相では の圧力依存性が小さく、そのまま落とせます。膜が合金(固溶体)ならモル分率 に薄まったぶんだけ が下がる。これは希釈で蒸気圧が下がるのと同じ現象です。

あとは数値で最小化するだけです。条件は 3 つ。モル数が非負、全圧が一定()、各元素の総量が保存する。SOLGASMIX や BELLTHERM といったプログラムが、多数の反応が同時に進む系を扱えます。

見通しをよくするために、単一の反応

だけを考えます。 のうち の割合が反応し、 が化学量論比より だけ過剰にあるとして を書き、 とすると、 も も消えて

が出ます。 を 10⁵ Pa 単位(atm 単位)で書けば なので、モル数の変化 は式から落ちます。逆に言うと、 の反応は希釈で結果が変わります。

CVD でよく使われる全体反応は、こういう顔ぶれです。

種類反応
熱分解SiH₄(g) → Si(c) + 2H₂(g)
熱分解SiH₂Cl₂(g) → Si(c) + 2HCl(g)
酸化SiH₄(g) + 2O₂(g) → SiO₂(c) + 2H₂O(g)
酸化3SiH₄(g) + 4NH₃(g) → Si₃N₄(c) + 12H₂(g)
還元WF₆(g) + 3H₂(g) → W(c) + 6HF(g)

これらは全体反応です。実際には気相と表面の複数の素過程からなり、どの段階が堆積速度を支配するかは反応式からは分かりません。ここが次の節の話になります。

W が Si の上だけに付くことは、計算で出る

集積回路の Si コンタクトに W を使うとき、露出した Si の上にだけ付けて、まわりの SiO₂ は素のまま残したい。

SiO₂ 上でいちばん起こりやすい反応、つまり がいちばん低い反応をとっても、700 K で kJ/mol です。平衡定数は

ここに入るのは気相の項だけです。この数字が言っているのはこうです。WF₆ の分圧が 1 atm あったとしても、生成気体の分圧を 10⁻¹⁰ atm より低く保って初めて、この反応は平衡へ向かいます。生成物の分圧がそれより高ければ、駆動力は逆向き、つまり W をエッチングして WF₆ を増やす方向に働きます。

生成物をそこまで薄く保つには、ばかげた流量の WF₆ が要ります。だから WF₆ 単独なら、SiO₂ の上は素のままです。

いっぽう WF₆ が元素状の Si と反応して W と SiF₄ になる反応は、700 K で kJ/mol。実際すぐに進みます。ただし約 20 nm で止まる。反応が続く条件は、Si が W 膜を通って拡散してくることだからです。

この 20 nm が、熱力学が保証してくれる選択成長の全部でした。

厚い W が欲しければ

か、WF₆ と SiH₄ から W・HF・SiF₄ を作る反応を使います。どちらも が大きく負で、非常に有利です。

平衡は、向きを操作するのにも使える

を構成する分圧を操作して、反応を望む向きへ押す手も取れます。

(CH₃)₃Ga から作る GaAs の炭素汚染がその例です。高い基板温度で CH₃ が表面分解して C が残る。素過程を知らなくても、全体反応を と書けば、 を上げれば右へ押せると分かります。実際、1 atm の H₂ キャリア中の CVD で作った GaAs の C 濃度は、真空中の化学ビームエピタキシで作ったものよりずっと低い。

析出しうる固相が複数あるときも、熱力学で選べます。GaAs の CVD 温度である 1100 K 付近では、GaAs の分解で出る主な揮発種は As₂ なので

が平衡値より低い(未飽和)と、GaAs が分解して液体の Ga が出てきます。逆に過飽和にしておけば GaAs だけが残る。これがCVD 相図のいちばん簡単な例です。

もっと複雑なものもあります。BCl₃ + SiH₄ からのケイ化ホウ素の平衡計算では、基板温度とガス供給比の平面が4 つの析出相の領域へ区切られます。B/(B+Si) 比が高いほど B に富む相が出るのは予想どおりで、純粋な SiB₃ が得られるガス比の窓はとくに狭い。

そして平衡計算は、実測とずれる。ずれ方に規則がある

その SiB₃ が、実験では計算の示す 0.60 より高い 0.75 の供給比で得られました。

理由は明快でした。計算で出る boride はどれも、供給ガスより B に富んでいます。ということは、堆積が拡散輸送で律速されているなら、BCl₃ のほうが優先的に消費されて、表面でのガス組成は供給組成より B が薄くなる。実効的なガス比は供給比より低く、そのぶん平衡計算に近づく。

裏付けもあります。SiB₃ の B/Si 比は、供給比 B/(B+Si) = 0.75 のガス混合物と同じです。2 つのガスの拡散係数が近い拡散律速の堆積なら、まさにそうなるはずの値でした。

こういう相図を「輸送でずれた(transport-shifted)」相図と呼びます。

図 02
A. 計算の窓は 0.60、実験で SiB₃ が出たのは 0.75 平衡計算では、基板温度と供給比の平面が 4 つの析出相の領域へ区切られる。B に富む比ほど B に富む相が出る 平衡計算の窓(とくに狭い) 実験で SiB₃ が出た供給比 0.60 0.75 B の比率が低い 供給比 B/(B+Si) B が多い 表面での実効比は、供給比より低い B. なぜずれるか:BCl₃ が先に食われる 計算で出る boride はどれも 供給ガスより B に富む だから B が先に減る 拡散輸送で律速されるので BCl₃ が優先的に消費される 表面では B が薄くなる 実効比が供給比より低く 平衡計算のほうへ近づく これが「輸送でずれた」相図 裏付け:SiB₃ の B/Si 比は、供給比 0.75 のガス混合物と同じ。拡散係数が近い 2 つのガスの拡散律速なら、まさにそうなる値
平衡計算が示す SiB₃ の窓は供給比 0.60 なのに、実験で SiB₃ が出たのは 0.75 でした。計算で出る boride はどれも供給ガスより B に富むので、拡散律速なら BCl₃ が先に消費され、表面でのガス組成は供給組成より B が薄くなります。だから実効比が供給比より低くなり、そのぶん平衡計算のほうへ近づきます。

CVD における平衡計算の最大の弱みは、平衡へ届く場面がまれなこと。達成を妨げる 2 つ目の要因が、反応速度です。

反応の次数を与えるのは律速段階のほう

気相の速度論に入ります。1 次と 2 次の速度式は素直です。モノシランからのシリコンCVDで気相反応が果たす役割です2。

は分子数密度(個/cm³)。次数が変われば速度定数の単位も変わります。

ここで念を押しておきます。反応の次数は、化学量論式の係数の和とは別の量です。

化学量論式は全体反応であって、ふつうは複数の段階からなります。全体反応の速度は、いくつか並列にある反応経路のうち最も速い経路の、その中で最も遅い段階の速度です。次数は、その律速段階の反応物になっている中間体の数で決まります。

例が痛烈でした。W の堆積反応 は、係数どおりなら H₂ について 3 次・WF₆ について 1 次の合計 4 次です。

実測は違いました。

化学量論から予想される次数実測
H₂3 次1/2 次
WF₆1 次0 次
合計4 次1/2 次

この 1/2 次が、律速段階を教えてくれます。W 表面での H₂ の解離吸着 です。

そもそも 4 次反応とは、4 個の分子が同時に衝突し、しかも結合を組み替えきるだけのエネルギーと衝突時間を持つということです。確率は極端に小さくなります。実際、ほとんどの反応は 2 次以下です。

Arrhenius の傾きは、複数の解釈を許す

速度定数は Arrhenius 形

に従います。平衡定数との関係も書けます。 であり、かつ

なので、 と の温度依存を無視すれば 。

ここに 2 つ注意があります。熱力学が教えてくれるのは順方向と逆方向の活性化エネルギーの差だけで、それぞれの値は別に測ります。熱力学的に有利な反応( が負)でも、 の符号はどちらもありえます。エントロピー変化次第です。吸熱反応は が温度とともに増え、発熱反応は逆になります。

薄膜の仕事では、測る はふつう堆積速度です。 を に対して描いた傾きから が得られます。この見かけの は、慎重に受け取る必要があります。

  • 律速段階が未特定のまま使われる場面が多い。素過程そのものが未同定のこともある
  • 2 つの段階の速度が近いと、 は 2 つの平均になり、温度とともに動く
  • そもそも反応速度以外が律速していることがある。反応物の表面への拡散、あるいはプラズマからの活性種の供給

最後の場合、Arrhenius プロットからは非常に低い、物理的に無意味な が出ます。そのときこのプロットが言えるのは、「律速が熱活性化過程ではない」という一事だけになります。

気相反応の上限は、衝突速度

2 分子の気相反応は、2 つの分子が相互に近づく方向の並進運動エネルギーだけで活性化エネルギーの丘を越えるところから始まります。丘の頂上が「活性錯合体」で、反応物の結合が衝突で振動的に十分励起され、生成物の結合ができはじめる状態です。

ここから生成物になるか反応物へ戻るかは、衝突時の分子の向き(立体因子)と反応のエントロピー変化で決まります。生成分子が 1 個だけの場合は、さらに 3 つ目の確率が要ります。運動量保存のため、活性錯合体が余ったエネルギーを生成物の並進運動へ移せる量は限られます。分解する前に「第三体」との衝突でエネルギーを渡す経路が要ります。第三体になれるのは、その反応に関わらない分子・原子や、表面です。分子や原子が第三体になるときは、速度定数が全圧とともに上がるので、擬 3 次の速度論の形になります。

この 3 つの確率はどれも精度よく予測する手立てが乏しいので、まとめて「ごまかし係数」 に押し込みます。

かつ が上限で、このとき反応は「衝突速度で進んでいる」といいます。この上限だけは気体分子運動論から簡単に出ます。

は A-B 対の平均衝突直径、 は平均速さ。 cm、298 K の Ar の cm/s を入れると

(この記事での検算。本文の値と一致します。)2 分子気相反応の速度の上限として覚えておくと便利な数です。衝突速度で進んでいる反応では、量の小さいほうの反応物が A-B 衝突の間隔ぶんの時間で半分消費されます。CVD の時間尺度では瞬間的です。

単分子反応は、圧力で次数が動く

「単分子」反応は自発的な分解を思わせますが、速度を支配するのは隣の分子との衝突です。熱的に制御された反応で分子が解離エネルギーを得る経路は、これだけです。

丘の頂上まで登った分子は、内部エネルギーがふらつきながら解離につながる振動モードに集中するまで、しばらく活性状態に留まります。この滞在時間を 、衝突の平均間隔を (平均自由行程 ÷ 平均速さ)とすると、

なら、次の衝突より先に解離します。このとき単分子解離の速度は、濃度 だけでなく衝突頻度、つまり全圧にも比例する。

1 次反応の形を取りながら 、つまり擬 2 次です。

複雑な分子ほど内部エネルギーのモードが多く が長い。 なので、十分高い圧力では になります。すると活性化した分子は、2 回目の衝突でエネルギーを得るのと同じくらい失いやすくなり、それ以上圧力を上げると、解離エネルギーへ到達する速度は頭打ちになります。これが高圧極限で、 は圧力に依らなくなり、真の 1 次速度論になります。

同じ反応が、圧力の領域で次数を変えます。

係数を当てはめるのは、いつでもできる

シランからの Si CVD の反応地図には、気相と表面あわせて多数の速度定数が並びます。前駆体の付着確率も、拡散係数も入る。

そこへ投げられる一文が、この節でいちばん鋭いところでした。

「多数の を調整して CVD のデータを合わせるのは、うねった線を多項式で合わせるようなものだ。いつでも可能だが、そこに化学は無い。」

合ったという事実が保証するのは当てはまりだけで、反応経路の同定や素過程の値までは保証しません。当てはまりの良さと、モデルの正しさは別の話です。はんだの構成則でも、係数が桁で違っても当てはまりの指標がほぼ同じ値にとどまる例が知られています。これと同じ構造です。1995 年の CVD 速度論と 2026 年の材料モデル同定が、まったく同じ落とし穴を報告している。残差の谷が細長いとき、当てはめが返すのは解の帯です。

まっとうな道は、素過程を個別に測ることです。手間はかかります。フラッシュ光分解(光による解離)で中間体を一気に作り、レーザー誘起蛍光のような化学種選択的なプローブで、その消滅の過渡を追う。

この方法で分かったことが劇的でした。シリレン SiH₂ が SiH₄ や Si₂H₆ へ挿入する反応は、衝突速度で進んでいた。前者は第三体を必要としますが、He 希釈でわずか 130 Pa に達するころには衝突速度に届いています。

ここが要点です。これらの値は、速度論モデルによる従来の見積もりより桁で大きかった。

つまりシラン熱分解の気相反応を支配しているのは、シラン自身の単分子解離 のほうでした。それが律速だと考えられている Si CVD 条件での解析値は s⁻¹。

粉ができる圧力には、はっきりした境目がある

気相反応が過剰になると、膜材料が気相で核生成して粉になり、膜を汚し、反応物を無駄に消費します(寄生反応)。

シランからの Si 堆積では、粉は SiH₂ が SiH へ次々に挿入して育ちます。各段は濃度について 2 次で、しかも SiH₄ → SiH₂ の解離速度とともに増える。その解離速度は と全圧の両方で増える。

掛け算になるので、粉の生成は圧力に強く依存します。結果として、それを超えると粉が目立ちはじめる臨界の が観測されます。

K、希釈なしの SiH₄ の反応器内滞留時間 1 秒という条件で、臨界 は約 130 Pa。

いっぽうで、気相反応がある程度は必要な場合もあります。(CH₃)₃Ga と AsH₃ から GaAs を作るときは、原料ガスを部分的に分解しておいて初めて、表面に着いたあとの反応が十分に進みます。ただしその気相生成物の付着確率が高すぎると、バッチ炉の基板の隙間や粗い基板の谷へ入り込む前に吸着してしまい、被覆が不均一になります。

反応が起きているのは、反応器のごく一部

気相反応がどれだけ進むかは、滞留時間 × 速度です。反応器全体での滞留時間は

は体積流量(cm³/s)、 はモル流量(sccs)、 は反応器内の体積平均温度。

ただし等温炉でなければ、反応が有意に進むのは加熱された体積 だけです。拡散混合が速い低圧では、 のうち の割合をその体積で過ごす。混合が遅い高圧では、 は「 を通り抜ける反応物の割合」を表す。どちらの場合でも、熱いゾーンへの曝露割合はだいたい同じになります。

消費割合 が小さく、平衡から十分遠いなら(逆反応が無視できる)、消費量は で見積もれます。1 次速度論なら でしたから、滞留時間の 依存とあわせて、 には圧力が二重に乗ります。

を下げる手は 3 つ。圧力を下げる。 を上げて を短くする(ただし短すぎると反応物が表面へ拡散して反応する前に排気されます)。 を小さくする。

の大きさは反応器設計と流れのパターンで大きく変わります。最悪は等温バッチ炉で、。それでも圧力を十分下げれば粒子は避けられ、基板温度の制御性の良さが堆積速度の均一性を支えます。

コールドウォール炉では、ロールセルが を に近づけます。対流が基板領域から熱を運び出してしまうからです。ロールセルを避けられれば、 は基板表面に隣接する急な温度勾配の領域だけに限られます。

そこで使えるのが反応集約層 の考え方です。反応帯を「温度 で一様、厚さ の層」と近似する。 の値は、実際の温度勾配にわたって積分した反応量と同じだけの反応が起きるように決めます。これで気相反応の段階と対流輸送の段階を別々に計算する道が開きます。温度勾配の中で 2 つを同時に解くのは手強い問題です。

高さ の水平管型反応器の放物流で、律速する気相反応の が 100 kJ/mol より大きいとき、

( の 、 K、 K での値。)

具体的に入れてみます(この記事での計算)。

100 kJ/mol16%
200 kJ/mol8%
300 kJ/mol5.3%

この近似が使える範囲では、必ず 2 割以下です。気相反応が実際に進んでいるのは、反応器の体積のうち基板のすぐ上のごく薄い層だけ。「気相反応が多すぎる」という問題は、反応器全体より、この層の問題です。

図 03
A. 反応しているのは、基板のすぐ上の薄い層だけ y0 δc 基板(Ts) δc ÷ y0 ≈ 16 ÷ Ea(kJ/mol) Ea = 100 kJ/mol 16% Ea = 200 kJ/mol 8% Ea = 300 kJ/mol 5.3% この近似が使える範囲では、必ず 2 割以下 粉の問題は反応器全体より、この層の問題 ロールセルを消すと、この層はさらに薄くなる B. 同じ反応が、圧力の領域で次数を変える k1 全圧 p 高圧極限:k1 は圧力から独立 真の 1 次 低圧:k1 ∝ p 見かけは擬 2 次 te < tc:次の衝突より先に解離する → 全圧に比例 tc < te:得るのと同じくらい失う → 頭打ち te は活性状態に留まる時間、tc は衝突の平均間隔 4 次反応の確率は極端に小さい。ほとんどの反応は 2 次以下 2 分子気相反応の上限は衝突速度 1.6×10⁻¹⁰ cm³/mc·s
気相反応が実際に進んでいるのは、反応器の全体より狭い、基板のすぐ上の反応集約層だけです。活性化エネルギーが 100 kJ/mol で高さの 16%、200 で 8%、300 で 5.3% なので、この近似が使える範囲では必ず 2 割以下。そして単分子反応は低圧では全圧に比例して擬 2 次に見え、高圧極限で真の 1 次になります。

表面では、被覆率がほとんど全部を左右する

最後が表面素過程です。原料ガスの吸着、表面拡散、吸着種どうしと表面との不均一反応、気体副生成物の脱離。Bussらは、シランとジシランの多結晶シリコン上での反応性付着確率を測っています3。

4 つの確率を分ける

表面に流束 で当たった反応物が、どれだけ消費されるかを表す量が 4 つあります。文献でも用語が揺れているところです。相互作用の度合いが増える順です。

記号名前内容
捕捉確率清浄面で即座に反射されず、前駆体状態へ物理吸着する の割合。そのあと、反応を経ずに脱離することもある
化学吸着反応確率清浄面と反応して化学吸着状態になる の割合。その後、前駆体状態へ戻って脱離することもある
付着確率埋め込まれて膜へ永久に取り込まれるまで留まる の割合。清浄部と吸着物で占有された部分を平均した値
利用率反応器へ入った蒸気のうち、下流へ流れて排気されずに膜になる割合

が より小さくなるのは 2 つの場合です。化学吸着した反応物の一部が脱離するとき、そして表面の一部がすでに吸着物で埋まって不活性化されているとき。

だけは別格です。蒸気分子は表面と何度も出会うので、他の 3 つが小さくても は高くなりえます。

前駆体の表面濃度が無視できるほど小さく、化学吸着が不可逆なら になります。超高真空での清浄な熱い Si の実験がこの条件に近く、そこで分かったのが Si₂H₆ の は SiH₄ よりずっと高いということでした。

この 1 行が、気相反応と表面反応をつなぎます。SiH₄ → Si₂H₆ という気相反応がどれだけ進んでいるかを知って初めて、CVD の速度論が解けます。実際、 を一定に保ったまま全圧と滞留時間を上げると、Si の堆積速度が上がります。気相反応が進んで、付着確率の高い Si₂H₆ が増えるからです。

副生成物の蓄積も乗ります。H は Si 表面に非常に強く結合して、あらゆる吸着に対して表面を不活性化します。H で覆われた Si の は、清浄な Si よりずっと低い。

低圧で SiH₄ の気相分解が小さいとき、Si CVD の律速表面段階は の脱離だと考えられています。その条件で堆積速度を に対して描くと、 kJ/mol が得られます。

Langmuir 等温線と、その 2 つの端

表面反応の速度は、反応物の表面濃度 (個/cm²)で決まります。では は何で決まるか。分圧 に対する定常の が吸着等温線です。

Langmuir モデルから始めます。吸着は空いたサイトにだけ起きる。そこへ 1 次の脱離を足すと、定常の物質収支は

Knudsen の式から なので、清浄面への吸着は という 1 次反応として扱えます。 について解くと Langmuir 等温線が出ます。

低い では の線形領域、高い では が から独立な飽和領域。この 2 つの端は Langmuir モデルに限らず、 で凝縮が起きるまでは、どの等温線にも出ます。

CVD では、途中の正確な形よりこの 2 つの端のほうが大事です。

Langmuir からのずれも 2 種類あります。移動吸着(吸着種が表面を動き回れる場合)と、単分子層を超える多層吸着(BET などの等温線)。

表面反応が律速なら、堆積速度を に対して描いた形も、等温線の形をなぞります。増えていって、高い で飽和する。強い吸着( が大きく が小さい)と遅い膜形成反応が組み合わさると、この飽和は非常に低い で、 の領域に入ってさえ起こりえます。

ここから 1 つ、実務的な警告が出ます。高真空での表面反応速度論の結果を、CVD の圧力へ外挿する操作は避けます。変調分子線や電子分光を使う研究には が要りますが、高真空での は典型的な CVD 条件よりずっと低い。 対 が非線形なので、外挿の前提がここで崩れます。しかも律速段階そのものが圧力で入れ替わりえます。

代わりになるのが光学的な手法です。エリプソメトリと赤外吸収はどの圧力でも使え、赤外のほうは結合の振動数で吸着種を個別に見分けられます。赤外透明な基板の中で多重内部反射させれば単分子層以下の感度が出ますし、斜入射の 1 回外部反射でも感度は上がり、こちらのほうが実装は楽です。

競合吸着と、多重定常状態

反応に 2 種類以上の表面の化学種が関わるなら、競合吸着を考えます。

Si に少量の PH₃ や AsH₃ を足して n 型にドープすると、Si の堆積速度が大幅に落ちます。これらの吸着が、SiH₄ の吸着に対して表面を不活性化するからです。

もっと厄介なのが多重定常状態でした。TiCl₄ と C₃H₈ が吸着状態で反応して TiC 膜と HCl になる系(Langmuir-Hinshelwood 機構)で、こうなります。

  1. を上げていくと、 が増えるので堆積速度と が上がる
  2. あるところで、堆積速度と が突然ずっと低い水準へ落ちる。 が過剰になって C₃H₈ の吸着を妨げるから
  3. そこから を下げても、低いまま推移する。もっと低い まで下げたところで、跳ね上がる

ヒステリシスです。同じ分圧に、2 つの安定な運転点がある。プロセス制御では、この 2 点の存在を前提にします。

コンフォーマリティを良くする向きは 2 つあって、互いに逆

段差被覆性の良さは CVD の売りですが、条件によって崩れます。

へこみの横寸法が、対流が入り込める大きさを下回ると、中への輸送は静止ガス中の拡散だけになります。バッチ炉のウェーハの隙間がそれです。さらに小さくして平均自由行程を下回ると、拡散から分子流へ移ります。分子は側壁で跳ね返りながら奥へ入りますが、入るあいだに側壁へ堆積するので、奥ほど反応物が枯れます。1 atm では 100 nm 未満の流路が分子流で、減圧 CVD の圧力ならもっと太い流路でも分子流です。

表面拡散も侵入に寄与しますが、さまざまな CVD 膜の被覆性から見て、侵入距離が 100 nm を超える範囲では寄与が小さいというのが判断です。

もう 1 つの機構がネッキングです。溝の口が塞がり気味になると、奥の領域が堆積流束を受けられる立体角が狭まる。消費と幾何の両方で奥が痩せます。

だから溝の中で欲しいのは、低い付着確率です。入口で消費されずに跳ねて底まで届いてほしい。低い の作り方が 2 つあり、互いに逆向きでした。

被覆率 を下げる手何が働いているか計算例
低い(吸着律速)表面温度を下げる では 。裸の面での反応確率そのものを下げる、 でも深い溝には不足する。さらに下げる必要がある
高い(表面反応律速)分圧 を上げるすでに占有された面では吸着の余地が減るので、 でも が下がる溝の口で 、 でも不足。さらに上げる必要がある

同じ「付着確率を下げる」でも、温度を下げる道と圧力を上げる道があります。高い 側の道には壁があります。気相反応で粉ができるか、付着確率の高い前駆体ができてしまうと、この道はそこで行き止まりです。

図 04
A. 等温線の 2 つの端が、CVD では大事 1 0 θ(被覆率) 分圧 pA 高い pA では飽和 低い pA では θ ∝ pA θ ≈ 0 側:温度を下げて ξ を下げる ξ = 0.10 でも深い溝には不足する。さらに下げる 高 θ 側:pA を上げて飽和の奥へ 溝の口で θ = 0.91、ξ = 1 でも不足する。さらに上げる 高 pA の道には壁がある 粉ができる、付着確率の高い前駆体ができる B. 溝の中で欲しいのは、低い付着確率 Sc が高い 口で消費されて 奥が痩せる(ネッキング) Sc が低い 跳ねて底まで届く 均一に付く 横寸法が小さいと拡散だけ、さらに小さいと分子流になる 1 atm では 100 nm 未満の流路が分子流 減圧 CVD なら、もっと太い流路でも分子流 表面拡散の寄与は、侵入距離 100 nm より内側にとどまる 同じ「付着確率を下げる」に、逆向きの 2 つの道がある
等温線は低い分圧では被覆率が分圧に比例し、高い分圧では飽和します。溝を埋めるのに欲しい低い付着確率は、この 2 つの端のどちらからでも作れますが、向きが逆です。低い側では温度を下げて反応確率そのものを下げ、高い側では分圧を上げて面を埋める。どちらの端にいるかを先に決めてから、つまみを回します。

なお溝や空洞への堆積は、前駆体の を測る良い方法でもあります。

荒れは、被覆率の両端で別の名前を持つ

奥まった領域での反応物の枯渇は、膜の荒れも悪化させます。基板の粗さと統計的な荒れが引き金になり、そこから増幅される。

増幅の機構は、 が高ければ「自己遮蔽」、低ければ「栄養(反応物)枯渇」と呼ばれます。この 2 つは、 の領域で呼び分けているだけの同じ現象です。どちらも「堆積によって気相から反応物を取り去る」という 1 つのことの結果です。

これは本質的に平滑面を不安定にします。荒れの谷が深くなるほど枯渇が進み、底の堆積速度が頂より遅くなり、荒れがさらに速く育つ。対抗しているのが表面拡散で、最終的な荒れの振幅と横方向のスケールは、枯渇と拡散のつり合いで決まります。

選択成長:平衡で選ぶか、速度で選ぶか

冒頭の話に戻ります。

CVD が物理気相成長より選択性を出しやすい理由は 2 つ。 の調整幅が広いことと、原料ガスの反応に大きな活性化エネルギーがあること。物理気相成長では、ほとんどの蒸気の付着確率が表面状態によらず 1 に近く、選ぶ余地が狭いままです。

選択性の作り方も 2 通りあります。

平衡による制御。WF₆ 単独での W の選択析出がこれでした。SiO₂ の上で有利に進む W 析出反応は圏外です。ただし Si 上の反応は Si を消費するので自己停止し、約 20 nm が上限です。

速度論による制御。厚い膜のために H₂ か SiH₄ を足すと、SiO₂ 上への堆積はまだ避けられますが、根拠は速度論的な制限に変わります。

膜形成反応が表面被覆率について 2 次で、 だとします。SiO₂ 上では化学吸着反応が止まるので、これらの分子は物理吸着にとどまります。 が高く、 も低いと見られるので、 は低い。

それでも はわずかな値を保ちます。

だから、潜伏時間ののちに W の核が生じます。核の上での堆積はずっと速い。おそらく W 上での H₂ の解離吸着が、反応の を下げるからです。

さきほど実測から出てきた律速段階を思い出してください。この反応の律速は、W 表面での H₂ の解離吸着でした。つまり W が無い段階では遅く、W が 1 個できた瞬間に、その W 自身が H₂ を活性化する触媒として働きはじめる。

核ができた時点で、選択性は一気に失われます。

平衡で釣り合わせるほうが、信頼できる

もう 1 つの手が、副生成物の被覆率を上げて反応を逆向きへ押すことです。

SiH₂Cl₂ からの Si 堆積では、HCl を足すと選択性が改善します。理屈はこうです。SiO₂ 上での は Si 上より小さな負の値にとどまります。Si が SiO₂ と結合するほうが Si どうしより弱いので、界面の過剰表面エネルギー のぶん になっているからです。

そこで分圧をうまく調整すると、Si の上では堆積が進み、SiO₂ の上では生まれた Si 核が HCl にエッチングされる、という釣り合いが作れます。HCl の代わりに H₂ プラズマで活性なエッチャントを供給する方法もあります。

こちらのほうが長持ちします。理由がまさに冒頭の話です。速度論による選択性は、潜伏時間ののちにできる核でも壊れるし、汚染島や傷のような偶発的な活性サイトでできる核でも壊れる。平衡の釣り合いで作った選択性は、核ができても消してくれます。

表面エネルギーによる のずれは、結晶面ごとの堆積速度の差も生みます。平衡の近くで運転している CVD では劇的になり、GaAs の塩化物法(GaCl、AsCl₃、H₂ から GaAs を析出させながら、副生成物の HCl が同時に GaAs をエッチングする)では、Ga リッチ面と As リッチ面で 15 倍以上の異方性が出ます。

表面律速の急な温度依存は、諸刃

表面反応が律速になると、堆積速度は基板温度に指数で依存します。利点と欠点が両方あります。

欠点。大面積で均一に積むには基板温度の精密な制御が要るので、炉に封入した反応器がふつう必要になります。しかも下流ほど反応物が枯れるので、炉に沿って上り勾配の温度プロファイルを掛けて補償することになります。

利点。表面温度を変えるだけで、反応を急に始めたり止めたりできる。これを使うのが「限定反応プロセス」あるいは「急速熱アニール」で、石英の反応器壁越しにハロゲンランプを集光して基板を急速加熱し、所定の膜厚に達したら(加熱よりはやや遅く)輻射で冷やす。高温にいる時間が最小になるので、ヘテロ構造の層間の相互拡散を抑えられます。

30 年後の現場に、同じ 3 つがそのまま出ている

新しい報告と照らします。1995 年の 3 つの筋が、2025〜2026 年の現場にそのまま顔を出しています。Applied Materials は選択的W CVDを製品として公開しており4、Lam Research はモリブデンALDの装置を2025年に発表しています5。

選択析出は、いま 2.5 nm で使われている

ハイブリッドボンディングの 500 nm ピッチ W2W 接合(SiCN/Cu)で、Cu パッドの上にだけ約 2.5 nm の界面金属拡散層を、無電解で選択的に析出させる工程が報告されています。SiCN の上は素のままです。上ウェーハのビア寸法 200 nm、下ウェーハ 250 nm、室温で貼り合わせてから 200 °C で 2 時間アニールする。0.5 µm ピッチ・100 万リンクのビアチェーンで、280 °C でも 200 °C でも、界面金属を使ったほうが電気的歩留まりが良い。

無電解めっきは CVD とは別の手法です。ただし「選択性が核形成で決まり、偶発的な活性サイトで破れる」という構造は、原理として共通です。数字を照らすと分かるものがあります。熱力学が保証した W の自己停止が 20 nm、いま量産統合で使われている選択析出膜が 2.5 nm。

選択成長は、厚く積む技術より、薄く抑える技術として生き延びました。潜伏時間の内側に収まる厚さなら、選択性は保たれます。ちなみに Cu ディッシングを 5 nm 未満へ収める条件を考えると、ハイブリッドボンディングで銅の凹み量が歩留まりを左右する話と 2.5 nm の界面層は、同じ桁の土俵に乗っています。選択析出で足す厚さと、CMP で削り残す段差が、いまや同じ精度で管理されている。

200 °C という壁を、活性化エネルギーの側から計算する

同じ報告で、SiCN が成膜温度 200 °C 未満と 300 °C 未満の 2 種類で作り分けられ、量産統合に進んだのは 300 °C 未満のほうでした。

ここで 1995 年の数字を当ててみます。Si CVD で律速だと考えられている H₂ 脱離の kJ/mol を、 K から 473 K(200 °C)へ落としたときの速度比は

(この記事での計算)。12 桁近い。

SiCN の化学は Si の CVD と別なので、この数字がそのまま SiCN へ移る範囲は限られます。移るのは桁のほうです。表面反応が律速している熱 CVD を、100 kJ/mol 級の活性化エネルギーを保ったまま数百 K 下げるという選択肢は、最初から圏外です。

だから PECVD なのだ、というのがこの計算の結論です。プラズマは温度を下げるための工夫より手前にあって、 の丘を熱で越えるという経路そのものを回避する手段です。1995 年の時点でも、多くの CVD 反応に必要な高温が基板の耐熱を超えるときはプラズマで低温活性化できる、と書かれています。ただし、なぜ「工夫でどうにかする」の側より「別の経路が要る」の側なのかは、この 12 桁を計算して初めて出てきます。

粉は、30 年後の不良分類のトップに出てくる

臨界 が約 130 Pa、それを超えると粉が目立ちはじめる。1995 年の記述です。

30 年後の品質工学の記録には、こうあります。0.18 µm 世代の TQV で EFR(早期故障率)が 1333 ppm、その内訳で IMD 粒子が不良の 39%、異常な活性領域と金属残渣を合わせて 66% 超。IMD は層間絶縁膜、まさに CVD で積む膜です。最終テストの歩留まり推移でも「IMD 粒子による不良が持続的に歩留まりを押し下げている」と書かれ、工程エンジニアリングの担当項目として「IMD 粒子のリアルタイム欠陥モニタ」が挙がっています。

気相反応の速度式に出てくる臨界分圧が、量産の不良分類のトップ項目として残っている。1995 年の「 を 130 Pa 以下に」は理屈の話にとどまらず、いまも歩留まり目標(CP 98%、組立 99%、最終テスト 97%)を左右している数字でした。

図 05
A. 1000 K から 473 K へ落とすと、12 桁近く落ちる 10⁻¹² 10⁻⁸ 10⁻⁴ 1 12 桁近い 1000 K 473 K(200 °C) Ea = 200 kJ/mol、1000 K → 473 K −(200,000 ÷ 8.314) × 1.114×10⁻³ = −26.8 e の −26.8 乗 = 2×10⁻¹²(速度比) だから PECVD。温度を下げる工夫より手前の、 熱で丘を越える経路そのものを回避する手段 SiCN の化学は Si の CVD と別。移るのは桁のほう B. 選択成長は、薄く抑える技術として残った 1995:W 自己停止 2026:選択析出 20 nm 2.5 nm Cu パッドの上にだけ、無電解で選択的に析出 500 nm ピッチの W2W 接合(SiCN/Cu) ビアは上 200 nm・下 250 nm、200 °C で 2 時間 0.5 µm ピッチ・100 万リンクのビアチェーンで実測 潜伏時間の内側に収まる厚さなら、選択性は保たれる SiCN は 200 °C 未満と 300 °C 未満の 2 種類。量産統合に 進んだのは 300 °C 未満のほう C. 1995 年の臨界分圧 130 Pa は、30 年後の不良分類のトップに残っている 0.18 µm 世代の TQV で EFR 1333 ppm。IMD 粒子が不良の 39%、異常な活性領域と金属残渣を合わせて 66% 超 歩留まり目標は CP 98%、組立 99%、最終テスト 97%
活性化エネルギー 200 kJ/mol のまま 1000 K から 473 K へ落とすと速度比は 2×10⁻¹²、12 桁近く落ちます。だから低温化は工夫の問題より手前、熱で丘を越える経路そのものを回避する話になります。そして選択成長は、1995 年の自己停止 20 nm から 2026 年の選択析出 2.5 nm へ、薄く抑える技術として残りました。

実務での使い方

選択成長を「熱力学が保証している」と書くなら、どの反応の話かを添えてください。Palmerらは、CVDにおける形態不安定性を局所平衡モデルで記述しています90034-X)。WF₆ 単独なら平衡制御ですが、上限は約 20 nm です。厚く積むために H₂ を足した瞬間、根拠は速度論に変わり、潜伏時間という有効期限が付きます。

選択性が壊れる経路は 2 つあります。潜伏時間の経過と、傷や汚染島のような偶発的な活性サイト。レシピをそのままで選択性が崩れたら、後者を疑ってください。前工程の清浄度の問題です。

反応次数は化学量論式とは別に決まります。4 次に読める反応が、実測では 1/2 次でした。次数が決まれば律速段階が決まり、律速段階が決まればどのつまみが働くかも決まります。WF₆ の分圧を振っても、この反応の速度は変わりません。

Arrhenius プロットから得た は、そのまま反応の活性化エネルギーとして報告する前に一度止めてください。拡散律速やプラズマからの供給律速では、極端に低い値が出ます。低すぎる は「律速が熱活性化過程ではない」という情報として受け取ります。

速度論モデルの当てはまりの良さと、モデルの正しさは別物です。多数の を持つ経路図は、いつでもデータに合います。素過程を個別に測った結果は、従来の当てはめによる推定と桁で離れていました。

低温成膜の可否は、活性化エネルギーで先に見積もってください。 kJ/mol なら 1000 K から 473 K で 12 桁落ちます。「もう少し頑張れば熱で下げられる」範囲かどうかは、指数関数が先に答えを出しています。

粉の管理は、反応器全体より反応集約層の話です。 なので、実際に反応が進んでいるのは反応器高さの 2 割以下。ロールセルを消すと、この層はさらに薄くなります。

溝を埋める条件と、大面積で均一に積む条件は、被覆率の逆の端にあります。どちらの端を狙うかを先に決めてから、温度と分圧を選んでください。中間は両方の利点を薄めます。

出典

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  2. 2 S. M. Scott ほか, Role of gas phase reactions in silicon chemical vapor deposition from monosilane (1989) doi:10.1063/1.101718
  3. 3 R. J. Buss ほか, Reactive sticking coefficients for silane and disilane on polycrystalline silicon (1988) doi:10.1063/1.340982
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