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VOL.03 薄膜成膜の物理と化学 第 2 回 / 全 19 回

成膜レート計:水晶振動子は面密度、光学法は光学的厚さを測る

成膜レート計はどれも厚さを直接は測っておらず、水晶振動子は質量を、光学式は光の位相を、密度や屈折率で厚さに換算しています。膜が多孔質になると換算の定数が狂い、質量法と光学法がそろって同じ向きにずれます。

20 分 標準 式 14 図 4 出典 5

この回の目次(5 節)
  1. §1 水晶振動子が返すのは面密度
  2. §2 光学法が返すのは「光学的厚さ」
  3. §3 いちばん精度が要る膜で、仮定がいちばん苦しい
  4. §4 蒸気側も一緒に測ると、付着係数が出る
  5. §5 実務での使い方

この回で示すこと

  1. 水晶振動子が返すのは面密度で、5 MHz の結晶では 1 単分子層が 2.5 Hz。
  2. エリプソメトリはブリュースター角の近くで Δ 1 度が 0.3 nm に相当し、返すのは光学的厚さ。
  3. 多孔質の膜では密度も屈折率も下がるため、質量法と光学法は同じ向きにずれる。
1 単分子層での周波数変化(5 MHz) 2.5 Hz
エリプソメトリの Δ 1 度 0.3 nm
Mo/Si 40 対の反射率 68.2 %

蒸着機にもスパッタ機にも、レート計が付いています。表示は「Å/s」か「nm」です。その表示が 50 nm を指したとき、ウェーハの上には本当に 50 nm 載っているでしょうか。

答えは「材料による」です。理由は 1 つで、その計器が返すのは、どれも厚さの手前の量だからです。

成膜フラックスを測る方法は 3 つあり、そのどれにも同じ性質があります。厚さは間接に出る。膜の性質を知っているか仮定して、はじめて計算できる。仮定するものは方法ごとに決まっていて、質量法なら密度、光学法なら屈折率、RHEED なら単分子層の厚さです。

つまり「レート計の読みが正しい」と「膜厚が正しい」は別の命題です。前者は器械の問題で、後者は材料の問題です。材料の問題は、器械の較正では直せません。

図 01
A. どのレート計も、測った量を「仮定した物性値」で割っている 測っている量 仮定する物性値 出てくる数字 水晶振動子のうなり 5 MHz、1 単分子層 = 2.5 Hz 膜の密度 膜厚 反射光の位相 632.8 nm、Δ 1 度 = 0.3 nm 屈折率 膜厚 RHEED 振動の周期 単分子層の厚さ 膜厚 B. 多孔質だと、2 つの方法が同じ向きへずれる 空孔があると、密度も屈折率も下がる 水晶振動子は小さめに返す 光学法も小さめに返す 2 つが一致しても、両方まちがっている 2 つは独立な裏取りにならない C. 精度がいちばん要る膜で、仮定がいちばん怪しい × 40 対 Mo 3 nm + Si 4 nm = 周期 7 nm ピーク 13.4 nm、反射率 68.2% 150 °C で Mo と Si が混ざり始める 理論値との差の筆頭が「層の密度」 = 水晶振動子が仮定している定数そのもの 絶対値がほしければ、成膜後に別の方法で厚さを測り、そこから換算係数を引き直す。 その意味で、その場のレート計は「絶対厚さ計」より「再現性の計器」である。
3 つのレート計はどれも、測った量を「仮定した物性値」で割って厚さへ直しています。仮定が崩れる代表が多孔質膜で、密度も屈折率も同時に下がるため、独立なはずの 2 つの測定が同じ向きへずれます。そしていちばん厚さ精度が要る EUV 用 Mo/Si 多層膜(周期 7 nm を 40 対)で、反射率が理論値へ届く手前で止まる理由の筆頭が、まさにその「層の密度」です。

水晶振動子が返すのは面密度

水晶振動子マイクロバランスの測定法の改良です1。水晶振動子(QCM)は、この分野でもっとも広く使われている診断器です。ラジオの周波数制御用に開発された共振水晶ウェーハを、そのまま流用しています。

動作はこうです。水晶は圧電体なので、共振周波数で振動すると自分で交流電圧を生みます。それを増幅して戻せば発振します。両面に薄膜電極を付け、片方の面を蒸気にさらす。堆積した質量が乗ると共振周波数 が下がる。

ここが肝で、器械が測るのは の絶対値の手前です。制御ユニットの中にある参照結晶とのうなり(ビート)を測っています。理由は 1 行です。似た大きさの参照値との相対測定は、絶対測定よりつねにはるかに正確である。単分子層以下の分解能は、ここから来ています。

式の形を、数値の側から確かめる

質量ばね振動子として組み立てます。

質量が結晶単体の から へ増えると、振動周期 が伸びます。

この式が正しい形をしているかを、別々に伝わっている 2 つの数値のほうから確かめます。手がかりは 2 つ。 なら補正なしで実用上十分であること。 の結晶なら、およそ の膜厚まで許容できること。

上の式に を入れると、

35 という係数が、そのまま出てきます。式と、離れた場所に書かれている運用上の目安が、同じ 1 本から来ていることが、これで裏付きます。

分解能のほうも同じやり方で詰めます。手元にある記述は「 約 5 MHz」「うなりで数 Hz は容易に読める」「質量で 1 ppm 未満、350 厚の結晶なら 1 単分子層に相当」の 3 つ。 を式に入れると、

「数 Hz」に収まります。3 つの独立した記述(5 MHz、1 ppm、数 Hz)が 1 本の式で矛盾なくつながったので、この式と数値はそのまま使えます。断片から式を起こすときの検算は、こういう形で入れるのが安全です。

が式の中にいる、それが全部

いま復元した式に が入っています。振動子が返しているのは面密度 で、 はその先にあります。

そこは明示されています。 がバルク値からずれれば、測定した質量から推定される膜厚も動く。密度は「装置の設定値」の顔をして器械の中に座っていますが、実体は膜ごとに別の未知数です。

寿命の話も同じ構造です。 を超えると、質量 に加えてばね定数 も動きます。これを一緒に含むのが音響インピーダンス の補正で、共振が結晶と堆積膜の両方にまたがる音響定在波だから、この形が成り立ちます。 補正を入れると許容荷重が まで伸びる。

結晶 1 枚の寿命が 7 倍になる計算です。ただし条件が重い。薄膜としての は、構造・結合・密度・組成の差によってバルクの から離れうる。だから正確な仕事をするなら、実際の膜厚を測って結晶の値と突き合わせ、その膜の を引き直します。

その場のレート計を信用する条件が、その場の外での厚さ測定です。密度の話も の話も、結論は同じところへ着きます。

読みが飛ぶ 4 つの原因

現場で問題になるのはここです。原因は 4 つ。

  • 熱ドリフト。標準の「AT-35°」カットは、室温付近でのみ が温度から独立です。基板やソースからの輻射で結晶が温まると が上がり、質量が減った形の信号が出ます。ソースからの輻射なら、シャッタを開けた瞬間と閉じた瞬間に過渡が出る。だから採るのは瞬時値より、膜厚対時間の直線部の傾きです。
  • モードホップ。振動モードが突然移ると読みが跳ぶ。結晶を凸形にし、電極のばね接点を中心からずらすのは基本モードを安定させるためですが、堆積が不均一だったり荷重が大きすぎたりすると起きます。
  • 膜の剥離。これも周波数が跳びます。
  • 大気導入時の質量増。これは故障より情報の側です(後述)。

4 つを 1 本の記録へ重ねると、どこを採るべきかが決まります。

図 02
A. 読みが飛ぶ 4 つの原因と、読んでよい区間 表示膜厚 対 時間。瞬時値より、直線部の傾きを採る 表示膜厚 直線部の傾き=成膜レート 温まると読みが下がる 1 2 3 4 時間 1 熱ドリフト(AT-35° カットが温度無依存なのは室温付近だけ) 2 モードホップ 3 膜の剥離 4 大気導入で質量が増える。故障より多孔質の指標で、感度は ±0.011 μg B. 許容荷重:z 補正で結晶 1 枚の寿命が 7 倍 厚さ 350 μm の結晶なら 35(ρq/ρf)μm まで。5 MHz で 1 単分子層 = 2.5 Hz 補正なし 0.1 mq まで z 補正あり 0.7 mq まで → 0.7 / 0.1 = 7 倍 0 0.2 0.4 0.6 0.8 横軸は mf / mq。ただし薄膜の z はバルクから離れうるので、その膜について実測で引き直す。
記録の全体を平均する操作は避けます。過渡・跳び・ドリフトを避けて直線部の傾きだけを採るので、使えるのは記録のごく一部です。荷重の側も同じで、無補正なら結晶の質量の 0.1 倍までが上限ですが、z 補正を入れると 0.7 倍まで伸びて結晶 1 枚の寿命が 7 倍になります。

温度の話には裏面があります。付着係数 は表面温度で動くので、振動子と基板の温度が離れていれば、同じ蒸気流に対して両者が受け取る量も離れます。手は 3 つで、結晶ホルダに帰還温度制御を掛けて基板温度で測る(ただし 350 °C 付近を超えると圧電効果が弱って発振が止まります)、逆に冷やして を 1 へ近づける、あるいは反応性材料を共蒸着する。(AlGa)As では As₄ の を上げるために化学量論的に過剰な Al を共蒸着します。II-VI 族では、どちらか一方の元素の過剰流がもう一方の を 1 へ押します。

測る対象はそのままで、測る条件のほうを動かして を 1 へ揃えるという発想です。この を左右するのは、吸着した分子が表面に留まる時間のほうです。

故障の顔をした情報が 1 つ

大気を入れたとき、あるいは膜と反応する気体を入れたときに質量が増えることがあります。解釈は明確です。これは膜が多孔質であることの指標である。空孔に沿った内部表面が水を吸うか酸化している。

この用途での感度が書かれています。±0.011 μg。

レート計が、自分の換算定数(密度)の崩れを教えてくれる唯一の窓が、これです。ふだんは邪魔者あつかいの大気導入時のドリフトを、多孔性と反応性の測定として使う。

プラズマ中でも使えます。条件は 2 つで、ホルダをきちんと接地することと、5 MHz の配線を真空フィードスルーまで完全にシールドすること。しかもプラズマやイオンビームにさらされた材料は逆に質量を失うので、目的材料をあらかじめ蒸着した水晶を、スパッタ率の高感度計として使えるという反転した使い方もあります。

光学法が返すのは「光学的厚さ」

分光エリプソメトリによる半導体プロセスのその場観測です90059-K)。光学法の利点は 3 つ挙げられています。堆積している膜そのものに直接当たること、成膜を乱す手前のエネルギー密度で済むこと、そして高圧やプラズマ環境でも使えること。代償も 3 つで、解釈に膜と基板の光学特性の知識が要ること、膜にある程度の透明性が要ること、そして吸収が入ると位相関係が複雑になることです。

干渉振動:厚さ周期

膜の中で光が往復するたびに、外へ出る光線と表面反射の光線とで光路差が付きます。光路差がちょうど 1 波長になる膜厚が「厚さ周期」 です。 かつ なら、 で反射強度が極大、 で極小になります。

エリプソメトリでいう「フルサイクル膜厚」が、同じ量にあたります。

空気側の屈折率を明示すれば です。式の形が正しいことは、極限で確かめられます。垂直入射 を入れると 。極小は なので では

これはレンズの 反射防止コートの厚みそのものです。よく知られた結果へ落ちるので、式の形が合っていることが分かる。さらに なら反射はちょうどゼロになります。

斜め入射で数値を入れておきます。、SiO₂ の 、 nm なら

垂直入射なら nm。入射角を 70° まで倒すだけで、同じ膜・同じ波長で厚さ周期が 3 割伸びます。干渉の縞を数える測定では、入射角が分解能の設計変数になるということです。

光源は He-Ne レーザ( nm)が理想的です。透明性がある膜ならどれでも使えますが、吸収があると振れ幅が厚くなるほど減衰します。

注意が 1 つ。 の場合、2 つの界面での位相シフトが ずれるので、極大と極小の条件が入れ替わります。干渉の縞を数えて厚さへ直すとき、上下の屈折率の大小を取り違えると半周期ぶんずれます。

エリプソメトリ:ブリュースター角の近くで、1 度が 0.3 nm

もっと情報を取るのがエリプソメトリです。反射光の p 成分と s 成分の振幅比と位相差、つまり偏光楕円を測ります。得られる 2 つの角 と が、裸の基板なら複素屈折率 を一意に決め、膜が付いた後なら膜の と厚さ を同時に決めます。 は 90°、 は 360° の範囲を動くので、データ空間は極座標の半球になります。

分解能の出方が面白い。入射角 をその膜のブリュースター角 の近くへ取ると、 は単分子層未満の堆積を検出します。

理屈はこうです。 では p 成分の反射が消えます。したがって表面から返るのは s 成分だけで、p 成分は全部膜を通って光路長のぶんだけ位相が遅れます。1 厚さ周期 が 360° の遅れに対応するので、 が典型値の 100 nm なら

波長が単分子層の数千倍あるのに単分子層まで届く理由が、これです。測っているのは位相で、強度は使っていません。

ただし同じ段落で 2 つ釘が刺されます。 を へ近づけすぎると感度が立ちすぎて、 の小さな測定誤差が と の大きな誤差になる。膜厚が厚さ周期の近くにあると、 と への感度が落ちる。

後者は、こう言い換えられます。 と は膜厚の周期関数なので、281.5 nm ごとに同じ値が返る。10 nm の SiO₂ と、291.5 nm の SiO₂ と、573.5 nm の SiO₂ は、同じ 、 を返します。だから厚い膜では、1 周期以内の精度の厚さを別の手段で用意します。

図にすると、干渉とエリプソメトリで同じ形が出ていることが分かります。

図 03
A. 干渉振動:216 nm ごとに同じ明るさが返る(垂直入射) SiO2、n1 = 1.465、He-Ne 632.8 nm。極大は h = j・h0、極小は h = (j+1/2)・h0 反射強度 最初の極小 極大(h0 の整数倍) 0 108 216 324 432 厚さ周期 h0 = λ0 / 2n1 = 632.8 /(2 × 1.465)= 216 nm。膜厚 h の単位は nm。 最初の極小 108 nm は λ0 / 4n1。レンズの λ/4 反射防止コートと同じ厚さ。 下地の屈折率が膜より低いと位相が π ずれ、極大と極小が入れ替わる B. エリプソメトリ:281.5 nm ごとに同じ ψ・Δ が返る(入射角 70 度) 10 nm 291.5 nm 573.5 nm 281.5 nm 281.5 nm 膜厚(nm) 3 点とも同じ ψ・Δ。厚い膜では、1 周期以内の精度で厚さを別に知っている必要がある。
光学法が測っているのは厚さより周期です。垂直入射の SiO2 なら 216 nm ごとに同じ明るさが返り、入射角 70 度では 281.5 nm ごとに同じ ψ・Δ が返るので、1 周期を超える膜は、その周期ぶんの情報を別に持って初めて厚さが決まります。下地の屈折率が膜より低いと極大と極小が入れ替わるので、縞を数える向きも先に確かめておきます。

1995 年と 2006 年が、同じことを言っている

ここが本題です。エリプソメトリが直接測るのはある光学量で、厚さその他はそこから導いた量です。

まとめでは、さらに明確です。測るのは膜の光学的厚さで、物理的厚さはその先にある。屈折率が決まれば物理的厚さへ渡せる。しかし屈折率が既知である保証は薄く、とくに薄膜でそうである。膜の組成が厚い膜と離れる場合があるからだ。

1995 年の「どれも厚さは間接」という見方は、2006 年の記述にもそのまま生きています。11 年で、装置は変数入射角・多波長へ進みました。しかし換算に材料定数が要るという構造はそのままです。

薄い側の限界も 1 つ。1 nm の膜も測れているが、モデルは均一な光学定数と鋭い平坦な界面を仮定していて、しかもエリプソメトリの式はマクロな Maxwell 方程式に基づいている。数原子層の層でその前提が通る範囲は狭い。数値は出るが、受け取りは慎重に。

いちばん精度が要る膜で、仮定がいちばん苦しい

ここまでは「換算定数が要る」という話でした。では、その定数が実際に怪しくなるのはどこか。Mo/Si 多層膜の反射率と安定性の改善であり2、実測では 40 対で 13.4 nm・67.5% という値になっています3。

EUV リソグラフィの Mo/Si 多層膜です。

構成は具体的です。Mo が約 3 nm、Si が約 4 nm。周期は 7 nm。ブラッグ条件から、近垂直入射・1 次では周期がほぼ になるはずで、

3 + 4 = 7 nm と合います。反射率は 40 対あたりで飽和するので、投影光学系の鏡も、マスクブランクも、集光鏡も、40 対で作られてきました。到達値は Mo/Si で 13.4 nm・68.2%。B₄C を挟んだ Mo/B₄C/Si で 13.5 nm・70.0%。Mo/Be なら 11.3 nm・70.2% ですが、ベリリウムの毒性のため採用は見送られました。

わずかな層厚の変化がピーク波長をずらします。系の中の鏡がどれも高いピーク反射率を持っていても、そのピークがほぼ同じ波長に来ていなければ、系全体の透過率は低くなる。鏡 1 枚あたりの反射率が系全体へどう乗るかは第2回の光子バジェットで追いましたが、そこで前提にしていた「1 枚あたり何%」という数字を作っているのが、この周期 7 nm の管理です。

その 68.2% と理論値の差の筆頭に挙がっているのが、これです。

個々の層の密度と均質性が理想からずれること。界面粗さと、層間の拡散。

密度です。水晶振動子が厚さへの換算に使っている、あの定数です。

TEM で観察した実際の膜では、Mo と Si の境目がなだらかです。純粋な Mo 層と純粋な Si 層のあいだに、2 つの材料の混合層があります。混ざり方は成膜条件で動き、Mo の上の Si と、Si の上の Mo とで別になります。さらに、加熱すると混ざりが進む。Mo/Si は約 150 °C から混ざり始めます(Mo₂C/Si なら 600 °C 近くまで安定で、ピーク反射率 66.8%。高品質な Mo/Si の 68.6% よりわずかに低いだけ)。

3 nm の Mo 層で起きていること厚さ換算への影響
密度バルク Mo と同じ値かどうかは未確定水晶振動子の が別になる
均質性上下に混合層があるどこまでを Mo と呼ぶかが宙に浮く
界面なだらか。しかも上下非対称光学モデルの「鋭い平坦な界面」から離れる
熱150 °C から相互拡散成膜後も動く

厚さを 1 桁 pm の精度で決めたい層が、換算定数のいちばん定まりにくい層でもある。これが、この回の主張がいちばん痛い形で出る場所です。

2 つの方法が一致しても、独立な裏取りにならない場合がある

ここから 1 つだけ、出典には無い推論を足します。推論だと分かるように書きます。

多孔質の膜を考えます。空孔があるぶん、真の密度はバルクより小さい。水晶振動子は面密度 を測ってバルク値の で割るので、

小さめに返します。ここまでは既出の話(「 がバルクからずれれば推定膜厚も動く」)の言い換えです。

いっぽう光学法は光学的厚さ を測ってバルクの で割ります。空孔の屈折率は 1 なので、多孔質膜の実効屈折率もバルクより小さい。したがって

こちらも小さめに返します。

同じ向きです。ずれの大きさまで揃う保証は薄い(密度と屈折率の空孔依存性は別の関数です)。しかし符号が揃うので、「質量法と光学法が近い値を返した」という事実と、どちらも正しいという結論は別物です。

物理的に独立な 2 つの器械の姿をしていながら、同じ 1 つの仮定(膜がバルクと同じ材料である)にぶら下がっているからです。工程管理で 2 系統のメトロロジを持つとき、独立性は器械の原理より、仮定の側で数えてください。

用意されている切り分けが、さきほどの大気導入時の質量増(±0.011 μg)です。多孔質なら大気を入れたときに質量が増える。換算定数の崩れを、換算の外側から聞ける唯一の質問になっています。

蒸気側も一緒に測ると、付着係数が出る

もう 1 つ、登場機会の限られた使い方があります。CXRO の多層膜チュートリアルは、周期と対数が反射率のピーク位置と高さをそれぞれ与える関係を記述しています4。

フラックスの監視には 2 か所あります。基板近くの蒸気濃度と、実際の堆積レート。指摘はこうです。両方を測ると、到達した蒸気のうちどれだけが膜になったか、つまり付着係数 が計算できる。

蒸気側は、いちばん単純にはイオンゲージです。電離率とイオン電流が蒸気分子濃度 に比例するので、フラックスは

で出ます。熱蒸発なら はソース温度でのマクスウェル分布の平均速度と取ってよく、レーザアブレーションやイオンスパッタならもっと速い。

実務上の注意が並んでいます。フィラメントと蒸発物のあいだをシールドで隔てること。電気接点へ導電性の堆積が付く経路を断つこと。グリッドの絶縁性堆積によるチャージアップを避けるため、開口を設けること。複数のソースを同時に監視するなら互いにシールドする。As のような揮発性の高い蒸発物では、背景濃度がビーム濃度と同じ桁まで上がるので、機械式ビームチョッパで区別する。

使える圧力域もはっきりしています。電子ビーム系が使えるのは、電子の平均自由行程が計器の直径より長い範囲、つまり概ね 1 Pa 以下です。プラズマ中では、プラズマ電子とイオンの干渉が乗ります。流体流領域やプラズマ中では、光学的な励起と検出へ切り替えます。

種を選びたければ、質量分析計(イオンゲージ+質量フィルタ)か、電子衝撃発光分光計(電子衝撃で励起した分子の発光を分光して元素ごとの輝線を分ける)になります。

閉ループ制御。フラックスの信号を設定値と比べ、差で比例制御器を通してソース電力を駆動する。応答速度の上限を決めているのはソースの熱時定数で、温度制御のときと同じです。同じ制御ループが、水晶振動子でもそのまま使えます。

測る場所と、使える計器の境目を図にしておきます。

図 04
A. 2 か所で測ると、付着係数が出る 堆積レートを測る 水晶振動子 基板 ソース 蒸気濃度 n を測る イオンゲージ J = n v。熱蒸発なら v はソース温度での平均速度 両方測れば、到達した蒸気の何割が膜になったか = Sc B. 圧力とプラズマで、使える計器が入れ替わる 概ね 1 Pa 以下 流体流領域・プラズマ中 イオンゲージが使える 光学的な励起と検出へ 条件は、電子の平均自由行程が計器の直径より長いこと 種を選ぶなら質量分析計か電子衝撃発光分光計 閉ループ制御:差で比例制御器を駆動する フラックス信号 設定値と比較 比例制御器 ソース電力を駆動 応答速度の上限は、ソースの熱時定数 同じ制御ループが、水晶振動子でもそのまま使える 蒸気濃度と堆積レートの両方を測ると、到達した蒸気のうちどれだけが膜になったか(Sc)が出る。 As のような揮発性の高い蒸発物では、背景濃度と区別するために機械式ビームチョッパを使う。
蒸気濃度と堆積レートは別々の計器で別の場所を測っているので、両方を揃えて初めて「到達した蒸気のうちどれだけが膜になったか」が出ます。イオンゲージが使えるのは電子の平均自由行程が計器の直径より長い範囲、概ね 1 Pa 以下までで、それより高圧やプラズマ中では光学的な励起と検出へ切り替えます。制御ループの応答は、計器よりソースの熱時定数で頭打ちになります。

実務での使い方

レート計の表示を「厚さ」と呼ぶ前に、一度止めてください。Benesの報告が対象にするのは、周波数から面密度へ渡す側の精度です1。水晶振動子が返すのは面密度、干渉とエリプソメトリが返すのは光学的厚さです。そこから厚さにするのに、密度か屈折率が要ります。

その換算定数は、装置の設定値というより膜の性質です。プロセスを変えたら定数も動きえます。 補正の値さえ、「その膜について実測で引き直す」が正規の手順です。

その場の計器の絶対値は、成膜後の測定と組にして初めて通ります。逆に言えば、再現性の計器としては極めて優秀です。1 単分子層が数 Hz として出て、ロット間の差もきちんと出ます。絶対値と再現性を分けて要求することが、この計器の正しい使い方です。

メトロロジの独立性は、器械の原理より仮定の数で数えてください。質量法と光学法は原理が別ですが、「膜がバルクと同じ材料である」という仮定を共有しています。多孔質なら両方が同じ向きへずれます。

周期構造を積むなら、換算定数の不確かさが層数ぶん積み上がります。Mo 3 nm と Si 4 nm を 40 対。ピーク波長は周期で決まり、わずかな層厚の変化がピークをずらす。反射率と理論値の差の筆頭が、その換算定数(密度)そのものでした。

温度は 2 か所へ乗ります。水晶振動子側では、AT-35° カットが温度から独立なのは室温付近だけで、輻射で温まると質量が減った形の信号が出る。膜の側では、Mo/Si が 150 °C から混ざり始める。測る側の温度と、測られる側の温度を、別々に管理してください。

この回で最後まで残った 2 つの未知数は、どちらも吸着と表面拡散の側で決まります。振動子が受け取る量を左右する付着係数 も、膜の密度をバルクから引き離す構造(多孔性、島状成長)も、出どころは吸着と表面拡散の側にあります。計器の話だけで済ませると、換算定数が膜ごとに別になる理由が宙に浮いたままになります。

出典

  1. 1 E. Benes, Improved quartz crystal microbalance technique (1984) doi:10.1063/1.333990
  2. 2 S. Bajt ほか, Improved reflectance and stability of Mo-Si multilayers (2002) doi:10.1117/1.1489426
  3. 3 LLNL, Multilayer coatings for EUVL (1998) osti.gov
  4. 4 LBNL CXRO multilayer tutorial henke.lbl.gov
  5. 5 B. Drévillon, In situ studies of semiconductor processes by spectroellipsometry (1993) doi:10.1016/0169-4332(93)90059-K