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講座集 / 薄膜成膜の物理と化学 / 第 15 回

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VOL.03 薄膜成膜の物理と化学 第 15 回 / 全 19 回

膜応力の分離:熱膨張係数の取り方で真性応力の符号が変わる

ウェーハの反りから分かるのは膜の総応力だけです。熱応力と真性応力を分けるには温度を振って測る方法があり、剥がれるかどうかには応力に加えて界面の靭性が効きます。

23 分 標準 式 6 出典 7

この回の目次(6 節)
  1. §1 曲率が返すのは、応力と膜厚の積ひとつ
  2. §2 熱膨張係数の取り方で、熱応力が 230 MPa 動く
  3. §3 温度を振れば、2 つを分けられる
  4. §4 剥がれには、応力と界面靭性の両方が要る
  5. §5 界面靭性は、剥がれ方から逆算する
  6. §6 現場で動く判断

この回で示すこと

  1. 曲率が返すのは、応力と膜厚の積ひとつ。
  2. 熱膨張係数の取り方で熱応力が 398 MPa から 627 MPa まで 230 MPa 動き、真性応力の符号が入れ替わる。
  3. 剥がれには応力と界面靭性の両方が要り、靭性は剥がれ方から逆算できる。
熱膨張係数の取り方による熱応力の差 230 MPa
熱応力の寄与(300 K と 1200 K の係数) 398 / 627 MPa

膜応力の測定値を「真性応力」と呼ぶことがあります。曲率が返しているのは、総応力ひとつです。

総応力は、成膜そのものが作る真性応力と、冷やす過程で生じる熱応力の和。真性応力に直接あたる計器はゼロです。総応力から熱応力を引いた残りとして求めます。

引く側に、230 MPa の幅があります。

曲率が返すのは、応力と膜厚の積ひとつ

基板の曲率半径 から膜応力を求める式は

は基板の厚み、 は膜の厚みです。300 mm ウェーハの反り へ書き直すと

Si(100) の二軸弾性率 180.5 GPa、 µm、 mm で数を入れます。

反り
100 MPa·µm62 µm
500 MPa·µm312 µm
1000 MPa·µm623 µm

測定量は と の積です。応力が単独で出るのは、膜厚を別に測ってからです。

膜厚が場所で動くと、測定そのものが乱れます。2004 年の回折と膜厚勾配がウェーハ曲率による膜応力測定へ及ぼす影響の研究1が、この効果を追っています。

曲率測定は、探査レーザが膜と基板の曲がった表面で正反射するという前提に立っている。ところが実際の膜の厚みは一様さを欠き、意図しない厚み勾配が光の回折を生んで、レーザを理想の正反射条件から逸らす。

結果として、レーザの偏向は膜応力と膜厚勾配の両方に感度を持つ。

同じ研究が報告している振る舞いは、見間違えやすい形をしています。成膜中、厚み勾配によって反射ビームが理想位置のまわりで非対称に振動し、その周期は成長中の膜の反射率と同じ。振幅は、膜厚勾配・平均膜厚・光源の波長分布・照射スポット径・膜と基板の屈折率の関数になる。

応力が振動しているように映る現象が、厚み勾配と干渉の産物であることがある。周期が反射率と一致するかどうかが、切り分けの手がかりになります。

基板の形も前提に入っています。2020 年のタイコウェーハに対するストーニー式の拡張2は、外周だけ厚いリングを残した 8 インチウェーハについて、弾性論の枠内で式を拡張しています。裏面金属が解放する応力から計算した反りと、同じ厚みの金属を実際に成膜したときの反りが良く一致した、と。

元の式は一様な厚みの平板を前提にしています。形が動けば、係数も動く。

熱膨張係数の取り方で、熱応力が 230 MPa 動く

総応力から引く側へ移ります。成膜温度 から室温 まで冷やすときの熱応力は

積分です。ところが実務では と書かれることが多い。その をどこで取るかで、値が動きます。

シリコンの線膨張係数は、室温付近と高温で別の値を持ちます。1991 年の室温におけるシリコンの線膨張係数の測定3が室温の値を与え、2000 年のシリコン結晶の格子定数と線膨張係数の研究4が同位体組成の影響まで含めて測っています。

同位体組成で動く量を、1 つの定数として使うところに、この節の落とし穴があります。

K、 K、膜の二軸弾性率 170 GPa として、 の取り方を 3 通りで比べます。 を 300 K で 2.6 ppm/K、1200 K で 4.1 ppm/K とします。この 2 つは手順を示すために据えた代表値で、実測値と別です。

の取り方熱応力の寄与
300 K の値(2.6)398 MPa
区間の平均(3.35)513 MPa
1200 K の値(4.1)627 MPa

幅は 230 MPa です。

総応力の測定値が 500 MPa だったとして、真性応力を出します。

引いた熱応力残る真性応力
398 MPa+102 MPa
513 MPa−13 MPa
627 MPa−127 MPa

符号が入れ替わります。同じ測定から「引張の真性応力」と「圧縮の真性応力」の両方が出る。

だから真性応力の値を報告するときは、 の取り方を併記します。積分で取ったのか、どの温度の値を掛けたのか。この 1 行が揃って初めて、符号を比べられます。

温度を振れば、2 つを分けられる

上の曖昧さは、測り方で減らせます。

熱応力は温度の関数、真性応力は(緩和がなければ)温度から独立です。だから総応力を温度の関数として測れば、傾きが熱応力、切片が真性応力になります。

傾きから が直接出るので、文献値を掛ける必要が消えます。

2018 年のその場基板曲率測定による成膜中の応力変化の実時間観測5が、この方向の道具をまとめています。基板曲率のその場測定は、成長中の膜の応力状態を実時間で追える強力な診断手法。

同じ研究は、注意も添えています。手法の感度が高いために、結果の正しい解釈に手間がかかる場合があり、補完的な測定と、対象材料の物理化学的性質の正確な知識が要る。

感度が高いことと、解釈が一意であることは別です。前節の厚み勾配の話も、この注意の具体例でした。

測り方得られるもの前提
室温で 1 点総応力ひとつ の文献値と取り方
温度を振る傾きと切片区間内で緩和がゼロ
成膜中のその場測定応力の時間変化厚み勾配と干渉の切り分け

下の 2 行は、前提を仮定から測定へ移しています。

剥がれには、応力と界面靭性の両方が要る

剥がれの条件は、応力と界面靭性の 2 つで立ちます。解放されるエネルギーが、界面を割るのに要るエネルギーを超えたときに剥がれます。

厚み 、二軸応力 の膜が剥離するときのエネルギー解放率は

界面の靭性を とすると、剥がれる条件は 。この は剥離の観察から逆算する量6です。膜厚について解くと臨界厚みが出ます。

GPa で数を入れます。

J/m² J/m² J/m²
250 MPa1.36 µm2.72 µm13.6 µm
500 MPa0.34 µm0.68 µm3.40 µm
1 GPa0.085 µm0.17 µm0.85 µm
2 GPa0.021 µm0.043 µm0.21 µm

は に比例し、 に反比例します。

同じ 500 MPa でも、界面靭性が 0.5 と 5 では臨界厚みが 10 倍別になります。0.34 µm で剥がれる系と、3.4 µm まで持つ系。

だから原因の記述は、 が 1 を超えたかどうかで書きます。応力と界面のどちらか一方を名指しても、残りの項が空欄のまま残る。

動かすもの への寄与
応力を半分にする4 分の 1
膜厚を半分にする2 分の 1
界面靭性を 2 倍にする2 分の 1

応力だけが 2 乗で入ります。同じ費用なら、応力を下げる側の見返りが大きい。

界面靭性は、剥がれ方から逆算する

の値そのものも、測る対象です。測り方が、必要な既知量を決めます。

2017 年の剥離にもとづく薄膜と基板の界面の接着エネルギーの測定と予測6は、しわ(座屈)と剥離が続けて、あるいは同時に出ることを使って接着エネルギーを導く手法を提案しています。

この手法の要は、要る既知量が 3 つに収まる点です。2 次元材料のヤング率・ポアソン比・厚みが、明示的な入力の一覧から抜けている。これらの正確な測定自体が多くの場合に難しいので、結果の不確かさが著しく下がる、という立て方です。

上の の式には と が入っていました。それらを測らずに を出せるなら、掛け算する不確かさの数が減ります。

同じ研究は、剥離幅が座屈の臨界波長に近い場合には手順がさらに簡単になることも示しています。

別の経路もあります。2014 年のナノインデンテーションによる、GaAs 基板上の窒化シリコン膜の界面剥離におけるエネルギー解放率の決定7は、圧子で局所的に剥離を起こして解放率を求める方向です。

手法要る既知量得られるもの
しわと剥離の同時観察3 つ接着エネルギー
ナノインデンテーション圧子と膜の力学エネルギー解放率

どちらも、剥がれた結果の幾何から逆算しています。界面そのものへ直接あたる計器は、ここでもゼロです。

現場で動く判断

  1. 曲率が返すのは の積です。300 mm・775 µm 基板で、500 MPa·µm が反り 312 µm。応力の値が出るのは、膜厚を別に測ってからです。
  1. 厚み勾配が、応力と同じ信号へ入ります。レーザの偏向が膜応力と膜厚勾配の両方に感度を持つ1。振動の周期が反射率と一致するかどうかで切り分けます。
  1. ストーニー式は一様厚みの平板を前提にしています。外周だけ厚いウェーハには拡張が要る2。基板の形を、式の前提の欄に書きます。
  1. 熱応力は積分です。1200 K から 300 K で、 を 300 K の値で取ると 398 MPa、1200 K の値なら 627 MPa。幅は 230 MPa。
  1. 真性応力の符号が、 の取り方で入れ替わります。総応力 500 MPa から引くと +102 MPa にも −127 MPa にも。報告には の取り方を併記します。
  1. 温度を振ると、傾きと切片へ割れます。傾きが熱応力、切片が真性応力。文献値を掛ける手順が消えます。
  1. 感度が高いことと、解釈が一意であることは別です。補完的な測定と材料の物理化学的性質の正確な知識が要る5という注意が、その場測定の側に付いています。
  1. 剥がれの条件は です。応力だけが 2 乗で入る。応力を半分にすると は 4 分の 1、膜厚を半分にすると 2 分の 1 です。
  1. 臨界厚みは です。500 MPa で、 が 0.5 なら 0.34 µm、5 なら 3.40 µm。同じ応力で、10 倍別の答えが出ます。
  1. は剥がれ方の幾何から逆算します。しわと剥離の同時観察6では、ヤング率・ポアソン比・厚みが入力の一覧から抜けます。掛け算する不確かさの数が減ります。

出典

  1. 1 Effect of diffraction and film-thickness gradients on wafer-curvature measurements of thin-film stress (2004) doi:10.1063/1.1650882
  2. 2 Extension of the Stoney Equation for a Taiko Wafer (2020) doi:10.20944/preprints202010.0594.v1
  3. 3 The Linear Coefficient of Thermal Expansion of Silicon at Room Temperature (1991) doi:10.1017/s0885715600017292
  4. 4 Lattice constant and coefficient of linear thermal expansion of the silicon crystal, influence of isotopic composition (2000) doi:10.1063/1.1334443
  5. 5 Real-time monitoring of stress evolution during thin film growth by in situ substrate curvature measurement (2018) doi:10.1063/1.5054092
  6. 6 Delamination-Based Measurement and Prediction of the Adhesion Energy of Thin Film and Substrate Interfaces (2017) doi:10.1115/1.4035497
  7. 7 Determination of the energy release rate in the interfacial delamination of silicon nitride film on gallium arsenide substrate via nanoindentation (2014) doi:10.1557/jmr.2014.41