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講座集 / 薄膜成膜の物理と化学 / 第 16 回

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VOL.03 薄膜成膜の物理と化学 第 16 回 / 全 19 回

RF 放電の境目周波数:Ar で 1〜2.5 MHz、電圧の −1/4 乗で動く

RF 放電の周波数が、イオンがシースを渡る時間より速いか遅いかで、イオンが受け取るエネルギーの分布は大きく変わります。その境目は電圧を変えてもほとんど動かず、軽い水素イオンでは 13.56 MHz でも境目の近くにあります。

22 分 応用 式 4 出典 6

この回の目次(7 節)
  1. §1 境目の周波数は
  2. §2 なので、軽いイオンは境目が高い
  3. §3 境目の上では、エネルギー分布の幅が で縮む
  4. §4 独立に動かせる範囲は、1.6 倍と 2.9 倍まで
  5. §5 エネルギーと流束の順位は、寸法で入れ替わる
  6. §6 成膜では、同じ境目が膜応力の符号を動かす
  7. §7 現場で動く判断

この回で示すこと

  1. 境目の周波数は で、Ar では 1〜2.5 MHz。
  2. チャイルド則を入れると で、電圧を 10 倍にしても境目は 1.8 倍しか動かない。
  3. なので、13.56 MHz でも水素イオンは境目の近くにいる。
Ar の境目周波数 1 〜2.5 MHz
電圧 10 倍で境目が動く幅 1.8 倍

高周波放電の周波数を選ぶとき、「13.56 MHz が標準だから」で済ませることがあります。その周波数が何を分けているのかは、1 本の時間の比で決まります。

イオンがシースを渡る時間と、高周波の 1 周期の長さの比です。イオンが 1 周期のうちに渡り切れば、そのときの電圧をそのまま受ける。渡り切れなければ、周期の平均を受ける。

境目の周波数は

厚み のシースを、電圧 で加速されるイオンが渡る時間を出します。一様加速とすると

境目の周波数は 。Ar イオン(40 amu)で数を入れます。

シース電圧 シース厚み 通過時間 境目
50 V1 mm129 ns1.24 MHz
100 V1 mm91 ns1.75 MHz
200 V1 mm64 ns2.47 MHz
500 V2 mm81 ns1.95 MHz
1000 V3 mm86 ns1.84 MHz

どの行も 1〜2.5 MHz に入ります。

理由は、 と が一緒に動くからです。チャイルドの法則でシース厚みは なので

電圧の 4 乗根の逆数です。

電圧の倍率 の倍率
10 倍0.56 倍
100 倍0.32 倍
0.1 倍1.78 倍

電圧を 10 倍にしたとき、境目が動く幅は 1.8 分の 1 までです。

だから「1 MHz あたり」という言い方が、装置と条件をまたいで通用します。指数が 4 分の 1 だと、実質的に定数になる。シースの電荷電圧関係を 2 次で近似するモデル1が広い条件で通るのも、この鈍さの側にあります。

なので、軽いイオンは境目が高い

質量の側は、平方根で入ります。

Ar を基準にして表にします。 MHz の条件で。

イオン質量
H⁺111.1 MHz
H₂⁺27.8 MHz
He⁺45.5 MHz
N₂⁺282.1 MHz
Ar⁺401.75 MHz
Xe⁺1310.97 MHz

13.56 MHz では、Ar は境目の 8 倍上にいますが、水素イオンは 1.2 倍のところにいます。

つまり同じ放電の中で、重いイオンは時間平均を受け、軽いイオンは瞬時の電圧を受けています。シラン系やアンモニア系の化学では、水素を含むイオンが多い。

「13.56 MHz だから高周波の側」という分類は、イオン種ごとに別の答えを返します。

実測でも、シース内のイオン速度分布は時間分解で測れる対象です。2011 年の高周波プラズマシースにおける時間分解のイオン速度分布測定2が、その手法を追っています。この区別が付くのは、時間分解で測ってからです。

境目の上では、エネルギー分布の幅が で縮む

境目の上下で何が動くのかを、分布の幅で出します。

  • — イオンが 1 周期で渡り切る。瞬時の電圧をそのまま受けるので、分布は電圧の振れ幅いっぱいに広がる
  • — イオンが複数周期かけて渡る。周期の平均を受けるので、残る変調は で縮む

での幅を 1 として表にします。

周波数幅の比
2 MHz0.88
13.56 MHz0.129
27.12 MHz0.065
60 MHz0.029
100 MHz0.018

13.56 MHz では、分布の幅が境目の 13% まで縮みます。

分布の形そのものは、モデルで予測できる対象です。2016 年の任意の電圧波形で駆動される容量結合高周波プラズマにおけるイオン流束エネルギー分布関数の簡易モデル1が、単純化したイオン密度分布とシースの 2 次の電荷電圧関係から分布を求める形を提案しています。単一周波数と多周波数の両方で、粒子シミュレーションと阻止電場エネルギー分析器の測定に照らして確かめられている。

2 つの周波数を重ねれば、平均のエネルギーと分布の幅を別々に動かせます。低周波が幅と平均を、高周波が密度を。

独立に動かせる範囲は、1.6 倍と 2.9 倍まで

「別々に動かせる」がどこまでなのかを、公開の数で確かめます。

2020 年の整形電圧波形による中圧容量結合プラズマのイオンエネルギーと流束の分離3が、この範囲を定量化しています。まず単一周波数の限界から。

単一周波数で駆動する放電では、イオンのエネルギーと流束がともにシース電位へ依存するため、この相互依存が到達できる運転領域の範囲を制限する。

多周波数での結果です。

駆動波形イオン流束の変調幅平均イオンエネルギーの変調幅
2 周波()1.8 倍1.6 倍
5 高調波の整形波形()2.9 倍1.6 倍

流束は 1.8 倍から 2.9 倍へ広がり、エネルギーの幅は 1.6 倍のまま。

「独立に制御できる」が指す範囲は、この 2 つの数の中までです。桁を動かす自由度とは別の量になる。

独立性そのものにも条件があります。2010 年の二次電子が二周波容量結合放電におけるイオンエネルギーと流束の分離制御へ及ぼす影響の研究4が、2+27 MHz の Ar 放電について粒子シミュレーションで調べています。

二次電子放出係数 低周波電圧を上げたときのイオン流束
周波数結合により減る
が大きいシース内での二次電子の増倍により増える

符号が逆を向きます。同じ研究は、分離制御が強く制限されると結論している。

は電極の材料と表面の状態で決まる量です。だから同じ設定でも、電極が変われば独立性の度合いが動く。

同じ研究は、平均イオンエネルギーが とともに上がることから、 をその場で求められる可能性にも触れています。邪魔者が測定量になる形です。

エネルギーと流束の順位は、寸法で入れ替わる

2 つのつまみのどちらが乗るのかは、加工する寸法で変わります。

2023 年の二周波容量結合 Ar/C₄F₈ プラズマにおける高アスペクト比 SiO₂ エッチングへのイオンエネルギーと流束の寄与5が、この入れ替わりを測っています。二周波の電力と自己バイアス電圧からイオン流束とエネルギーの個別制御窓を作り、基準条件から同じ比率で別々に振っています。

溝の幅エネルギーを上げる流束を上げる
200 nmエッチ速度の向上が大きい向上が小さい
60 nm基準条件で停止し、上げても停止のままわずかに増える

200 nm と 60 nm で、2 つのつまみの順位が逆を向きます。

200 nm で流束の寄与が弱い理由として、流束を上げると重いラジカルも一緒に増え、フルオロカーボン膜を作ってエッチを妨げることが挙げられています。

60 nm でエネルギーの寄与が消える理由は、表面の帯電によるエッチ停止です。イオンを強くしても、底へ届く前に曲げられる。

だから「イオンエネルギーを上げれば深く掘れる」が成り立つ寸法には、上限があります。その下では、流束の側が残された唯一のつまみになる。

成膜では、同じ境目が膜応力の符号を動かす

エッチの話をしてきましたが、成膜でも同じ境目が乗ります。

イオン衝撃は、堆積した原子を押し込んで膜を緻密にします(原子ピーニング)。押し込みが強ければ圧縮応力、弱ければ引張応力。押し込みの強さはイオンエネルギーで決まる。

境目の下(低周波)では分布が広く、高エネルギーのイオンが届きます。境目の上(高周波)では分布が縮み、平均も下がる。

エネルギーが 5 分の 1 になれば、ピーニングは 分の 1。

引張側の応力は、別の機構から来ます。2025 年の応力制御された窒化シリコン膜のための PECVD 工程の最適化6が、その機構を追っています。

操作引張応力への向き
SiH₄ 流量を上げる水素の取り込みが増え、内部応力が動く
紫外線硬化N-H 結合と Si-H 結合を切り、水素を脱離させ、Si-N-Si の架橋を進める → 上がる
紫外線の電力を上げすぎる水素量の動きが変わり、下がる
層状に分けて成膜緻密化と架橋が進み、上がる

最適な硬化時間で、引張応力が約 1570 MPa に安定したと報告されています。

水素が抜けると引張へ、イオンが押し込むと圧縮へ。2 つの機構が逆向きに働いていて、周波数はイオンの側のつまみです。

だから応力を周波数で合わせるとき、水素の量も一緒に動いていることを確かめます。片方だけを動かしたつもりで、両方が動く。

現場で動く判断

  1. 境目は です。Ar・100 V・1 mm で 1.75 MHz。周波数の選択は、この値との比で語ります。
  1. 境目は電圧の 4 乗根の逆数で動きます。電圧 10 倍で 1.8 分の 1。だから「1 MHz あたり」が装置をまたいで通用します。
  1. 境目は です。13.56 MHz で Ar は 8 倍上、H⁺ は 1.2 倍のところ。水素を含む化学では、イオン種ごとに分けて考えます。
  1. 境目の上では分布の幅が で縮みます。13.56 MHz で 13%。幅を狭めたいなら周波数、平均を動かしたいならバイアスです。
  1. 単一周波数ではエネルギーと流束が結合します。両方がシース電位へ依存するため、運転領域が制限される3。2 つを別々に書ける設定から始めます。
  1. 独立に動かせる幅は 1.6 倍と 2.9 倍です。2 周波で流束 1.8 倍、5 高調波で 2.9 倍、エネルギーはどちらも 1.6 倍3。この範囲を、設計の可動域として書きます。
  1. 二次電子が、分離制御の符号を反転させます。 では流束が減り、 が大きいと増える4。電極の材料と表面の状態を、設定の一部として記録します。
  1. エネルギーと流束の順位は寸法で入れ替わります。200 nm ではエネルギー、60 nm では流束5。60 nm では帯電でエッチが止まり、エネルギーを上げた後も停止のままです。
  1. 成膜では、圧縮と引張が別々の機構から来ます。イオンの押し込みと水素の脱離。周波数はイオン側のつまみで、紫外線硬化は水素側のつまみ6です。
  1. 境目の区別が付くのは、時間分解で測ってからです。時間分解のイオン速度分布測定2が要ります。平均値だけの報告からは、この情報が落ちています。

出典

  1. 1 A Simple Model for Ion Flux-Energy Distribution Functions in Capacitively Coupled Radio-Frequency Plasmas Driven by Arbitrary Voltage Waveforms (2016) doi:10.1002/ppap.201600117
  2. 2 Temporally resolved ion velocity distribution measurements in a radio-frequency plasma sheath (2011) doi:10.1063/1.3577575
  3. 3 Decoupling ion energy and flux in intermediate pressure capacitively coupled plasmas via tailored voltage waveforms (2020) doi:10.1088/1361-6595/abc82f
  4. 4 The effect of secondary electrons on the separate control of ion energy and flux in dual-frequency capacitively coupled radio frequency discharges (2010) doi:10.1063/1.3481427
  5. 5 Contribution of Ion Energy and Flux on High-Aspect Ratio SiO2 Etching Characteristics in a Dual-Frequency Capacitively Coupled Ar and C4F8 Plasma (2023) doi:10.3390/ma16103820
  6. 6 Optimizing the PECVD Process for Stress-Controlled Silicon Nitride Films (2025) doi:10.3390/coatings15060708