マスクレス露光の代償はデータ変換キヤノンはマスクで4ショットつなぐ
100 mm角のパッケージをマスクで露光するとき、キヤノンの後工程向けi線ステッパーFPA-5520iV LF2オプションは、52×68 mmの露光範囲を4ショットつないで100×100 mmを描く。キヤノンは、歪曲収差を前の機種の4分の1以下にした投影光学系と、照度の均一性を高めた照明光学系で、0.8 µmの解像とこの広い露光範囲を実現したと説明している。マスクを使わないNikonのDSP-100は、マスクとそのつなぎ露光をなくす。その代わりに、設計データをSLM(空間光変調器)の駆動データへ変換する処理を抱え、Nikonはこれを開発で最大の難所に挙げた。
マスクレス露光とは、フォトマスクを使わずに設計データから直接パターンを投影する露光方式を指す。しかし、境目の問題はマスクを使わない装置にもある。ASML Holdingが2003年に出願した特許は、SLMの像を1ショットずつ並べて描くマスクレス装置で、隣り合う露光区画の境目に線幅の誤差が出ることを計算で示し、その補正方法を挙げている。マスクではショットの間に、この特許が扱うマスクレス装置では露光区画の間に境目ができる。DSP-100の仕様と「300 mmウェーハ比9倍」の数え方はDSP-100の解説にまとめた。
マスクを使う露光では、1回の露光範囲を超えるパッケージをつないで描く
Section titled “マスクを使う露光では、1回の露光範囲を超えるパッケージをつないで描く”ステップ・アンド・リピート方式とは、フォトマスクの回路パターンを基板へ1区画ずつ写していく露光方式を指す。Nikonの技術紹介記事によれば1、この方式では写せるパターンの大きさがマスクの寸法で決まるので、パッケージが大きくなるほどマスクが増え、マスクを切り替えて何回にも分けて露光する必要があり、生産性が下がる。
キヤノンの2022年12月の発表によれば2、FPA-5520iV LF2オプションは1回の露光範囲が52×68 mmで、露光ひずみの小さい4ショットの繋ぎ露光で100×100 mmの露光を可能にした。キヤノンは、2021年4月に発売した前の機種と比べて歪曲収差を4分の1以下にした投影光学系と、照度の均一性を高めた照明光学系で、0.8 µmの解像とこの広い露光範囲を両立させたと説明している。パネル用のFPA-8000iW3も1回の露光範囲は52×68 mmか55×65 mmで、100 mm角を描くには縦横とも2回ずつ、計4回のショットが要る(露光範囲の寸法から計算)。
Applied Materialsが2020年に出願した表示装置向けの露光の特許は4、複数のマスクのパターンを隣り合わせて写すと、マスクの境目でパターンに隙間ができ、それが欠陥になって表示装置の品質を下げると書いている。
マスクレス露光は、マスクの寸法と製作期間の制約をなくす
Section titled “マスクレス露光は、マスクの寸法と製作期間の制約をなくす”DSP-100は、フォトマスクの代わりにSLMでCADデータ由来のパターンを基板へ直接投影する。Nikonは2025年7月の発表で5、この方式はマスクの寸法の制約をなくし、大型の先端パッケージに柔軟に対応でき、開発の工程を短くして顧客のコストとリードタイムを減らすと説明した。DSP-100は、FPD露光装置のマルチレンズ技術で複数の投影レンズを並べて精密に制御し、1本の巨大なレンズと同じ効果を出して、広い範囲を1回の露光で描く。
反りやチップの位置ずれに合わせて描き分けるマスクレス露光の使い方は、SCREEN DW-3100の記事で扱っている。
代償は、パターンが細かいほど増える駆動データの変換だ
Section titled “代償は、パターンが細かいほど増える駆動データの変換だ”マスクレス露光では、設計データをSLMの駆動データへ変換してから露光する。Nikonの技術紹介記事は、パターンが細かくなるほどSLMの分解能を上げる必要があり、駆動データの量が大きく増え、変換にかかる時間が延びて生産性が下がると説明している。Nikonは、これをDSP-100の開発で最大の難所とし、解像度を保ったままSLMへ高速にデータを送る独自の技術を開発して乗り越えたとしている。パネル1枚の処理時間を比べるときは、露光の時間に加えて、データの変換と転送の時間も入る。
SLMの像を並べて描くマスクレス装置では、露光区画の境目に誤差が出る
Section titled “SLMの像を並べて描くマスクレス装置では、露光区画の境目に誤差が出る”ASML Holdingが2003年に出願した特許は6、SLMの像を1ショットずつウェーハ上に並べて描くマスクレス装置を扱う。隣り合う露光区画は別の時刻に露光されるので、境目では2つの露光が光学的に干渉せずに足し合わされ、像が乱れる。区画の位置が予定から数nmずれるだけでも、境目にパターンの誤差が出るという。
特許は、孤立した幅70 nmの線をコヒーレントな照明で露光する条件で計算し、境目の近くで線幅の誤差が最大で+25 nmになる例を示した。区画を重ねて露光し、重なった部分の像を弱める補正を加えると、同じ例の誤差は5 nm未満に下がる。特許は、補助パターンや能動的な補正も対策に挙げている。この特許の装置はウェーハ用で、例の線幅は70 nmなので、この数値をDSP-100の後工程の配線に当てはめることはできない。
露光装置の解像と配線ルールの関係は1.0 µm機と1.5 µm機の比較で、露光工程の全体は露光とリソグラフィで扱った。
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- 1Nikon:デジタル露光装置の開発の技術紹介(2026年3月)nikon.com ↩
- 2キヤノン:FPA-5520iV LF2オプションの発売と繋ぎ露光(2022年12月)global.canon ↩
- 3キヤノン:FPA-8000iWの製品仕様global.canon ↩
- 4Applied Materials:表示装置向け露光のマスクのつなぎの特許 US11237485(2020年出願)patents.google.com ↩
- 5Nikon:DSP-100の受注開始と仕様(2025年7月)nikon.com ↩
- 6ASML Holding:SLMマスクレス露光の境目の補正の特許 US6876440(2003年出願)patents.google.com ↩