ウェーハバンピングをステンシル印刷で行う Taguchi 実験1の直交表で、開口形状の寄与率が 57.8%、アスペクト比が 34.7%。合わせて 93%。この表から「ステンシル設計が支配的だ」と結論してよいのでしょうか。上の 2 行は、本当に別々の物理なのでしょうか。
200 mm ウェーハへのはんだペースト印刷で、バンプ体積を目的変数にした2水準L8直交表実験の寄与率です。
| 制御因子 | 寄与率(平均値) | 寄与率(S/N比) |
|---|---|---|
| 開口形状(角/丸) | 57.8% | 58.5% |
| アスペクト比(2.5/2.75) | 34.7% | 36.1% |
| ペースト種(type 3/4) | 1.4% | 3.7% |
| スキージ力(9/12 lb) | 0.7% | 0.5% |
| スナップオフ高さ(0/5 mil) | ほぼ 0 | ほぼ 0 |
現場で回せるつまみ——スキージ力とスナップオフ——を合わせて1%未満。ステンシルの穴の形と大きさで 93%。
これだけなら「ステンシル設計が支配的」で話が済みます。ところが上の 2 行は、1 つの量を 2 つに割っただけです。
形状とアスペクト比は、同じ量を割っている
実験の条件1を書き出します。ステンシル厚は 8 mil(0.2 mm のステンレス板)。アスペクト比は「開口寸法 ÷ 厚み」なので、2.5 は 20 mil 開口、2.75 は 22 mil 開口を意味します。つまり4象限は、20 mil 角・20 mil 丸・22 mil 角・22 mil 丸の4通り。
開口面積を出します。
| 開口 | 面積(mil²) | 平均バンプ体積() | 体積 ÷ 面積 |
|---|---|---|---|
| 22 mil 角 | 484 | 3.87 | 0.0080 |
| 20 mil 角 | 400 | 3.36 | 0.0084 |
| 22 mil 丸 | 380 | 3.17 | 0.0083 |
| 20 mil 丸 | 314 | 2.41 | 0.0077 |
生の体積は最大/最小で 1.61 倍。面積で割ると 1.10 倍になります。
測定断面でも、最大は 22 mil 角、最小は 20 mil 丸、22 mil 丸と 20 mil 角はほぼ同じでした。面積の表へ戻れば当たり前です。400 と 380 の差は 5%。
角と丸の面積比は、寸法によらず
で固定です。つまり「形状」という因子の正体は、開口面積を 1.27 倍する操作です。
形状と寸法を分けて数えると、なぜ二重計上になるのか
直交表は因子が独立であることを前提に寄与率を配分します。ところがここでは、形状も寸法も同じ物理量(開口面積)を動かしています。
面積は ( は角なら 1、丸なら 、 は寸法)。形状を変えると が、寸法を変えると が動く。どちらも を経由してから、初めて体積へ届きます。
だから寄与率 58% と 35% は、「2つの物理機構が別々に効いている」より、1つの機構への寄与を、実験計画上の座標軸に沿って分配した数字です。合計 93% が意味を持つ数字で、内訳の 58 対 35 は水準の取り方( 倍と 倍)が決めています。
裏を取れるのが「離型」です。ステンシルの抜けやすさを表すエリアレシオ(開口面積 ÷ 開口壁面積)は、1辺 の角穴で 、直径 の丸穴で 。角でも丸でも同じ式になります。
つまり離型のしやすさは、角と丸で同じ式のままです。形状が効く道は、面積を通る 1 本だけ。データもそう言っていて、面積で割った 4 値は 0.0077〜0.0084 に収まります。
58 対 35 は、印刷データの手前で出せる
「内訳は水準の取り方が決めている」は、計算で確かめられます。
2 水準の直交表では、因子の平方和は水準平均の差の 2 乗に比例します。試行数が同じなら、2 因子の寄与率の比は、その差の 2 乗の比になります。
4 象限の平均体積から水準平均を作ります。
- 形状:
- アスペクト比:
報告されている寄与率の比は 。1% 台の一致です。8 回の試行も、ペースト種もスキージ力も、この計算には入っていません。4 つのセル平均だけで再現します。
さらに、体積のかわりに開口面積を入れても同じことが起きます。
- 形状:
- アスペクト比:
装置を動かす前に、寄与率の比が 5% 以内で予言が立ちます。S/N 比側の と比べれば 1% 以内。
58 対 35 という内訳は、ステンシルの図面の時点で決まっていました。
角と丸の差は、4 年後に直接測られている
前の節は算数でした。角と丸の差が面積だけなら、エリアレシオを揃えた角穴と丸穴は、同じように抜けるはずです。これは 4 年後に、直接測られています。
ステンシル印刷の転写効率をエリアレシオの関数として基準線まで引いた 2004 年の報告2は、パターンの無い裸のシリコンウェーハへ印刷し、リフロー後のバンプ高さを測るという方法を取りました。特定のパターンへステンシルを合わせる前提を落とせるので、設計の異なる多数のステンシルを横並びで比べられます。
その結論が、転写効率を左右するのは、はんだが接するふたつの面の比——すなわちエリアレシオでした。角開口と丸開口を、エリアレシオを揃えたうえで広い範囲にわたって比べたところ、転写効率は同程度。報告はそのうえで、丸のほうにやや分がありそうだ、と添えています。前の節の は、その「揃える」操作を面積の側から書いたものです。
同じ報告には、実験計画そのものへ刺さる一文が続きます。開口寸法を細かく実測したところ、設計値と実寸に食い違いがあり、それが実験の結論と転写効率の見積もりを大きく左右した。直交表の水準は「20 mil」「22 mil」と図面の数字で並びますが、寄与率を分け合っているのは図面より、レーザが実際に開けた穴のほうです。
この実験が振ったエリアレシオは、0.63 と 0.69
エリアレシオは開口寸法に比例します。ステンシル厚 8 mil のままなら、
2 水準の幅は 10% です。転写効率がエリアレシオの関数だとしても、この実験が掴めるのは、この幅で動いたぶんだけになります。
前の表の「体積 ÷ 面積」を、エリアレシオでまとめ直します。
| エリアレシオ | 角開口 | 丸開口 | 群平均 | 群内の開き |
|---|---|---|---|---|
| 0.63(20 mil) | 0.00840 | 0.00767 | 0.00804 | 9.5% |
| 0.69(22 mil) | 0.00800 | 0.00834 | 0.00817 | 4.3% |
群平均どうしの差は 1.6%。同じエリアレシオでの散らばりは 4.3% と 9.5%。群間より群内のほうが 2〜6 倍広い。つまりこの実験のエリアレシオの振り幅は、離型を切り出す手前で止まっています。
角と丸の勝敗も、この 4 点では 1 勝 1 敗です。0.63 では角が上、0.69 では丸が上。エリアレシオを揃えると形状の優劣が消えるという 2004 年の結果と、向きは揃っています。
「面積が 93%」は、そこまで込みの数字です。エリアレシオを 2 点だけ、しかも 10% の幅で振った実験では、離型は寄与率の表に表れません。
開口を縮めれば、この値は左へ下ります。細ピッチのフリップチップ向けにステンシル印刷のウェーハバンピングを最適化した 2003 年の検討3や、微細ピッチでのはんだペースト離型を高速撮像と模型の両面から追った 1999 年の研究4が正面から測っているのは、まさにそちら側です。後者は印刷品質を左右する主要因を計画実験で洗い出したうえで、離型にいくつかのモードがあることと、その機構を同定しています。寄与率の順位をそのまま細ピッチへ持ち込むと、そこで崩れます。
逃げ道も 1 つあります。溶融はんだを再利用可能なガラス型へ射出し、ウェーハへ転写する C4NP5は、ペーストを介さずにバンプを作ります。この方式の量産データをまとめた報告6は、電解めっきが細ピッチ側、ペースト印刷とはんだボール搭載が粗ピッチ側という住み分けがあるなかで、C4NP はその全域に届くと位置づけています。ここまでの話はステンシルとペーストの組み合わせに固有なので、方式を変えればこの壁ごと消えます。
振った 2 点を、エリアレシオの目盛へ写します。
最良のステンシルへ絞ると、順位が入れ替わる
同じ報告1は、このあと勝った 22 mil 角へ絞り、残った 3 因子だけで L4 実験を回しています。
L8でほぼ 0 だったスナップオフ高さが、L4では唯一の有意因子になります。
| 平均値ANOM | S/N比ANOVA | |
|---|---|---|
| スナップオフ高さ | 22.7% | 67.6% |
| ペースト種 | 2.3% | 7.0% |
| スキージ力 | — | — |
| 誤差 | 72.7% | 25.4% |
同じ因子、同じ装置、同じ材料。動かしたのは「他に何を振ったか」だけです。
寄与率は、因子の性質より自分が作ったばらつきの中での取り分を表します。L8 では開口面積が全部を飲み込んでいたので、スナップオフの実効果がゼロとして表に出ていました。
「有意」の中身を、生データから数え直す
ここで平均値ANOMとS/N比ANOVAが食い違っています。平均では 22.7%(誤差 72.7%)、S/N比では 67.6%。
どちらの表でも「スナップオフが唯一、実験誤差より有意」という結論は変わりません。それは正しいのですが、2つの表がずれること自体に情報があります。
L4 の生データ1(各条件 10 点)を水準ごとにまとめ直します。
| スナップオフ | 平均体積() | 標準偏差 | 変動係数 |
|---|---|---|---|
| 0 mil | 3.799 | 0.089 | 2.3% |
| 5 mil | 3.902 | 0.156 | 4.0% |
| 差 | +2.7% | 1.75 倍 | — |
スナップオフを 5 mil に上げると、体積は 2.7% 増えて、ばらつきは 1.75 倍になります。
これでずれの出どころが取れます。望大特性のS/N比は
で、 の平均を取るので小さい側の異常点に強く罰を与えます。平均だけなら 2.7% の差でも、下振れが広がるとS/N比は大きく落ちる。
S/N比での寄与率が高く、平均での寄与率が低い因子は、平均より、ばらつきのほうへ乗っている。ここではそれが表に出ています。
2 つの水準の分布を重ねると、食い違いの出どころが浮かびます。
実務的な結論はこうなります。2.7% の体積を買うために、ばらつきを 1.75 倍払うかどうか。目標バンプ高さ 13 mil に対して 2.7% は 0.35 mil。割に合う場面は限られます。
水準の数も、実験者が先に決めている
これは Taguchi 固有の癖より、実験計画そのものの性質です。もっと直接的な例があります。
エレクトロマイグレーション寿命を一様計画で最適化した検討7の、6 因子の金属エッチ最適化では、因子ごとに水準数そのものが別です。X1 から X6 に対して 4、5、4、6、4、6 水準。理由もそこに書かれています。より重要とみなした変数に、より多くの水準を割り当てた。
実験計画は、事前の見込みを設計へ埋め込む作業です。何を振るか、どれだけ離して振るかを決めた時点で、出てくる寄与率はその判断を映します。ステンシルの実験で形状に 倍、寸法に 倍を割り当てたのも、まったく同じ操作でした。
直交性そのものにも代償があります。一様計画の総説8が言うとおり、直交性の要件が、水準組み合わせをどこまで減らせるかに枠をはめます。直交表は因子を独立に扱える形へ実験を組みますが、その形を保つために試行数の下限が決まります。
一方で実際に効く効果はわずか、というのが効果スパース性です。二次モデルで実際に活きる効果は、因子数の 3〜4 倍程度という 3X・4X 則が使えます。6 因子なら完全二次モデルは 28 項、直交の中心複合計画なら 46 試行以上。活きるのは 18〜24 項。だから一様計画(UD)で 18 試行へ落としています。
ステンシルの実験は逆向きの問題を抱えています。5 因子・2 水準・8 試行。2 水準では曲率が隠れ、交互作用も推定できません。形状とアスペクト比が同じ量を経由していることは、この計画では原理的に検出できません。寄与率の表が二重計上を伏せたままなのは、そのためです。
試料の条件
この実験1の条件から、数字を再現・比較するときに要るものだけ挙げます。
- ウェーハ: 200 mm、チップあたり 48 パッド、パッドピッチ 0.75 mm、パッド径 0.33 mm、Cuスタッド高さ約
- ステンシル: 0.2 mm ステンレス、Nd:YAG 4倍波レーザ加工、30% KOH で電解研磨(箔材によってレーザ加工の壁面品質に差が出ること9は、後年に箔種を振って調べられています)
- ペースト: 63Sn-37Pb、type 3(粒径の 80 wt% 以上が 20〜45 )と type 4(90 wt% 以上が 20〜38 )
- 目標バンプ高さ: 13 mil(0.33 mm)
- 体積は切頭球として から求め、Cuスタッド分を差し引いている
パッドピッチ 0.75 mm に注意してください。開口 20〜22 mil は 0.51〜0.56 mm なので、隣の開口とのすき間が 0.19〜0.24 mm あります。細ピッチでステンシル印刷が詰まるのは、この余裕が消えていく側です。ピッチが縮めばエリアレシオが下がり、離型が効いてきます。
実務での使い方
寄与率の表が回ってきたら、因子どうしが同じ物理量を経由しているかどうかを先に確かめてください。経由していれば、内訳の数字は水準の取り方の反映であって、機構の重みとは別ものです。
「この因子は取り分ゼロ」を実験 1 本で結論するのは早すぎます。支配因子を 1 点へ絞ると順位が入れ替わります。L8 でゼロだったスナップオフが、L4 では首位です。
平均のANOMとS/N比のANOVAが食い違ったら、生データの標準偏差まで戻ってください。食い違いは「平均より、ばらつきのほうへ乗っている」というサインです。
ステンシル印刷でバンプ体積を動かしたいなら、まず開口面積です。スキージ力とスナップオフで取り返せる幅は、この条件では数%でした。転写効率をエリアレシオの関数として測った報告2も、角と丸を揃えたうえで同じ結論へ着いています。
寄与率を報告するときは、水準の取り方を一緒に書いてください。ここでは と を選んだ時点で 58 対 35 が決まっていました。受け取る側が同じ計算をできるだけの情報を残してください。
2 水準の直交表では、「因子が同じ量を経由している」ことを検出できません。独立かどうかは、実験より、物理量の書き下しまで戻って確かめてください。
因子の側の二重計上を潰しても、応答を 1 つに絞った瞬間に別の穴が開きます。この記事の実験は、応答がバンプ体積 1 つだけです。一様計画で 6 因子を 18 試行へ落とした EM 寿命の最適化7では、寿命という 1 つの応答だけを追ったために、たった 4 件の初期故障が回帰誤差 120% を作りました。因子を疑ったら、次は応答を疑う番です。