熱サイクル試験の低温側、−40 °C。そこで、はんだは止まっているのでしょうか。
止まっているなら、低温での保持時間は解析の答えと無関係です。無関係なら、弾塑性だけの解析で足ります。答えは、室温へ放置した半田線を 1 時間ながめれば出ます。
室温で、自分の重さだけで 54.6% 伸びる
抽象的な話から入るより、1 つの測定から始めます。
半田線の室温クリープを自重だけで測った 2020 年の報告1は、63Sn-37Pb の半田線(径 1 mm と 2 mm)をコイル状に巻き、室温 23 °C で 60 分ぶら下げただけの実験です。荷重は自分の重さだけ。治具も簡単なもの。
結果がこれです。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 最大の鉛直変位 | 76.5 mm |
| いちばん下のリングのひずみ(5 分時点) | 0.151 |
| 同(60 分時点) | 0.546 |
60 分で 54.6% 伸びています。リング 10 個のコイルは 5 個のコイルより大きく垂れ、同じコイルの中では下のリングほど大きく垂れた——荷重が大きい側ほど速いという、クリープそのものの振る舞いです。
平均のひずみ速度も出せます。5 分から 60 分までの 3,300 秒で 0.395 のひずみが進んだので
室温、自重のみで /s。(この換算はこの記事の計算です。)荷重は自分の重さだけ。そのままにしておくだけで、この速さで動いています。
相同温度が、要否を切り分ける
なぜ室温で動くのか。切り分けの基準は相同温度(homologous temperature)です。室温クリープを自重で測った報告1の 23 °C が、はんだにとってどのあたりなのかを数字にします。
が使用温度、 が融点。どちらもケルビン。基準は 1 本で、 が 0.3〜0.4 を超えたらクリープを考慮に入れることになります。
標準の加速熱サイクル試験の温度範囲は 233 K 〜 398 K(−40 °C 〜 125 °C)。SAC 系はんだの融点は 約 490 K(217 °C)。
| 温度 | |
|---|---|
| −40 °C(233 K) | 0.48 |
| 25 °C(298 K) | 0.61 |
| 100 °C(373 K) | 0.76 |
| 125 °C(398 K) | 0.81 |
最も冷たいところですら 0.48 で、しきい値の 0.4 を上回っています。
まで下がるのは 196 K、つまり −77 °C。標準の試験条件は、その手前で折り返します。
熱サイクルのあいだ、はんだはずっとクリープしています。高温保持中も、低温保持中もです。
比較のために、同じ計算を銅でやります。 = 1358 K なので 125 °C で = 0.29。銅が = 0.4 へ届くのは 270 °C です。同じパッケージの中で、はんだだけが別の温度域にいます。
弾塑性だけの解析が、どこで的を外すか
弾塑性解析(時間依存性なし)は、応力が降伏強度を超えたときだけ塑性ひずみが出るという枠組みです。クリープは降伏強度以下でも時間とともに進むので、この枠組みでは扱えません。
帰結が 3 つ。
- 保持時間の長さに無反応。15 分保持でも 60 分保持でも同じ答えを返します
- 一定ひずみで保持したときの応力低下が、結果から抜け落ちます
- 低温側も同じ結果になります。 なら、そこでも変形は進みます
肝心なのが、この誤差の向きです。クリープを省くと応力を高く、ひずみを低く見積もることになります。寿命予測にひずみやエネルギーを使っているなら、弾塑性だけの結果は寿命を長い側へ出します。安全側へ傾くなら気づけますが、こちらは黙って通ります。
実務での切り分けは簡単です。 を、サイクルの下限温度で計算する。0.4 を超えていたら、クリープ無しの解析はそこで用途を失います。
保持時間が寿命を動かすことは、室温でも測られている
「保持時間に無反応」のどこが問題なのか。実物のほうは保持時間へ反応します。それも室温で。
SAC305 の個々の接合部を室温でクリープ・疲労させた 2022 年の報告2が、その条件を振っています。熱サイクルはクリープと疲労が同時に働く現象なので、両方の寄与を切り分けたい——というのが出発点です。
- 応力振幅 16、20、24 MPa の 3 水準
- 保持時間 0、10、60、180 秒の 4 水準
- 各条件の疲労寿命を 2 パラメータ Weibull でまとめ、応力振幅と保持時間の関数として信頼性モデルを作る
保持時間を独立変数に立てているところが要点です。保持時間が寿命を動かすからこそ、この軸を振る価値が出ます。試験温度は室温です。高温保持に限った話とは別物になります。
弾塑性だけの解析は、この 4 水準すべてに同じ答えを返します。実験のほうは 4 通りに割れる。その差が、モデルに欠けているぶんです。
3 つの構成則は、守備範囲が別
主な構成則を、使い分けの観点で書き出します。
| モデル | 何を表すか | 時間依存性 | クリープの段階 |
|---|---|---|---|
| Chaboche | 繰り返し塑性(cyclic plasticity) | 無し | — |
| Garofalo-Arrhenius(双曲線正弦) | クリープのみ | 有り | 第2段(定常)のみ |
| Anand | 塑性とクリープを統一 | 有り | 第1・第2・第3段すべて |
繰り返し塑性と繰り返し粘塑性の構成式を体系化した 1989 年の論文90015-6)が Chaboche 側の出どころで、高温での速度依存変形の構成式を与えた 1982 年の論文3が Anand 側の出どころです。
熱サイクルが一定に繰り返される条件なら Chaboche が安定して正確ですが、時間依存の変形機構を取り込む枠が無いのが限界になります。
Chaboche:降伏面の中心が動く
Chaboche は von Mises 降伏基準を使います。
が偏差応力テンソル、 が偏差背応力テンソルで、降伏面の中心を表します。 は降伏面の初期の大きさで、。 は一軸引張での初期降伏応力です。
Chaboche の特徴が、背応力を 個の独立成分の和として表すことです。
が硬化の速さ、 が飽和の速さ。成分を複数持たせると、速く飽和する成分と、ゆっくり飽和する成分を同居させられます。だから 1 サイクル目と 10 サイクル目で形が動くヒステリシスを表せる。
が「降伏面の大きさ」、 が「降伏面の位置」。等方硬化は大きさを、移動硬化は位置を動かします。Chaboche は後者を精緻にしたモデルです。
Garofalo-Arrhenius:低応力でべき乗、高応力で指数
この式の値打ちは、2 つの機構を 1 本の関数で繋ぐところにあります。極限を取ると形が出ます。
低応力の極限 では なので、
応力の 乗に比例する Norton 則が出てきます。逆に高応力の極限 では なので、
応力が指数の肩へ移ります。2 つの近似が入れ替わるのは 、つまり のとき。
は材料の強度より、近似の乗り換え点です。実務で効いてくるのはここからで、 が試験で振る応力の範囲の中にあると、どちらの単純化も手を離れます。上の 2022 年の報告が振った応力振幅は 16〜24 MPa、SAC305 接合部のせん断クリープから Anand の 9 定数を抽出した 2020 年の報告4が振ったせん断応力は 5〜15 MPa。錫系はんだの遷移応力は、この帯の中に落ちます。
だから は、・・ と同じ出典から 1 組で取ることになります。片方だけ別の文献から拾うと、指数領域の入口がずれて、高応力側で答えが桁で動きます。
対象はあくまで第2段クリープです。第1段(遷移)と第3段(加速)は、この式に入っていません。
Anand:降伏条件そのものを省く
Anand モデルの特徴のうち、1 つめが決定的です。明示的な降伏条件も、負荷/除荷の切り分け基準も省いた形になっています。
弾塑性モデルは「いま降伏しているか」を毎ステップ切り分けます。Anand は塑性とクリープを 1 つの枠組みへまとめるので、その切り分けを省けます。粘塑性流動はゼロを超える任意の応力に対して生じる——降伏条件とは「ここから先は流れる」という境目のことなので、境目がゼロにあるなら、切り分ける対象そのものが消えます。
内部変数の発展式もたどっておきます。降伏面の代わりに動くのが変形抵抗 です。
が、そのひずみ速度と温度で落ち着く飽和値。 が正なら硬化、負なら軟化します。 が を追いかけて、追いつけば変化が止まる。Chaboche の背応力 が「降伏面がどこにあるか」を運んでいたのに対し、Anand の は「いまどれだけ流れにくいか」を運びます。降伏面という幾何が消えて、スカラー 1 つになっている。
適用範囲です。1982 年の原論文3が相手にしたのは高温での速度依存変形、目安として融点の 0.5〜0.8 倍の領域でした。SAC の = 490 K で換算します。
| 温度 | ||
|---|---|---|
| 想定範囲の下限 | 0.5 | −28 °C |
| 想定範囲の上限 | 0.8 | 119 °C |
| 標準 ATC の下限 | 0.48 | −40 °C |
| 標準 ATC の上限 | 0.81 | 125 °C |
標準の熱サイクル試験は、想定範囲を上下ともわずかに超えています。解析を打ち切る理由としては弱いものの、論文の数字を引くときに添えておく値打ちのある事実です。
9 個の定数は、測定条件の記録
ここが、この記事でいちばん持ち帰ってほしいところです。
SAC305 接合部のせん断クリープから Anand の 9 定数を抽出した 2020 年の報告4は、抽出の手順そのものを書いています。径 750 µm の SAC305 接合部を 3 × 3 の配列で FR-4 基板 2 枚のあいだにリフローし、25・50・75・100 °C の 4 温度、5・10・15 MPa の 3 応力でせん断クリープ試験を回して、そこから 9 定数を取り出す。予測曲線と実測がよく一致した、という結論です。
この一文が、定数の素性を全部語っています。
- 9 定数は、その 4 温度 3 応力の窓の中で当てはめた結果です。標準の熱サイクルは 125 °C まで上がり、応力も 15 MPa を超えます。窓の外へ出た領域は、外挿になります
- 試験体は FR-4 のサンドイッチ構造、接合径 750 µm。形も寸法も、自分の製品とは別のもの
もう 1 段あります。定数は、時間とともに動きます。
老化の効果を取り込むために Anand の構成式を改訂した 2013 年の検討5は、問題設定をこう書いています——従来の有限要素予測が立っているのは、材料の老化を素通りする構成式と破壊モデルの上。だから、劇的な老化現象を示すリードフリー SAC 合金では、計算に大きな誤差が出る。
その検証がこれです。SAC305 の試料を 100 °C で 0〜6 か月のあいだ老化させ、3 つのひずみ速度(0.001、0.0001、0.00001 /s)と 5 つの温度(25、50、75、100、125 °C)で応力ひずみ試験を回す。水冷急冷材とリフロー材という、微細組織の別な 2 種類でそれぞれ測る。9 定数を、熱履歴とともに変化するパラメータとして書き直す。
「9 個の定数」の 9 個すべてが、老化で動く量だったということです。
だから、こう言えます。Anand の 9 定数は材料の物性値より、「どの試料を、どの温度と応力の窓で、どれだけ老化させた状態で測ったか」の記録です。出典を替えれば値が動くのは当然で、問題は動くことより、出典を書かずに数字だけ引き写すことのほうにあります。
Darveaux:ひずみよりエネルギー、そして 2 段階
構成則が返すのは 1 サイクルのあいだに何が起きたかまでです。それを寿命の数字へ変えるのが、次の式の仕事になります。
フリップチップ実装の疲労解析に熱応力シミュレーションと Coffin-Manson 則を組み合わせた 1991 年の検討6と、シミュレーション手法が亀裂進展の相関と寿命予測へ与える影響を追った 2002 年の論文7が、その代表です。
駆動力として使うのは、ひずみそのものより体積平均した非弾性(粘塑性)ひずみエネルギー密度 のほう。 は、1 熱サイクルあたりに、塑性変形とクリープによってはんだ接合内で散逸したエネルギーです。
破壊を 2 段階に割ります。
| 段階 | 記号 |
|---|---|
| 亀裂発生 | |
| 亀裂進展 |
発生と進展を分けていることが、この手法の本質です。ピークの高さは発生を、広がりは進展を支配する。両方を表すには、数字が 2 つ要ります。
「体積平均」も同じ理由です。要素サイズ依存性を消すため、と紹介されることが多いのですが、物理的には、亀裂が進む面に沿って平均を取ることに意味があります。
2002 年の論文の題が、そのまま警告になっています——シミュレーション手法が、亀裂進展の相関と寿命予測へ影響する。同じ を使っても、要素サイズ・平均の取り方・サイクル数の数え方で答えが動く。構成則の定数が出典依存なら、その出力である も出典依存で、 を食う寿命式の係数もまた出典依存になります。
シリコンには主応力、はんだには von Mises
材料ごとに取り出す量が別、という切り分けもたどっておきます。2 次元の主応力は
脆性材料は主応力(引張)で割れ、延性材料は von Mises(せん断)で降伏します。シリコンの解析結果を von Mises で追っていると、引張が支配的な場所が視野から漏れます。逆にはんだを主応力で追うと、静水圧成分に引きずられる。
同じ FEM の結果ファイルから、材料ごとに別の量を取り出すことになります。はんだの寿命を で相関づける手法7が使うのは、そのどちらとも別の散逸エネルギーです。取り出す量は 3 つあって、材料と目的で選びます。
実務での使い方
サイクルの下限温度で を計算してください。0.4 を超えていたら、クリープ無しの解析はそこで用途を失います。室温 23 °C・自重だけで 60 分に 54.6% 伸びた測定1が、その下限側で何が起きているかを示しています。SAC でしきい値を下回るのは −77 °C まで下げたときです。
クリープを省いた誤差は、楽観側へ傾きます。応力を高く、ひずみを低く返すので、寿命を長い側へ見せます。
保持時間を振った試験があるなら、解析もそれへ反応するか確かめてください。室温でも応力振幅 16〜24 MPa・保持 0〜180 秒で寿命が動くことが測られています。弾塑性だけの解析は、その 4 水準へ同じ答えを返します。
モデルは守備範囲で選んでください。繰り返し塑性なら Chaboche、定常クリープなら双曲線正弦、全域なら Anand。 は強度より、べき乗則と指数則の乗り換え点です。
Anand の想定範囲は です。標準の熱サイクル試験は、上下ともわずかに外側へ出ています。
Anand の 9 定数は、出典と測定窓と老化状態をセットで引いてください。抽出は 25〜100 °C・5〜15 MPa の窓で行われ、その 9 定数は 100 °C で 6 か月の老化によって動きます。物性値の表から引く数字とは、性質が別です。
寿命予測は、亀裂発生と亀裂進展を分けてください。両方を表すには、指標が 2 つ要ります。
シリコンは主応力、はんだは von Mises、寿命は散逸エネルギー。同じ結果ファイルから、目的ごとに別の量を取り出してください。
構成則が返すのは、1 サイクルのあいだに何が起きたかまでです。その を寿命の数字へ変えるのは別の式の仕事で、そこでもう一段の散らばりが乗ります。入力側の 9 定数が測定窓と老化状態に依存するなら、その出力を食う寿命式の係数も同じだけ依存します。寿命モデルを精度で選ぶという習慣が成り立ちにくいのは、ここから来ています。要求する入力を自分で検証できるか——選定基準がそちらへ移る理由は、この記事の定数の素性からまっすぐつながっています。