熱サイクル試験の最中に組立体の反りをモニタしていたら、サイクルを重ねるごとに反りが小さくなっていきました。良い兆候でしょうか、悪い兆候でしょうか。
鉛フリーはんだバンプの WLCSP を基板へ実装し、熱サイクル下の時間・温度依存の非線形解析を行った 2002 年の論文1が、この問題へ数字で答えています。1 サイクル 3600 秒、各サイクルの同じ位相で切り出した値を書き出します。
| 時刻 (s) | 組立体の最大たわみ (mm) | 隅はんだの最大クリープひずみ | 隅はんだの最大相当応力 (MPa) |
|---|---|---|---|
| 588 | 0.028 | 0.050 | 15.01 |
| 4,188 | 0.022 | 0.088 | 12.39 |
| 7,788 | 0.021 | 0.098 | 11.97 |
| 11,388 | 0.020 | 0.105 | 11.76 |
| 14,988 | 0.0196 | 0.11 | 11.76 |
たわみは 30% 減り、クリープひずみは 2.2 倍に増えています。
たわみだけを追っていたら「良くなっている」と受け取ります。逆です。
筋は端的です。はんだ接合の変形が進んだ結果、チップと基板のあいだで拘束が切れた。
CTE 差による変形をチップと基板に伝えていたのは、はんだです。そのはんだが降伏して滑るようになると、変形はチップと基板より、はんだの中だけで起きる。外から見た反りは減り、内部の損傷は積み上がります。
反りの減少は、拘束の喪失です。
反りが「改善」して浮かぶときに何を追うか
組立体の反りは、3つの要素の直列バネで決まります。チップ・はんだ・基板。
はんだが硬いうちは、CTE 差がそのまま曲げモーメントになってチップと基板を反らせます。反りが大きい=はんだがまだ力を伝えている。
はんだが軟化すると、そこで滑りが起きて、モーメントが伝わらなくなる。反りが小さい=はんだの中で吸収されている。
だから反りの時間変化は、はんだの実効剛性の指標として受け取る量です。絶対値より変化の向きのほうに意味があります。
- 反りが一定 → はんだの剛性が保たれている
- 反りが減っていく → はんだが軟化・損傷している
- 反りが急に減った → どこかで剥離した可能性
同じ数字を、応力側から当たると裏が取れます。応力は 15.01 → 11.76 MPa へ 22% 下がっています。応力が下がってひずみが増えるのは、応力緩和が起きているということです。反りとひずみと応力の3つは同じ現象を3 方向から測った値で、片方だけを合否の根拠に使うと逆の結論が出ます。
実務では、熱サイクル中の反りをモニタしている場合、減少トレンドを「安定した」と結論づける手前で止まってください。
3 つの数字は、1 つの比に畳める
反り・ひずみ・応力が同じ現象の 3 つの顔だということは、同じ解析1の数字に割り算を 1 つ当てれば確かめられます。
ある時刻の最大相当応力を (MPa)、その時刻までに溜まった最大クリープひずみを (無次元)として、比を取ります。
これは弾性剛性とは別の量です。「そこまでどれだけ流れたか」に対して「まだどれだけ応力を抱えているか」の比で、大きいほど「まだ流れきらずに応力を抱えている」、小さいほど「流れきって応力を手放した」ことを意味します。表の両端を入れます。
はんだ側の指標は 36% まで落ちています。ところが、たわみは 、70% までの低下にとどまります。
この食い違いが、この記事でいちばん実務的なところです。組立体はチップ・はんだ・基板の直列バネなので、はんだ 1 つが 3 分の 1 になっても、全体の反りは 3 分の 1 の手前で止まります。裏返すと、外へ出てきた 30% の減少は、はんだの中では 64% の変化に対応している。
反りは鈍い計器です。小さく動いたように映ったら、中では大きく動いています。
何サイクル回せば足りるか
応力とクリープひずみは、1サイクル目のあとでほぼ安定します。ただし収束は途中です。ひずみの増分を追います。
- 588 → 4,188 s:+78%
- 4,188 → 7,788 s:+11%
- 7,788 → 11,388 s:+7%
- 11,388 → 14,988 s:+4.7%
収束するのは 3 サイクル目のあとです。1 サイクルだけの解析は 78% の増分を取りこぼし、2 サイクルでもまだ 11% を取りこぼします。
3サイクルが最低ライン、という数字がここから出ます。
3 種類のはんだが、正反対の顔を向ける
この論文1は、96.5Sn-3.5Ag と 100In という 2 つの鉛フリー合金を比べ、62Sn-36Pb-2Ag を基準として添えています。3 つとも Garofalo-Arrhenius の定常クリープ則に従うものとして解き、隅の接合部のせん断応力とせん断クリープひずみのヒステリシスループを出している。そこから読んだ変動幅です。
| 合金 | クリープせん断ひずみ範囲 | せん断応力範囲 |
|---|---|---|
| 62Sn-36Pb-2Ag | 1% | 28 MPa |
| 96.5Sn-3.5Ag | 0.6% | 31 MPa |
| 100In | 6.2% | 3 MPa |
インジウムはひずみ範囲が 10 倍、応力範囲が 10 分の 1。
これが乗ります。寿命予測にどの損傷量を使うかで、順位が完全に逆転します。
- ひずみ範囲を使う(Coffin-Manson 系)→ インジウムが最悪
- 応力範囲を使う → インジウムが最良
- エネルギー(応力×ひずみ)を使う → 中間
この解析そのものは、寿命の数字の手前で止まっています。クリープ挙動を追うところまでが守備範囲です。その慎重さには理由があって、この 3 つを 1 つの寿命式へ同時に流し込む操作のほうが手前で破綻するからです。
96.5Sn3.5Ag と 62Sn36Pb2Ag の差は小さい。ひずみ範囲で 0.6% 対 1%、応力範囲で 31 対 28 MPa。鉛フリー化の判断材料としては、インジウムとの差に比べれば誤差の範囲です。
どの損傷量を使うかは、寿命式のほうが左右していた
ひずみ範囲と応力範囲のどちらとも別、というのが答えでした。WLCSP に合わせて較正された寿命式があります。
き裂進展の相関と寿命予測をシミュレーション手法の側から追った Darveaux の論文3と、その前身にあたる 1991 年の検討4が与えるモデルは、駆動量に体積平均した非弾性ひずみエネルギー密度 を取り、き裂の発生と進展を分けて書きます。
が初期き裂までのサイクル数、 が特性き裂長さ。定数は 、、、 で、WLCSP に基づくと書かれています。
この記事が相手にしている構造そのもので合わせた係数です。クリープ解析が寿命予測を避けた場所に、WLCSP 用の定数だけが用意されている。
そこで 3 合金を の側から当たり直します。ヒステリシスループの面積そのものは手元にありませんが、ループを外接する長方形の面積 なら上の表から出せます。
| 合金 | (MPa) | (MJ/m³) | |
|---|---|---|---|
| 62Sn-36Pb-2Ag | 0.010 | 28 | 0.28 |
| 96.5Sn-3.5Ag | 0.006 | 31 | 0.186 |
| 100In | 0.062 | 3 | 0.186 |
96.5Sn3.5Ag と 100In が、小数第 3 位まで一致します。
ひずみ範囲では 10 倍差、応力範囲では 10 分の 1、エネルギーでは同じ。3 つ目の軸で、2 つの合金が同じ場所へ来ました。「どちらが悪いか」という問題自体が、指標を確定して初めて答えを持つということです。
の値で比を出しておきます。比なので の単位から自由です。
き裂の発生が 2 倍遅く、進展が 35% 遅い。鉛フリー化の差は、ひずみ範囲で見た「0.6% 対 1%」より、エネルギーで見たほうが素直に表れます。
ただし断りが 3 つ要ります。
- はループの外接長方形です。真の はその内側にあります。ループ形が 3 合金で似ていれば比は保たれますが、そこは確かめていません
- 〜 は SAC 系の WLCSP で合わせた定数です。インジウムや SnPb へそのまま当てる使い方はできません。ここで追っているのは順位が入れ替わるかどうかだけ
- Darveaux は特性き裂長さ を要求します。その を手元で測れるかどうかが別の問題として残るので、 と進展寿命を足して絶対値まで求めるところは、この記事では扱いません
それでも、順位の話は決着します。ひずみ範囲か応力範囲かで迷っていたところに、WLCSP で較正された寿命式がどちらでもなくエネルギーを要求している。迷いは、使う寿命式を先に確定していなかったことから来ていました。
定数表を、意味が分かる形へほどく
使われているのは Garofalo-Arrhenius の定常クリープ則です。定数の出どころは、錫系はんだ接合の構成関係をせん断クリープ試験から与えた 1992 年の論文5と、その 1994 年の版90180-5)です。
が定常クリープせん断ひずみ、 が温度依存のせん断弾性率、 が絶対温度、 がべき乗則が破綻する応力水準を左右する定数、 がせん断応力、 が応力指数、 が活性化エネルギー、 が Boltzmann 定数( eV/K)。
せん断クリープ試験から求められた、単一双曲線正弦の形が実用形です。
定数はこうなっています。
| 合金 | (eV) | (1/s) | (psi) | |
|---|---|---|---|---|
| 62Sn-36Pb-2Ag | 3.3 | 0.548 | ||
| 96.5Sn-3.5Ag | 5.5 | 0.500 | ||
| 100In | 5.0 | 0.720 |
は絶対温度。表のまま眺めるより、数値を代入したほうが早い。
| 合金 | (1/s) | (psi) | (MPa) |
|---|---|---|---|
| 62Sn-36Pb-2Ag | 458 | 1,150 | 7.9 |
| 96.5Sn-3.5Ag | 22 | 1,532 | 10.6 |
| 100In | 58,800 | 71 | 0.49 |
ここで初めて表に出る事実が 2 つあります。
1つめ。インジウムは活性化エネルギーが最も高い(0.72 eV)のに、最も速くクリープします。
が大きい=熱的に安定、という受け取り方は、ここで裏切られます。 が 2,700 倍高く、 が 22 分の 1 だからです。 だけで材料を比較すると、順位が逆になります。
2つめ。 は「べき乗則が壊れる応力」です。
は ならほぼ線形、 で指数関数的に立ち上がります。だから はその材料がどの応力から急激に流れ始めるかを表します。
シミュレーションで出た応力範囲と比べます。
- 96.5Sn3.5Ag: = 10.6 MPa に対して応力範囲 31 MPa → の約 3 倍
- 100In: = 0.49 MPa に対して応力範囲 3 MPa → の約 6 倍
インジウムは の 6 倍の応力で使われています。 の指数領域の深いところなので、ひずみ範囲が桁違いになるのは当然でした。
が順位の入れ替わりを作ります。62Sn36Pb2Ag は = 3.3、96.5Sn3.5Ag は 5.5。 が小さいほど応力への感度が鈍い。だから低応力側では 62Sn36Pb2Ag のほうが速く、高応力側では差が縮まります。
実測された挙動 —— 62Sn36Pb2Ag のクリープ速度が 96.5Sn3.5Ag より大きく、とくに高温・低応力でそうなる —— は、この の差から直接出ています。
という値には、もう一段の意味があります。クリープ変形マップでは = 5〜7 が転位クリープの帯で、96.5Sn3.5Ag の 5.5 も 100In の 5.0 もその中に入りますが、62Sn36Pb2Ag の 3.3 だけが帯の外です。数値が別という話より、支配している機構が別である可能性のほうが大きいです。共晶 SnPb の係数をリードフリーへ流用する前に止まる理由は、表の数字より機構の側にあります。
von Mises 則に従うなら、単軸形にも書けます。
これは ANSYS の陰的クリープモデル(TBOPT = 8)の入力形式そのままです。表の値をそのまま流し込めます。
なぜ WLCSP でクリープが問題になるのか
前提を最後に添えます。
WLCSP(fan-in ウェーハレベルパッケージ)は、チップ上の細ピッチ周辺パッドを、Cu の RDL でもっと粗いピッチのエリアアレイへ振り直し、背の高いはんだ接合を付けたものです。
用途の窓がはっきりしています。ピン数 200 以下、ダイサイズ 6 × 6 mm 以下、低コスト・薄型・大量生産。携帯機器や小型カメラのような、外形が先に決まっている製品が主戦場です。
利点は、基板側への要求が緩むことと、アンダーフィルが不要になりうること。
それが、クリープが問題になる理由でもあります。
アンダーフィルが無く、シリコンチップと FR-4 エポキシガラス基板の熱膨張差が非常に大きい。力を分散させるものが何も無いので、CTE 差の全部がはんだ接合に来ます。
アンダーフィルには「熱膨張差を緩和する」「力を分散する」という 2 つの役目がありますが、WLCSP は 2 つとも手放しています。
解析の条件1も具体的でした。チップ 9 × 9 × 0.51 mm、周辺パッド 121 個(0.06 × 0.06 mm、間隔 0.1 mm)を RDL で径 0.3 mm・0.75 mm ピッチのエリアアレイへ再配置。FR-4 基板は厚さ 1.575 mm、Cu パッド 0.018 mm、はんだ接合高さ 0.1524 mm。
もう1つ。RDL で振り直しても、多くの場合は基板側に 1〜2 層、時には 3〜4 層のマイクロビアビルドアップ層が必要になります。「PCB への要求が緩む」は、ビルドアップまで省けるという意味とは別です。
アンダーフィル無しで済んでいる理由は、バンプが大きいから
では、なぜアンダーフィル無しで成り立つのか。答えは、はんだの寸法そのものにあります。
CSP をフリップチップから隔てているのは、バンプとバンプピッチの両方が大きいことです。上の解析のはんだボールは径 0.3 mm、接合高さ 0.1524 mm。フリップチップのスタンドオフは、この記事では典型値として 0.07 mm を仮定します(出典の値とは別の、こちらの仮定です)。
働き方は熱サイクルのせん断ひずみの式が示すとおりで、スタンドオフが分母に来ます。
式を 2 段で組みます。温度が 動くと、チップと基板は膨張率の差だけ相対的にずれます。ずれは中立点からの距離に比例するので、DNP の位置にある接合部が受ける水平方向の相対変位 (mm)は
アンダーフィルが無ければ、この をはんだ 1 本が丸ごと受け持ちます。せん断ひずみは「ずれた量 ÷ 高さ」なので
分子は設計で決まっていて、分母だけがバンプの寸法です。だから同じチップ・同じ基板・同じ温度プロファイルなら、ひずみの比はスタンドオフの逆比そのものになります。
フリップチップのスタンドオフを上で仮定した 0.07 mm とすると、この WLCSP が 0.1524 mm です。
同じ熱膨張差、同じ DNP なら、せん断ひずみは 2.2 分の 1。アンダーフィルを省けるのは、バンプの背の高さで先に払っているからです。
この取引は、そのまま設計則になっています。バンプとバンプピッチは、PWB への影響に留意しつつ、常にできるだけ大きくするのが有利。バンプとバンプピッチが大きいほど、与えられたダイサイズに収容できる I/O は少なくなる。
ここで用途の窓が腑に落ちます。ピン数 200 以下、ダイ 6 × 6 mm 以下。エリアアレイで 200 個を 6 mm 角へ収めるなら、ピッチは
0.42 mm。CSP の下限 0.2 mm のちょうど 2 倍です。幾何的にはまだ倍の余裕があるのに、そこで止まっている。
止めているのは配線とは別のものです。アンダーフィル無しで熱サイクルを通すために、背の高いバンプが要るという条件です。「200 ピン」は、信頼性の条件が I/O 数に化けたものでした。
破壊位置についても同じことが言えます。き裂はパッケージ中心から最も遠い隅の接合部で発生し、応力が続くと進展する。上の解析1が隅の接合部のヒステリシスループを解析の中心へ据えているのも、そこが最初に壊れる場所だからです。
電気的には、RDL は別の武器になる
構造の話ばかりだと片手落ちなので、設計側の利点も添えます。この WLCSP の解析1が対象にしたのは、周辺パッド 121 個を RDL でエリアアレイへ振り直した構造でした。その振り直しには、寸法以外の使い道があります。
WLCSP の RDL は、電源とグランドをどこへ落とすかを自由に決められます。
- 電源とグランドの大半をダイ中央側にエリアアレイで配置して、電圧降下を最小化する
- 敏感な I/O 信号バンプの周囲に、電源とグランドのバンプを追加して、同時スイッチングノイズとグランドバウンスを抑える
再配置は、寸法の都合だけでなく電源設計の手段でもあります。すでにそこにある層を、別の目的へ使い回すという枠です。
実務での使い方
熱サイクル中の反りが減っていくのを「安定した」と受け取る手前で止まってください。拘束が失われている場合があります。応力とひずみの向きで裏を取ってください。
クリープ解析は最低3サイクル回してください。1サイクルでは 78% の増分を取りこぼします。
はんだの順位は、どの損傷量を使うかで逆転します。WLCSP で較正された寿命式が要求するのはエネルギー密度です。ひずみ範囲と応力範囲では 96.5Sn3.5Ag と 100In の順位が逆転しますが、エネルギーでは同点(0.186 MJ/m³)になります。
材料を比べる前に、使う寿命式を確定してください。順位が指標で動くなら、それは材料の問題より、指標を確定する手前にある問題です。
活性化エネルギーは、単独で使うと材料の順位を取り違えます。インジウムは が最大で、クリープが最速です。
(べき乗則の破綻応力)と、実際に働く応力を比べてください。実応力が の数倍なら、その材料は指数領域で使われています。
WLCSP はアンダーフィルの 2 つの役目を両方とも捨てています。熱膨張差の緩和も、力の分散も無い前提で設計してください。
そのぶんをバンプの背の高さで払っています。スタンドオフを削る変更(薄型化、細ピッチ化)は、アンダーフィルを省けるという前提のほうを崩します。ピン数の上限は、配線より、ここから来ています。
低温側でも、はんだは動き続けます。室温 23 °C・自重だけで 60 分に 54.6% 伸びた測定6や、室温での保持時間が寿命を動かすことを応力振幅 16〜24 MPa・保持 0〜180 秒で測った報告7があります。サイクルの低温側を「休止区間」と見積もった設計は、そこで前提を落とします。
を大きく取ればひずみは下がる——ここまではそのとおりです。ところが、 に触らずに寿命を一桁動かす道も残っています。この記事の は「はんだ 1 本が変位を全部受け持つ」前提の式ですが、受け持つ相手を増やせば分子のほうが減ります。 を稼ぐ設計が薄型化と正面から衝突している以上、次に手が伸びるのはそちらの側です。