SemiMapサイト内検索

VOL.04 先端パッケージングの寸法 第 12 回 / 全 42 回

六面モールド PLCSP:スタンドオフ 3 割減で寿命 2.8 倍

はんだボールの背を低くすると、式の上では接合寿命は縮むはずですが、六面モールドでは逆に延びました。樹脂がボールの根元を包んで、はんだだけが変位を受け持つという前提が変わったためで、壊れる場所もチップ側から基板側へ移っています。

25 分 応用 式 10 図 5 出典 6

この回の目次(9 節)
  1. §1 破壊の起点が、反対側へ移っている
  2. §2 ピーク値はむしろ上がっている
  3. §3 形状パラメータの差は、テールで効く
  4. §4 「どちらが良いか」だけを当てる検定
  5. §5 その検定は、形状パラメータが揃っていることを前提にしている
  6. §6 電気的な合否は、物理的な損傷に遅れる
  7. §7 隅のボールは、最初から犠牲要員
  8. §8 解析条件
  9. §9 実務での使い方

この回で示すこと

  1. スタンドオフ 30% 減で、特性寿命は 368 から 1037 サイクルへ 2.8 倍になった。
  2. 樹脂が根元 50 µm を包み、はんだだけが変位を受け持つ前提が崩れて、破壊の起点がチップ側から基板側へ移った。
  3. 改善の倍率は分布のどこで比べるかで 2.8 倍から 6.4 倍まで動き、形状パラメータ 5.53 対 3.34 では平均寿命の検定の前提が外れる。
特性寿命の改善(368 → 1037 サイクル) 2.8 倍
分布の下側で比べた改善 6.4 倍
六面モールドのスタンドオフ 103 µm

はんだボールのスタンドオフを 148 µm から 103 µm へ、30% 削る変更が来ました。熱サイクル寿命は何倍になるでしょうか。

教科書どおりに答えるなら、悪くなります。せん断ひずみはスタンドオフに反比例するので、分母が 30% 減ればひずみは 43% 増えるはずです。

実測は 368 サイクルから 1,037 サイクルへ、2.8 倍でした。

六面モールドの PLCSP と、六面モールドを省いた通常の PLCSP を同じ条件で熱サイクルにかけた 2021 年の報告1があります。同じチップ、同じはんだ(SAC)、同じ基板。動かしたのはパッケージを六面モールドしたかどうかの 1 点だけ。−55 ↔ 125 °C、1 サイクル 50 分。結果はワイブル分布へ載せられ、90% 信頼度での真の Weibull 傾きと真の特性寿命、そして2 条件のはんだ接合平均寿命の比とその信頼度まで出されています。

平均はんだボール高さ特性寿命Weibull 形状パラメータ
通常の PLCSP148 µm368 サイクル3.34
六面モールド PLCSP103 µm1,037 サイクル5.53

スタンドオフが 30% 低いほうが、2.8 倍長持ちしています。

熱サイクルのせん断ひずみは、おおよそ

で、 がスタンドオフ高さ。分母が 30% 減れば、ひずみは 43% 増えるはずです。逆に出ています。

図 01
A. 通常 PLCSP:割れはチップ側 シリコンチップ 基板 割れはチップ側 148 µm スタンドオフ 148 µm 368 サイクル / β = 3.34 B. 六面モールド:割れは基板側 EMC シリコンチップ 基板 割れは基板側へ移動 EMC に埋まる 上側 50 µm 自由長 53 µm 103 µm スタンドオフ 103 µm(30% 低い) 1,037 サイクル / β = 5.53 注:累積クリープひずみの最大値は、六面モールドのほうが大きい。それでも寿命は長い。 最大値が出るのは隅のごく小さな体積だけで、接合部の体積の大半では通常品よりはるかに小さいため。 C. 分布が締まった効果は、テールほど大きい 通常 六面モールド θ(63.2%) 368 1,037 2.8倍 B10(10%) 188 690 3.7倍 B0.1(0.1%) 47 297 6.4倍 平均寿命の比較検定では M1/M2 = 2.9、P = 0.999(故障数 15 対 48、六面モールド側は打ち切り)。
六面モールドはスタンドオフを 148 µm から 103 µm へ削るのに、寿命は 368 から 1,037 サイクルへ伸びます。隅の接合の上側 50 µm を EMC が包み、はんだの自由長が 53 µm になって、割れの起点がチップ側から基板側へ移るからです。形状パラメータも 3.34 から 5.53 へ締まるので、働きはテールほど大きく、B0.1 では 6.4 倍になります。

破壊の起点が、反対側へ移っている

同じ報告1は、破壊位置と破壊モードを示し、非線形・時間温度依存の 3 次元有限要素シミュレーションを試験結果と突き合わせています。そのシミュレーションが答えを持っていました。累積クリープひずみの最大点が、上下で入れ替わっています。

  • 通常の PLCSP:チップとバルクはんだの界面が最大。実物の破断面も同じで、チップ側で割れ、基板側には一切割れが無い
  • 六面モールド PLCSP:基板とバルクはんだの界面が最大

理由が2つ挙がっています。

  1. 六面モールドされたシリコンチップとバルクはんだのあいだの、局所的な熱膨張差が小さい
  2. 隅のはんだ接合の上側 約 50 µm が EMC に埋まっている

2 番が効いています。上側 50 µm が振る舞うのは、はんだ単体よりも「はんだ+EMC」の複合体としてです。

ピーク値はむしろ上がっている

ここが、この事例1のいちばん肝心なところです。

はっきりしている事実がひとつあります。六面モールドの隅の接合部は、コンプライアンスが低い(硬い)ぶん、累積クリープひずみの最大値は通常品より大きい。

それでも寿命は 2.9 倍です。

理由は 2 つです。

  • 最大値が出るのは、隅の接合部のごく小さな体積だけ
  • 接合部の体積の大半では、通常品よりはるかに小さい累積クリープひずみ

つまり、最大値では負けていて、分布で勝っています。

図 02
A. 通常 PLCSP:中程度が、広い体積に シリコンチップ 基板 割れはチップ側 中程度のひずみが、体積の大半に広がる 発生は遅いが、始まると一気に進む 368 サイクル B. 六面モールド:最大値が、狭い体積に EMC シリコンチップ 基板 EMC に埋まる 上側 50 µm 最大値は隅だけ 最大値は通常品より大きい。ただし隅のごく小さな体積だけ 体積の大半では、通常品よりはるかに小さい 1,037 サイクル 高 中 低 = 累積クリープひずみ 亀裂は 1 点から始まるが、破断には断面を横切る必要がある。だから最大値の勝者と実寿命の勝者が逆になる。 FEM を最大値 1 つに潰す前に、その最大値がどれだけの体積に広がっているかを追う。
通常品は中程度のひずみが接合部の体積の大半に広がっているので、割れが始まると、そこから先は一気に進みます。六面モールド品は最大値こそ大きいものの、それが出るのは隅のごく小さな体積だけで、残りははるかに小さい。だから最大値では負けている側が 368 対 1,037 サイクルで勝ちます。
「最大ひずみ」を寿命予測に使うと、この判断を間違える

Coffin-Manson でも Darveaux でも、寿命式の入力は1点のひずみ(またはエネルギー密度)です。要素の最大値、あるいは注目領域の平均を取る。

最大値を取ると、この2つは「六面モールドのほうが短命」と出ます。実測は逆でした。

なぜ的を外すのか。亀裂は 1 点から始まり、破断に至るには断面を横切って進むからです。

  • 高いひずみが狭い体積にある → 亀裂は早く発生するが、周囲が健全なので進展が止まる
  • 中程度のひずみが広い体積にある → 発生は遅いが、始まったら止まるものが無い

発生寿命と進展寿命は別物で、電気的な合否が拾うのは進展のほうです。この記事の後半に出てくる「合否を通った試料にも割れがある」という観察と、ちょうど噛み合います。

だから実務ではこうなります。FEM の結果を最大値1つに潰す前に、その最大値がどれだけの体積に広がっているかを見てください。同じピーク値でも、赤い領域の大きさが違えば寿命は違います。

Darveaux 法2が「亀裂進展面に沿った体積平均」を取るのは、まさにこの理由です。要素サイズ依存性を消すためと紹介されることが多いのですが、物理的にはこちらのほうが本質です。

スタンドオフの式が用途を失う条件

は、はんだだけが変位を受け持っているという前提の式です。

はんだの横に、力を分担するものが何も無い。だから相対変位 が全部はんだのせん断になり、その角度が に比例する。

EMC がはんだの根元 50 µm を包んだ瞬間に、この前提が崩れます。

包まれた部分は、はんだの弾性率より EMC との複合弾性率で決まる剛性を持ちます。すると2つのことが同時に起きます。

  • 変位の一部を EMC が受け持つ(並列バネ)
  • はんだの自由長が、100 µm より残りの 50 µm になる

自由長が短くなるのは不利です。ところが並列バネの効果のほうが大きかった。アンダーフィルが乗るのと同じ理屈で、六面モールドは部分的なアンダーフィルとして働いています。

だから受け取り直すとこうなります。六面モールドは、耐湿・耐衝撃の保護として導入した工程が、副産物としてアンダーフィル相当の効果を持っていた。

判断の順番が動きます。スタンドオフを稼ぐ設計と、根元を固める設計は、どちらか一方です。両立させようとすると、モールドを薄くしてどちらの効果も取りこぼします。

形状パラメータの差は、テールで効く

特性寿命の比は 2.8 倍。ところがこれは、この改善を最も小さく示す指標です。報告が 90% 信頼度の真の Weibull 傾きまで出している1のは、傾きのほうにも情報があるからです。

Weibull の形状パラメータが 3.34 から 5.53 へ上がっています。分布が締まっている。

表の 47 と 297 が、どこから出てくるかを追います。ワイブル分布の累積故障率は

これを について解きます。 の両辺の対数を取れば なので

は前に掛かるだけ、 は指数に入る。ここが働き方の違いです。 が小さいと は 1 よりずっと小さい数になり、それを 乗するので、 が大きいほど、その小さい数が 1 の側へ引き戻されます。

(0.1% 故障)なら 。

同じ に対して、 に掛かる係数が 0.1265 と 0.2867 で 2.3 倍違います。 の比 2.8 倍に、この 2.3 倍が乗って 6.4 倍。下の表の各行は、この 2 つの掛け算です。 が小さいほど の差が乗る、というのはこの構造のことです。

合否の水準通常 PLCSP六面モールド比
(63.2% 故障)3681,0372.8 倍
B10(10% 故障)1886903.7 倍
B0.1(0.1% 故障)472976.4 倍

品質保証が追っているのはテールです。特性寿命で「2.8 倍」と報告すると、実際の働きを半分以下に見積もることになります。

図 03
ワイブル確率プロット:傾きが別なら、左のすそで差が開く 累積故障率 F(ワイブル目盛) 0.1% 10% 63.2% 50 100 200 500 1000 サイクル数(対数目盛) 47 188 368 297 690 1,037 6.4 倍 3.7 倍 2.8 倍 通常 β = 3.34 六面モールド β = 5.53 直線の傾き = β θ は前に掛かるだけ、β は指数に入る。だから F が小さいほど、β の差がそのまま倍率に出る。 F = 0.1% では係数が 0.1265 と 0.2867 で 2.3 倍違い、θ の比 2.8 倍に乗って 6.4 倍になる。
ワイブル確率プロットでは形状パラメータが直線の傾きになるので、3.34 と 5.53 の 2 本は角度が別です。右上の 63.2% では 368 対 1,037 で 2.8 倍の開きにとどまるのに、左下へ行くほど開いて、0.1% では 47 対 297 の 6.4 倍になります。認定が見ているのは、この左下のほうです。

の差をばらつきに直しておくと直感が乗ります。Weibull 分布の変動係数は

で、 なら 33%、 なら 21%。寿命が伸びただけでなく、ばらつきが 3 分の 2 になっています。

「どちらが良いか」だけを当てる検定

この 2 群の比較には、寿命の差そのものより「平均寿命が優れているかどうか」だけを当てる検定が使われています。比較可能性を切り分ける方法を提案した 2007 年の論文3が相手にしている土俵です。差の大きさのほうは、この形式では分かりません。

入力は以下でした。

六面モールド (S1)通常 (S2)
平均寿命 958330
試料数2448
故障数 1548
Weibull 形状 5.533.34

結果は 、。1000 回中 999 回で、六面モールドのほうが優れている、と受け取ります。

故障数が 15 対 48 であることに注意してください。六面モールドは試験を打ち切っているので打ち切りデータです。それでも が出るのは、 が大きく分布が締まっているからです。

打ち切りが多くても、ばらつきが小さければ結論は出せる。試験計画を組むときへ乗る事実です。

その検定は、形状パラメータが揃っていることを前提にしている

ここで待ったがかかります。2 製品を比べるいちばん慣習的なやり方は、同じ形状パラメータ を持つ 2 つのワイブル分布の MTTF を比べることです。その前提が満たされる場面のほうが、実は限られます。信頼性試験で製品・部品・システムの比較可能性を切り分ける方法を提案した 2007 年の論文3が相手にしているのが、そこです。

この事例の は 5.53 と 3.34 です。前提が崩れている側の例そのものになっています。

まず、上の数字が互いに整合しているかを確かめます。ワイブルの平均寿命は なので、

検定の入力になっていた 330 と 958 に、そのまま一致します。 と は同じ分布から出ている。だからこの 2 組から、別の指標を計算してよいことになります。

この論文3が提案しているのは、分布形から自由な指標 BOW(Better or Worse)です。

値域は から で、負なら群 2 のほうが長寿命。恒等式 を使うと、この積分は

に等しくなります。「群 1 の個体が群 2 の個体より長持ちする確率」を 〜 に貼り直しただけの量です。

通常品を群 1、六面モールドを群 2 として数値積分すると、

指標値
0.005
BOW−0.99
RC(分布の重なり)5%

通常品の 1 個が、六面モールド品の 1 個より長持ちする確率は 0.5%。BOW はほぼ下限の に張り付いています。

この数値積分はこの記事で行ったもので、丸めの影響が 2 ポイント程度は乗ります。上の −0.99 も「実質的に −1」として受け取ってください。3 桁目は読み過ぎです。

この −0.99 は とは別のものです。

  • は、平均寿命の優劣についての確信度。推定量に関する言明で、試料数と打ち切りで動きます
  • BOW = −0.99 は、個体どうしを 1 対 1 で比べたときの勝率。母集団に関する言明で、試料数から自由です

数字が似ているのは偶然です。「1000 回中 999 回」と「個体の勝率 99.5%」は、答えている問題が別です。報告するときは、どちらの問題に答えたのかを書いてください。

RC の受け取り方にも注意が要ります。製造ラインどうしの一致度を追う用途では、RC ≥ 90% を緑、80% 未満を赤という色分けが使われます。一致させたいときは高いほど良い。ここでは改善を測っているので、5% という低さのほうが良い知らせです。同じ指標が、目的によって逆向きに読まれます。

2 つの数字を、同じ物差しの上に書き出しておきます。

図 04
似ている 2 つの数字は、別の問題に答えている A. P = 0.999:平均寿命の優劣への確信度 1,000 回中 999 回、六面モールドが長い 比べているのは平均寿命 958 対 330(比 2.9) 推定量についての言明 試料数と打ち切りで動く(r = 15 対 48) 打ち切りでも出るのは β が大きいから B. BOW = −0.99:個体 1 対 1 の勝率 5 組(0.5%) 1,000 組中 995 組、六面モールドが長持ち 通常品が勝つ確率は 0.005(1,000 組中 5 組) 母集団についての言明 試料数から自由 3 桁目は読み過ぎ。実質 −1 として受け取る 帯の見た目はほとんど同じ。片方は推定量についての確信度、もう片方は母集団での個体の勝率。 数字が似ているのは偶然。報告するときは、どちらの問題に答えたのかを書く。 RC = 5%(分布の重なり)は、改善を測るこの場面では良い知らせ。 ライン間の一致度を追う用途では 90% 以上が緑、80% 未満が赤。同じ指標が逆向きに読まれる。
帯の見た目はほとんど同じでも、左は平均寿命の優劣についての確信度、右は個体を 1 対 1 で比べたときの勝率です。前者は試料数と打ち切りで動き、後者は母集団の性質なので変わりません。0.999 と 0.99 が似ているのは偶然なので、報告するときはどちらの問題に答えたのかを書いてください。

断りを 1 つ。六面モールド側は 24 個のうち壊れたのが 15 個どまりの打ち切りデータなので、 は外挿を含みます。BOW はその外挿の上に乗っています。

業界がどこを見ているかも、はっきりしています。量産前の製品認定では、0.1%()や 1 ppm といった低い確率水準での外挿寿命を使うのが普通です。上の B0.1 の表が、まさにその水準です。特性寿命で報告すると、認定が見ている場所を外します。

電気的な合否は、物理的な損傷に遅れる

合否の条件が 2 つ出てきます。落下試験では抵抗 1000 Ω、熱サイクル試験ではデイジーチェーン抵抗の 50% 増加。落下試験と破壊解析まで含めた 2020 年の報告4と、熱サイクルの 2021 年の報告1で、それぞれ使われている条件です。

断面写真が、そのまま示している事実があります。

「破壊なし」と合否された試料にも、はんだ接合には小さな割れが入っています。

合否を通った試料の断面にも、複数のクラックが写っています。破壊と結論づけられた試料では、接合部が完全に開いている。

電気的な合否の線が拾うのは、割れの発生より貫通のほうです。ワイブルプロットの横軸が指すのは「割れ始めたサイクル」より「繋がらなくなったサイクル」。

なぜ表に出ずに済むのかは、桁で筋が通ります。

初期き裂による抵抗の増加はマイクロオーム程度で、分解能あるいはノイズ水準をはるかに下回ります。とくにチェーン全体の抵抗がミリオームからオームの範囲にあるときはそうです。

µΩ 対 mΩ〜Ω。3 桁から 6 桁の開きです。機構もはっきりしています。SAC305 のような延性材料では、初期の微小き裂ができても電気経路は健在です。低い抵抗を保つだけの接触面積が、そこに健在だからです。

図 05
A. 初期き裂の増加分は、チェーン全体より 3〜6 桁下にある 初期き裂の増加分 µΩ 程度 チェーン全体 mΩ 〜 Ω 落下試験の合否 1000 Ω 1µ 10µ 100µ 1m 10m 100m 1 10 100 1000 Ω 3 桁から 6 桁の開き 合否の線は、熱サイクルがデイジーチェーン抵抗の 50% 増加、落下試験が 1000 Ω。 B. 合否が拾うのは、発生より貫通 進展(電気的にはまだ健全) き裂の発生(合否の外) 貫通 = 368 サイクル 延性の高い SAC305 では、初期の微小き裂ができても電気経路が生き残る。368 サイクルは「無傷」とは別。 デイジーチェーン試験は、き裂の発生時点は、この試験では分からない。機能故障の指標としては信頼できる。
初期き裂が足す抵抗は µΩ 程度で、チェーン全体の mΩ〜Ω から 3 桁から 6 桁も下にあります。だから発生した瞬間は合否に載らず、下段のとおり電気的に検出されるのは進展しきって貫通したときです。368 サイクルという数字は「368 サイクルまで無傷」より、「368 サイクルで繋がらなくなった」を意味します。

つまり 延性が高いほど、電気的な検出は物理的な損傷から遅れます。合否の線が緩いより、壊れかけの延性はんだが電気的にはまだ健全だという材料の性質です。

結論は厳しいものになります。デイジーチェーン試験にとって、き裂の発生時点は分かりません。抵抗が大きく増加してから初めて故障が表に出ます。機能故障の電気的指標としては信頼できる一方で、損傷のごく初期を追う診断手段としては使えません。

安全率を詰めるときに効いてきます。368 サイクルは「368 サイクルまで無傷」という意味とは別です。

隅のボールは、最初から犠牲要員

設計側で面白いのが、この試験パッケージ4の隅のはんだボールが、機能の割り当てから外してあることです。

ダミー(機械的)はんだ接合として、最大の応力とひずみを吸収するために据えられています。テストパッケージのボール 99 個のうち 11 個がダミー。

DNP(中立点からの距離)が最大の位置は必ず壊れる。だから壊れてよいものを据える。

実測の破壊位置も、通常品・六面モールド品ともに外周列の隅付近でした。予測どおりの場所で、予測どおりに壊れています。

これは冗長化より設計上の犠牲陽極に近い考え方です。壊れる場所が分かっているなら、そこへ機能を割り当てずに済ませる。

解析条件

この解析1を再現するのに要るものを添えておきます。

対称性から1/8 モデル。ANSYS 2020 の Solid186(3次元ソリッド)。隅の接合部とDNPが大きい接合部だけ細メッシュ、他は粗メッシュ。

SAC(Sn3.0Ag0.5Cu)は一般化 Garofalo 則に従うと仮定。

この係数 0.1 には、単位の取り違えが疑われます。 を MPa で入れる書き方なら 、Pa で入れる書き方なら で、この 2 つは同じ式です。0.1 はそのどちらとも桁が 1 つずれます。係数を引くときは、 の単位を必ず併記してください。

単位を揃えたあとに、もう一段あります。係数は 1 個だけ差し替えるものより、・・・ の 4 つで 1 組です。錫系はんだ接合の構成関係を実測フィットから与えた論文5のように、4 つを一緒に出している出典から、まとめて引いてください。

はんだ以外の材料物性はすべて温度一定と仮定。変形形状は 85 °C と −40 °C で取得。

Darveaux・Banerji の定数表5と形が同じですが、こちらは の形で、 K。eV へ直すと eV。96.5Sn3.5Ag と同じ値です。

実務での使い方

スタンドオフ高さ 1 つで熱サイクル寿命を予測する手は、ここで用途を失います。六面モールドの有無だけを振った比較1が、その反例です。根元が何かに包まれていれば、その式の前提が消えています。

FEM の最大ひずみで優劣を確定する手前にいるでください。ここでは最大値の勝者と実寿命の勝者が逆でした。赤い領域の体積まで見てください。

保護のためのモールドが、信頼性を上げていることがあります。副次効果として測っておく価値があります。

改善効果は、特性寿命とテールの両方で報告してください。形状パラメータが上がっていれば、テールでの働き幅はその倍以上です。認定が見ているのは です。

形状パラメータがずれた 2 群には、平均寿命の検定 1 本では道半ばです。その検定は が同じであることを前提にしています。分布形から自由な指標なら、ここでは BOW = −0.99、個体どうしの勝率 0.5% と出ます。

「確信度」と「勝率」は、別の欄に書いてください。 は平均についての確信度、BOW = −0.99 は個体の勝率。数字が似ていても、答えている問題が別です。

破壊モードが移動したかどうかを確かめてください。同じ位置で壊れていても、チップ側か基板側かで対策が動きます。

電気的合否を通った試料にも、割れは入っています。寿命の数字を安全率の分母に使うなら、そこを織り込んでください。

壊れると分かっている位置は、機能の割り当てから外してください。隅のボールをダミーにするのは、最も安い対策です。

六面モールドは、耐湿と耐衝撃のために入れた工程が、副産物としてアンダーフィル相当に働いていたという事例でした。だとすれば、その EMC が根元の 50 µm をどう埋めるかは設計値より工程順の結果だ、ということになります。順番が違えば、埋まる高さも埋まり方も変わります。

出典

  1. 1 Lau ほか, Thermal Cycling Test and Simulation of Six-Side Molded Panel-Level Chip-Scale Packages (PLCSPs) (2021) doi:10.4071/imaps.1421341
  2. 2 Darveaux, Effect of Simulation Methodology on Solder Joint Crack Growth Correlation and Fatigue Life Prediction (2002) doi:10.1115/1.1413764
  3. 3 Chien・Kuo, A New Method to Determine the Reliability Comparability for Products, Components, and Systems in Reliability Testing (2007) doi:10.1109/tr.2006.890891
  4. 4 Lau ほか, Six-Side Molded Panel-Level Chip-Scale Package with Multiple Diced Wafers (2020) doi:10.4071/imaps.1226533
  5. 5 Darveaux・Banerji, Constitutive relations for tin-based-solder joints (1992) doi:10.1109/ectc.1992.204257
  6. 6 Darveaux ほか, Fatigue analysis of flip chip assemblies using thermal stress simulations and a Coffin-Manson relation (1991) doi:10.1109/ECTC.1991.163971