他社が「うちの SiCN/SiCN は 2.66 J/m² です」と言い、自社の測定値は 2.36 J/m² でした。この 0.30 の差は、界面の差なのか、測り方の差なのか。
先に答えを言うと、2.36 と 2.66 は同じ界面から出た2つの値でした。「接合強度」という一語で語られる量が、実際には測定条件で動きます。しかも動き幅が、比べたい差と同じくらいある。
SiCN/SiCN 膜の接合強度を四点曲げ法で信頼できる形に測った 2025 年の報告1があります。題名に「信頼できる」が入っているのが、そのままこの記事の主題です。臨界エネルギー解放率 を、条件を振って取っています。
| 振った条件 | [J/m²] | 試験の成功率 |
|---|---|---|
| 曲げ速度 0.5 µm/s | 2.46 ± 0.20 | — |
| 曲げ速度 0.05 µm/s | 2.33 ± 0.24 | — |
| 試料幅 0.7 cm | 2.51 ± 0.44 | 75% |
| 試料幅 1 cm | 2.66 ± 0.18 | 87.5% |
| ピン間隔 5 × 1.4 cm | 2.36 ± 0.32 | 62.5% |
| ピン間隔 5 × 3 cm | 2.59 ± 0.07 | 75% |
中央値は 2.3〜2.7 J/m² のあいだで、ばらつきの幅とほぼ同じだけ条件で動いています。±0.44 と ±0.07 のように、ばらつきの大きさ自体が条件で 4 倍以上ずれるのも見どころです。
測定条件まで推奨が付いています。曲げ速度 0.5 µm/s、試料幅 1 cm、ピン間隔 5 × 3 cm。「2.5 J/m² でした」という 1 行の先に、比較の入口があります。
四点曲げで界面の強さを測る仕組み
測りたい界面(ここでは SiCN/SiCN)を、2枚のシリコン基板で挟みます。上側の基板にダイヤモンドブレードで切り欠き(ノッチ)を入れておく。
これを4本のピンで曲げます。荷重と変位を記録すると、まずノッチが割れるところまで直線的に上がり、そこで荷重が1回落ちます。その後、界面に沿って剥離が定常的に進む領域へ移り、荷重が一定になります。
この定常荷重 から
の形で界面接着エネルギーが出ます。 がピン間隔、 が試料幅、 と と が基板のヤング率・ポアソン比・厚さです。
式に と と が入っていることに注意してください。試料の寸法が結果へ乗るのは、この式の形からして当然です。条件を揃えて初めて比較の土俵に乗ります。四点曲げの密着性測定で摩擦と荷重条件が果たす役割を調べた 2008 年の論文2が示すとおり、式に入る寸法のほかに、治具の摩擦まで測定値へ乗ります。
なぜ試料の寸法が入るのか、組み立てて確かめる
上の測定が使っている式1は結果だけです。この導出はこの記事で組んだもので、出典の記述とは別です。どこから来たかを追うと、どの寸法が何乗で乗るかまで分かります。3段で出ます。図で先に形をたどっておきます。
1段目。解放されるのは、亀裂の前後での曲げエネルギーの差です。一定モーメント を受ける梁が単位長さあたりに蓄えるひずみエネルギーは 。亀裂が単位面積ぶん進むと、その断面が「一体の梁」から「片側だけの梁」へ移るので
が亀裂の後ろ(厚さ の梁1本)、 が亀裂の前(厚さ の一体の梁)の断面二次モーメント、 が試料幅、 がヤング率です。
2段目。ここで厚さの3乗が入ります。幅 ・厚さ の矩形断面は なので
元の式にある 21 という半端な数字は、この です。亀裂が入ると断面二次モーメントが 8 分の 1 に落ちる——厚さが半分になって3乗で乗る——という、それだけのことでした。
3段目。モーメントを荷重で書き換えます。四点曲げでは外側のピンが ずつ受け、内側の荷重線までの距離が なので、内側の区間のモーメントは で一定です。代入して、平面ひずみの補正 を掛けると
冒頭の式に戻りました。ここで受け取るのは係数より、指数のほうです。
厚さだけが3乗。荷重もピン間隔も試料幅も2乗です。
12.7% の差を作るのに、どれだけの取り違えが要るか
対数を取って微分すると、誤差の伝わり方が1行で出ます。
上の表で最小と最大のあいだにある差は 。この 12.7% を、1つの量の取り違えだけで作るとしたら、どれくらい要るか。指数で割るだけです。
| 取り違える量 | 何乗で乗るか | 12.7% を作るのに要る誤差 |
|---|---|---|
| 荷重 | 2 | 6.4% |
| ピン間隔 | 2 | 6.4% |
| 試料幅 | 2 | 6.4% |
| 基板厚さ | 3 | 4.2% |
推奨条件の寸法へ当てると、ピン間隔 5 cm の 6.4% は 3.2 mm、試料幅 1 cm の 6.4% は 0.64 mm(この記事での計算)。
試料幅を 0.6 mm 取り違えるだけで、界面が 13% 強く浮かびます。測定条件が「曲げ速度 0.5 µm/s、試料幅 1 cm、ピン間隔 5 × 3 cm」と寸法まで指定される理由が、この指数にあります。いちばん危ういのは、いちばん確かめにくい厚さです。幅とピン間隔は試験のたびに目で測れますが、貼り合わせた 2 枚の厚さは組んだあとでは測りにくく、しかも 3 乗で乗ります。
「試験の成功率」という、もう1本の列
さっきの表に、見過ごされやすい列がありました。試験の成功率です。62.5% から 87.5% まで動いています。
これは「界面が壊れた割合」とは別です。試験に持ち込める試料を、何 % 作れたかです。ノッチを入れ、2 枚を貼り、切り出す。その途中で駄目になるものがある。
この列を軸にして、表を並べ替えてみます。
| 成功率 | 条件 | [J/m²] | ばらつき |
|---|---|---|---|
| 62.5% | ピン間隔 5 × 1.4 cm | 2.36 | ± 0.32 |
| 75% | 試料幅 0.7 cm | 2.51 | ± 0.44 |
| 75% | ピン間隔 5 × 3 cm | 2.59 | ± 0.07 |
| 87.5% | 試料幅 1 cm | 2.66 | ± 0.18 |
成功率が高い条件ほど、 が高い。単調です。しかも 2 本の軸(試料幅とピン間隔)のそれぞれで独立にそうなっています。
- 試料幅:0.7 cm(75%、±0.44、2.51)→ 1 cm(87.5%、±0.18、2.66)
- ピン間隔:5 × 1.4(62.5%、±0.32、2.36)→ 5 × 3(75%、±0.07、2.59)
成功率・ばらつきの小ささ・平均値の高さが、両方の軸で同じ方向へ揃って動きます。
同じ相関を、まったく別の試験が報告している
同じ形が、まったく別の試験からも出てきます。ダイプル試験の試料準備と改善を追った 2015 年の報告3に、同じ形が出ています。
「成功率とは、試料を許容できる形で準備できた割合を指し、構造の頑健さと作業者の技量の両方に依存する。経験上、成功率の高いプロセスほど、ダイプル強度が高く出る傾向がある。」
試験も、試料も、単位も違います。片方はウェーハを貼った SiCN/SiCN 界面を四点曲げで J/m² で測り、もう片方は WLBGA パッケージのダイを引き剥がして力で測る。それでも同じ相関が出ています。
相関の中身は、2 つに分けて書かれています。構造の頑健さと、作業者の技量。
この 2 つを分けると、四点曲げのデータの意味が動く
構造の頑健さで筋が通る部分は、実体のある相関です。弱い界面は準備の途中で壊れやすく、生き残った試料の測定値も低い。強い界面ほど作りやすく、高く出る。これは測っている対象の性質です。
作業者の技量で筋が通る部分は、測定系のバイアスです。同じ界面でも、上手に作れば高く出る。
ここで、四点曲げのデータの条件を思い出してください。4 行とも、界面は同じ SiCN/SiCN です。変えたのは試料の幅とピンの間隔だけ。
つまり「構造の頑健さ」は 4 行で一定です。界面は同じなのだから。にもかかわらず成功率が 62.5% から 87.5% まで動き、 が 2.36 から 2.66 まで動いた。
この 12.7% は、界面の性質とは別です。試料形状と準備のしやすさが作った差です。ダイプル側で「2 つの原因がある」とされているうちの、片方だけを取り出した実験になっています。
帰結は 1 つです。材料 A と材料 B の を比べるとき、両者の試験成功率が違っていたら、その比較は交絡しています。2.5 対 2.7 という差は、材料の差の可能性もあれば、片方が作りやすかっただけの可能性もある。
だから成功率を必ず併記し、成功率が揃った条件どうしでだけ比べてください。成功率の記録は、分母と分子を数えるだけで済みます。分母と分子を数えるだけです。
四点曲げがこの試験に選ばれている理由自体は、幾何にあります。内側の荷重線のあいだでは曲げモーメントが一定なので、エネルギー解放率の式は亀裂長さから自由になります。亀裂長さの読み取り誤差を式から消すために設計された試験です。消えたのは亀裂長さの誤差だけで、試料を作る段階の誤差は残っている。誤差源をどこまで潰したのかを、設計の意図まで戻って確かめると、次にどこを潰すべきかが浮かびます。
「単位が別な 3 つの密着性」が並記されている
再現性についての一文が、この記事の主題と同じことを言っています。「許容できる再現性を確保するには、治具の取り回しと選定、そして標準化・最適化に多大な労力が要る。」
測定条件を推奨するのと、治具を標準化するのは、同じ問題への別々の答えで、2 つ揃って初めて値が揃います。推奨条件を守っても治具が各社ばらばらなら値は揃わず、治具を揃えても試料幅が別なら 2.51 と 2.66 へ割れます。
ウェーハ全面での分布を測る
平均値より大事なのが分布です。ハイブリッド接合ウェーハの界面破壊強度を高分解能で特性づける手法を出した 2025 年の報告4があります。カミソリ刃を挿入して剥離を進める方法(razor blade test)を拡張したもので、1 枚のウェーハの中で強度がどう動くかを高分解能で追います。
1点で測った強度は、ウェーハの代表値とは別です。CMPの均一性がそのまま接合強度の分布になるので、当然そうなります。
ボイドは、繰り返し曲げると縮む
Cu-Cu 直接接合の界面き裂を原子スケールでモデル化した 2025 年の報告5が、直感に反する結果を出しています。
Cu-Cu 直接接合の界面に、実測を模した楕円形(幅と高さの比 2:1、直径 5〜15 Å をランダムに配置)のボイドを仕込んで、繰り返し機械負荷をかけます。界面の接合率 70% と 80% の試料で、負荷1回後と4回後を比べる。
結果はこうでした。
- 初期のボイド分布が、その後の組織変化を強く左右する
- 繰り返し負荷はボイドを縮ませる(接合率によらず)
- したがって機械的なサイクルが接合の健全性を上げうる
熱サイクルや機械サイクルは、普通は劣化の原因として数えます。ここでは逆に働いている。原子が動く余地があるうちは、隙間が埋まる方向へ進む、ということです。
銅の組織が、電気にも寿命にも乗る
ナノツイン銅が歩留まりを動かすという話には、寿命側の続きがあります。
(111) 配向ナノツイン銅で作った Cu/SiO₂ ハイブリッド接合のエレクトロマイグレーション耐性を測った 2025 年の報告6があります。CKR(クロスバー・ケルビン抵抗)構造へ電流を流し、電子の流れる向きを指定した試験です。接合の歩留まりのために選んだ材料が、そのまま寿命の材料でもある、という関係になります。
もう一段細かいところでは、結晶塑性有限要素法(CPFEM)で、粒界の種類と組織が接合界面のボイド消失へどう乗るかを、実測と比べる検討も出ています。粒界が 3 本集まる接合点(junction)の型まで切り分けている。
「銅」を1つの材料として扱えなくなっている、というのが、ここまでの報告を並べたときの印象です。結晶方位、双晶密度、粒界の型、粒径。どれもがピッチと歩留まりと寿命へ乗っています。
パッドの膨張は、径で動く
SiO₂ ビア内の Cu パッドの熱膨張が寸法でどう動くかを測った 2025 年の報告7と、同じ主題を組織の側から追った 2024 年の報告8が、リセスの目標値がパッド寸法で動くことを実測でつかんでいます。
Cu/SiO₂ ビアの径を 1、2.5、4、5 µm と振り、室温と 200 °C での断面 AFM プロファイルを比べる。径ごとに膨張量が別になります。
小さいビアほど周囲の SiO₂ に拘束されるので、同じ温度でも上へ伸びる量が減ります。径が動けば、目標のリセスも動く。ピッチを詰めるたびに CMP の目標値を引き直すことになる、という話が、ここで実測として出てきます。
表面の保護膜を、どう剥がすか
地味ですが実務で効くところです。四点曲げで測る界面1が 2.5 J/m² を返すかどうかは、その面が素のまま出ていることを前提にしています。
D2W では、ウェーハを薄くしてダイシングするあいだ、接合面を保護膜で覆います。貼る前にこれを完全に落とすことになります。
アセトンと 1% KOH 水溶液(超音波併用)で落とす手順があり、FTIR と Raman で落ちたことを確かめています。
- 保護膜がある状態: FTIR にフェノール樹脂系の指紋スペクトルが出る
- 除去後: 790、960、1123 cm⁻¹ にピーク。それぞれ Si–O–Si 対称伸縮、Si–OH(シラノール基)伸縮、Si–O–Si 非対称伸縮
ここでシラノール基が浮かぶかどうかが勝負です。常温での絶縁膜どうしの密着は、この OH 基の水素結合から始まります。保護膜が残っているあいだ、密着の起点そのものが伏せられたままになります。
管理の粒度が「洗浄した」から一段上がって、「目的の官能基が表面に出ていることを分光で確かめた」になっています。
実務での使い方
接合強度を他社と比べるときは、測定条件を先に揃えてください。条件だけを振った測定1が、その幅を示しています。曲げ速度・試料幅・ピン間隔で 2.33 から 2.66 J/m² まで動きます。この幅は、材料や工程を変えたときの差と同じ大きさです。
試験の成功率を、強度と一緒に必ず出してください。同じ界面で、成功率 62.5% の条件と 87.5% の条件のあいだに 12.7% の差が付いています。成功率が別な 2 つの値を比べると、材料の差と準備のしやすさの差が混ざります。分母と分子を数えるだけなので、記録は分母と分子を数えるだけで済みます。
「密着性」の数字は、試験の名前とセットで初めて意味を持ちます。四点曲げの J/m²、ダイプルの力、スクラッチの臨界荷重。3 つを橋渡しする換算式は、いまのところ空白です。
1 点の強度では道半ばです。ウェーハ全面の分布で測る手法が出てきています。
銅の指定に、結晶組織の項目を足してください。歩留まりと寿命を左右するのは、純度と厚み以外の項目です。
ここまでは「どう測るか」を揃える話でした。揃えたあとに残るのは、では 2.5 J/m² という値を何が左右しているのか、という問題です。直感では、未結合手(ダングリングボンド)が多いほうがよくくっつきそうに映ります。実際には逆で、効いていたのは水素の量のほうでした。この記事が相手にした測定条件の揺らぎ 12.7% と、材料そのものの差は桁が別です。揃える順番は、測定条件のほうが先になります。