基板をヒータ台から加熱する、あるいは冷やす。あいだの気体を He にするのは定石です。熱伝導率が Ar の 8.6 倍あるからです。
では、すき間を 100 µm から 10 µm へ詰めたとき、He は Ar より速く熱を運ぶのだろうか。
順位が逆転します。
理由が消えるのは、熱伝導率が下がるからより。熱伝導率という量が、式に出てこなくなるからです。代わりに出てくる量では、He は Ar より不利になります。
境目を左右しているのは圧力でも温度でもなく、平均自由行程とすき間の比です。
入射フラックスを、測れる量だけで書く
まず道具を 1 つ用意します。気体分子運動論から、表面への分子入射フラックスは で書けます(希薄気体の熱輸送を剛体球分子で解いた古典1が土台にしている枠組みです)。ところが も も、測定器では直接測れません。そこで理想気体の状態方程式と平均速度の式を代入して、圧力・分子量・温度だけで書き直します。
は Pa、 は g/mol、 は K。圧力を torr で入れるなら、係数は に変わります。
これが Knudsen 方程式で、薄膜技術で最も重要な関係式のひとつです。使える範囲が広いところが利点です。
- 真空領域でも流体領域でも成り立つ
- 圧力が十分低ければ、オリフィスからの流出(エフュージョン)フラックスの計算にも使える
数値の感覚をつけます。、25 °C、 Pa なら
分子直径を代表値の 0.3 nm とすると、1 分子層(モノレイヤ)はおよそ 個/cm² です。当たった分子が全部くっつくなら 2.4 ML/s、つまり 2.6 µm/h。これは典型的な成膜レートです。
ここから 2 つのことが同時に読めます。
1 つ目。この成膜レートを得るのに必要な反応ガス圧は、 気圧どまりです。 Pa は 1 気圧の 1 億分の 1 です。
2 つ目。同じ量が不純物として入ってきたら、膜は汚染されます。
だから純度の要求が、そのまま圧力の要求になります。2.6 µm/h で 99.9% の純度を出したいなら、反応性の不純物ガスの圧力を Pa より下に保つ必要があります。これが超高真空(UHV)と呼ばれる領域です。
ただし、下げる相手は反応性の不純物だけです。不活性な背景ガスや、CVD のキャリアガス(H₂ など)は、ずっと高くても膜純度はそのままです。実際、CVD はしばしば 1 気圧で運転されます。
不純物の入射フラックスを左右しているのは、その不純物の分圧のほうで、全圧とは別です。
覚えておくべき量はひとつです。膜になる分子の堆積フラックスと、反応性不純物の入射フラックスの比。これは「goodies-to-crud 比」、つまり純度比と呼ばれます。上げる手は 2 つだけです。成膜レートを上げるか、不純物の分圧を下げるか。
堆積レートを分子フラックスに換算する 2 つの数字
膜厚 の時間変化から分子堆積フラックスを求めるには、膜の密度が要ります。
実用単位だと
係数の出どころは単位換算だけです。1 µm/h は cm/s で、これに を掛けると 。
覚えておく値がもう 1 つ。ほとんどの固体で、分子濃度 は 個/cm³ 程度です。材料が替わっても桁は変わりません。
もう 1 つ、吸着の実験でよく出る単位があります。ラングミュア(L)は表面が受けたガス曝露量で、 torr·s。当たったガスが全部吸着するなら、1 L でおよそ 1/3 分子層です。
torr は Pa なので、、298 K で
個/cm² の分子層に対して 0.38 層。「およそ 1/3」と合います。
用語だけ注意しておきます。吸着(adsorption)は表面へのガスの蓄積、吸収(absorption)は液体や固体の内部へのガスの取り込みで、別の現象です。
平均自由行程は、粒子の種類で 3 段階に割れる
平均自由行程とは、粒子が気体の中で衝突するまでに進む平均距離です。剛体球分子の希薄気体を追った古典1が使っているのと同じ描像で、断面積と数密度から出ます。
成膜プロセスには気体分子だけでなく電子とイオンも登場するので、3 種類とも見積もる必要があります。3 つは別々の値になります。
電子から始めます。電子は分子よりずっと小さいので、衝突断面積は気体分子の投影面積そのものです。分子の有効衝突直径を とすると
次にイオン、あるいは静止した相手にぶつかる分子。イオンの半径は分子とだいたい同じなので、周縁どうしが触れれば衝突します。つまり衝突直径が 2 倍になります。
電子の 4 分の 1 です。
ここまで「相手の分子は止まっている」と仮定してきました。薄膜の仕事で出てくる荷電粒子は分子よりずっと速く動くので、この近似が使えます。
最後に分子どうし。こちらは両方が動いています。正面から向かい合うこともあれば、かすめることもある。平均すると 90° の角度で近づきます。だから相対的な接近速度は より で、そのぶん平均自由行程が に縮みます。
1 Pa・室温で約 1 cm
代表値の 0.3 nm の分子について、1 Pa・25 °C で計算します。まず数密度を状態方程式から出します。
入れると
同じ で 3 種類を書き出します。
| 粒子 | 断面積 | 1 Pa・25 °C での平均自由行程 | 分子との比 |
|---|---|---|---|
| 電子 | 5.8 cm | ||
| イオン | 1.46 cm | ||
| 分子 | 、相対速度 | 1.03 cm | 1 |
電子は分子の 5.7 倍遠くまで飛びます。プラズマの中で電子だけが壁まで届く、という話の出発点はここです。
温度が極端に高い場合を除けば、平均自由行程を左右しているのは圧力で、 です。
覚える値はひとつだけです。小さな分子なら、1 Pa・室温で約 1 cm。あとは圧力で割ります。10 Pa なら 1 mm、1000 Pa なら 10 µm。
Kn は、圧力 1 つでは宙に浮く
平均自由行程そのものより、プロセスの寸法との比のほうが乗ります。
はプロセスの代表寸法で、たとえば供給源から基板までの距離です。
| Kn | 領域 | 何が起きているか |
|---|---|---|
| 1 より大 | 高真空(分子流) | 分子は互いに独立に飛び、壁とだけ衝突する |
| 0.01〜1 | 遷移領域 | どちらの極限の式も厳密さを失う |
| 0.01 未満 | 流体流れ | 分子どうしの衝突が支配 |
プラズマプロセスは、しばしば遷移領域で動きます。平行平板に挟まれた希薄気体の熱移動で壁の条件が果たす役割を調べた 1982 年の論文2が相手にしているのも、両極限のどちらからも離れたこの帯です。
高真空プロセスは、典型的なチャンバ寸法で Kn > 1 を確保するために Pa より低い圧力を要求します。1 Pa で 1 cm なので、 Pa なら約 1 m。チャンバがそれより小さければ Kn > 1 に入ります。
ここが Kn という無次元数の値打ちです。
Kn = 1 という値は、 Pa の 1 m チャンバでも、1 Pa の 1 cm チャンバでも、同じことを意味します。スケールからも運転条件からも自由。だから領域の切り分けが 1 つの数字で済みます。
裏を返すと、「何 Pa なら真空領域ですか」という問題は、寸法を添えて初めて答えを持ちます。輸送領域が均一性のつまみを左右する、という話の土台がここにあります。
EUV スキャナのマスクとペリクルのすき間は、Kn ≈ 0.8
数字が 2 つそろっているので、実物で計算してみます。
- レチクルステージまわりの水素の背景圧力は、およそ 5 Pa
- ペリクルのスタンドオフ距離は最大 2.5 mm(0.33 NA 機の設計時にペリクルは不可能と思われていたので、あとから入れる場所がほとんど残っていなかった)
代表値 0.3 nm での平均自由行程は、1 Pa で 1.03 cm、5 Pa なら
遷移領域のど真ん中です。分子流と流体流れのあいだ。「どちらの極限の式も厳密さを失う」と書かれている、あの領域です。
代表直径 0.3 nm は分子ごとにずれます。H₂ はこれより小さいので はもう少し長く、Kn は 1 に近づきます。係数は数割ぶれますが、Kn が 1 の付近だという結論は変わりません。
この水素は EUV 光に照射されて電離し、低圧プラズマになっています。マスクが正に帯電し、負に帯電した粒子を引き込むという汚染機構が、これで筋が通りました。
「プラズマプロセスはしばしば遷移領域で動く」という 1995 年の 1 行が、2025 年の EUV スキャナのマスク近傍にそのまま当てはまっています。
輸送量は 3 つとも「平均速度 × 平均自由行程」でできている
Kn が効いてくるのは熱のほかにもあります。気体の輸送特性は 3 つあって、全部が同じ形をしています。希薄気体の熱輸送を剛体球で解いた枠組み1は、そのうち熱の 1 本を厳密に解いたものです。
輸送はいつもこの形で書けます。
| 運ぶもの | 式の名前 | 勾配 | 比例係数 |
|---|---|---|---|
| 質量 | Fick の法則 | 濃度 | 拡散係数 |
| 運動量 | ずり応力 | 流速 | 粘度 |
| エネルギー | Fourier の法則 | 温度 | 熱伝導率 |
| 電荷 | Ohm の法則 | 電位 | 電気伝導率 |
電気の行が入っているのは、類推が役に立つからです。電流密度が電位勾配で駆動され、比例係数が電気伝導率(抵抗率の逆数)である、というのは全く同じ構造です。
3 つの比例係数は、どれも平均速度と平均自由行程の積に比例します。
拡散。厚さ の仮想的な板を通る正味のフラックスを、両向きの入射フラックスの差で見積もると
理論はこう出ますが、実測の温度依存は です。定数は実測から取ることになります。300 K・1 気圧の目安は Ar-Ar で 0.19 cm²/s、Ar-He で 0.72 cm²/s。
圧力が中心です。成膜プロセスでは 1 気圧より何桁も低くできるので、そのぶん拡散係数が大きく上がります。ただし下げすぎて Kn > 1 に入ると、拡散という現象そのものが消えます。分子は気相中で互いに出会わず、壁から壁へ飛ぶだけになるからです。
粘度。流速の勾配を横切って分子が上下に行き来し、運動量を運びます。
ここに驚きが 2 つあります。
1 つ目、粘度は温度とともに増えます。液体と逆です。
2 つ目、粘度は圧力から自由です。理由は打ち消しです。圧力が下がると分子は勾配に沿ってより長い距離を運ぶようになりますが、運ぶ分子の数が減ります。2 つの傾向がちょうど相殺します。
300 K・1 気圧の値は Ar が ポアズ、He が ポアズ(1 ポアズ = 0.1 Pa·s)。質量が 10 倍ずれるのにほぼ同じなのは、 と が逆を向いているからです。
粘度も、Kn > 1 では意味を失います。その領域でも流れは壁の近さで制限されますが、原因は粘性抵抗とは別です。分子が表面から鏡面反射より、ランダムに跳ね返るので、来た方向へ散乱される確率と前へ進む確率が同じになるからです。「分子ドラッグポンプ」はこのふるまいで動いています。
熱伝導も圧力から自由。すき間が広いあいだは
熱伝導は、運動量輸送と同じ形で書けます。2 成分の混合気体について平行平板間の熱伝導を解いた 1973 年の論文3も、同じ形から出発しています。運ぶ中身が から へ移るだけです。
この 2 が付く理由が面白い。平面を横切る分子の平均エネルギーは、全方向についての平均の 2 倍あります。速いものほど頻繁に平面を横切るからです。
熱容量を使って を に置き換えると熱伝導率 の式が出ます。マクロな量で書くと
小さくて軽い分子ほど熱伝導率が高い。ただし複雑な分子は回転と振動のモードが多いぶん が大きいので、この傾向が逆転することもあります。
は、粘度と同じ理由で圧力から自由です。圧力が下がると分子フラックスは減るが、衝突までに進む距離が伸びる。相殺します。
300 K・1 気圧の値。Ar が 0.176 mW/cm·K、He が 1.52 mW/cm·K。8.6 倍です。
8.6 倍の内訳を、表の 2 つの数字から逆算する
です。He も Ar も単原子気体なので は同じ 。消えます。
質量の寄与はこうです。
質量 1 項目なら 3.16 倍どまりです。実測は 8.6 倍。差分の
が衝突直径の 2 乗の比なので、直径の比は 。Ar のほうが He より 1.65 倍太い、と表の 2 行から逆算できました。
この分解のしかたが本題です。熱伝導率の値を暗記するより、式の各因子がどれだけ効いているかを切り分ける。気体を替えたときにどう動くかが、これで予想できます。
すき間をせまくすると、式が入れ替わる
成膜でよくある配置を考えます。温度 に加熱された平板ステージと、そこから熱をもらって になる基板。すき間は 。
ここで使う Knudsen 数は です。チャンバの大きさより、すき間のほう。高真空下で有限平行平板間の気体伝導を 2 次元でモデル化した 2012 年の論文4が相手にしているのが、この切り替わりです。
圧力が高くて Kn ≪ 1 のとき。
圧力から自由です。すき間に反比例します。
圧力を下げて Kn > 1 になったとき。分子は途中の衝突を 1 回も挟まずに板から板へ跳ね返ります。 はバルク流体の性質なので、ここで用途を失います。
代わりに、すき間を横切る分子のフラックス × 1 個あたりが運ぶ熱になります。
は Knudsen 方程式の入射フラックス、 は熱適応係数(He 以外はほぼ 1)、 は熱伝達係数(W/cm²·K)です。
この には、熱が伝わる距離が入っていません。
重要な使い分けが 1 つ。バルクの流体や固体の中を熱が通るときは 、界面を横切るときは 。Kn > 1 の平板間は、気体どうしの衝突が無いので界面と同じ位置づけになります。
2 つの式の違いを書き出します。
| Kn ≪ 1 | Kn > 1 | |
|---|---|---|
| 熱流束の式 | ||
| 圧力依存 | 無し | 比例 |
| すき間依存 | 反比例 | 無し |
ここから、実務で一番使える 1 行が出ます。
ステージから基板への熱伝達は、あいだの気体の圧力を上げれば増やせる。ただし、すき間を Kn > 1 に保てている場合だけ。
すき間が広いままだと、圧力をいくら上げても は変わりません。つまみが空回りする側にいます。
1 Pa で 1 cm、 なので、1000 Pa なら平均自由行程は 10 µm。すき間を 10 µm 以下に保てているなら圧力が乗り、100 µm 開いていたら空回りします。
He を選ぶ理由が、ここで消える
Kn > 1 の式に、 が姿を消します。出てくるのは 、、そして 1 個あたりが運ぶ熱( で決まる)です。
が He を裏切ります。
ほとんどの分子と表面の組み合わせで は 1 に近い。ところが He は、表面によって 0.1 から 0.4 です。
両面で が同じなら、熱流束の減り方は
なら 。両端の 0.1 と 0.4 では 0.053 と 0.25 になります。
では Ar と比べたらどうなるか。Kn > 1 の は と と の積で、He も Ar も単原子なので は同じです。
He は Ar より 1.3〜6 倍不利です。
| 領域 | He 対 Ar |
|---|---|
| Kn ≪ 1(連続領域) | He が 8.6 倍有利 |
| Kn > 1(分子流領域) | He が 1.3〜6 倍不利 |
同じ 2 つの気体、同じ温度。すき間と圧力を動かしただけで順位が入れ替わりました。
原理から言い直せます。Kn > 1 での最良の熱媒ガスは、分子量が小さくて( が高い)、かつ回転モードが多い( が高い)気体です。
He は前者を満たす一方、後者からは完全に離れます。単原子なので回転自由度がゼロです。そのうえ適応係数が低い。「熱伝導率が高い」という理由だけで選ぶと、この 2 つを視野から漏らします。
もっとも、選択肢はたいていプロセス化学のほうで絞られます。
同じ式が、真空計の原理そのものになっている
熱電対ゲージと Pirani ゲージは、気体による熱の持ち去りで動く、単純で安価な計器です。
加熱されたワイヤがあり、気体が無ければ、輻射と 4 本の支持線を伝う熱伝導で決まる定常温度に落ち着きます。
そこに気体が入ると、
- 分子流領域では、背景ガスが に比例して追加の熱を奪う。 なので、圧力が上がるほどワイヤ温度が下がる
- 流体領域に入ると、熱の持ち去りは が支配する。 は圧力から自由
つまり、圧力に比例する側でだけ計器として働きます。上限もはっきりしています。現実的な熱伝達すき間の寸法なら、感度は 100 Pa あたりで消えます。
欠点として挙がっているのは 3 つ。非線形であること、校正がガス組成に依存すること、ゼロ点(圧力ゼロでのワイヤ温度)がドリフトすること。
2 つ目が、いままでの式そのものです。 は と と で決まるので、気体が変われば同じ圧力でも読みが動きます。He は が 0.053〜0.25 と極端に小さい気体なので、空気で校正した Pirani を He のラインに付けたら読みは大きくずれます。
「圧力から自由」という熱伝導率の性質が、そのまま計器の測定上限になっている。物性の話が、装置のスペック表の 1 行になっています。
EUV は、この唯一のつまみを封じられている
「圧力を上げれば熱伝達が増える、ただし Kn > 1 なら」という結論には、前提が 1 つ隠れています。圧力を上げてよいこと。
EUV 露光装置では、上げる手が封じられます。
EUV 光が水素を電離してプラズマを作り、粒子を放出させる過程を追った 2022 年の報告7が示すとおり、装置の中は低圧の水素雰囲気です。13.5 nm の光は、1 気圧の空気 1 mm を通ると透過率が約 0.1% になります。気体を入れれば、光が届かなくなる。だから光が通る場所はすべて真空か、極めて低い圧力です。
真空中では温度制御が難しい。
問題は現実に起きています。EUV マスクは、多層膜が露出している領域でも 30% 以上を吸収します。250 W 光源と 37.5 mJ/cm² の露光量を仮定した検討では、マスク裏面をチャックへの熱接触で保持できているという前提の上でなお、10 °C を超える温度上昇が予測されています。
固体との比較を挟むと、気体の非力さがはっきりします。
| 経路 | 熱伝導率 (W/cm·K) | 1 気圧の He を 1 としたとき |
|---|---|---|
| Si | 1.5 | 990 |
| SiO₂ | 0.014 | 9.2 |
| He(1 気圧) | 0.00152 | 1 |
| Ar(1 気圧) | 0.000176 | 0.12 |
1 気圧の He でさえ、SiO₂ の 9 分の 1、Si の 990 分の 1 どまりで熱を通します。EUV のマスク近傍は 5 Pa です。気体の経路は事実上ゼロです。
だから設計が 2 方向へ逃げた
1 つ目。気体伝導を固体伝導で置き換えた。
EUV マスクは、マスク全面に分布した多数の点でチャックと機械的に接触しています。光リソグラフィではマスクを端の近くだけでクランプしていましたが、そこから離れました。これによって、伝導がマスク温度制御の有力な手段になります。
真空中なので真空チャックは使えず、静電チャックになります。それが、マスク裏面に導電膜を成膜するという要求を生みました。熱の話が、成膜工程を 1 つ増やしています。
2 つ目。熱がこもるなら、こもったままでも寸法が変わらない材料にした。
マスク基板に ULE や Zerodur のような超低熱膨張ガラスを使うことで、温度制御の要求そのものを緩めています。温度を下げるより、温度が動いても寸法が変わらないようにする。
そもそも EUV がここまで光量に追い詰められているのは、鏡を 1 枚足すたびに光が減るという反射光学系の構造から来ています。光量が足りず、そのぶん露光量を上げ、露光量を上げるからマスクが温まり、真空なので熱の逃げ場が消える。3 つが一本につながっています。
ペリクルは、経路が 2 つ塞がっている
ペリクルはもっと厳しい条件にいます。
- 触れているものが、周囲のフレーム以外に無い(固体伝導の経路が 50 nm の膜を面内に伝う経路だけ)
- まわりの気体は 5 Pa、すき間 2.5 mm で Kn ≈ 0.8(気体伝導は連続領域の式も分子流の式もはみ出し、しかも量として小さい)
残るのは輻射です。実際、照射された領域だけが高温になり、照射が通り過ぎるとすぐ温度が落ちるという計算結果が示されています。
実務での使い方
「何 Pa なら真空領域か」を寸法抜きで結論づける手前で止まってください。平行平板間の希薄気体で壁の条件が果たす役割2が、寸法まで含めて初めて領域が決まることを示しています。Kn = 1 は、 Pa の 1 m チャンバでも 1 Pa の 1 cm チャンバでも同じ意味です。合否は比のほうです。
熱伝達を上げたいときは、圧力とすき間のどちらが乗るかを先に合否してください。Kn ≪ 1 なら圧力は空回りし、すき間だけが乗ります。Kn > 1 ならすき間が空回りし、圧力だけが乗ります。逆のつまみを回している時間へ投じる手が、いちばん空回りします。
熱媒ガスを熱伝導率 1 項目で選ぶ手前で止まってください。Kn > 1 では熱伝導率が式から消えます。効くのは分子量、熱容量、そして熱適応係数です。He は最初の 1 つだけを満たしています。
適応係数が低い気体で校正した熱伝導型真空計を、別の気体へ付け替える手前で止まってください。同じ圧力で読みが動きます。上限が 100 Pa 付近にあることも合わせて。
成膜チャンバの純度は、全圧より、反応性不純物の分圧で決まります。2.6 µm/h で 99.9% を狙うなら Pa。キャリアガスの H₂ は 1 気圧あっても通ります。追うべきは、膜になるフラックスと不純物フラックスの比です。
平均自由行程は、電子・イオン・分子で別の値です。同じ気体・同じ圧力で 5.7 倍違います。プラズマの設計で「平均自由行程」と言うときは、どの粒子の話かを確かめてください。
真空中へ据えたものを冷やす経路は、固体接触と輻射の 2 本になります。固体接触の点数を増やすか、輻射に任せるか、温度が動いても寸法が変わらない材料にするか。EUV は 3 つとも同時にやっています。
が輸送の領域を確定し、その領域が均一性のつまみを左右する。この 2 段のうち、後半はまだ手つかずです。領域が確定したあと、実際に何を触るのかは、供給の工程をどう組むかの話へ渡ります。深穴を CVD ライナ → PVD バリア/シード → めっきの順に埋める理由が、ここで出した「回り込む距離」の話そのものだからです。本記事で使った と の出どころを確かめたいなら、へ。Knudsen 方程式は、そこで作った 2 本を代入して畳んだだけの式です。