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EntegrisのCMP一式は、傷の原因を1社で引き受ける守りの堀|2億ドルの売上相乗効果では実質49億ドルの買収を回収できない

EntegrisのCMP戦略は、スラリーとパッドの大手1を買い、その周りの消耗材をまとめて売ることだ。ここでいう一式とは、2022年7月に買収したCMC Materials(旧Cabot Microelectronics)のスラリーと研磨パッドに、自社のスラリーフィルター、容器、モニター、パッドコンディショナー、研磨後の洗浄液とブラシを組み合わせた品ぞろえを指す。工場から見ると、スクラッチの原因がスラリー、配管、パッド、洗浄のどこにあっても、1社に調べさせられる。

一方で、この一式が生む上積みは、払った額に比べて小さい。Entegrisが2028年までに目指す年2億ドル超の売上相乗効果は、MS部門の利益率で利益に直すと年4,000万ドルほどで、CMC以外の事業を売った後の実質取得額約49億ドルの1%に届かない。買収を正当化するのは上積みではなく、CMCのスラリーとパッドの売上を欠陥の責任ごと抱え込み、他社に切り替えられにくくする守りの効果だ。会社全体の事業構成、業績、日本の拠点と採用はインテグリスの企業研究で読める。

一式は、CMCのスラリーとパッドをEntegrisの7品目が囲む形

Section titled “一式は、CMCのスラリーとパッドをEntegrisの7品目が囲む形”

Entegrisは2021年12月15日、CMC Materialsを企業価値約65億ドルで買収すると発表した2。CMCの株主は1株につき133ドルの現金とEntegris株0.4506株を受け取る条件だった。2022年7月6日の完了後、Entegrisは年次報告書(10-K)で、株式部分を2022年6月30日の終値で評価した取得総額を60億ドルとした3。CMC株主への現金38億ドル、Entegris株1,290万株、債務返済9億ドルを含み、取得した現金約3億ドルも含む。発表時の65億ドルとの差は、株式部分を評価した日の違いから生じる。

買収発表の資料によれば、CMCの直近12か月の売上は12億ドルで、CMPスラリーが46%、CMPパッドが8%、電子薬品が27%1を占めた。スラリーとパッドを合わせると約6.5億ドルになる。同じ資料は、CMP工程の消耗材を2社で分けて示している。CMCが出すのはスラリーとパッドで、スラリーのろ過と容器、パッドコンディショナー、粒子と工程のモニター、研磨後の洗浄薬液とそのフィルター、ブラシ、薬液の容器と送液はEntegrisが出す。Entegrisは買収前から自社のCMPスラリーも売っており、完了時の発表では自社のスラリー、CMP後洗浄液、パッドコンディショナー、ブラシ4をCMCの製品と同じ新部門に入れた。

CMPの消耗材一式を、供給と監視、研磨、研磨後の洗浄の3段に並べた図。研磨のスラリーと研磨パッドがCMC Materials由来で、スラリー容器、スラリーフィルター、粒子・濃度モニター、パッドコンディショナー、洗浄薬液、PVAブラシ、洗浄液フィルターがEntegris既存の製品。下の段に、各段で生まれる欠陥の源として、凝集した砥粒、パッドくず・ダイヤモンド、残った砥粒・有機物を並べている。
Entegrisの一式は、CMCのスラリーとパッドを中心に、供給、研磨、洗浄の3段で欠陥の源にかかわる部材をそろえる。

その新部門がAdvanced Planarization Solutions(APS)だ。2022年の投資家説明会では、APSの製品をICスラリー、パッド、コンディショナー、基板用スラリー、研磨後の洗浄液、電子薬品とし5、2021年の売上を10億8,300万ドル、調整後の部門利益率を24.9%と示した。

工場の利点は、傷の原因を部材ごとに押し付け合わずに済むこと

Section titled “工場の利点は、傷の原因を部材ごとに押し付け合わずに済むこと”

CMPの傷の源は1か所ではない。スラリーの選び方と傷の源で見たとおり、スクラッチは供給系で凝集した砥粒、パッドの削りくず、コンディショナーから外れたダイヤモンドから生まれる。部材を別々の会社から買うと、傷が増えたとき、工場が各社の間で原因を切り分けることになる。

Entegrisは、この調査を1社で回せることを売りにする。買収発表の資料は、統合したCMP製品で汚染の制御を高めて歩留まりを上げ、複雑な工程の開発期間を縮める1と説明した。2025年の10-Kでは、APS部門の精製と取り扱いの技術でMS部門のCMPスラリーと洗浄液の純度と安定性を保つことを6、部門をまたぐ協業の例に挙げている。監視には、粒径と粒子数を装置上で測るAccusizerと6、スラリーと洗浄液の濃度を測るSemiChemとInvueを持つ。

コンディショナーも、傷を減らす部材として一式に入れた。Entegrisは2013年のアプリケーションノートで、SiCの基材にCVDダイヤモンドを付けた自社のコンディショナーについて、ダイヤモンドの脱落をなくし、パッドとコンディショナーの寿命を延ばす7と説明した。2022年の投資家説明会でも、コンディショナーはAPS部門の製品に並んでいる。ダイヤモンドの脱落は、親記事で挙げた傷の源の1つだ。

一式の価値は、新しい金属を入れるときに大きくなる。10-Kは、モリブデン配線に向けて、成膜原料、CMPスラリーとパッド、研磨後の洗浄液、選択エッチング液に、ろ過・計測・送液の製品を組み合わせられる6ことを強みに挙げる。新しい金属では、スラリー、パッド、洗浄液の条件を同時に決め直すので、1社で試作を回すと開発が速くなる。

CMP消耗材はMS部門の売上の半分近くと見積もれ、フィルターと監視はAPS部門にある

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Entegrisは2024年第4四半期に組織を組み直し、報告区分をMaterials SolutionsとAdvanced Purity Solutionsの2つにした3。略称は同じAPSでも、2022年のAdvanced Planarization Solutionsとは中身が違う。いまはCMPスラリー、パッド、研磨後の洗浄液がMS部門に入り、CMPスラリーのフィルター、高純度の容器、液のモニターがAPS部門に入る6。一式は、2つの報告区分にまたがっている。

2025年の売上は、全社で31億9,660万ドル、MS部門が14億670万ドル、APS部門が17億9,910万ドルだった6。MS部門は売上の44%を占め、増収の要因の1つにCMP消耗材の伸びを挙げている。2021年のCMCのスラリーとパッドの約6.5億ドルは、2025年のMS部門の売上の46%にあたる。この比率は下限に近い。CMCのCMP売上は買収前の12か月で13%伸びており1、Entegris自身のスラリーと研磨後の洗浄液もMS部門に入るからだ。

部門2025年の売上部門利益利益率CMPで扱う製品
MS14億670万ドル2億7,660万ドル19.7%スラリー、パッド、研磨後の洗浄液、ブラシ
APS17億9,910万ドル4億2,640万ドル23.7%スラリーフィルター、容器、液のモニター

CMCから来たCMP以外の事業は、すでに売った。Entegrisは2023年3月にQEDを1億3,430万ドル、10月に電子薬品事業を6億7,530万ドルで富士フイルムに、2024年3月にパイプライン・工業材料事業を手取り2億5,620万ドルで売却した6。3件とも、CMCの買収で加わった事業だ。合計約10.7億ドルを取得総額60億ドルから引くと、CMPを中心に残った事業の取得額は約49億ドルになる。

2025年末ののれん39億ドルのうち、36億ドルがMS部門に属し6、監査人はMS部門ののれんの評価を監査上の主要な検討事項に挙げた。評価の前提は、売上の伸び、粗利率、割引率などの見通しだ。

売上相乗効果は利益にすると取得額の1%に届かない

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Entegrisは2022年の投資家説明会で、売上の相乗効果を2025年に年7,500万ドル超、2028年に年2億ドル超5にすると示し、柱に部門をまたぐ相互販売とCMP工程全体で最適化した新製品を置いた。この目標にはフィルターのようなAPS部門側の売上も入る。

2億ドルを2025年のMS部門の利益率19.7%で利益に直すと、年約3,900万ドルになる。実質取得額約49億ドルに対して0.8%だ。MS部門の2025年の部門利益2億7,660万ドルを丸ごと当てても、約49億ドルに対して5.6%にとどまる。MS部門には成膜原料や選択エッチング液も入るので、CMPだけの利益はこれより小さい。相乗効果は、買収額を回収する物差しにはならない。

2025年の途中目標についても、数字の手がかりは少ない。2026年2月の決算発表は、2025年の伸びの源を液体ろ過、選択エッチング、CMP消耗材の数量増8と説明し、相乗効果の額は載せていない。MS部門全体の売上は、売却した事業を除いた2023年の12億3,100万ドル9から2025年の14億670万ドルへ、2年で約1.8億ドル増えた。2028年の目標2億ドルは、MS部門全体のこの2年分の増収より大きい。

Qnityは一式で、フジミ・レゾナック・3Mは1品目で競う

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Entegrisは10-Kで、製品群全体について全製品で競う世界的な競合はいないとし6、MS部門の主な競合にMerckの電子材料部門、Qnity Electronics、Air Liquide、Linde、上海のAnji Microelectronicsなどを挙げる。CMPの消耗材に絞ると、競合の出方は2つに分かれる。

会社CMPで売るもの対抗する軸
Qnity(旧DuPont電子材料部門)パッド、スラリー、研磨後の洗浄液先端ノードで標準になったパッド
フジミインコーポレーテッドCMPスラリー先端ロジック・メモリー向けのスラリー
レゾナックセリアスラリー、Cu・バリア用スラリー低欠陥のナノセリア
3Mパッドコンディショナー金属を含まない微細構造の研削面

一式に最も近いのはQnityだ。DuPontは2025年11月1日に電子材料部門をQnityとして分離し10、QnityはIC1000、Ikonic、VisionpadなどのCMPパッドについて、長く業界の標準で、先端ノードで主導的な地位にあると説明する。スラリーと研磨後の洗浄液も持つ。パッドで標準を持つ会社がスラリーと洗浄液も出せるので、Entegrisの一式と正面から競う。

フジミとレゾナックは、スラリーの性能で採用を取りにいく。フジミの2026年3月期のCMP製品の売上は、先端ロジックと先端メモリー向けが増えて361億3,500万円、前期比17.9%増だった11。レゾナックは、独自のナノセリア砥粒で高い除去速度のまま欠陥を極めて少なくする12スラリーを売る。

3Mはコンディショナーで競う。3Mは2016年の技術資料で、Trizactを微細な形を複製したセラミックの構造にCVDダイヤモンドを付けた製品とし、研削面に金属を含まないので、金属汚染を嫌う先端ノードに向く13と説明した。Entegrisのコンディショナーと同じく、ダイヤモンドの扱いで欠陥を減らすことを売りにしている。

一式の利点は原因調査を1社で回せることで、弱みは工場が部材ごとに2社目を残せること

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一式の利点は、傷が出たときに原因の調査を1社で回せることだ。スラリーの凝集、配管、パッド、コンディショナー、洗浄のどこが原因でも、Entegrisは自社の部材の組み合わせを替えて試せる。工場にとって切り替えの手間が増えるほど、CMCから受け継いだスラリーの売上は他社に移りにくくなる。

弱みは3つある。1つ目は、工場が部材ごとに別の会社を選べることだ。パッドはCMCの売上の8%で、スラリーの46%より小さいので、工場がQnityのパッドを組んでも一式の大部分は残る。ただしEntegrisは、NexPlanarやMedeaなど自社のパッド6の販売をその工場で失う。2つ目は顧客の集中で、上位10社が売上の50%を占め、1社だけで5億2,680万ドル6を買っている。大口の顧客が2社目のスラリーを育てると、売上の大きな部分が他社に移る。3つ目は地域での調達だ。10-Kは供給網が地域ごとの、安く、集約した形へ移っている6と書き、別の箇所で中国のAnjiを競合に挙げる。この2つを合わせると、中国の工場では地場のスラリーへの置き換えが進むと読める。

買収額に見合うかは、CMP消耗材の売上そのものを守り、伸ばせるかで決まる。追う数字は、決算で増収要因に挙がるCMP消耗材の伸びと、MS部門の部門利益だ。CMPの装置と工程の全体はCMPの解説、欠陥の追い方は歩留まりと欠陥、研磨後の洗浄はCMP後洗浄にまとめている。

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