スクラッチとは
スクラッチとは、CMPの最中に周りの砥粒より大きな粒子や異物が挟まって、被研磨膜が線状にえぐり取られる欠陥です。 傷の数を決めるのは平均粒径ではなく、粒度分布の裾にわずかに残る大粒子の個数です。平均粒径を揃えた液でも傷は出ます。そして傷を減らす手は、粒径を絞る、化学作用を強める、パッドを柔らかくする、のどれを選んでも研磨速度か平坦化性能を代わりに差し出すことになります。
1粒の大粒子が、その場所だけ面圧を集めて膜を掘る
Section titled “1粒の大粒子が、その場所だけ面圧を集めて膜を掘る”研磨傷の原因は、研磨材の中の異常に大きい粒子と外から入った異物の2つです1。それが挟まって被研磨膜に過大な機械的な力がかかった結果として発生すると推定され、傷の付いた場所では膜が深くえぐられます。CMPは、圧力が一様に掛かる前提で進む研磨です。そこに粗大な砥粒や異物が入ると、そこだけ圧力が集まり、傷や凹凸状の欠陥になります2。溶ける異物でも、その場で反応が起きれば欠陥になりえます。面圧の前提を1粒が崩すと、その場所だけ別の加工が起きます。
傷は比較的軟らかいSTI部、つまりSiO₂に多く見られますが、まれにストッパ膜のSiN上にも発生します。STI部に連続して発生した傷の例では、硬いストッパ膜を成膜した仮想素子部の手前で傷が止まっていました。硬い膜は傷の進行を抑えます。日立化成は、STI工程はトランジスタ部と接する箇所を研磨するため、CMPの中でも欠陥の発生に最も敏感で、研磨傷の抑制が特に重要だとしています3。欠陥の発生には研磨装置、パッド、研磨材、ドレス、ウェーハのすべてが関与します。
傷を決めるのは、粒度分布の裾にある大粒子の個数
Section titled “傷を決めるのは、粒度分布の裾にある大粒子の個数”STI用研磨材の粒径は平均でサブミクロン域にあり、100 nmを下回る製品も出てきました。そのサブミクロン粒子を1 wt%分散させた液の粒子数は、およそ10の17乗から18乗個/mLです。ここに1 µm以上の大粒子が10の7乗個/mLを超えて混入すると、傷の数が混入個数に比例して増えました。個数で比べると、10のマイナス10乗レベルの汚染でも研磨傷は増えることになります。日立化成は2008年の日立評論で、大粒子の発生を抑えて研磨傷を従来の5分の1に減らしたと報告しています。
インテグリスも、多くのCMPスラリーの平均径は数百nmでも、比較的少量の大きな粒子がウェーハを使えなくしうるとしています4。同社は、1 µmを超える粗大粒子や凝集粒子がマイクロスクラッチをつくるとしています。このため裾の測り方が管理の中心になります。同社は、レーザー回折は分布の平均径をよく測れる一方、粒子を1個ずつセンサーに流してレーザー光を遮った量から断面積を求めるSPOS(単一粒子光学計数)は、分布の裾と大粒子数(LPC)に対して数百倍の感度を持つとしています。
裾の大粒子は、スラリーの中でも研磨中にも生まれる
Section titled “裾の大粒子は、スラリーの中でも研磨中にも生まれる”研磨材側で傷を作る主な原因は、粗大結晶、凝集粒子、外から入る異物です。粗大粒子は、結晶が異常に成長する場合、分散が悪化して粒子どうしが凝集する場合、粒径を揃える技術が不足する場合に生じます。日立化成は、セリア粒子への吸着性も制御して、粒子の凝集で起きる研磨傷も減らしたとしています3。シリカ系でも事情は同じで、ポールは、コロイダルシリカのスラリーは凝集体をつくり、それが傷の欠陥の原因になりうるとしています5。同社は、ろ過で凝集体を除けば傷のない研磨ができる一方、そのろ過は容易ではないとしています。
大粒子はスラリー以外からも入ります。フジミインコーポレーテッドの森永均氏は、見落としやすい原因として、加工対象物そのものが持ち込む汚染を挙げています。粗研磨で使った大きな砥粒が仕上げ工程に持ち込まれる経路と、基板の縁の欠けが、傷の原因になります。対策は、加工工程ごとの装置とエリアの分離、粗研磨後の洗浄、エッジの面取りです。ラッピングや鏡面研磨から仕上げ工程に持ち込まれる粒子は、スラリーのろ過では除去できません。研磨ヘッドの部品も源になります。エンズインガーは、リテーナリングの内壁の溝の摩耗(サイドアタック)で壁が不揃いになり、そこにスラリーなどの粒子が付着して凝集し、のちに外れてウェーハを傷つけるとしています6。
森永氏は、CMPを対象の表層を削りながら進む汚染発生型のプロセスと位置づけています。削れた研磨副生物が砥粒、パッド、加工面に付着し、正常な研磨を妨げます。副生物や砥粒が凝集したり乾燥したりして粗大粒子になり、パッドを目詰まりさせることもあります。対策はゼータ電位の制御で、pHや界面活性剤、分散剤の添加で行います。大粒子は、研磨中にも生成されることがあります。
1本の傷が周りの素子8個に及び、配線では絶縁を壊す
Section titled “1本の傷が周りの素子8個に及び、配線では絶縁を壊す”傷はゲート電極材料の残り、トランジスタのI-V特性のばらつき、素子そのものの破壊を引き起こし1、いずれも歩留りを下げます。試験用のSTIパターンを研磨した場合、連続した傷1本で周りの素子8個に影響が及ぶと見積もられ、傷の寸法が同じでも素子が小さくなるほど影響範囲は広がります。さらに、傷は小さいものほど数が指数関数的に増えるため、寸法が縮むにつれて小さい傷の影響が大きくなります。
配線層では、傷の深さより、傷がまたぐ配線の本数が結果を左右します。バリアメタル研磨ではTaとSiO₂がCuより機械的な作用で削れやすいため砥粒の選定が重要ですが3、砥粒の機械的強度を上げすぎると傷が出ます。細い傷でも配線間の絶縁を悪化させるため、柔らかいコロイダルシリカ砥粒を少量混ぜて欠陥を抑えています。Cu-CMPとバリアメタルの研磨では、傷の深さより配線間の絶縁抵抗が測定項目になります。産総研は、こうしたマイクロ・ナノスケールの欠陥を、デバイスの電気的短絡や回路断線などの不良の原因7として懸念しています。CMPの欠陥が短絡や断線を通じて歩留まりを下げる経路の中で、スクラッチは素子や配線を実際に落とすキラー欠陥に分類されます。
表層に閉じた傷は、応力をかけて光らせる
Section titled “表層に閉じた傷は、応力をかけて光らせる”CMPはウェーハと砥粒の摩擦による機械的な相互作用を利用しているため、ウエハー表層にマイクロスクラッチなどの欠陥ができます7。これらの欠陥は表層の内側で閉じているため、従来の欠陥検査装置では非破壊で見つけられませんでした。産総研の応力誘起光散乱法は、ウェーハをたわませて表層に引張応力を加え、傷の先端に集中した応力を光弾性効果として検出します。応力を加える前後でレーザー光を入射し、先端の屈折率変化を光散乱強度の変化として捉え、変化量が大きい点を選択的に抽出します。
応力が作用する傷だけが光散乱強度を変えるため、マイクロスクラッチだけを検出できます。これが、パーティクルと傷を区別する原理です。産総研は2014年に、この成果がルネサスセミコンダクタ九州・山口とのマイスター型連携研究の一部で、量産ラインへの導入を目標に実証試験を進めていると報告しました。
日常の管理は、スラリーの粗大粒子とウェーハの欠陥を並べて追う
Section titled “日常の管理は、スラリーの粗大粒子とウェーハの欠陥を並べて追う”森永氏の解説では2、フジミインコーポレーテッド製のシリコンウエハ仕上げ用スラリーについて、スラリー中の0.6 µmより大きい粗大粒子数の相対値と、CMP後のウエハ上の37 nmより大きい欠陥数の相対値が、1985年から2025年までのスラリー開発年に沿って並んでいます。300 mmシリコンウエハをスエードパッドで研磨し、SC1洗浄の後にKLA Surfscan SP2で検査した値です。CMP後のウェーハ表面のナノ欠陥数は、スラリーを清浄化するにつれて下がり続けています。欠陥検査の欠陥数とスラリー側の粗大粒子数を並べて追うと、どちらが変化したのかを切り分けられます。
粒径を絞ると傷は減り、研磨速度も一緒に下がる
Section titled “粒径を絞ると傷は減り、研磨速度も一緒に下がる”日立化成は、研磨傷が少なく高い研磨速度が得られるセリア粒子に着目し、サブミクロンのセリア粒子を使うHS-8005を1999年に上市しました3。その後、粒径と粒度分布を絞った製品を並べています。添加剤を使い、ロータリータイプ研磨機とポリウレタン系硬質パッドで研磨したときの公表値では、SiO₂膜の研磨速度と研磨傷の相対値は、HS-8005で350 nm/minと100、HS-8005-Xで330 nm/minと40、HS-8005-X2で300 nm/minと20、HS-8005-X3で250 nm/minと10未満、超微粒子品のHS-NCで250 nm/minと1未満です。SiN膜の研磨速度は前の4品が8 nm/min、HS-NCが4 nm/minで、平坦性はいずれも10 nm未満です。HS-8005-X3の研磨傷はHS-8005の10分の1以下で、研磨速度を100 nm/min下げることで傷が1桁減っています。HS-NCは粒子を液中で造粒して粒径を制御し、研磨速度250 nm/minのまま研磨傷を1未満に下げました。
砥粒の種類によっても、研磨速度と傷の関係は変わります。コロイダルシリカは粒子が球状で揃っており、平坦性と傷の少なさから仕上げ研磨に向きます8。フュームドシリカは気相法で作られるため凝集構造を持ち、研磨速度は速いものの傷のリスクが高くなります。アルミナは硬度が非常に高く、研磨速度は速いものの傷のリスクが最も高くなります。従来のセリアスラリーでは研磨速度を上げようと粒径を大きくすると傷が出やすくなりましたが、レゾナックは、ナノセリアスラリーで粒子を微細かつ均一に制御しつつ粒子表面の化学的活性を高めて、研磨速度も確保したとしています。
化学作用、ろ過、柔らかいパッドは、それぞれ別の代償を払う
Section titled “化学作用、ろ過、柔らかいパッドは、それぞれ別の代償を払う”Wなどの純金属を砥粒でそのまま加工すると傷が入るため、W表面を酸化した後にSiO₂などの砥粒で機械加工します9。SiO₂膜は同じ材料であるシリカ砥粒で共摺りするのが基本で、材料が同じだと傷が入りにくくなります。それでも傷は入るため、SiO₂を溶かすアルカリ側の液で表面を滑らかにします。機械作用を減らして化学作用の比率を上げると傷は減りますが、森永氏が指摘するように、化学作用が過剰になると表面荒れや局部腐食が生じ、凹部の過研磨も進みます。オーバーポリッシュとのトレードオフになる条件です。
森永氏は、スラリーを作る側では精度の高いろ過と分級と精製で粗大粒子や異物を落とすこと、研磨する側では環境そのものを清浄に保つことを挙げています。粗大粒子は傷を直に作るため、発生そのものを厳しく抑える対象です。ろ過を細かくすると圧力損失と交換頻度が上がり、砥粒そのものを削ってしまう場合もあるため、CMPスラリーの設計とフィルタの選定は一体の判断になります。
被研磨膜へのダメージを減らす対策として柔らかいパッドを使う検討もあり、絶縁膜CMPでも荷重を下げる方向に進む見込みです1。軟質パッドにすると傷は減りますが、森永氏が指摘するように、柔らかいパッドは戻ろうとする力で加工面の端部に圧力を集中させるため、リテーナリングやテンプレートが必要です。CMPパッドを柔らかくすると、平坦化性能は下がります。パッドの表面を保つパッドコンディショニングについて、旭ダイヤモンド工業はCMPの研磨特性を安定させる重要な工程と位置づけ、25年以上コンディショナを供給してきたとしています10。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”スクラッチとは何ですか?
CMPの最中に、周りの砥粒より大きな粒子や異物が挟まって、被研磨膜が線状にえぐり取られる欠陥です。挟まった粒子が被研磨膜に過大な機械的な力をかけた結果として起き、傷の付いた場所では膜が深くえぐられます。
スクラッチはどこから来ますか?
研磨材側の主な原因は粗大結晶、凝集粒子、外から入る異物です。粗研磨で使った大きな砥粒が仕上げ工程に持ち込まれることや、基板の縁の欠けも原因になり、リングの内壁にたまった粒子が外れて傷をつける経路もあります。
平均粒径を小さくすればスクラッチは消えますか?
消えません。傷を決めるのは粒度分布の裾にある大粒子です。サブミクロン粒子を1 wt%分散させた液の粒子数はおよそ10の17乗から18乗個/mLですが、1 µm以上の大粒子が10の7乗個/mL以上混ざると、混入量に比例して研磨傷が増えました。個数の比では10のマイナス10乗レベルです。
どれくらい小さい傷が問題になりますか?
試験用のSTIパターンでは、連続した傷1本で周りの素子8個に影響が及ぶと見積もられました。傷の寸法が同じでも素子が小さいほど影響範囲は広がり、傷は小さいものほど数が指数関数的に増えるため、寸法が縮むほど小さい傷が効いてきます。
スクラッチを減らすと何を失いますか?
研磨速度です。日立化成のセリアスラリーでは、研磨傷の相対値100のHS-8005がSiO₂膜350 nm/min、相対値10未満のHS-8005-X3が250 nm/minです。従来のセリアスラリーでは、速度を稼ごうと粒径を上げると傷が出やすくなりました。
表層に閉じたスクラッチはどう検出しますか?
産総研の応力誘起光散乱法を使います。ウェーハを曲げて引張応力を加え、傷の先端に集中した応力による屈折率変化を光散乱強度の変化として捉えます。応力が働く傷だけが散乱強度を変えるので、パーティクルと切り分けられます。
金属膜のスクラッチはどこが違いますか?
傷の深さより、配線間の絶縁不良が問題になります。バリアメタル研磨では砥粒の機械的強度を上げすぎると傷が出て、細い傷でも配線間の絶縁を悪化させるため、柔らかいコロイダルシリカ砥粒を少量混ぜて欠陥を抑えています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- パーティクルとは── 応力をかけても光散乱強度が変わらない、表面に付着しただけの異物
- オーバーポリッシュとは── 1粒の異物より研磨時間で決まる、過研磨の問題
- キラー欠陥とは── 傷のうち、素子や配線を実際に落とすものの呼び方
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- 1日立評論:半導体平坦化用CMP研磨材、日立化成工業 芦澤寅之助・天野倉仁(2008年2月)hitachihyoron.com abc
- 2
- 3日立化成テクニカルレポート No.55 総説④:半導体ウエハープロセス材料resonac.com abcd
- 4インテグリス:CMPスラリーの粒子評価(SPOSによる粒度分布の測定)entegris.com ↩
- 5ポール:マイクロエレクトロニクス向けろ過の技術資料pall.com ↩
- 6エンズインガー:CMPリテーナーリング向け材料(半導体用途ページ)ensingerplastics.com ↩
- 7産総研TODAY:半導体ウエハー表層のマイクロスクラッチの可視化(2014年3月)aist.go.jp ab
- 8レゾナック:微細化が進む前工程で高速研磨と低スクラッチを両立するナノセリアCMPスラリーresonac.com ↩
- 9精密工学会誌:半導体プロセスのCMP技術、荏原製作所 辻村学jstage.jst.go.jp ↩
- 10旭ダイヤモンド工業:CMPコンディショナasahidia.co.jp ↩