プレストン式とは
プレストン式とは、CMPの除去レートを、研磨圧力と相対速度の積に比例させて表す経験則です。 板ガラス研磨機の理論として1927年に示された関係を、半導体のCMPがそのまま借りています。この式で装置が直接決められるのは、研磨圧力と相対速度の2つだけです。パッドの状態、砥粒、温度、スラリーの流れはすべてプレストン係数に入るため、レートが変わったときに疑う先は、記録に残らない係数の側になります。
装置が決めるのは圧力と速度だけで、残りはすべて係数に入る
Section titled “装置が決めるのは圧力と速度だけで、残りはすべて係数に入る”CMPの機械的作用はプレストンの式に従うものとして、研磨速度(m/s)、研磨圧力(Pa)、相対速度(m/s)、定数(Pa⁻¹)を用いた1の形で書かれます。同じ関係を2と書き、をプレストン係数と呼ぶ書き方もあり、その元は1927年の板ガラス研磨機に関する論文です。研磨時間を掛けて研磨量として書くと、になり3、は研磨量、はプレストン係数です。速度で書くか総量で書くかの違いで、中身は同じ経験則です。
この式が現場で役に立つのは、レートを当てるためより、動かせる量と運転中に決まる量を仕分けるためです。名古屋大学・金沢大学・荏原製作所の連名の講演論文は、この区別を明確にしています。研磨圧力と相対速度は機械側の入力条件で、精密な安定制御が実現されている4一方、研磨効率はさまざまな要因に依存して決まる状態量で、その推定とモニタリングの技術は今後の課題だとしています。プレストン係数にはスラリーの機械的作用と化学的作用が入り、その解明はまだ途上です。
係数を動かす代表がパッドです。発泡ポリウレタン製パッドIC1000では、真実接触面積が約1%になるようにアスペリティ(ドレスで作られる突起状の構造)の先端が工作物に接触し、その界面や縁に捕捉された砥粒が材料を除去します。ウェーハ面積の100分の1だけが接触しているので、パッド表面の状態が変わればも変わります。
ηは連続研磨でも、圧力と回転数を固定しても動く
Section titled “ηは連続研磨でも、圧力と回転数を固定しても動く”畝田氏はの変動を2通りの実験で報告しています。ひとつは連続研磨で、両面同時研磨装置で直径300mmのシリコンウェーハを連続研磨すると、1回目のコンディショニング直後にいったん上がった研磨レートが、その後は研磨回数を重ねるにつれて低下し、2回目のコンディショニングで元の水準へ戻りました。同時に取得した接触画像では、接触領域の数が減り、一部が凝集していきます。研磨レートの推移は接触点数の推移とほぼ同じで、凝集の度合いを表す分散度とはおおよそ逆に動きました。
もう1つは、研磨圧力と回転数を一定にしたままの比較です。4種類の不織布タイプ研磨パッドと吸着性の異なる2種類のスラリーを組み合わせると、接触界面を流れるスラリーの線速比(スラリー流速をパッド線速度で割った値)は0.664から0.990まで変わり、研磨レートもそれに合わせて変わりました。線速比と研磨レートの相関係数は0.933で、畝田氏は、圧力と回転数を一定にしてもレートが変わることから、プレストン係数はスラリー線速比に比例すると解釈しています。線速比を目的変数、スラリーの吸着性・パッドの接触点数・パッドの密度を独立変数とした重回帰分析では、相関係数0.936が得られました。金沢工業大学の実験系で使われたパッドの接触点数は122、69.9、62.0、51.6(1/mm²)、密度は390、436、467、590(kg/m³)です。
レシピの再現性が崩れたときに最初に疑うべきなのは、設定値として記録されるとより、記録に残らないのほうです。を読む手段も用意されています。畝田氏は、ダブプリズムの全反射面に研磨パッドを押し当てて接触領域からの拡散反射を撮影する接触画像解析法を提案し、接触点数・分散度・接触率・接触点間隔の4つのパラメータで定量化しています。玉井らは研磨トルクと研磨効率の高い相関に着目し、摩擦係数が研磨効率に比例する機械的な性質を実験で示しました。STIや層間絶縁膜の研磨でレートが変わったときは、まずトルクの立ち上がりと減衰の波形を確認します。
圧力を上げればレートは比例して上がるが、平坦性と熱で払う
Section titled “圧力を上げればレートは比例して上がるが、平坦性と熱で払う”研磨圧力を上げると、式のとおりレートは圧力に比例して上がります。一方で、平坦化性能と熱の2つで問題が生じます。平坦化性能は、荷重は低いほうが、相対速度は速いほうが、パッドは剛性が高いほうが良いことが分かっています1。
熱の面では、研磨の摩擦が加工面の摩耗と同時に摩擦熱を生み、加工面が数十度まで温まることも多く5、活性化エネルギーを51kJ/molとした目安では、加工面の温度が10℃上がると化学作用はおよそ2倍に速くなります。大型基板では中心に熱がこもり、その部分の研磨レートが上がって平坦性が崩れます。圧力を上げるほど、面内分布と表面荒れが悪化します。逆に圧力を下げると、不足したレートを研磨時間で補うことになり、ディッシングとエロージョンが進みます。
相対速度は、平坦化性能とレートの両方を同じ方向に改善する数少ない条件です1。ただし速度を上げても、界面にスラリーが供給されなければが下がります。温度の均一化策として、フジミインコーポレーテッドの森永均氏は、定盤のチラーの活用、スラリー流量の最適化、パッドへの溝構造形成によるスラリー排出の促進を挙げています。速度を上げるときは、CMPスラリーの供給とCMPパッドの溝設計も合わせて調整します。
コンディショニングは、を直接変える条件です。名古屋大学らの講演論文は、ドレス量にもプレストン則が当てはまると仮定してドレス量を定式化し、ドレス量が増えるほど有効に接触するアスペリティの数が増える一方、ウェーハとの接触でアスペリティが塑性流動して目つぶれが起きるとしています。目立てとダメージのつり合いで、研磨効率と摩擦係数が変わります。この動的モデルで推定したプラテントルクは、モータ電流から推定した実測トルクとよく一致しました。強くドレスすればは回復しますが、パッドの寿命は短くなります。ドレス圧力とドレス時間の決め方はパッドコンディショニングが扱います。
砥粒を含まない銅CMPでは、一般に銅のレートが圧力に比例しない
Section titled “砥粒を含まない銅CMPでは、一般に銅のレートが圧力に比例しない”プレストン式は、どの膜にも当てはまるわけではありません。MITの論文によると、砥粒を含まない銅CMPは、銅の研磨について一般に非プレストニアンで6、銅の除去レートは研磨圧力に対して直線的に変わりません。同じ工程でも酸化膜とバリア材の研磨はプレストニアンで、銅だけが非プレストニアンでした。銅のレートには、それ以下ではほぼゼロになるカットオフ圧力と、レートと圧力の曲線の傾きが変わるブレークポイント圧力があります。
同じ論文は、プレストン式を土台に作った銅CMPのモデルが砥粒を含まない工程には当てはまらない場合があるとし、相対速度、消耗品の組み合わせ、スラリー流量を決めた条件で、まずレートと圧力の関係を数式で決めることをモデル化の要としています。その関係を、フックの法則にもとづく圧力と段差(Cu-CMPではディッシング)の関係と組み合わせ、研磨の段階ごとにレートの図を組み立てます。装置の荷重設定から決まる印加圧力は、そのときのブランケット銅の除去レートはと置きます。
非プレストニアン性の添加剤は段差を速く消すが、洗浄へ持ち越される
Section titled “非プレストニアン性の添加剤は段差を速く消すが、洗浄へ持ち越される”CMP後の膜の平坦性を上げるには、研磨量に対して圧力が1乗より大きく影響する非プレストニアン性を示す添加剤が有効3とされています。求められる添加剤は、低圧部では膜に吸着して保護し研磨速度を下げ、高圧部では膜から剥がされて元の研磨速度を保つものです。東亞合成の藤本悠椰氏の評価では、リビング重合で分子量分布を狭くしたポリアクリル酸系と、疎水ユニットをブロック状に配置したポリスルホン酸系が、従来型のラジカル重合品より圧力応答性に優れていました。この評価はEngis製EJ-380CH-Yで、研磨盤回転数60rpm、研磨時間2分、荷重1kgと6kg、パッドIC1000/SUBA400、SiO₂膜とSiN膜、シリカ10wt%にポリマー0.05wt%、pH11の条件で行い、圧力応答性を6kgfと1kgfの研磨速度比で表しています。
この方法の課題は、後工程への影響です。防食剤、界面活性剤、水溶性ポリマーといった表面保護剤は凹部への薬液の作用を抑えますが、森永氏は、選ぶ際には表面への吸着の強さと、洗浄で除去できるかどうかの両方を条件にする必要があるとしています。凹部に強く残る保護膜ほど平坦化には有効ですが、そのままCMP後洗浄に持ち越されます。Cu-CMPのように防食剤が必須の工程では、これが有機残渣になります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”プレストン式とは何ですか?
CMPの除去レートを、研磨圧力と相対速度の積に比例させて表す経験則です。研磨速度PR、研磨圧力P、相対速度V、定数kを用いてPR=kPVと書きます。
プレストン係数には何が入っていますか?
圧力と速度以外のほぼすべての要因です。プレストン係数にはスラリーの機械的作用と化学的作用が含まれ、その解明はまだ途上です。パッド表面の状態、砥粒、温度、界面の流れが、この1つの係数に入っています。
圧力を2倍にすればレートも2倍になりますか?
式の上では2倍です。ただし平坦化性能は荷重が低いほうが良いことが分かっており、レートを上げる代わりに、平坦化性能が下がり、摩擦熱が増えます。砥粒を含まない銅CMPでは、一般に銅のレートが圧力に比例しません。
圧力と回転数を固定すれば、レートは一定になりますか?
レートは動きます。畝田氏の実験では、研磨圧力や回転数を一定にしても、接触界面を流れるスラリーの線速比によって研磨レートが変わりました。同じpとvでも、ηが動きます。
プレストン係数は何を測ると分かりますか?
摩擦です。玉井らは研磨トルクと研磨効率の高い相関に着目し、摩擦係数が研磨効率に比例する性質を実験で示しました。プラテントルクはモータ電流から拾えます。
非プレストニアンとは何ですか?
研磨量に対して圧力が1乗より大きく影響する性質です。CMP後の膜の平坦性を上げるには、この性質を示す添加剤が有効とされ、低圧の凹部では膜に吸着して保護し、高圧の凸部では剥がされて元の研磨速度に戻る添加剤が求められます。広くは、レートが圧力に比例しない研磨を指します。
パッドの真実接触面積はどのくらいですか?
見かけの面積の1%程度です。発泡ポリウレタン製パッドIC1000では、真実接触面積が約1%になるようにアスペリティの先端が工作物に接触し、実際に研磨しているのはこの1%の部分です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- CMP後洗浄とは── 研磨後に残る汚れを除去する工程
- パッドコンディショニングとは── プレストン係数を現場で最も直接的に変える工程
6件を表示
- 1精密工学会誌:半導体プロセスのCMP技術(荏原製作所 辻村学)jstage.jst.go.jp abc
- 2精密工学会誌:半導体プラナリゼーションCMP技術 研磨の『見える化』に基づくメカニズム分析へのアプローチ(金沢工業大学 畝田道雄)jstage.jst.go.jp ↩
- 3東亞合成:研究年報 TREND 2025 第28号 CMP用ポリマー添加剤の開発(藤本悠椰)toagosei.co.jp ab
- 4精密工学会:2020年度春季大会講演論文集 研磨パッドの表面状態を考慮したCMPプロセスのモデル化(名古屋大学・金沢大学・荏原製作所)jstage.jst.go.jp ↩
- 5
- 6マサチューセッツ工科大学:砥粒を含まない銅CMPのモデル化に関する論文(VMIC)mtlsites.mit.edu ↩