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段差解消性とは

段差解消性とは、研磨によってウェーハ上の段差がどこまで下がるかを表す性質です。 削る速さとは別の指標で、段差が下がるのは凸部と凹部の除去レート差が保たれているあいだだけです。そのレート差の寿命を決めるのはパッドの変形量で、研磨レートを上げても段差が速く消えない場合があるのはこのためです。到達点を動かすのは、パッドの硬さと温度、凹部を守る添加剤、オーバーポリッシュの長さです。パッドを硬くしても温度を下げても、研磨レートは下がります。

段差が下がるのは、凸部と凹部の圧力差が残るあいだだけ

Section titled “段差が下がるのは、凸部と凹部の圧力差が残るあいだだけ”

段差のあるシリコンウェーハを研磨すると、突起部に応力が集中し、凹部は局所的に低圧力状態になります1。基本的にはこの局所的な圧力差によって平坦化が進みますが、現実には研磨パッドが弾性で変形するため、凹部も研磨されます。プレストン式の圧力を場所ごとの値として書き直すと、段差解消性は凸部と凹部の圧力差の大きさと寿命そのものになります。

パッドの変形と局所圧力
硬いパッド柔らかいパッドパッド膜パッド膜段差凸部は高圧凹部は低圧変形が小さい凹部まで押される
パッドが凹部へたわむほど凹部も押され、凸部との圧力差が小さくなります。変形量が小さい硬いパッドほど、平坦化が頭打ちになる段差が低くなります。

九州大学の礒部晶氏は2014年の博士論文で、その寿命に名前を付けました。研磨を始めた時点では凸部と凹部でローカル圧力に差があるため凸部のレートが高く、研磨が進んで凸部の高さが減るとその圧力差も縮みます2。やがて凸部と凹部のレート差が消え、そこで平坦化は頭打ちになります。礒部氏はこの到達点を限界平坦性と呼び、到達点がパッドの変形量に左右されること、変形量が小さいときは限界平坦性の凹凸間の距離が伸びるか、凹凸の段差そのものが低くなることを述べています。

同じ考え方は、横方向の距離でも語られてきました。MITのBoning研究室は国際CMPシンポジウムの講演で、研磨を続けても、プラナリゼーション長を超える距離の段差は下げられないと示しています3。プラナリゼーション長はCMPプロセスの平坦化能力を表す量で、専用のテストウェーハを研磨して測ります。

求められる平坦性は、工程ごとに距離の尺度が違う

Section titled “求められる平坦性は、工程ごとに距離の尺度が違う”

多層配線では各層の平坦化が欠かせません。レゾナックは、SOG(同社製品HSG-R7)による局所平坦化からCMPによるグローバル平坦化(完全平坦化)が実用化されて、配線層の段差は飛躍的に改善されたとしています4。層間絶縁膜のCMPは層間膜の途中で研磨を止めて残膜を制御する必要があり、mm単位の距離での平坦性、つまりグローバル平坦性が問われます。MITの同じ講演は、横方向0.2〜20 mm、高さ10〜100 nm程度のウェーハ表面の起伏をナノトポグラフィと呼んでいます。

STIやCu-CMPのように複数の膜が露出し、選択比で構造を作る工程では、エロージョンやディッシングといったローカル平坦性の制御になります。レゾナックは、STIはデバイスの最下層にあるため、この工程での段差の解消が低研磨傷化とともに重要な特性だとしています。

太い配線と細密パターンの段差を、触針式の段差計で測る

Section titled “太い配線と細密パターンの段差を、触針式の段差計で測る”

CMPプロセスの平坦性は、ライン/スペースが100/100 µmの太い配線上の凹凸を触針式の段差計で測るのが一般的です。レゾナックのセリアスラリーの表も、平坦性をActive/Trench=100/100 µm部のディッシングで定めています4。礒部氏は、触針式プロファイロメータでライン/スペース9.0/1.0 µmのパターンを代表値とし、中心から外周にかけて半径上の4チップで面内分布を取りました。太い配線と細密アレイの両方を持つテストパターンで、段差解消性を測ります。

日立化成工業の芦沢寅之助氏と天野倉仁氏が日立評論の表1に示した研磨特性は、Sematec 864のSTI用テストパターンで初期段差600 nm、研磨時間140 s、100 µmライン/スペースの残留段差10 nm、トレンチ酸化膜のばらつき25 nm、ストッパ膜のばらつき5 nmです。研磨の終点は、すべてのストッパ膜が露出した時点です。レゾナックのメタルスラリーは、Cu用HS-H700が研磨圧力14.0 kPaでCu 850 nm/min、100/100 µmのディッシング50 nm未満、9/1 µmのエロージョン10 nm未満です。バリア用HS-T915は10.5 kPaでCu 27/TaN 95/SiO₂ 90/SiOC 31 nm/min、ディッシング10 nm未満、エロージョン5 nm未満です。

パッドの圧縮率が低いほど平坦になり、研磨レートは下がる

Section titled “パッドの圧縮率が低いほど平坦になり、研磨レートは下がる”

パッドの圧縮率は、限界平坦性を直接左右します。礒部氏は同じ条件のCu研磨で、積層パッドIC1400と単層パッドIC1000を比べました。条件はウェーハ圧力20.7 kPa、リテーナリング圧力6.9 kPa、プラテン83 min⁻¹、ヘッド78 min⁻¹、スラリー流量270 ml/min、毎回ex-situで30 sのドレッシングです。MIT754パターン上にCu 1000 nmとTa 15 nmを成膜したウェーハを終点検出まで研磨すると、エロージョンとディッシングの合計はIC1400で72 nm、IC1000で59 nmでした。バルク圧縮率はIC1400が3〜4%、IC1000が約1%です。一方でブランケット膜での研磨レートはIC1400が925 nm/min、IC1000が765 nm/minで、面内均一性は1σで1.9%と2.0%でした。

パッドの圧縮率と平坦性・レート
エロージョン+ディッシング(nm)506070807008009001000研磨レート(nm/min)IC1000(単層・約1%)765 nm/min・59 nmIC1400(積層・3〜4%)925 nm/min・72 nm
同じ条件のCu研磨で、圧縮率約1%の単層IC1000は凹みの合計が59 nmと小さい代わりに、研磨レートが765 nm/minにとどまりました。圧縮率3〜4%の積層IC1400は925 nm/minで削れる一方、凹みは72 nmに広がりました。

礒部氏は、低い圧縮率が平坦性を改善する一方、パッドの追従性が落ちてウェーハとの接触部が減り、レートが下がったと解釈しています。同氏の論文では、ローカル平坦性にはバルク物性より表面の実効弾性率が支配的で、パッド表面をバネの集合と見なせます。バネ定数が大きい、つまり表面の実効弾性率が高い場合は、段差によるローカル圧力差が短時間で大きくなり、ローカル平坦性の悪化がそこで止まります。バネ定数が小さい場合は圧力差が大きくならず、段差が大きくなっても悪化が続きます。パッドの選定とパッドコンディショニングの強さが、そのまま段差解消性に影響します。

パッド表面温度も段差解消性に影響します。礒部氏の測定では、IC1400は研磨中に温度が上がり続け、IC1000は研磨開始から30 sで温度上昇が止まりました。下層にクッション層がある積層パッドのほうが熱伝導率が低く、発生した熱をプラテンに逃がしにくいためです。プラテン設定温度を上げると、研磨レートもディッシングとエロージョンの合計も増え、その傾きはIC1000のほうが大きくなりました。横軸をパッド表面の到達温度に置き換えると、パッドの種類にかかわらず、平坦性とレートの両方が温度と強く相関しました。IC1400ではディッシングとエロージョンの面内ばらつきも出て、ウェーハ中心部が大きく周辺部が小さい傾向がありました。

大型基板の研磨では、中心部に熱がこもって中心部の研磨速度が上がり、平坦性に悪影響を及ぼします5。フジミインコーポレーテッドの森永均氏は、対策に定盤のチラー機能の活用、スラリー流量の最適化、パッドへの溝構造形成によるスラリー排出の促進を挙げています。チラー設定を下げれば段差解消性は上がりますが、レートは下がります。

凹部を保護する添加剤で、凸部と凹部のレート差を広げる

Section titled “凹部を保護する添加剤で、凸部と凹部のレート差を広げる”

凹部の保護は、凸部と凹部のレート差を広げる手です。日立化成は、段差解消性能の改善には凹部を保護する作用を持たせることが有効だとして、陰イオン性の有機高分子を添加して段差を大幅に低減しました1。特定の陰イオン性有機高分子は酸化セリウム粒子の表面へ吸着し、SiO₂膜の研磨を阻害します。吸着力の弱い有機高分子は圧力や温度といった外乱で酸化セリウム表面から脱離しやすいため、段差の突起部分では引きはがされて凸部の研磨が進み、凹部では吸着状態が保たれて研磨速度が低く保たれます。

研磨開始直後は段差が大きく凸部と凹部の圧力差も大きく、段差が解消すると局所圧力は平準化されます。有機高分子の添加量が多いと引きはがすのに必要な圧力が高くなるので、添加量を適切に設定すると、段差が残っている状態では凸部の研磨が進み、完全に平坦化したときには研磨抑制へ転じます。日立化成は、この有機高分子がSiNの研磨抑制作用も持ち、添加量の調整で段差の低減とSiN上での研磨停止の両方が成り立つとしています。SiNの研磨速度は10 nm/min以下が得られています。

レゾナックの2013年のテクニカルレポートでは、添加剤に求める機能を研磨停止膜(SiN、pSi)の研磨速度の抑制と、SiO₂膜の凹凸の平坦化の2つとしています4。同社の添加剤は被研磨膜へ吸着して凹凸のあるSiO₂膜を平坦に研磨し、STIの研磨停止膜であるSiN膜が露出した時点で研磨を止められるとしています。7000GPシリーズは、SiO₂膜への吸着性を制御して平坦性をさらに高めたとされています。

課題は幅の広いパターンです。SiNの研磨を抑えた研磨材でも、幅100 µm以上の比較的大きなパターンではディッシングが起き、その結果、近くのSiN膜が削り取られる場合がありました。大きなパターンでディッシングが生じると、その近くに局所的に大きな圧力がかかり、SiNの研磨速度を抑えられなくなります。対策は、研磨材に凹部の保護作用を持たせること、パッドの弾性を高くして変形量を小さくすること、幅広のパターンをなくすようパターン設計を変更することです。レゾナックが自社のセリアスラリーについて公表した表では、添加剤を使った条件でSiO₂ 350〜250 nm/min、SiN 8〜4 nm/minに対し、平坦性はいずれのグレードも10 nm未満です。

オーバーポリッシュの段階で、段差が再び育つ

Section titled “オーバーポリッシュの段階で、段差が再び育つ”

STIやCu配線のCMPでは、平坦化が2段階で進みます。初期の段差を平坦化する段階と、ストッパ膜の上に残った余剰膜をすべて除去するオーバーポリッシュの段階です。ストッパ膜が露出した時点で初期段差が平坦化されていると仮定すると、オーバーポリッシュ時間が長いほど平坦性は悪化します。礒部氏は、CuダマシンでCuの研磨レートがバリアメタル膜の10倍の場合、研磨が進むとこのレート差で段差が大きくなり、その段差によるローカル圧力差が10対1になるまでディッシングが進むとしています。層間絶縁膜のパターン間距離はmmオーダーですが、STIやCuダマシンではµmオーダーなので、わずかな段差で圧力差が急激に大きくなります。

2段階の研磨とディッシング
段差を下げるストッパ膜が露出オーバーポリッシュ初期段差Cu酸化膜バリアディッシングCu:バリア=10:1
ストッパ膜が露出した時点で初期段差が平坦化されていると置くと、そこから研磨を続けるほど平坦性は悪化します。礒部氏は、Cuの研磨レートがバリアの10倍なら、そのレート差でできた段差の圧力差が10対1になるまでディッシングが進むとしています。

STIでも、ウェーハ上の起伏の高低差と周期によっては過研磨になる範囲が出ることがあります。精密工学会誌の論文は、有限要素法で計算した段差特性をもとに、STIの過研磨の範囲とディッシングを計算しています6。

ここで重要になるのが選択比です。レゾナックは、Cu-CMPで生じた段差はバリアCMPの研磨選択比の制御で回復でき、研磨条件や酸化剤濃度の最適化でCu:Ta:SiO₂の選択比を1:3:3程度に設定すると、最終的な仕上がりが最も平坦になるとしています。到達点は、100 µm幅の太幅配線のディッシングが10 nm以下、細密配線のエロージョンが数nm以下です。ロジック、メモリ、イメージセンサでパターンが異なるため、顧客の要求特性に応じた調整が必要です。

ダミーパターンとリバースマスクは、コストと配線容量に響く

Section titled “ダミーパターンとリバースマスクは、コストと配線容量に響く”

平坦化効果の低い研磨材では、大面積パターンをそのまま研磨して段差を10 nmに下げるのは難しく、ダミーパターンの挿入や、逆パターン(リバースマスク)による大面積パターンのエッチング除去といった追加プロセスが併用されます1。リバースマスクはコストを上げ、ダミーパターンも使用が制限される場合があります。日立評論が出た2008年には、こうした手法を使わずに済む段差解消性能の高い酸化セリウム研磨材が広く採用されつつありました。

設計側では、密度や配線幅、配線間隔を最適化してデザインルールでチェックする方法が取られています7。しかしCMPの影響は広範囲に及ぶため、局所的なデザインルールのチェックでは不十分で、密度分布と膜厚分布がずれる領域があります。ダミーフィルは配線容量を増やしてタイミングに影響するため、最適なダミーフィルルールでの平坦化が課題になっています。さらに、表面の高さのばらつきはリソグラフィー工程で焦点深度のホットスポットを誘発し、28 nmプロセスノード以降では膜厚研磨量が配線断面積に占める割合が高くなって、配線抵抗と配線容量のばらつきが回路性能に影響します。

段差解消性とは何ですか?

研磨によってウェーハ上の段差がどれだけ下がるかを表す性質です。日立化成工業の日立評論の解説では、CMP研磨材で段差解消性能を改善するには、凹部を保護する作用を持たせることが有効だとされています。

除去レートが高ければ段差も速く消えますか?

別の話になります。段差が下がるのは凸部と凹部の除去レート差があるあいだだけで、凸部の高さが減るとローカル圧力差が小さくなり、やがてレート差が無くなってそれ以上平坦化が進みません。九州大学の礒部晶氏は、この到達点を限界平坦性と呼んでいます。

段差解消性はどうやって測りますか?

触針式の段差計です。ライン/スペースが100/100 µmの太い配線上の凹凸を測るのが一般的で、礒部晶氏の博士論文ではライン/スペース9.0/1.0 µmのパターンを代表値とし、中心から外周にかけて半径上の4チップで面内分布を取っています。

どのくらいの段差まで下がりますか?

日立化成工業が示したSematec 864のSTI用テストパターンでの研磨特性は、初期段差600 nm、研磨時間140 s、100 µmライン/スペースの残留段差10 nm、トレンチ酸化膜のばらつき25 nm、ストッパ膜のばらつき5 nmです。研磨の終点は、すべてのストッパ膜が露出した時点です。

パッドを硬くすると段差解消性は上がりますか?

上がる代わりにレートが落ちます。礒部氏の同一条件のCu研磨では、バルク圧縮率が約1%の単層IC1000がエロージョンとディッシングの合計59 nm、圧縮率3から4%の積層IC1400が72 nmで、研磨レートは765 nm/minと925 nm/minでした。

パッド表面温度は段差解消性を動かしますか?

強い相関がありました。礒部氏の博士論文では、プラテン設定温度を上げると研磨レートもディッシングとエロージョンの合計も増え、横軸をパッド表面の到達温度へ置き換えると、パッドの種類にかかわらず両方が温度と強く相関しました。IC1400では中心部が大きく周辺部が小さい面内ばらつきも出ました。

ダミーパターンを入れれば段差解消性の不足は埋まりますか?

別の問題があります。平坦化効果の低い研磨材ではダミーパターンの挿入やリバースマスクによるエッチング除去が併用されますが、リバースマスクはコストを上げます。ダミーフィルは配線容量を増やしてタイミングに影響するため、最適なダミーフィルルールでの平坦化が課題になっています。

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