平坦化長とは
平坦化長とは、CMPで研磨パッドが凹凸をまとめて平均化できる距離のことです。 この距離より短い周期の段差はパッドが両側の凸部で支えられるため速く消え、長い周期の段差はパッドが凹部まで沈み込んで凹部も削れるため残ります。平坦化長が長いほどその工程の平坦化能力は高く、ダイの中で密度の違う領域どうしも均一に削れます。足りない分は、硬いパッドなど研磨条件の改良か、ダミーパターンの挿入など設計側の負担で補います。
パッドの弾性変形が、周りの図形の影響が届く距離を決める
Section titled “パッドの弾性変形が、周りの図形の影響が届く距離を決める”段差のあるウェーハでは突起部に応力が集中し、凹部の圧力が局所的に低くなるので、理想的にはこの圧力差で平坦化が進みます1。実際には研磨パッドが弾性で変形するため、凹部も削れます。この2つ目の効果が平坦化長を生みます。パッドが凹部の底まで沈み込む幅では圧力差が小さくなり、両側の凸部でパッドが支えられる幅では圧力差が保たれます。
MITのモデルは、この距離を数式の中の長さとして扱います。平坦化長は、CMP中のパッドの長距離の変形を表す楕円形の重み関数の特性長で2、ある位置の局所の圧力に周りの図形が影響する範囲を決めます。言い換えると、パッドと工程の組み合わせがパターン密度を平均する範囲です3。
平坦化長は、機械研磨が受け持てる波長の上限にあたります。森永均氏の解説では、薬液による溶解は活性な突起部から始まるため、表面の微小な粗さは化学研磨のみでも低減できます4。一方、化学作用のみでは、うねりの凹部にも薬液が作用して溶解が進むため、波長の大きなうねり成分の除去や平坦性の改善が難しくなります。この点で、平坦な定盤と砥粒を用いて強制的に凸部から表層を取り去る機械研磨が有利になり、薬液とコロイダルシリカを用いたCMPでは、広い波長領域の微小ラフネスから長波長うねりまで除去できます。上限より長い起伏は、薬液だけで研磨したときと同じように凹部まで削られます。エロージョンが密集領域ごとに現地の高さを下げるのも、同じ理由です。
凹部が削れ始める溝の幅が、最小平坦化長になる
Section titled “凹部が削れ始める溝の幅が、最小平坦化長になる”平坦化長は測って決める値です。MITの測定は、銅CMPで電解めっきの起伏を、余分な銅を除く段階でどこまで平らにできるかを平坦化長で表しました。溝の幅を変えて平坦化効率を描くと、効率は狭い溝で100%を保ち、ある幅から下がり始めます。効率が下がり始める溝の幅を最小平坦化長と定義し5、これは凹部の材料が削れ始める幅にあたります。
同じ報告の例では、曲線に直線を当てはめて求めた最大平坦化長が10 mm、最小平坦化長が1.25 mmで、対応する平均の平坦化長は3.54 mmでした。10 mmと1.25 mmを掛けて平方根を取ると3.54 mmになり、平均は両者の幾何平均に当たります。10 mmを1.25 mmで割ると8になり、凹部が削れ始める幅と最大平坦化長の間には8倍の開きがあります。
幅100µmを超えると、ディッシングが隣のストッパ膜まで削る
Section titled “幅100µmを超えると、ディッシングが隣のストッパ膜まで削る”日立化成工業のSTI用研磨材では、SiNの研磨を抑えた研磨材を使った場合でも、幅100µm以上の比較的大きなパターンでは1ディッシングが起き、大きなパターンの近くのSiN膜が削り取られる場合がありました。大きなパターンでディッシングが生じると、その近くに局所的に大きな圧力がかかり、SiNの研磨速度を抑えられなくなります。最小平坦化長の定義に当てはめると、100µmは、この研磨材とこのパッドの組み合わせで凹部が削れ始める幅を超えた寸法です。
被害はディッシングの1点にとどまらず、隣のストッパ膜まで巻き込みます。表面高さのばらつきは、リソグラフィ工程で焦点深度のホットスポットを誘発し6、製造歩留りを悪化させます。
対策は、化学で伸ばすか、機械で伸ばすか、設計を合わせるか
Section titled “対策は、化学で伸ばすか、機械で伸ばすか、設計を合わせるか”日立化成工業の報告が挙げる対策は3つです。研磨材へ凹部の保護作用を付与する方法、パッドの弾性を高くして変形量を小さくする方法、パターンの設計を変更して幅広のパターンを除く方法です1。1つ目は化学で平坦化長を伸ばす手、2つ目は機械で伸ばす手、3つ目は平坦化長へ設計を合わせる手です。MITの論文も、チップ内の膜厚のばらつきを大きく減らす道として、ダミー構造を入れて実効パターン密度をならす方法と、平坦化長が長くなる研磨条件と消耗品の組み合わせを使う方法2を挙げています。
日立化成工業のSTI用研磨材では、Sematec 864のSTI用テストパターンで1、初期段差600nm、研磨時間140秒、研磨の終点はすべてのストッパ膜が露出した時点という条件で、有機高分子の添加により100µmラインアンドスペースの残留段差が10nmまで下がりました。同じ表で、トレンチSiO₂膜のばらつきは25nm、ストッパ膜のばらつきは5nm(ライン/スペース20/80から80/20µm)です。
日立化成工業の報告では、平坦化効果の低い研磨材では、大面積パターンをそのまま研磨して段差を10nmまで下げるのは困難です1。そのため、ダミーパターンの挿入や、逆パターン(リバースマスク)による大面積パターンのエッチング除去などの追加プロセスを併用します。平坦化長が足りない分を、マスクの追加とコストで補うことになります。
パッドの硬さと荷重で平坦化長が動き、スラリー流量にはほぼよらない
Section titled “パッドの硬さと荷重で平坦化長が動き、スラリー流量にはほぼよらない”同じMITの測定では、平均の平坦化長はスラリー流量にはよらないとみられ、パッドが硬いほど長くなりました5。相対速度が速いほど、押し付ける荷重が低いほど、平均の平坦化長は長くなります。MITのモデル研究では、平坦化長はブランケット膜の除去レートを変えてもほぼ一定で、パッドのヤング率に比例して長くなりました3。このモデルに従えば、削る速さを上げても平坦化長は伸びず、伸ばすにはパッドを硬くするか、荷重と速度を変えることになります。
パッドの硬さを上げると変形が小さくなり、平坦化長が伸びて段差解消が進みます。日立化成工業の報告はディッシング対策としてこの方法を挙げる一方、被研磨膜へのダメージを減らす目的で軟質パッドの採用も検討しており、絶縁膜CMPでも低荷重化が進む可能性があるとしています。硬いパッドは段差解消に、柔らかいパッドはスクラッチ低減に有利です。ニッタ・デュポンは、Ikonic™シリーズを、さまざまなパッド硬度と異なる孔隙率を組み合わせ、ウェーハの欠陥を減らしつつ研磨効率、平坦性、プロセスコストを改善する設計としています7。CMPパッドの選定では、この2つのバランスを決めます。
荷重を下げると、凸部と凹部の圧力差が働く時間が長くなります。日立化成工業の報告では、研磨開始直後は段差が大きいため突起部と凹部の圧力差が大きく、研磨が進んで段差が解消すると局所圧力は平準化されます。有機高分子の添加量が多いとそれを剥がすのに必要な圧力が高くなるため、添加量を適切に設定すれば、段差が残っている状態では突起部の研磨が進み、完全に平坦化した時点で研磨を抑制するように調整できます。その代わり、除去レートが下がり、研磨時間が長くなります。
設計側は、平坦化長の窓で密度を平均して膜厚を予測する
Section titled “設計側は、平坦化長の窓で密度を平均して膜厚を予測する”平坦化長が決まれば、どのレイアウトでもダイ全体の実効パターン密度を計算できます2。平坦化長は、密度が急に切り替わる構造を並べたテストマスクで、CMP後の膜厚の大きな差を作って求め、実効パターン密度の計算には高速フーリエ変換(FFT)を使います。MITのモデル研究は、ガウス形の重み関数でパターン密度モデルに合わせ込んで平坦化長を抜き出し、2つのモデルは200〜300 Åの二乗平均平方根誤差で一致しました。
設計の現場では、占有率を測る窓が同じ役を持ちます。メタル占有率は単位面積あたりに占めるメタルの割合で、単位面積は、材質依存性やプロセス依存性などさまざまな現象を考慮して、数µm²からチップ全域までの範囲で選ばれます8。最近のプロセスでは複数の指標が設定され、Tiny/Local/Globalという呼び方が使われる例もあります。占有率を評価する窓の大きさを選ぶことは、平坦化長を見積もることに相当します。窓を平坦化長より小さく取ると、デザインルールを満たす領域でも膜厚が薄くなる箇所を見逃します。
CMPの影響は広い範囲に及ぶため、局所的なデザインルールのチェックでは不十分で、密度分布と膜厚分布がずれる箇所があります6。日本ケイデンス・デザイン・システムズが示した実データには、密度がデザインルール内でも膜厚が極端に薄くなる領域と、デザインルール違反でも膜厚のばらつきがわずかな領域の両方があります。同じブロックを位置や向きを変えて配置すると、ブロック内で膜厚が薄い箇所と厚い箇所の位置がブロックごとに異なります。そのため28nmプロセスノード以降では、スクライブラインのパターンの影響も含めて、1つのチップだけでなく、スクライブラインを含むフレーム内にアレイ状に配置したショット全体での大規模なシミュレーションが必要になっています。
ケイデンスの手順では、アレイのテストパターンを含むTEGを用意し、CMPプロセスの条件を変えた数種類のウェーハで膜厚データを取得し、そのデータからCMPモデルを作ります。研磨時間を20、40、60、80秒と変えた場合の膜厚分布や、指定した断面をVirtual Scanで表示する例もあります。平坦化長は、こうしたTEGの膜厚分布から求めます。研磨後の平坦性そのものは、ライン/スペースが100/100µmの太い配線上の凹凸を、触針式の段差計で測るのが一般的です1。
ダミーメタルは、タイミング検証と計算量の負担を増やす
Section titled “ダミーメタルは、タイミング検証と計算量の負担を増やす”ダミーメタルを挿入すると、寄生容量、信号遅延、クロストークへの影響を考慮して同層と上下層のタイミング検証が必要になります。図形数の増加で、デザイン・ルール・チェック、レイアウト寄生素子抽出、マスクデータ作成の計算量も増えます8。ダミーフィルで配線容量が増えてタイミングに影響するため、最適なダミーフィルルールでの平坦化が課題です6。ダマシンの各層で平坦化長に合わせて設計するほど、この負担が大きくなります。工程側で平坦化長を伸ばせれば、設計側の負担はその分だけ軽くなります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”平坦化長とは何ですか?
CMPで研磨パッドが凹凸をまとめて平均化できる距離のことです。この距離より短い周期の段差はパッドが両側の凸部で支えられるため速く消え、長い周期の段差はパッドが凹部まで沈み込んで凹部も削れるため残ります。
なぜパッドの弾性が距離を作るのですか?
段差のあるシリコンウェーハを研磨すると、突起部に応力が集中して凹部が局所的に低圧力になり、基本的にはこの局所的な圧力差によって平坦化が進みます。ただし実際には、研磨パッドが弾性で変形するため凹部も研磨されます。平坦化長は、このパッドの変形が周りの図形から局所の圧力へ及ぶ距離です。
どのくらいの幅から段差が残りますか?
日立化成工業のSTI用研磨材では、SiNの研磨を抑えた研磨材を使った場合でも、幅100µm以上の比較的大きなパターンでディッシングが起き、その結果、大きなパターンの近くのSiN膜が削り取られる場合がありました。凹部が削れ始める溝の幅は、最小平坦化長として測れます。
どこまで段差を落とせますか?
日立化成工業のSTI用研磨材では、Sematec 864のSTI用テストパターンで、初期段差600nm、研磨時間140秒、終点はすべてのストッパ膜が露出した時点という条件で、有機高分子の添加により100µmラインアンドスペースの残留段差を10nmまで下げました。同じ表で、トレンチSiO₂膜のばらつきは25nm、ストッパ膜のばらつきは5nmです。
設計側では平坦化長をどう見積もりますか?
占有率を測る窓の大きさとして見積もります。メタル占有率の単位面積は、材質依存性やプロセス依存性など多様な現象を考慮して数µm²からチップ全域までの範囲で選び、Tiny/Local/Globalという呼び方が使われる例もあります。平坦化長が分かれば、どのレイアウトでもチップ全体の実効パターン密度を計算できます。
密度をデザインルール内へ収めれば平坦になりますか?
日本ケイデンス・デザイン・システムズは、CMPの影響が広い範囲へ及ぶため局所的なデザインルールでのチェックは不十分で、密度分布と膜厚分布がずれる箇所があるとしています。密度がルール内でも膜厚が極端に薄くなる領域と、ルール違反でも膜厚のばらつきがわずかな領域の両方があります。
ダミーパターンを入れると何を引き換えに渡しますか?
配線容量、計算量、コストが増えます。ダミーメタルを挿入すると、寄生容量、信号遅延、クロストークへの影響を考慮した同層と上下層のタイミング検証が必要になり、図形数の増加でデザイン・ルール・チェック、レイアウト寄生素子抽出、マスクデータ作成の計算量が増えます。リバースマスクの使用はコストを上げます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”8件を表示
- 1
- 2マサチューセッツ工科大学:実効パターン密度と平坦化長の抽出に関する論文(DSpace@MIT)dspace.mit.edu abc
- 3マサチューセッツ工科大学:パッドのヤング率と平坦化長のモデルに関する論文mtlsites.mit.edu ab
- 4
- 5マサチューセッツ工科大学:銅CMPの平坦化長の測定に関する論文mtlsites.mit.edu ab
- 6日本ケイデンス・デザイン・システムズ:最新CMP平坦化シミュレーション技術と適用事例cadence.com abc
- 7ニッタ・デュポン:研磨パッド製品一覧nittadupont.co.jp ↩
- 8JEITA 半導体部会:2011年度版 DFM用語集semicon.jeita.or.jp ab