エロージョン(CMP)とは
エロージョンとは、CMPで細い配線が密集した領域が、絶縁膜ごと周囲より低くなる現象です。 1本の配線がへこむディッシングと違い、領域単位で沈みます。沈む量はパターン密度で決まり、Cu配線では数nm以下に抑える必要があります。数nmへ収めるかどうかは、バリアを削る二段目でCuと絶縁膜の研磨速度をどう配分するかにかかっています。
金属の面積比が高い領域ほど、絶縁膜が速く削れて沈む
Section titled “金属の面積比が高い領域ほど、絶縁膜が速く削れて沈む”CMPは、研磨パッドで覆われた回転テーブルへウェーハを押し当て、スラリーの化学作用と機械的な研磨を同時に働かせます1。削れる速さは、表面に露出している材料の組み合わせで決まります。配線が密集した領域では単位面積あたりに露出する金属の割合が高く、金属が絶縁膜より削れやすい条件では実効的な除去速度が周囲より上がります。その結果、領域が絶縁膜ごとまとめて低くなり、周囲の疎な領域との段差が上の層へ引き継がれます。
MITの論文は、エロージョンをCMP前後の絶縁膜の厚みの差2と定義しています。絶縁膜に比べてCuの面積密度が高い形状でエロージョンが広がるのは、絶縁膜にかかる圧力が上がり、絶縁膜の除去速度が上がるためだと説明しています。同じ論文は、過研磨がCuのディッシングと絶縁膜のエロージョンの主な原因だとする先行研究を引いています。
領域単位で表面高さがずれると、上の層でリソグラフィを行うときに面内で焦点がずれます。配線の断面積も減るため、抵抗のばらつきが増えます。多層に積むほど誤差が累積するので、設計と工程の両方で密度を均します。密集領域全体がエロージョンで低くなり、その中の1本1本にディッシングが乗ります。
Cu配線で許されるエロージョンは数nm
Section titled “Cu配線で許されるエロージョンは数nm”Cu配線のCMPでは、最終的に100 µm幅の太幅配線のディッシングを10 nm以下、細密配線のエロージョンを数nm以下へ収める必要があります3。日立化成の一段目のCu用スラリーHS-H700シリーズは、研磨圧力14.0 kPaでCu 850 nm/min・TaN 1 nm/min未満で削り、このとき100/100 µm部のディッシングが50 nm未満、9/1 µm部のエロージョンが10 nm未満です。二段目のバリアメタル用スラリーHS-T915シリーズは研磨圧力10.5 kPaでCu 27 nm/min・TaN 95 nm/min・SiO₂ 90 nm/min・SiOC 31 nm/minとなり、ディッシングは10 nm未満、エロージョンは5 nm未満へ縮みます。いずれもロータリータイプの研磨機とポリウレタン系硬質パッドでの同社の測定値です。
二段目は、Cuをほとんど削らずに絶縁膜側を削って段差を埋める
Section titled “二段目は、Cuをほとんど削らずに絶縁膜側を削って段差を埋める”二段目で縮む理由は、選択比の付け替えです。Cu-CMPで生じた段差はバリアCMPの研磨選択比の制御で回復でき、日立化成は研磨条件と酸化剤濃度を最適化してCu:Ta:SiO₂の選択比を1:3:3程度にすると最終仕上がりが最も平坦になるとしています3。HS-T915シリーズの研磨速度に当てはめて計算すると約1:3.5:3.3で、この比に近い値です。一段目でCuを速く削り、二段目ではCuをほとんど削らずに絶縁膜側を削って段差を埋めます。
選択比を上げてCu以外の除去を抑える方向も報告されています。MITの論文では、高選択比スラリーのTaとSiO₂の除去速度が低く、それがSiO₂の除去量をさらに減らしました。
3材料の研磨速度がずれると、その材料の多い領域が沈む
Section titled “3材料の研磨速度がずれると、その材料の多い領域が沈む”Cu配線のCMPは、Cuを研磨する一段目とバリアメタルを研磨する二段目の二段階研磨です。各段階で、Cu配線が過剰に研磨されるディッシングと、微細配線が緻密に配列した箇所の絶縁膜が過剰研磨されるエロージョンが生じ、この窪みの深さが配線の厚みばらつきへ直結します4。
二段目では、残留したCu、バリアメタル、絶縁膜の3種類を同時に研磨するため、3材料の研磨速度比が平坦化性能を大きく左右します。細い配線が並んだ領域は単位面積あたりのCuとバリアメタルの割合が高く、絶縁膜の割合が低くなります。3材料の研磨速度が揃うほど密集側と疎側の差は縮み、どれか1つだけが速く削れる条件ではその材料の面積比が高い領域が沈みます。エロージョンがパターン密度で決まるのは、この面積比の作用のためです。さらに二段目のスラリーはアルカリ性が主流で、脆弱なLow-k膜も高い研磨速度で削ってしまうため、誘電率が約2.2のporous Low-k膜では膜厚の制御が難しくなります。
圧力、時間、選択比、砥粒、密度のどれを動かしても代償がある
Section titled “圧力、時間、選択比、砥粒、密度のどれを動かしても代償がある”研磨圧力を上げると単位時間あたりの除去量は増えますが、密集領域の沈み込みも増えます。研磨の摩擦は加工面を摩耗させるだけでなく摩擦熱を生み、加工面が数十度加温される例も多くあります5。化学作用は一般に10℃程度の加温で2倍程度促進され、これは反応の活性化エネルギーが51 kJ/molの場合の目安です。大型基板では中心部に熱がこもりやすく、中心部の研磨速度が増えて平坦性を損ないます。圧力を下げれば、代償は時間です。減った除去量を研磨時間で埋める間、凹部は薬液にさらされ続けます。日本機械学会で報告された渦電流式終点モニタの研究は、2段研磨を研磨時間を短くする高圧の1段目と、ディッシングとエロージョンを減らす低圧の2段目6と説明しています。
研磨時間は段差の詰まり方を直接左右します。ケイデンスのCMP平坦化シミュレーションは7、研磨時間を20秒、40秒、60秒、80秒と振ったときに膜厚が削れていく様子を示し、Cuプロセスを5工程、PMDプロセスを4工程で扱います。時間を伸ばせば疎な領域も削れて段差は詰まりますが、密集領域は先に沈んでいるので、伸ばした分だけエロージョンが深くなります。
添加剤による選択比は、圧力の効き方そのものを動かします。研磨量が圧力に比例するプレストン式に対し、圧力が1乗より大きく影響する非プレストニアン性を示す添加剤が有効とされ8、低圧部では膜に吸着保護して研磨速度を下げ、高圧部では剥がされて元の研磨速度を保つ添加剤が望まれます。東亞合成は、研磨装置Engis製EJ-380CH-Y、研磨盤回転数60 rpm、研磨時間2 min、研磨荷重1 kgと6 kg、パッドIC1000/SUBA400、一次粒径80 nmの高純度コロイダルシリカ10 wt%にポリマー0.05 wt%、pH11の条件で、30 mm×30 mmのSiO₂膜とSiN膜を研磨しました。同社は疎水変性ブロック共重合品のPP-40HDが非常に優れた圧力応答性を示したとしており、SiN膜の研磨速度を下げたのはこの品だけでした。代償は絶縁膜の物性です。JSRの評価では、非イオン性界面活性剤でLow-k膜の研磨抑制効果を大きくしたスラリーで、研磨後のLow-k膜の誘電率が上がり、リーク電流密度が増え、絶縁破壊電圧も下がりました。
砥粒の種類と粒径も、密集領域の沈み方を左右します。日立化成のセリアスラリーでは、添加剤を使ったHS-8005がSiO₂膜350 nm/min・SiN膜8 nm/minで研磨傷の相対値100、液中造粒で粒径を制御したHS-NCがSiO₂膜250 nm/min・SiN膜4 nm/minで研磨傷1未満です。この数値で計算すると、SiO₂とSiNの研磨速度比はHS-8005で約44倍、HS-NCで約63倍です。研磨傷を100分の1へ落とすかわりに、SiO₂の研磨速度を350 nm/minから250 nm/minへ譲っています。レゾナックも、粒子径を大きくするとスクラッチが増える課題があったとしています9。
パターン密度は設計側のつまみです。ケイデンスは、密度・配線幅・配線間隔をデザインルールでチェックする従来の方法について、CMPの影響が広範囲に及ぶため局所的なチェックでは不十分だとしています。同社の例では、密度がルール内でも膜厚が極端に薄い領域と、ルール違反でも膜厚ばらつきが小さい領域が同じチップに並びます。パターンの疎な領域へダミーのパターンを生成するダミーフィルは、配線容量を増やしてタイミングへ影響するため、最適なルールでの平坦化が課題です。28 nmプロセスノード以降は、ダミーフィルの最適化だけではホットスポットが残るケースも出てきました。
段差は断面で測り、日常は膜厚分布と研磨傷で追う
Section titled “段差は断面で測り、日常は膜厚分布と研磨傷で追う”段差そのものは断面で測ります。日立化成のテクニカルレポートには、二段研磨したパターンウェーハの断面TEM写真が200 nmのスケールバー付きで載っています。MITの論文は、サブダイ中央とサブダイ端のSiO₂の高さの差をエロージョンとして求め、ウェーハスケールのエロージョンは無視して、測った形状スケールのエロージョンを全エロージョンとみなしました。形状ごとの平均エロージョンは1 nmから29 nm、標準偏差は1 nmから12 nm2の範囲でした。同じ論文で使ったアルゴリズムは、パッドが各位置にSiO₂層がちょうど露出するまでしかとどまらないよう設計されていて、SiO₂の過研磨はありませんでした。
日常の管理では、膜厚測定の面内分布と、欠陥検査で拾える研磨傷の数を並べて追います。ウェーハ端の1周だけエロージョンが深い分布が出たら、圧力側を疑います。軟質のCMPパッドではパッドの復元力で加工面の端部に圧力が集中しやすく、対策にリテーナリングやテンプレートが使われます。
1層数nmの段差も、10層を超えて積めば桁が上がる
Section titled “1層数nmの段差も、10層を超えて積めば桁が上がる”表面高さのばらつきは、リソグラフィ工程で焦点深度のホットスポットを生み、製造歩留りを悪化させます。ケイデンスの技術記事は7、28 nmプロセスノード以降は配線幅が細くなるため、膜厚研磨量が断面積に占める割合が高まり、配線抵抗と配線容量のばらつきが大きくなるとしています。多層配線の下層の凸凹によって、Cuプーリングで配線がショートする場合もあります。抵抗の側はビア抵抗とRC遅延へ、ショートの側は歩留まりへ跳ね返ります。韓国精密工学会の論文は、ディッシングとエロージョンが配線の断面積を減らして金属の抵抗を上げ、最終的に半導体の寿命を縮めるとしています10。
日立化成のレポートによると、ロジックICは10層以上に多層化されていて各層の平坦化が要り、CMPの適用箇所はSTIやダマシン法によるCu配線形成まで多岐にわたります。1層あたり数nmの取りこぼしでも、10層を超えて積めば桁が上がります。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- CMP(平坦化)の工程ページ── 工程分類と、この工程の公開求人
- 歩留まり・欠陥解析の工程ページ── 欠陥と歩留まりの側から測る
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”エロージョンとは何ですか?
CMPで細い配線が密集した領域が、絶縁膜ごと周囲より低くなる現象です。MITの論文は、量をCMP前後の絶縁膜の厚みの差と定義しています。
エロージョンとディッシングの違いは何ですか?
沈む範囲が違います。ディッシングは1本の広い配線の内側がへこみ、エロージョンは配線群が並んだ領域が絶縁膜ごと低くなります。前者は配線幅、後者はパターン密度で決まります。
なぜパターン密度で決まるのですか?
単位面積あたりに露出する金属の割合が変わるためです。Cuの面積比が高い領域では絶縁膜にかかる圧力が上がって絶縁膜の除去速度が上がり、周囲の疎な領域との差が領域単位の段差として残ります。
エロージョンが起きると何が困りますか?
領域単位で表面高さがずれるため、上の層のリソグラフィで面内の焦点が揃わなくなります。配線の断面積も減って抵抗のばらつきが増え、多層に積むほど誤差が累積します。
どうやって抑えますか?
パターン密度を面内で均すことが基本です。設計側では疎な領域へダミーパターンを入れて金属の面積比を揃え、工程側では削る材料と絶縁膜の選択比を上げて密度差の影響を小さくします。
ディッシングと同時に起きますか?
同時に起きます。密集領域全体がエロージョンで低くなり、その中の1本1本にディッシングが乗ります。断面計測では両者を分けて測ります。
エロージョンはどこまで抑える数値なのですか?
Cu配線のCMPでは、100 µm幅の太幅配線パターンのディッシングを10 nm以下、細密配線のエロージョンを数nm以下へ収める必要があります。日立化成のバリアメタル用スラリーHS-T915シリーズは、研磨圧力10.5 kPaで9/1 µm部のエロージョンを5 nm未満に抑えます。
二段研磨のどちらでエロージョンが決まりますか?
二段目です。Cu-CMPで生じた段差はバリアCMPの研磨選択比の制御で回復でき、日立化成は研磨条件と酸化剤濃度を最適化してCu:Ta:SiO₂の選択比を1:3:3程度にすると最終仕上がりが最も平坦になるとしています。9/1 µm部のエロージョンは、一段目のHS-H700シリーズで10 nm未満、二段目のHS-T915シリーズで5 nm未満です。
選択比を上げると何が悪化しますか?
絶縁膜そのものの物性です。非イオン性界面活性剤でLow-k膜の研磨抑制効果を大きくしたスラリーでは、Low-k膜の誘電率が上がり、リーク電流密度が増え、絶縁破壊電圧が下がりました。研磨速度も同時に落ちます。
ダミーパターンを入れる代償は何ですか?
配線容量です。ダミーフィルは配線容量を増やしてタイミングへ影響するため、最適なダミーフィルルールでの平坦化が課題になります。28 nmプロセスノード以降は、ダミーフィルの最適化だけではホットスポットが残る場合も出てきました。
砥粒を替えるとエロージョンはどう動きますか?
添加剤を使ったセリアスラリーHS-8005はSiO₂研磨速度が350 nm/min、SiN膜が8 nm/min、超微粒子品のHS-NCはSiO₂ 250 nm/min・SiN 4 nm/minです。研磨傷の相対値は100から1未満へ下がり、そのかわりSiO₂の研磨速度も350 nm/minから250 nm/minへ落ちます。いずれもロータリータイプの研磨機とポリウレタン系硬質パッドでの日立化成の測定値です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- CMP:平坦化、欠陥、低k/新金属の判定項目── 工程としてのCMP
- CMPスラリー、パッド、コンディショナ── 消耗品側の深掘り
- ディッシング(CMP)とは── 同じ盤の上で同時に起きる、1本単位のへこみ
- プレストン式とは── 圧力と速度でレートを書く経験則と、その外側
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- 7ケイデンス:最新CMP平坦化シミュレーション技術と適用事例(2019年3月)cadence.com ab
- 8東亞合成:TREND 2025 第28号 CMP用ポリマー添加剤の開発、藤本悠椰toagosei.co.jp ↩
- 9レゾナック:微細化が進む前工程で高速研磨と低スクラッチを両立するナノセリアCMPスラリーresonac.com ↩
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