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リテーナリングとは

リテーナリングとは、CMPの研磨ヘッドでウェーハの外周を囲み、研磨パッドへ押し付ける樹脂のリングです。 ウェーハが横へずれて飛び出すのを止め、ウェーハ端部にかかる圧力も分担します。この部品は研磨のたびに自分も削れる消耗品で、どれだけ速く減るかが欠陥の出方を決めます。速く減る樹脂は削りくずがスクラッチの種になり、遅く減る樹脂は内壁に打痕が残って面内の形を崩します。

リングは、端部の過研磨を抑えるために浮いた部品からパッドを押す部品へ変わった

Section titled “リングは、端部の過研磨を抑えるために浮いた部品からパッドを押す部品へ変わった”

九州大学の礒部晶氏が2014年の博士論文でまとめたヘッドの変遷によると、CMPがデバイス製造に入った当初のヘッドは、スエード状の弾性フィルム(バッキングフィルム、またはキャリアフィルム)の上に基板を載せ、剛体のヘッドで保持する構造でした1。シリコン基板の研磨では、そのフィルムの上にガラスエポキシ製のリング(テンプレート)を貼り付けて横ずれを防いでいました。デバイス向けの装置では、フィルムとは別の部品としてウェーハの飛び出しを防ぐリテーナリングを設け、寿命がきたらフィルムだけを交換する形が採られました。このときのリング表面は、ウェーハ表面より200 µm程度低い位置に調整され、研磨パッドに直接触れないようにしていました1。

リングの接地
リングが浮く方式ヘッドフィルムリングウェーハパッド200 µm端部に圧力集中リングも接地する方式ヘッドエアバッグリングウェーハパッド端部の集中を抑えるウェーハ上の圧力
リングを浮かせたヘッドではウェーハの縁がパッドに強く当たり、端部の膜が削られすぎました。リングにも圧力を加えて接地させると、ウェーハのすぐ外側をリングが押さえ、端部の圧力集中を抑えられます。

リングをパッドに接地させる構造に変わった理由は、端部の過研磨です。バッキングフィルム方式ではウェーハのエッジが研磨パッドに強く押し当てられ、エッジ部の膜が研磨されすぎる問題がありました。軟質パッドによる研磨では、パッドの復元力で加工面の端部に圧力が集中しやすく、その対策にリテーナリングやテンプレートが使われます2。そこで、ウェーハの外周のすぐ外側をウェーハと同じ圧力で押す構造、つまりリングを独立に加圧する構造が提案され、すぐにエアバッグ方式に移行しました。エアバッグ方式では研磨中の飛び出しを防ぐためにリングにも圧力を加え、常にパッドへ接触させる必要があります。その結果、リングは端部の圧力を制御する役目も持つようになりました。

材料メーカーのエンズインガーは、リングの役目をウェーハをキャリアの下に保持すること、ヘッドからの飛び出しを防ぐこと、均一な除去を得ることの3つとしています3。同社は、リングの平面度と厚さのばらつきが小さいほどパッドの変形と跳ね返りが減り、ウェーハ端部の不規則な除去と過研磨を抑えられるとしています。

リング圧力は荷重の差で決まるので、ウェーハ圧力より高く置く

Section titled “リング圧力は荷重の差で決まるので、ウェーハ圧力より高く置く”

通常のエアバッグヘッドでは、ウェーハ圧力はエアバッグに加える空気の圧力で制御しますが、リング圧力はトータルヘッド荷重とウェーハ圧力の差として決まります1。リングの面積はウェーハ面積より小さいため、リング圧力はウェーハ圧力ほど正確に制御できません。ヘッド荷重やウェーハ圧力のばらつきでリング圧力がマイナスになると、研磨中にウェーハがスリップアウトする危険があります1。このため、リング圧力はウェーハ圧力より高く設定することが推奨されています。圧力がプラスである限りリングはパッドに接地しているので、本来はウェーハ圧力より低いリング圧力でもウェーハは保持できます。

リング圧力の範囲
推奨される設定域スリップアウトウェーハ圧力 20.7Low-k/Cu 10.3〜41.4PTEOS 6.9〜41.4010203040リング圧力(kPa)高いほど欠陥が増えた
リング圧力が0を下回るとウェーハがスリップアウトする危険があるため、設定はウェーハ圧力20.7 kPaより上に置くことが推奨されています。礒部氏の実験ではPTEOS研磨で6.9〜41.4 kPa、Low-k/Cu研磨で10.3〜41.4 kPaを振り、どちらも圧力が高いほどスクラッチや膜剥がれが増えました。

礒部氏が用いた東京精密製ChaMP-232のエアフローティングヘッドは、リング圧力を差に頼らず直接与えます。ヘッドの高さ位置を、ウェーハとリングがパッドに触れるぎりぎりの高さに固定し、それぞれの圧力をエアバッグで制御する構造です1。ウェーハは裏面から供給されるエアで浮いた状態になり、通常のエアバッグ方式と同等の面内圧力均一性が得られます。この形なら、ウェーハ圧力以下のリング圧力も与えられます。

リング圧力を上げるほど、膜剥がれとスクラッチが増えた

Section titled “リング圧力を上げるほど、膜剥がれとスクラッチが増えた”

礒部氏は、この独立制御でリング圧力を振った実験を報告しています。Low-k/Cuのブランケット膜は、200 mmシリコン基板の側からSiCN 50 nm、CVD成膜のLow-k膜 150 nm、Cap-SiO₂ 100 nm、Ta 30 nm、めっきのCu 600 nmの順に積んであります。膜剥がれを加速させる目的で、Cap-SiO₂成膜前の密着性改善プラズマ処理は意図的に省いています。Cu-CMPの条件は、ウェーハ圧力20.7 kPa、プラテン回転83 min⁻¹、ヘッド回転78 min⁻¹、リング圧力10.3から41.4 kPaです1。パッドはニッタハース製IC1400(k溝)です。リング圧力が高いほど欠陥数は多くなり、欠陥モードはLow-k膜とその上のCap-SiO₂の界面での膜剥がれで、面内分布はランダムでした。エッジのストレス集中が主原因なら、リング圧力を上げるほど端部の圧力集中は抑えられるはずなので、この向きは予想と逆でした。

PTEOS膜の研磨は、ウェーハ圧力20.7 kPa、プラテンとヘッドはともに90 min⁻¹、リング圧力6.9〜41.4 kPa、スラリーはキャボット製SS25の2倍希釈、パッドはIC1000/SUBA400(A21XY溝)の条件です。プラテンへの供給直前に3 µmのPOUフィルタ(ミリポア製Solaris)を入れるとマイクロスクラッチはほぼゼロでした。フィルタを外すと、リング圧力が高いほどマイクロスクラッチが増えました。

リング材料は、実験装置の標準材料であるPEEKに加え、PPSとPBNの2種類を評価しています1。摩耗レートはPPSが最も高くPBNが最も低い順で、摩耗レートの高い材料ほどスクラッチも多くなりました。摩耗レートは、15×15×2 mm³のクーポンを200 mm基板サイズのホルダに3個取り付けて測りました。条件はウェーハ圧力6.9 kPa(クーポン面積に換算すると337.8 kPa)、プラテンとヘッド30 min⁻¹で、30分の研磨を4回、これを2回繰り返した計24点の平均です。

削れた樹脂がスラリーの粗大砥粒と凝集して、傷をつくる

Section titled “削れた樹脂がスラリーの粗大砥粒と凝集して、傷をつくる”

礒部氏の見立てでは、リングから研磨された樹脂はパッド上でスラリー中の粗大砥粒と凝集してさらに大きな粒子に成長し、その巨大な粒子がマイクロスクラッチを引き起こします1。凝集は与えられるストレスで加速されるため、リング圧力は樹脂の研磨レートと凝集ストレスの両方に影響します。礒部氏は、スクラッチの原因となる粒子が、スラリー品質の指標であるLPCの規格0.5 µmよりもっと大きく育った粒子であると考察しています。

その裏付けに挙げられているのが、タングステンプラグCMPの量産導入期に起きたアライメントマークの異物詰まりです。詰まった異物のEDX分析でW、Si、O、Sが検出され、SはPPS由来と考えられました。リング材料を摩耗レートのきわめて低いSiCに変更すると詰まりはなくなり、この現象はリングをパッドに接触させるエアバッグ方式のヘッドでのみ起きていました。CMPスラリーのパーティクル管理とは別に、リングからの異物の持ち込み経路があることになります。

リングが傷を生む2つの経路
削りくずが砥粒と凝集するストレスで加速樹脂の削りくず粗大砥粒巨大な粒子マイクロスクラッチ内壁の打痕に粒子がたまるサイドアタック付着・凝集脱落マイクロスクラッチ
摩耗の速い樹脂では、削りくずがパッド上で粗大砥粒と凝集して巨大な粒子に育ち、傷をつけます。内壁の打痕に粒子がたまって凝集し、脱落してウェーハを傷つける経路も、エンズインガーが挙げています。

摩耗の遅い樹脂は長持ちするが、内壁の打痕が別の欠陥源になる

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協同インターナショナルは4、200 mm用CMP装置でTEOS系酸化膜を15時間連続研磨した後の残溝深さを比べています。初期溝深さ2.65 mmに対し、PPSは約2.25 mm(消耗量0.4 mm)、同社が供給する低摩耗の新材料は約2.55 mm(消耗量0.1 mm)でした。同社は、単純比較で4倍の耐久性があり、その後の3か月の連続運転では6〜7倍に達したとしています。外周部の分布が変わったことでCMP後のフォトリソ工程での焦点深度のデフォーカス問題が改善し、チップの取れ数がウェーハ全体で1%、外周部で20%改善したとも報告しています。

15時間後の残溝深さ
PPS低摩耗の新材料溝溝2.65 mm2.25 mm2.55 mm消耗 0.4 mm消耗 0.1 mm研磨前の底面
協同インターナショナルの比較では、15時間の連続研磨で、PPSのリングは底面が0.4 mm減って溝が2.25 mmまで浅くなり、低摩耗の新材料は0.1 mmの減りで2.55 mmが残りました。

同社の対比では、摩耗の速さと内壁の形が逆に動きます。PPSはウェーハの研磨と比例して摩耗するため、常に90°の内壁が保たれて安定したCMPになる代わりに、樹脂の減りが早くなります。摩耗の遅い長寿命樹脂は、ウェーハが繰り返し当たる内壁に打痕、つまりサイドアタックが生じて面内プロファイルが悪化します。エンズインガーは、内壁の溝の摩耗(サイドアタック)が内壁を不揃いにし、そこにスラリーなどの粒子が付着して凝集し、のちに外れてウェーハを傷つけるとして、これもマイクロスクラッチの発生源に挙げています3。長寿命化は交換の手間を減らしますが、打痕という別の傷の経路を開きます。

エンズインガーは、PEEKが一般にPPSの最大3倍の耐摩耗性を持ち、同社のPEEK CMPは標準的なPEEKより最大20%耐摩耗性が高いとしています3。三菱ケミカルグループは、PET-P樹脂のSemitron CMP LL5について、酸化膜系の薬液で標準的なPPSの最大8倍の摩耗寿命があるとしています5。同社は、この材料を60°C(140°F)までで動くCMP装置向けとしています。エンズインガーは、リング材料には幅広い温度と圧力で寸法安定性を保ち、スラリーの強い薬液に耐えることが求められるとしています。

エンズインガーは6、CMPリテーナリング用途に最適化した無添加PPS「TECATRON CMP natural」について、リング材料の特性のわずかな違いが研磨パッドの凹凸の形状に影響し、その変化がパッドの破片の量と混入の度合いを変え、CMPプロセス全体の結果に影響するとしています。この材料は、パッドの凹凸を最適化して材料除去を促し、欠陥を減らす方向でパッドを摩耗させるとされています。より長い寿命が必要な場合には無添加PEEKベースのTECAPEEK CMP naturalがあり、いずれも半導体のCopy Exactly要件に沿って、工業用PPSグレードより厳しい品質管理で製造されています。同社はチューブ材を押出成形で作り、射出成形より残留応力を低くできるとしています。外径350 mm/内径300 mmのチューブを使うと、従来の外径360 mm/内径290 mmと比べて材料費を最大27%削減できるとも示しています。リングはウェーハより先にパッドに当たる部品なので、パッドコンディショニングと同様にパッド表面にも影響します。

圧力、材料、フィルタのどれを動かしても別の負担が出る

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リング圧力を上げると、スリップアウトに対する余裕が増え、ウェーハ端部の圧力集中も抑えられます。一方で樹脂の摩耗量とパッド上のストレスが増え、礒部氏の実験ではマイクロスクラッチと膜剥がれがともに増えました。リング圧力を下げると欠陥は減りますが、ヘッド荷重のばらつきでリング圧力が0を下回る危険が増え、端部のプロファイルの制御をエアバッグのゾーン制御で行う必要が出ます。エアバッグを同心円状のゾーンに分けて区画ごとに圧力を加えるゾーンコントロール方式が、その後の面内プロファイルの制御を担うようになりました。

リング材料を摩耗レートの低いものに替えると、交換頻度とスクラッチの両方が減る一方、サイドアタックの打痕が内壁に残り、面内プロファイルに影響します。PPSのように摩耗の速い樹脂は内壁の90°が保たれる代わりに、交換頻度とパッドへ持ち込む樹脂量が増えます。

POUフィルタは、リング圧力を下げにくい場合に下流で受ける手です。傷をつける粒子はLPCの規格0.5 µmより大きく育った粒子という礒部氏の見立てが、フィルタの目開きを選ぶ根拠になります。粗大粒子の数とスクラッチの関係はスラリー側でも測られており、礒部氏の見立てでは、リングの削りくずはその粗大粒子とパッドの上で凝集して育ちます。

リテーナリングとは何ですか?

CMPの研磨ヘッドでウェーハの外周を囲む樹脂のリングです。デバイス向けの装置では、キャリアフィルムとは別の部品としてウェーハの飛び出しを防ぐリングを設け、寿命がきたらフィルムだけを交換する形が採られました。

リテーナリングはウェーハを保持するだけの部品ですか?

研磨パッドにも当たっています。エアバッグ方式では、研磨中の飛び出しを抑えるためにリングにも圧力を加えて常にパッドへ接触させるので、ウェーハ端部の圧力を制御する役目も持つようになりました。

リング圧力はどのくらいに設定しますか?

ウェーハ圧力より高く設定することが推奨されています。通常のエアバッグヘッドではリング圧力がトータルヘッド荷重とウェーハ圧力の差で決まり、荷重のばらつきでマイナスになると研磨中にウェーハがスリップアウトする危険があるためです。

リング圧力を上げると何が悪化しますか?

マイクロスクラッチと膜剥がれです。礒部晶氏の実験では、PTEOS研磨(リング圧力6.9〜41.4 kPa)でPOUフィルタを外すとリング圧力が高いほどマイクロスクラッチが増え、Low-k/Cu研磨(10.3〜41.4 kPa)でもリング圧力が高いほど欠陥数が増えました。

なぜリング圧力がスクラッチを増やすのですか?

リングから削れた樹脂がパッド上でスラリー中の粗大砥粒と凝集し、傷をつけるほど大きな粒子に育つためです。礒部氏は、凝集がストレスで加速するので、リング圧力が樹脂の研磨レートと凝集ストレスの両方に働くとしています。

リテーナリングの材料には何を使いますか?

PPS、PEEK、PBN、PET-Pといった樹脂です。PPSは市販のCMP装置で広く使われ、礒部氏の実験装置の標準はPEEKでした。摩耗レートはPPSが最も高く、PBNが最も低い順でした。

摩耗しにくい材料へ替えれば済みますか?

内壁の形が崩れます。PPSはウェーハの研磨と比例して摩耗するので常に90°の内壁が保たれますが、摩耗の遅い長寿命樹脂ではウェーハが繰り返し当たる内壁に打痕が生じ、面内プロファイルが悪化します。

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