Moは3D NANDのワード線から量産に入り、ロジックはコンタクトから続く前駆体は固体の塩化物
MoはまずWに代わって3D NANDのワード線に入った。Samsungは2024年、Micronは2025年にMoのワード線で量産に入り、SK hynixは375層のNANDで2026年末までに続く。ロジックでは、Applied Materialsが2026年2月に複数の大手ファウンドリーがWのコンタクトをMoに替える装置を使っている1と発表した。多層配線では、少なくとも2029年までCuが主流にとどまる。DRAMは開発段階にある。SemiAnalysisが2026年8月23日にXへ投稿した推計では、NANDの総生産能力のうちMoを使う割合が、2025年の1桁台半ばから2027年に約30%へ増える2と見込む(華爾街見聞の報道による)。Moの採用は3D NANDからロジックのコンタクトへ進み、DRAMと多層配線はその後になる。
WをMoに替えると、成膜の原料も替わる。Wの前駆体は気体のWF₆だった。前駆体とは、成膜装置へ気体で送り込み、ウェーハの上で反応させて膜にする原料を指す。Moの前駆体は、MoO₂Cl₂を中心とする固体の塩化物になる。固体は加熱して昇華させないと装置へ送れないので、Wより供給が難しい。このため、前駆体の販売に加えて、昇華して一定の圧力で送るキャビネットという新しい需要が生まれる。EntegrisはMo前駆体の需要が前年の約2倍に増えた3と2026年8月に述べている。
3D NANDでは、300層を超える世代でワード線がWからMoに替わる
Section titled “3D NANDでは、300層を超える世代でワード線がWからMoに替わる”3D NANDのワード線は、積み重ねた絶縁膜の間の横向きの空洞を金属で埋めて作る。これまでの金属はWで、原料のWF₆はフッ素を含む。SemiAnalysisは、300層を超えるとWのワード線が抵抗、フッ素系の原料によるリーク、深い空洞の埋め込みの3点で限界に達し、Moは最適化ではなく必須になる2と見ている。Lam ResearchはMoの膜で、従来のWより抵抗がたいてい50%以上改善し、密着層やバリア層も要らない4と説明する。
抵抗が下がると、セルを密に詰められる。SemiEngineeringの解説によれば、Kioxiaの研究グループはVLSI 2024でWをMoに替えるとRC遅延を変えずにワード線のピッチを7.3%縮められ、メモリーホールのピッチも3.7%以上縮んでビット密度が16.3%上がる5と報告した。
量産はすでに始まっている。SemiAnalysisのXへの投稿によれば、Samsungは2024年からMoのワード線で量産し、Micronは2025年にLamのALTUS Haloで大規模な量産に入った2。Lamは2025年2月、韓国とシンガポールに工場を持つ大手3D NANDメーカーで初期の採用が始まった4と発表し、Micronは同じ発表で、Moの配線によって最新世代のNANDで業界最高水準のI/O帯域と容量を最初に市場へ出せたと述べた。SK hynixは、韓国TheElecの報道によれば、375層のNANDでWをMoに替え、2026年末までに量産に入る6。移行は始まったばかりだ。LamのTim Archer CEOは2025年1月、業界のビットの3分の2はまだ200層未満で作られており、そのすべてがMoを使っていない7と述べた。SemiAnalysisはXへの同じ投稿で、各社の最新の層数をKioxia・SanDiskが218層、Micronが276層、Samsungが286層、SK hynixが321層2と整理している。Moの比率は、各社が生産能力を300層前後の世代へ移すたびに上がる。
ロジックでは、配線より先にトランジスタのコンタクトがMoになる
Section titled “ロジックでは、配線より先にトランジスタのコンタクトがMoになる”ロジックでMoが最初に置き換えるのは、トランジスタと最下層の配線をつなぐコンタクトのWだ。Applied Materialsは2026年2月、WのコンタクトをMoに置き換えるALD装置Spectralを発表し、複数の大手ファウンドリー・ロジックメーカーがすでに使っているとした1。選択成膜したMoで、同社の選択Wよりコンタクト抵抗を最大15%下げるという。Lamも2025年2月の時点で、先端ロジックの工場で初期の採用が始まった4と述べている。選択成膜の量産条件はMoコンタクトと選択成膜で扱う。
多層配線では、Cuがまだ主流だ。IRDS 2024は8、Cuが少なくとも2029年まで配線金属の主流であり、Cu以外の金属は最下層のローカル配線と、MOL・M1・Mxのビアに入ると見ている。Cuはライナーを2 nmまで薄くして延命しており、その限界はCuライナーの薄膜化にまとめた。細い配線でのMoとRuの抵抗の比較は、親記事のBEOL配線材料にある。IRDSの見方に従えば、Moがコンタクトの次に入るのは、ビアと最下層の配線だ。
DRAMは開発段階で、世代ごとの計画が報じられている
Section titled “DRAMは開発段階で、世代ごとの計画が報じられている”DRAMでMoが狙うのは、トランジスタのメタルゲートだ。韓国TheElecは2024年3月、MicronがDRAMの第6世代(1c)からMoを使う計画で、SamsungとSK hynixは第7世代(1d)のメタルゲートにMoを検討している9と報じた。Lamは2025年2月の発表で、DRAMの顧客とは開発を続けている4と述べ、3D NANDとロジックの「採用」とは区別している。SemiAnalysisも、Applied MaterialsやNauraはDRAMとロジックの移行の波で恩恵を受ける2と見ており、DRAMを3D NANDの後に置いている。
成膜装置の受注は3D NANDのMoで先に動き、Lamが先行する
Section titled “成膜装置の受注は3D NANDのMoで先に動き、Lamが先行する”装置の受注は、3D NANDのMoで先に動いた。LamのTim Archer CEOは2025年1月、MoとカーボンのギャップフィルでLamの2025年のNAND向け出荷が数億ドルになる7との見通しを示した。Archer CEOは同じ説明会で、Moを入れる層数は顧客ごとに違い、各社がその転換点に達するたびに需要が出ると述べた。
SemiAnalysisは同じXへの投稿で、NAND向けMo成膜装置の売上が2027年だけで10億ドルを超え、DRAMとロジックが続くことで2030年に年約20億ドルへ増える2と推計した(華爾街見聞の報道による)。最初に恩恵を受けるのはLamで、TEL(東京エレクトロン)が続くという。新しい参入もある。TheElecによれば、Hanwha Precision Machineryは2024年の時点で、MoO₂Cl₂を600〜650℃で使う熱ALD装置を開発していた9。
前駆体は、フッ素を含まない固体の塩化物になる
Section titled “前駆体は、フッ素を含まない固体の塩化物になる”Moの前駆体として製品や特許に挙がるのは、MoO₂Cl₂(二塩化二酸化モリブデン)、MoCl₅(五塩化モリブデン)、MoOCl₄(四塩化酸化モリブデン)の3つで、いずれも塩素を含みフッ素を含まない。MerckはMoO₂Cl₂を固体の原料と位置づけ、ロジック、DRAM、3D NANDのフッ素フリーの金属用途に向けている10。Air LiquideはMoCl₅とMoO₂Cl₂を高純度の固体塩化物として、ロジック、DRAM、NAND向けに供給している11。Entegrisは3D NAND向けにMoO₂Cl₂を挙げ、Moのエッチング液もそろえている12。
3つは、成膜速度と膜の抵抗率で比べられている。Entegrisの特許は、MoOCl₄がMoCl₅より高い速度で成膜でき、抵抗率の低い膜になる13と示している。TiNの上でMoOCl₄と水素を使うCVDは、核形成処理なしでは約560℃、ジボランで核形成すると約500℃より低い温度で膜が付かなくなるという。MoO₂Cl₂はMerck、Air Liquide、Entegrisが共通して扱う品目で、Materion14もMoO₂Cl₂とMoCl₅をALD前駆体として扱っている。日本では古内化学が、3D NANDのワード線などを用途に挙げ、6N以上の純度のMoO₂Cl₂15を製造している。
液体の有機Mo化合物もあるが、用途が違う。トリケミカル研究所が2026年9月に示した液体のMo前駆体TCMo-23は16、DRAMキャパシタの界面などに使う酸化モリブデン(MoOx)の膜を狙っている。金属Mo向けとして装置メーカーと前駆体メーカーが挙げる原料は、いずれも固体の塩化物だ。
新しい需要は、高純度の前駆体と、それを昇華して送る供給系に生まれる
Section titled “新しい需要は、高純度の前駆体と、それを昇華して送る供給系に生まれる”固体の前駆体は、WF₆のようにボンベから気体で流せない。TheElecは、Moの前駆体が固体であるため、WF₆より成膜が難しい9と書いている。EntegrisのDave Reeder CEOは2026年8月の決算説明会で、固体を昇華させ、決まった圧力と温度で送らなければ性能が出ず、配管を傷めやすい分子を安定した圧力で送るキャビネットが要る3と説明した。MerckはMoO₂Cl₂を供給系CHEMGUARD SOLIDと組み合わせ、主要な装置メーカーの認定を得たとし17、Air Liquideは固体を昇華して途切れずに送る大流量の供給系11を前駆体と一緒に売る。前駆体の会社は、薬品と供給装置をまとめて売ることで、Moの需要を取り込んでいる。
需要の伸びは、前駆体メーカーの数字に表れている。Entegrisは同じ説明会で、Mo前駆体の需要が前年の約2倍になり、2026年通年でも2025年の約2倍になる3と述べ、その原因を300層前後へ向かうNANDの層数とした。調査会社TECHCETは2024年8月、金属・金属酸化物の前駆体市場が2024年に9億7,200万ドルになり、なかでもMoO₂Cl₂の伸びが大きい18と予測した。
一方、金属としての量は小さい。TheElecの報道によれば、Samsungは2025年に4トンのMo材料を買い、2026年分として10トンを確保し、SK hynixは立ち上げで約4トンを使う見込みだ6。同じ報道によれば、業界の見積もりでは半導体向けの需要が2027年の25トンから2030年に80トンへ増える6。Fastmarketsが取材した日本の商社は、半導体向けの追加需要を短期で約80トン19と見ている。同じ記事によれば、Moの消費の約8割は鉄鋼向けで、中国のアナリストは半導体向けの需要をまだ需要ショックではないと評した。Moの鉱山にとって半導体は小さな買い手で、価値は6N級まで精製した塩化物と、それを送る装置の側に集まる。
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- 1Applied Materials:WのコンタクトをMoに替えるSpectralなどの新装置(2026年2月)ir.appliedmaterials.com ab
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- 3
- 4Lam Research:ALTUS HaloによるMoのALD、3D NANDとロジックでの採用(2025年2月)newsroom.lamresearch.com abcd
- 5SemiEngineering:Moによるメモリーの微細化、KioxiaのVLSI 2024のMoワード線(2025年9月)semiengineering.com ↩
- 6
- 7
- 8IRDS:2024年版More Moore、配線金属の見通し(2024年)irds.ieee.org ↩
- 9
- 10Merck(EMD):MoO₂Cl₂の製品説明(2026年閲覧)emdgroup.com ↩
- 11Air Liquide:Subleem、固体塩化物前駆体と昇華供給系(2026年閲覧)electronics.airliquide.com ab
- 12Entegris:3D NANDのMoとMoO₂Cl₂(2025年8月)blog.entegris.com ↩
- 13Entegris(米国特許):MoOCl₄を使うCVD Mo(2021年8月)patents.google.com ↩
- 14Materion:ALD前駆体のMoO₂Cl₂とMoCl₅(2026年閲覧)materion.com ↩
- 15古内化学:3D NAND向けの高純度MoO₂Cl₂(2026年閲覧)wwwcdn.furuchi.co.jp ↩
- 16トリケミカル研究所:MoOx向けの液体Mo前駆体TCMo-23(2026年9月)trichemical.com ↩
- 17Merck(EMD):Mo前駆体とCHEMGUARD SOLID供給系(2026年閲覧)emdgroup.com ↩
- 18Semiconductor Digest(TECHCET):ALD・CVD前駆体市場の予測(2024年8月)semiconductor-digest.com ↩
- 19Fastmarkets:半導体向けMo需要と鉄鋼の比率(2026年7月)fastmarkets.com ↩