水平分業とは
水平分業とは、半導体を作る仕事を設計・前工程・後工程に分け、それぞれを別の企業が担う産業のかたちです。 3つすべてを自社で対応するやり方は垂直統合と呼ばれます。
同じ「半導体メーカー」と呼ばれる会社でも、設計だけをする会社、作るだけの会社、組み立てるだけの会社があります。設計が競争の中身になったことと、工場を持てなくなったことが同時に起きて、この分担が生まれました。
設計・前工程・後工程を、ファブレス・ファウンドリ・OSATが分けて持つ
Section titled “設計・前工程・後工程を、ファブレス・ファウンドリ・OSATが分けて持つ”半導体製品ができるまでの工程は、①製品の設計、②製造前工程、③製造後工程の3つに分かれます1。
- 設計 ── 製品を企画して仕様を決め、その仕様を満たす回路を設計し、チップ上に実現するためのレイアウトを設計して、最終的にマスクへ仕上げます
- 前工程 ── そのマスクを使い、ウェーハ上に集積回路を作りこみます
- 後工程 ── ウェーハからチップを切り出し、パッケージに入れます
3つをすべて自社で対応する企業をIDMと呼びます。水平分業では、設計に特化し製造を社外の工場に任せる企業1をファブレス、前工程に特化した企業をファウンドリと呼びます。後工程および検査工程に特化した企業をOSATと呼びます。
設計が競争の中身になり、工場は新興企業の手に届かなくなった
Section titled “設計が競争の中身になり、工場は新興企業の手に届かなくなった”集積回路の発明以前に半導体企業が作っていたのは、トランジスタという単体の素子でした。これは汎用部品の一つにすぎず、回路やシステムの設計はユーザーの仕事でした2。集積回路が生まれた後も、最初のころ搭載された素子数は数十個から数百個で、載っていたのは汎用的に使われる基本的な回路です。標準的な回路は誰が設計しても同じで、設計は差別化の手段になりませんでした。
変わったのは、素子数が増えてからです。1970年頃には千個以上を載せられるようになり、チップは汎用部品からシステムへ質的な変化を遂げつつありました2。何を載せるかで製品の中身が決まるなら、設計そのものが競争の中身になります。
ただし当時の設計は、各半導体企業内の技術者の専門的なスキル頼みの手作業で、外部の人間が設計することはほぼ不可能でした。日清紡マイクロデバイスのブログ筆者は、新人時代にマイラー紙という大きな方眼紙へ鉛筆でトランジスタや配線を書き、色鉛筆で塗っていたと振り返っています。そこから設計手法の改革と設計自動化が進み、ツールは各社の内製ソフトから外部の専門ベンダーのソフトへ移りました。これも一種の分業で、分業はまず設計道具の側で起きていました。
もう一方で、微細化の進展に伴って工場建設費が急激に高騰し、新興企業が工場を作って新規参入することは極めて困難になりました。ある時期以降の新興企業は、ファブレスという選択にならざるを得ませんでした。
2つの力は向きが逆です。片方は設計を外へ出せるようになったという可能性の話で、もう片方は工場を持つ道が閉じたという費用の話です。外へ出せるようになった仕事と、内で抱えきれなくなった仕事が同時に生じたところに、水平分業が入りました。
ファウンドリは下請けではなく、ファブレスと対等の相互依存にある
Section titled “ファウンドリは下請けではなく、ファブレスと対等の相互依存にある”日本語で「製造受託」と聞くと、下請けという言葉を思い浮かべる人もいます。ファウンドリは、ウェーハプロセスに加えて、製品の設計に必要な情報やデータやツールやIPを関連企業とも連携して提供しています3。日清紡マイクロデバイスは、ファウンドリの事業を製造を受託する受け身の事業というより、設計と製造に必要なプラットフォームを提供する能動的なものとみています。
同社はファブレスとファウンドリの関係を、上下関係ではなく対等の相互依存関係と位置づけます。ファブレスがあってファウンドリが成り立ち、ファウンドリがあってファブレスが成り立つ、一体の関係です。分業は、互いに相手がいて初めて成り立つ形へ産業全体が組み替わることでした。
単体素子の主要メーカーは、いまも垂直統合のIDM
Section titled “単体素子の主要メーカーは、いまも垂直統合のIDM”水平分業が発達した現在でも、トランジスタ等の単体素子(ディスクリート半導体と呼ばれます)の主要メーカーはIDMです。汎用部品として大量に作る製品では、設計で差別化する余地が小さいぶん、分けて渡す利点も小さくなります。
IDMがファウンドリビジネスも行うことは現在でも普通にあり、日清紡マイクロデバイス自身もファウンドリサービスを提供しています。垂直統合か水平分業かという二択の手前で、企業ごとに持ち方が異なるのが現在の姿です。
チップレットで、ファウンドリとOSATの線が引き直される
Section titled “チップレットで、ファウンドリとOSATの線が引き直される”東京エレクトロンは、チップレットの重要性が急激に高まったことで、ファウンドリとOSATの分担が崩れつつあるとみています4。チップレットには前工程的な要素と後工程的な要素の両方があり、ファウンドリもOSATも事業化に名乗りを上げられる領域です。この工程は、中工程と呼ばれるようにもなりました。
3つに分けた線は、産業の都合で引かれたものです。作るものの形が変われば、線も引き直されます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”水平分業とは何ですか?
設計・前工程・後工程をそれぞれ別の企業が対応するビジネスモデルです。3つすべてを自社で対応する形は垂直統合と呼ばれます。
誰が何を担うのですか?
設計に特化し製造を社外の工場に任せる企業がファブレス、前工程に特化した企業がファウンドリ、後工程および検査工程に特化した企業がOSATです。
なぜ3つに分けるようになったのですか?
大きく2つあります。集積度が上がってチップが汎用部品からシステムへ質的な変化を遂げたことと、工場建設費が微細化の進展に伴って急激に高騰し、新興企業が工場を作って新規参入することが極めて困難になったことです。
設計を外に出せるようになったのはなぜですか?
設計手法が変わったためです。当時の設計は各半導体企業内の技術者のスキル頼みの手作業が多く、外部の人間が設計することはほぼ不可能でしたが、その後に設計手法の改革とコンピュータによる自動化が急速に進みました。
分業する側とされる側で上下があるのですか?
日清紡マイクロデバイスは、ファブレスとファウンドリの関係を上下関係ではなく対等の相互依存関係とみています。ファブレスがあってファウンドリが成り立ち、ファウンドリがあってファブレスが成り立つ関係です。
垂直統合はなくなったのですか?
残っています。水平分業が発達した現在でも、トランジスタなどの単体素子の主要メーカーはIDMです。
いま何が変わりつつありますか?
ファウンドリとOSATの担当範囲の切り分けです。チップレットには前工程的な要素と後工程的な要素の両方があり、ファウンドリもOSATも事業化に名乗りを上げられる領域なので、この工程は中工程と呼ばれるようになりました。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”4件を表示
- 1日清紡マイクロデバイス:半導体産業の水平分業化とファブレスの躍進blog.nisshinbo-microdevices.co.jp ab
- 2日清紡マイクロデバイス:半導体産業の水平分業化の歴史~ファブレス半導体企業の誕生~blog.nisshinbo-microdevices.co.jp ab
- 3日清紡マイクロデバイス:半導体産業の水平分業化~ファウンドリは下請けか?~blog.nisshinbo-microdevices.co.jp ↩
- 4東京エレクトロン:半導体の進化で揺れ動く、後工程『OSAT』の立ち位置を解説tel.co.jp ↩