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インクジェット平坦化の仕組み|削るCMPと逆に膜を足すCanonのIAP

CanonのInkjet-based Adaptive Planarization(IAP)とは、ウェーハ表面の凹凸を、膜を削らずに足して消す平坦化だ。下地の高さ分布に合わせて、低い所には多く、高い所には少なく光硬化材料の滴をインクジェットで置き、平らなガラス板で押し広げて紫外線(UV)で固める。Canonは2026年1月の発表で1、300 mmウェーハの全面を1回の押し当てで平坦化し、表面の凹凸を5 nm以下にしたと報告した。装置の製品化は2027年中を目指す。

Canon自身は、IAPをスピンコートとCMPの両方と比べ2、どちらも工程が多くコストがかさむと説明する。一方、Intelが2026年に公表した評価は、IAPを露光の前に積む炭素ハードマスク(CHM)とその類似の平坦化手法3と比べ、パターン密度15%と75%の領域をまたぐ局所の段差が10分の1になったと報告した。Intelの評価が対象にしたのは、露光の直前に下地をならす膜の工程だ。

図1IAPの工程:滴量を変えて平らにする
1 凹凸マップ 2 滴量を変えて滴下 3 押し広げてUV硬化 4 離型 高さ分布 下地 インクジェット 少量 多量 UV ガラス板 凹凸5 nm以下 硬化膜
IAPは、低い所に多く高い所に少なく滴を置き、平らな板で広げて固めることで、上面の平らな膜を足す。

IAPを評価するときの主な量は4つある。入力となる下地の高さ分布(トポグラフィ)、そこから決める場所ごとの滴の量、凸部の上にも残す膜の厚さ、仕上がった表面の凹凸の大きさ(平坦度、nmで表す)だ。

平坦化は、露光の前に下地の凹凸を消す工程だ

Section titled “平坦化は、露光の前に下地の凹凸を消す工程だ”

成膜と配線を何層も重ねると、配線の密な領域と疎な領域で表面の高さがずれる。Canonの発表によれば1、このわずかな凹凸がCD(線幅など、デバイスの性能を左右する寸法)の誤差とパターン端の位置ずれを生み、微細化と3D化が進むほど歩留まりと生産性に響く。露光機がピントを合わせられる高さの幅、つまり焦点深度は細かいパターンほど狭く、下地の段差はその幅を使う。

凹凸をならす方法は3つに分かれる。回転で液状の材料を広げて凹部を埋めるスピンコート、凸部を削るCMP(化学機械研磨)、そして場所ごとに足す量を変えるIAPだ。

図2スピンコート・CMP・IAPの断面
スピンコート CMP IAP 液を広げて足す 凸部を削る 量を変えて足す 回転 パッド・スラリー ガラス板 下地 削った膜 ディッシング 上面は下地の形に沿う 除去量はパターン密度に依存 上面は板で平らになる
スピンコートの上面は下地に沿い、CMPは凸部を削り、IAPは場所ごとに足す量を変えて上面をそろえる。

IAPは下地の高さ分布を滴量の分布に変える

Section titled “IAPは下地の高さ分布を滴量の分布に変える”

IAPは、下地の高さ分布と回路パターンの密度から、場所ごとの滴量を決める。凹部ほど多く、高い領域ほど少なく材料を置き、平らなガラス板を押し当てると、隣り合う滴が横へ広がってつながり、1枚の液膜になる。UVで固めて板を離すと、上面の平らな膜が残る。

この方式は、Canonのナノインプリントリソグラフィ(NIL)から来ている。NILは回路を刻んだ型を液状のレジストへ押し当てて形を写す露光方式で、Canonは型を押したときに樹脂がはみ出さず、厚さがそろうように、樹脂を置く量と位置を制御する技術4を開発してきた。IAPはその型を平らな板に替え、パターンを写す代わりに凹凸を消す。滴の置き方と5 nm以下という結果の読み方は、IAPの滴の置き方と平坦度で詳しく扱う。

CMPは余分な金属を削り、IAPは膜を足す

Section titled “CMPは余分な金属を削り、IAPは膜を足す”

IAPとCMPは同じ「平坦化」と呼ばれるが、ウェーハに加える操作が逆だ。CMPは配線層を積むたびに、溝からあふれた金属と段差を削って次の面を作る。配線を互いに切り離すには余分な金属を取り除く必要がある。IAPは膜を足す操作なので、この除去とは役割が違う。

方式表面に加える操作下地の密度差への合わせ方工程で比べる項目
スピンコート回転で液状材料を面内に広げる膜の流れと下地の形に任せる膜厚の均一性、埋め込み性、硬化後の形
CMPスラリーとパッドで凸部を削るパターン密度に応じて削る量を管理する除去レート、ディッシング、エロージョン、研磨後の洗浄
IAP高さ分布に合わせた量の滴を置き、平らな板で広げてUV硬化する滴量の分布を下地ごとに変える凹凸マップ、滴量、気泡、板の離型、硬化膜の特性

IAPの膜がどんな性質を持ちうるかは、Canonの特許に例がある。特許は実施形態の1つとして、炭素含有率70%以上で、エッチング耐性が高く、熱分解温度が300°Cを超える組成5を示している。

Intelの評価では、露光前の炭素ハードマスク系の平坦化より段差が10分の1になった

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Intelの技術者8人は2026年9月、JM3誌の論文3でIAPを評価した。論文は、現在の炭素ハードマスクの成膜手法では、露光1回分の領域の中とウェーハ全体での膜厚と段差のばらつきを抑えきれず、そのばらつきが露光と、エッチング後のCDのばらつきに響くと述べる。これまでの対策は、設計ルールの制限、炭素ハードマスクの研磨、より複雑な工程で、どれも歩留まり、コスト、開発期間に跳ね返るという。

Intelは、IAPを塗ったウェーハと、炭素ハードマスクに似たほかの平坦化を施したウェーハを比べた。パターン密度15%と75%の領域をまたいでAFMで測ると、IAPの段差はほかの手法の10分の1だった。画素2.5 µm前後の干渉計で露光領域全体を測っても、IAPのウェーハの高さは±5 nmに収まった。露光で得たデータも、プロセスウィンドウが広がったことと整合するという。この結果はIntel1社の評価で、対象は炭素ハードマスクの層だ。

MerckグループのEMD Electronicsは、2026年2月のSPIE Advanced Lithography + PatterningでIAP材料の開発を講演した6。同じ学会では、IAP装置を題にした発表7も行われた。

2027年の製品化までに確かめることは、欠陥と膜の性質だ

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Canonは、ロジックとメモリーの先端半導体製造に向けて、IAP装置を2027年中に製品化する1目標を掲げる。基になったNIL装置FPA-1200NZ2C8は2023年10月に発売され、インクジェットでレジストを置き、型を押し当てて回路を写す。

図3欠陥が生じる場所
板の接触・押し広げ 硬化後の離型 ガラス板 パーティクル 合流部の気泡 光硬化材料 下地 膜欠け
板を押し当てるIAPでは、欠陥の起点は押し広げる段と、硬化後に板を離す段に集まる。

板を液に押し当てる点で、IAPはNILと似た構造を持つ。Canonの特許は、板と基板の間に気泡を閉じ込めずに液を広げるのが望ましく、それで未充填の欠陥を減らせる9と書く。NILでは、型とウェーハの間に挟まったパーティクルがデバイスの不良と型の損傷を起こし、Canonは超高性能フィルター、空気の流れの設計、パーティクル除去ユニット4で対策してきた。IAPも板を押し当てるので、NILのこの経験は類推の手がかりになる。この対策と、材料の縮みと耐熱がIAPでどこまで量産の水準に届くかは、IAPの量産採用を分ける欠陥と材料で扱う。

IAPが加わる工程の装置シェアは工程別の装置シェアと競争構造に、Canonの事業は企業研究:キヤノンにまとめている。

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