放熱材(TIM)とは
放熱材(TIM)とは、発熱体と冷却部材のあいだに挟み、両者のすき間を埋めて熱を伝えやすくする材料です。 Thermal Interface Material の頭文字からTIMと呼ばれます。
TIMの熱伝導率は、金属と比べれば小さな値です。それでも挟むと温度が下がるのは、TIMがすき間の空気を追い出して、その場所へ入れ替わるからです。
すき間の空気が、放熱経路でいちばん熱を通しにくい層になる
Section titled “すき間の空気が、放熱経路でいちばん熱を通しにくい層になる”半導体チップは動作すると発熱し、その熱はパッケージ、ヒートスプレッダー、ヒートシンクへと順に伝わり、最後に周囲の空気へ移ります。熱の伝わり方には伝導・対流・放射の3つがあり、熱設計とはチップから大気までの放熱経路の熱抵抗を下げていく作業です1。
ところが、この経路には弱点が潜んでいます。チップの表面もヒートシンクの底面も、肉眼では平らですが、拡大すると細かな凹凸があります。金属どうしを強く押し付けても、実際に触れ合うのは凹凸の山どうしで、谷の部分には空気が入り込みます。TIMに求められる働きは、半導体パッケージやヒートスプレッダーの表面の微細な凹凸を埋めて接触熱抵抗を下げることです2。
空気の熱伝導率は約0.03 W/m・Kで、信越シリコーンの放熱用シリコーンは約0.8〜12 W/m・Kです3。この2つの記載値で計算すると、いちばん低い0.8 W/m・Kのシリコーンでも、空気の約27倍にあたります。
熱抵抗は、厚み・面積・熱伝導率・なじみの4つで下がる
Section titled “熱抵抗は、厚み・面積・熱伝導率・なじみの4つで下がる”放熱材の熱抵抗は、材料そのものの熱抵抗と、界面の接触熱抵抗の和です3。は、熱の移動距離、熱伝導率、断面積から で求まり、断面積が大きくなるか長さが短くなると、伝導の熱抵抗は下がります4。この式から、打てる手は4つに絞られます。
1つ目は、厚みを薄くすることです。塗布厚みはBLT(Bond Line Thickness)と表記し、薄膜で使うほど熱抵抗を小さくできます。2つ目は熱の通り道の面積を広く取ること、3つ目は熱伝導率の高い材料を選ぶことです。
4つ目が、接触熱抵抗を下げることです。材料が相手の面へよくなじむほど、は小さくなります。信越シリコーンは、低硬度の放熱シリコーンパッドを軟らかく密着性に優れるとしています。同社のフェイズチェンジマテリアルは約50℃以上で軟化し、密着性が上がることで接触熱抵抗が下がります。熱伝導率の数字を1つ上げるより、相手の面へなじませるほうが効果の大きい場面があります。
同社の熱伝導性シリコーンゴムシートTCシリーズでは5、代表製品の熱伝導率がISO 22007-2の測定で0.8〜7.3 W/m・Kの範囲に並び、厚さは0.20〜0.80mmです。
TIM1はチップに近いぶん、TIM2より低い熱抵抗を求められる
Section titled “TIM1はチップに近いぶん、TIM2より低い熱抵抗を求められる”TIMはTIM1とTIM2に大別され、TIM1はパッケージとヒートスプレッダーのあいだ、TIM2はヒートスプレッダーとヒートシンクのあいだで使われます2。TIM1のほうが熱源であるチップへの距離が近いため、より低い熱抵抗と高い熱伝導率が要求されます。そのためTIM1には、層を薄くでき、高熱伝導のフィラーを多く配合できるペースト状のTIMが使われると、レゾナックは述べています。
レゾナックは、データセンター向けGPUで、パッケージを液冷ヒートシンクやコールドプレートで直接冷却する構成が増えているとしています。ヒートスプレッダーを省いたリッドレス構成では、放熱経路が短くなり、界面の数が減るぶん、総合の熱抵抗が下がります。この構成で使うTIMをTIM1.5と呼びます。
レゾナックのシート状TIMは黒鉛フィラーを厚さ方向に配向させたもので、同社は、実装時に25〜45 W/(m・K)、バルクでは最大90 W/(m・K)の熱伝導率になり、軟質で高粘着のベース樹脂で柔軟性と粘着性も確保しているとしています。
グリースは薄く塗れるが、時間が経つとポンプアウトで痩せる
Section titled “グリースは薄く塗れるが、時間が経つとポンプアウトで痩せる”TIMには、グリース状、シート状、パッド状、熱で軟らかくなるフェイズチェンジ型などがあります。放熱オイルコンパウンドは、薄膜塗布ができて接触熱抵抗が小さい一方、接着性が無いため、ビス止めのできる部位に向きます3。厚みのあるすき間には、放熱ギャップフィラーが向きます。信越シリコーンは、低硬度パッドの用途として、熱源側とヒートシンク側の公差から生まれるギャップを吸収し、発熱素子・パッド・ヒートシンクのあいだの空隙を無くすことを挙げています。
代償は、使い始めてしばらく経ってからやってきます。グリース状のTIMは、温度の上下や振動を繰り返すうちに接触面のあいだから外へ移動し、層が薄く痩せていきます。これがポンプアウトです。デンカは、耐ポンプアウト性と耐ブリードアウト性の高い高信頼性グレードや、縦置きで使えるグレードの放熱グリースを揃えています6。
同社の2液硬化型グリースGFC-R55の耐垂れ落ち・耐ポンプアウト試験では、アルミとガラスのあいだにグリースを挟み、マイナス40℃で30分と150℃で30分を3000時間繰り返します。グリース厚みは、垂れ落ち試験が2mm、ポンプアウト試験が0.2mmです。このグリースの用途は、5G基地局、車載のECU・インバータ・LEDヘッドランプ、パソコンのMPU、パワーモジュールなどです。
カタログの熱伝導率は初期の値なので、熱伝導率の数字だけで選ぶと、この時間の軸が抜け落ちます。3000時間後の姿は、耐久試験の条件から読み解きます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”放熱材(TIM)とは何ですか?
発熱体と冷却部材のあいだに挟み、両者のすき間を埋めて熱を伝えやすくする材料です。Thermal Interface Material の頭文字からTIMと呼ばれます。放熱グリース、放熱シート、放熱パッドなどが該当します。
すき間を埋めると、なぜ温度が下がるのですか?
すき間に入り込むのが空気だからです。空気の熱伝導率は約0.03 W/m・K、信越シリコーンの放熱用シリコーンは約0.8〜12 W/m・Kで、空気をシリコーンへ入れ替えるだけで、その層の熱の通りが大きく改善します。
熱伝導率がいちばん高い製品を選べばよいのですか?
熱伝導率は4つの要素のうちの1つです。放熱材の熱抵抗は、材料そのものの熱抵抗と界面の接触熱抵抗の和で、厚みを薄くする、面積を広く取る、熱伝導率を上げる、相手の面へなじませる、の4つが揃って下がります。
TIM1とTIM2の違いは何ですか?
使う場所です。TIM1はパッケージとヒートスプレッダーのあいだ、TIM2はヒートスプレッダーとヒートシンクのあいだで使われます。TIM1のほうが熱源であるチップに近いため、より低い熱抵抗と高い熱伝導率が要求されます。
どんな形の製品がありますか?
グリース状、シート状、パッド状、熱で軟らかくなるフェイズチェンジ型などがあります。薄く塗れる放熱オイルコンパウンドと、厚みのあるすき間を埋める放熱ギャップフィラーは、別の用途に向きます。
一度取り付ければ、ずっと同じ性能ですか?
時間の軸があります。温度の上下や振動を繰り返すうちにグリースが接触面から移動する現象がポンプアウトで、デンカは耐ポンプアウト性と耐ブリードアウト性の高い高信頼性グレードや、縦置きで使えるグレードの放熱グリースを揃えています。
フェイズチェンジマテリアルとは何ですか?
温度が上がると軟らかくなるTIMです。信越シリコーンの製品は約50℃以上で軟化し、密着性が上がることで接触熱抵抗が下がります。シートとしての作業性と、グリース並みの密着性を両立させる材料です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ダイボンディングとは── チップを基板へ接着する材料も熱の通り道になり、パワー半導体でははんだや銀焼結材が選ばれます
- 反りとは── 熱がもたらすもう1つの副作用で、材料ごとの熱膨張の差が形を曲げます
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- 1ローム TechWeb:熱抵抗と放熱の基本(熱抵抗とは)techweb.rohm.co.jp ↩
- 2レゾナック:先端半導体パッケージの熱マネジメントに貢献する材料(1)resonac.com ab
- 3信越シリコーン:放熱用シリコーン 製品カタログsilicone.jp abc
- 4ローム TechWeb:熱抵抗と放熱の基本(伝導における熱抵抗)techweb.rohm.co.jp ↩
- 5信越シリコーン:放熱シリコーンゴム加工品silicone.jp ↩
- 6
- 7信越化学工業:放熱シリコーンゴム加工品shinetsu.co.jp