相変化メモリとは
相変化メモリとは、同じ物質の結晶状態とアモルファス状態で電気抵抗が異なることを利用した不揮発メモリです。 結晶で抵抗が低く、アモルファスで高くなります。書き換えはどちらも熱で行うので、速さも回数も十分なのに、熱に対する保持と書き換えの電力が性能の上限になります。
同一物質の結晶とアモルファスの物理特性の差を記憶に使う技術は、1960年代に開発された技術に端を発します1。書き換え可能な光ディスクは、同じ材料の反射率の差で情報を取り出してきました。光学記録ディスクはレーザ光の熱で書き換え、PCM/PRAMはジュール熱を使います1。光のかわりに電流で相を変え、抵抗の差を電気で取り出すのが相変化メモリです。
溶かして急冷すれば高抵抗、結晶化温度で保てば低抵抗
Section titled “溶かして急冷すれば高抵抗、結晶化温度で保てば低抵抗”低抵抗状態のカルコゲナイドへ高電圧を印加して融点を越えるまで温度を上げ、そこから電圧を急激に下げて急冷すると、アモルファス状態になり抵抗が高くなります1。印加電圧を制御してカルコゲナイドの温度を結晶化温度領域に保持すれば、多結晶状態に遷移して抵抗が下がります。どちらの状態も、電圧を切っても保たれます。
抵抗を下げる書き換えを「セット動作」、低い状態を「セット状態」、抵抗を上げる書き換えを「リセット動作」、高い状態を「リセット状態」と呼ぶのが一般的です1。
最も報告が多い材料は組成比2:2:5のGe-Sb-Teで、結晶化が速い(セット動作が速い)ので、DVD-RAMの基本材料にも使われています1。融点は約600℃です。リセット動作速度は約1ns、セット動作速度は約50nsという報告があります。
リセットの電力がセルの能動素子の仕様を決め、下部電極プラグを細くして下げる
Section titled “リセットの電力がセルの能動素子の仕様を決め、下部電極プラグを細くして下げる”全動作の中でリセット動作の電力が最も大きいので、メモリセルを構成する能動素子の仕様は、リセット動作に必要な電圧と電流で決まります1。溶かすだけの熱をどれだけ小さな体積に集められるかが、素子構造の設計目標になります。
抵抗素子は、下部電極プラグ・カルコゲナイド・上部電極層から成ります。上部電極との接触面積が下部電極プラグとの接触面積より大きいので、上部側の方が熱を拡散しやすく、相変化が起きるのは高温になりやすい下部電極プラグ側です1。この部分を「ヒーター」と呼ぶ報告もあります。
下部電極プラグのサイズが小さいほどリセット電流が減ります。リセット電流を数百μAに下げるため、50〜30nm程度のプラグ径を狙う報告が多くあります1。細くすれば消費電力は下がりますが、その代わり加工の精度が要り、ばらつきが抵抗値へ直接響きます。
アモルファスはしきい値を越えると、インパクトイオン化で抵抗が急に落ちる
Section titled “アモルファスはしきい値を越えると、インパクトイオン化で抵抗が急に落ちる”高抵抗のアモルファスを加熱するには、まず電流を流す必要があります。アモルファス状態のカルコゲナイドへ印加する電流を上げていき、電圧がある値に達すると、内部でインパクトイオン化が起きてキャリアが増倍し、急激に抵抗が低下します1。このしきい値電圧以上の電圧を印加すれば大電流が流れてジュール熱が発生し、温度が上がります。インパクトイオン化は、書き換え動作に不可欠な物理現象です。セット動作の印加電圧には1.5V以下の報告があります。
書き換え回数はフラッシュより桁違いに多く、弱点は熱と抵抗のドリフト
Section titled “書き換え回数はフラッシュより桁違いに多く、弱点は熱と抵抗のドリフト”書き換え回数は、フラッシュメモリの1×10⁶回程度に対し、最大1×10¹²回程度が報告されています1。IBMの研究チームも、100万回以上の非常によい書き換え耐性、ほどほどの保持、20 nm未満のノードへの優れたスケーラビリティ2を挙げています。保持能力については、Ge2Sb2Te5で10万時間・85℃の報告があり、カルコゲナイドの成分を変えて保持温度を大きく上げた報告もあります。
日本板硝子材料工学助成会の公開報告は3、GSTが耐熱性に乏しく消費電力が大きいという課題を残すとしています。回数は稼げても、熱の側に上限があります。速く書けばセット動作が短く済みますが、結晶化が不十分な状態を残しやすくなります。
セットとリセットの抵抗率の差が大きいので、1セルに複数ビットを記録する多値セルにも向きます2。その多値化を難しくするのがドリフトで、IBMの研究チームはセルの抵抗が時間とともに上へずれ、アモルファス状態の方が結晶状態より大きくずれる2ことを観測しています。IBMは、隣り合う抵抗レベルの間隔が詰まった多値セルでは読み分けの余裕が減るので、ドリフトが信頼性に深刻に効くとしています2。
大容量化はクロスポイントで、セレクタをメモリ層に持たせる研究もある
Section titled “大容量化はクロスポイントで、セレクタをメモリ層に持たせる研究もある”大容量化のためには、クロスポイント構造が採用されています3。クロスポイントでは、セレクタ素子が相方として要ります。日本板硝子材料工学助成会の報告は、この相方をなくす材料としてNbTe4を調べています。NbTe4の結晶化温度は約270℃で、GSTより100℃以上高く、アモルファス相の熱安定性が高いとしています3。さらに、NbTe4は多くの相変化材料と違い、結晶相の抵抗がアモルファス相より高い逆の抵抗変化を示します3。報告は、p型の結晶相の中に相変化でできるn型のアモルファス領域とのあいだにp/n接合が自己形成され、メモリ層自身がセレクタの働きを持つセレクタフリーの素子構造が期待できるとしています3。
使い方の面では、IBMの研究チームは旧来のPCMチップを使ったPCM DIMMをPCIeバス経由でPOWER8プロセッサにつなぎ、CAPIでデータをやり取りする構成2を示し、ランダムアクセスでも5 µs未満のアクセス時間を高い一貫性で得られるとしています2。同チームは、PCMを非常に速いキャッシュとしてフラッシュと組み合わせるハイブリッド用途も構想しています2。抵抗で記憶する方式には、抵抗変化メモリもあります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”相変化メモリとは何ですか?
同じ物質の結晶状態とアモルファス状態で電気抵抗が異なることを利用した不揮発メモリです。結晶状態で抵抗が低く、アモルファス状態で高くなります。
どうやって書き換えるのですか?
ジュール熱を利用します。融点を越えるまで加熱して急冷すればアモルファス、結晶化温度域に保持すれば多結晶になります。
セットとリセットの違いは何ですか?
抵抗を下げる書き換えをセット動作、上げる書き換えをリセット動作と呼びます。リセットは全動作の中で電力が最も大きく、セルの能動素子の仕様はリセットに必要な電圧と電流で決まります。
どんな材料を使いますか?
最も報告が多い材料は、組成比2:2:5のGe-Sb-Teです。融点は約600℃で、結晶化が速いのでDVD-RAMの基本材料にも使われています。
速度はどのくらいですか?
リセット動作速度が約1ns、セット動作速度が約50nsという報告があります。
書き換え回数はどのくらいですか?
フラッシュメモリの1×10⁶回程度に対し、最大1×10¹²回程度の報告があります。
大容量化はどうやりますか?
大容量化のために、クロスポイント構造が採用されています。メモリ層自身にセレクタの働きを持たせるセレクタフリーの素子構造も研究されています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 抵抗変化メモリとは── 同じ抵抗で記憶する方式
- セレクタ素子とは── クロスポイントで要る相方
- 書き込み消去サイクルとは── 寿命を測る指標
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