ダイオードとは
ダイオードとは、p-n接合を持つ半導体で作られた2端子の電子デバイスです。 加わる電圧の向きだけで、電流を通したり止めたりします。名前は、元来は2つの電極を持つ真空管を指していた語を1、同じ機能の半導体素子が受け継いだものです。制御用の端子を持たないぶん構造は単純で、選ぶときに問われるのは3つです。流している間の電圧降下がどれだけ熱になるか、止まるまでの時間が動作の周期に対してどれだけ短いか、データシートの定格を条件とピークまで含めて読めているかです。
p型とn型の境目で、電流を運ぶものが集まるか退くかが決まる
Section titled “p型とn型の境目で、電流を運ぶものが集まるか退くかが決まる”n型半導体とp型半導体は、電流を運ぶ主体が違います。n型2では自由電子が動いて負の電荷を運び、p型3では正孔が動いて正の電荷を運びます。
この2つを接し、p側を高い電位にすると、p側の正孔とn側の自由電子がどちらも境目へ向かって進みます。境目で出会って結び付き、後ろから次が補充されるため、電流は流れ続けます。向きを逆にすると、正孔はp側の奥へ、自由電子はn側の奥へ引き寄せられ、境目の付近から電流を運ぶものが退いて空乏層が広がります。電流はごくわずかにとどまります。この性質をそのまま用途にしたのが整流で、向きが交互に反転する電流を一方向へ整えます。ダイオードは多くの電子機器で整流器として使われています1。
制御端子を持たないから、単純で小さく、大電流に向く
Section titled “制御端子を持たないから、単純で小さく、大電流に向く”トランジスタは3端子で、3つ目の端子へ与えた信号で他の2端子の間の流れ方を変えるため、増幅もスイッチもできます。ダイオードにはその3つ目がなく、加わる電圧の向きが振る舞いを決め、外から介入する余地はありません。
制御を手放したぶん構造は単純で、小さく作れて、同じ面積でより多くの電流を扱えます。パワー半導体の分野でダイオードが独立した製品として並ぶのは、この単純さが素直に性能へ直結するためです。ロームは、整流ダイオードのチップを、斜面に保護膜を、上下に電極を形成して仕上げるとしています4。
パワーモジュールでは、スイッチ素子とダイオードが対で入ります。モータのような誘導性の負荷を切った瞬間、電流には行き場が要り、逆向きに流す経路をダイオードが受け持ちます。制御を省いた役目なので、2端子で足ります。
ディスクリートは、集積回路に対して単一の機能を果たす半導体デバイスの類型を指す形容詞で1、トランジスタやダイオードがその例です。ダイオードはこの分類の代表で、1つの素子が1つの役目を果たし、それだけを売り物にします。何億個ものトランジスタを1枚に載せる集積回路とは、製品としての性格が正反対です。
「pn接合に代わる接合」まで含むから、品種と用途が広い
Section titled “「pn接合に代わる接合」まで含むから、品種と用途が広い”東芝デバイス&ストレージの定義では、ダイオードは1つのpn接合またはこれに代わる接合を持つ2端子の半導体デバイスで5、構造・用途により整流ダイオード、定電圧ダイオードなどに分かれます。pn接合以外の接合でも、2端子で一方向へ流す役目を果たすなら、この名前で呼ばれます。用途も整流、検波、定電圧源、サージ保護、インバーター還流用、高周波帯域切り換え、高周波同調回路と幅があり、信号を扱う小さな電流から電力を扱う大きな電流まで、同じ名前が伸びています。
- 整流ダイオード:向きが交互に入れ替わる交流を、一方向の電流へ整えます。電源回路の入口に置かれます。
- FRD(高速回復ダイオード):逆回復時間を速くした整流ダイオードで、スイッチング電源やインバーター向けです。
- ショットキーバリアダイオード(SBD):pn接合の代わりに、半導体とモリブデンなどの金属を接合した構造です。
- 定電圧ダイオード:逆方向特性を使って、一定の電圧を作ります。
- ESD保護用ダイオード:短時間で非常に大きな過電圧を吸収します。
- 可変容量ダイオード:高周波同調回路など、容量を電圧で動かしたい場所で使われます。
- トンネルダイオード:量子トンネル効果を使う品種で、江崎玲於奈氏が1957年に発明しました1。順方向の電圧を上げていくと、ある範囲で電圧が高いほど電流が減る負性抵抗が現れます。
応用先は材料と金属の組み合わせで決まります。応用の一覧では6、SiCのSBDが高効率電源のPFC(力率改善)と、インバーターのIGBT用FWD(還流ダイオード)に、SiCおよびpn接合ダイオードがHVDC直流送電と鉄道車両用インバーターに、モリブデン/バナジウム(Mo/V)系のSi SBDがモバイル機器のバッテリー用に挙がっています。
順方向電圧VFは、流している間ずっと熱になる
Section titled “順方向電圧VFは、流している間ずっと熱になる”順方向に電流を流している間、ダイオードの両端には順方向電圧(VF)が生じます。理想の一方向スイッチならゼロですが、実物には値があり、VFと電流の積はそのまま素子の内部で熱になります。整流している間じゅうこの損失が生じ続けるため、ダイオードを選ぶときはVFが最初に話題になります。
整流ダイオードの順方向特性は電流レベルと温度で異なり7、低電流領域では高温時のほうがVFが低く、高電流領域ではその逆になります。温度の向きが、電流レベルで入れ替わります。2本の温度特性線が交わる点をQ点と呼び、一般にはQ点以下で十分な温度マージンをもって使います。低電流側に動作点を取れば、温度が上がるほどVFが下がる側にいられます。
SBDは、この代償を小さくする品種です。耐圧は一般に20〜150V程度、VFは0.4〜0.7V程度で8、pn接合ダイオードより低耐圧・低VFです。低いVFは低い耐圧とセットで来て、SBDの順電圧と逆電流には逆相関関係(トレードオフ)があります。VFを下げれば、逆方向へ漏れる電流が増える側へ動きます。
逆回復時間trrが1周期に近づくほど、逆回復損失の割合が増える
Section titled “逆回復時間trrが1周期に近づくほど、逆回復損失の割合が増える”順方向に電流を流していたダイオードへ逆方向の電圧を加えると、電流が止まるまでに時間がかかります。これが逆回復時間(trr)で、その間ダイオードは逆向きに電流を通し、その分が逆回復損失になります。
一般の整流ダイオードのtrrは数μs〜数十μs、FRDは数十ns〜数百nsで9、およそ100分の1です。使える周波数の帯も、一般の整流ダイオードが500Hz以下、FRDが数kHz〜100kHzの高周波スイッチングです。周波数が数kHz以上になると逆回復損失が無視しづらい大きさになり、FRDはスイッチング電源全般、インバーター応用機器、DC/DCコンバーターに使われます。
商用電源の50Hzや60Hzを整流するだけなら、1周期が20ms近くあるので、trrが数十μsでも間に合います。数十kHzで動くスイッチング電源では1周期が数十μs程度まで縮み、trrと1周期が同じ桁に近づくほど、逆回復損失が回路全体の損失に占める割合が増えます。
SBDのtrrは決まり方が違います。SBDは電流を運ぶ主体が多数キャリアだけのユニポーラー素子で、trrはSBDの端子間容量特性と外部配線のインダクタンスで構成されるLC共振回路で決まり10、温度によらず一定です。pn接合ダイオードのtrrは高温になるほど長くなります。温度が上がってもtrrの見積もりが変わらない点が、より高周波のスイッチングでSBDが選ばれる理由の一つです。
定電圧ダイオードは逆方向の降伏を、6Vを境に別の現象で使う
Section titled “定電圧ダイオードは逆方向の降伏を、6Vを境に別の現象で使う”逆方向の振る舞いを本業にした品種もあります。定電圧ダイオードは、pn接合の逆方向特性を利用します。逆方向電圧を上げていくとある電圧で大きな電流が流れ始め、電流に関わらず一定の電圧が得られます11。この電圧がツェナー電圧で、電子回路の定電圧電源部や、基準電圧を要する箇所に使われます。
ツェナー現象が観測されるのは一般に6V以下で、6Vを超えるとツェナー現象よりアバランシェ現象が支配的になります。同じ定電圧ダイオードでも、6Vの前後で素子の中で起きている現象が入れ替わります。
ESD保護用ダイオードは役目が近く、混同しやすい相手です。ESD保護用ダイオードは電圧サージを吸収して他の半導体製品を守り12、定電圧ダイオードは定電圧源を他の半導体部品へ供給します。吸収する側と供給する側という、向きの区別です。
絶対最大定格は条件付きの数字で、平均が内側でもピークで越える
Section titled “絶対最大定格は条件付きの数字で、平均が内側でもピークで越える”ダイオードの絶対最大定格には13、次の項目があります。
- 直流逆電圧 VR:逆方向に印加し得る直流電圧の最大値
- ピーク繰り返し逆電圧 VRRM:繰り返し印加できる逆電圧の最大許容瞬時値
- 平均順電流 IF(AV):指定された条件のもとで商用周波数の半波整流波形で流し得る最大平均電流値
- 平均整流電流 IO:指定された条件のもとでの全波整流波形の平均電流値
- 直流順電流 IF(DC):順方向に通電できる直流電流の最大許容値
- 非繰り返しピーク順電流 IFSM:一度きりのサージとして許容される最大電流値
- 接合温度 Tj:接合部分の最大温度
- 保存温度 Tstg:シリコンチップ以外の構成材料の性質と信頼度から規定される温度
電流側の項目には「指定された条件のもとで」という但し書きが繰り返し付き、IF(AV)は商用周波数の半波整流波形での平均、IOは全波整流波形での平均と、波形と条件込みの数字です。同じ「電流の最大値」でも、条件が異なれば別の量を指すため、データシートの数字を別の回路へ持っていくときは条件のほうを先に照らし合わせます。
温度の項目が2つあるのは、動作中と保管中で許される範囲が異なるためです。Tjは接合部そのものの温度で、ケース温度や周囲温度から熱抵抗を介して見積もる量です。
絶対最大定格は、どの一つの値についても瞬時の超過を禁じた規格です14。平均値が定格の内側でも、波形のピークが一瞬でも定格を越えれば、その時点で定格外です。電流側の定格に平均(IF(AV)、IO)とピーク(IFP、IFSM)の両方が並ぶのはこのためで、平均の欄だけを頼りに選ぶと、電源投入時の突入電流のピークで定格を越えます。
関連するデータ・ツール
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よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ダイオードとは何ですか?
p-n接合を持つ半導体で作られた2端子の電子デバイスです。元来は2つの電極を持つ真空管を指していた語で、多くの電子機器で整流器として使われています。
なぜ一方向にだけ流れるのですか?
p型とn型を接した境目で、電流を運ぶものが集まるか退くかが向きで決まるためです。順方向では正孔と自由電子が境目へ向かって進んで電流が続き、逆方向では両者が境目から遠ざかって空乏層が広がります。
整流とは何ですか?
向きが交互に反転する電流を、一方向の電流へ整えることです。ダイオードが一方向にだけ流すという性質を、そのまま用途にしたものです。
2端子であることに意味はありますか?
あります。トランジスタは3端子で、3つ目の端子から流れ方を制御します。ダイオードには制御用の端子がなく、加わる電圧の向きだけで振る舞いが決まり、単純なぶん小さく作れます。
なぜ真空管の名前を受け継いだのですか?
機能が同じだったためです。2つの電極を持つ真空管と同じ役目を半導体で実現できるようになったとき、名前がそのまま移りました。
どこで使われますか?
電源回路と、スイッチと対になる場所です。パワーモジュールではスイッチ素子とダイオードが対で入り、誘導性の負荷を切った瞬間に電流の行き場を作ります。
順方向電圧(VF)とは何ですか?
順方向に電流を流している間、ダイオードの両端に生じている電圧です。VFと電流の積がそのまま素子の内部で熱になります。整流ダイオードでは、低電流領域では高温時のほうがVFが低く、高電流領域ではその逆になります。
逆回復時間(trr)とは何ですか?
順方向に電流を流していたダイオードへ逆方向の電圧を加えてから、電流が止まるまでの時間です。一般の整流ダイオードで数μs〜数十μs、FRDで数十ns〜数百nsで、周波数が数kHz以上になると逆回復損失が無視しづらい大きさになります。
ショットキーバリアダイオード(SBD)はどこが異なりますか?
接合の作り方です。SBDはpn接合の代わりに半導体とモリブデンなどの金属を接合した素子で、耐圧が20〜150V程度、VFが0.4〜0.7V程度と、pn接合ダイオードより低耐圧・低VFです。順電圧と逆電流には逆相関関係(トレードオフ)があります。
定電圧ダイオードとESD保護用ダイオードはどう使い分けますか?
向きが逆です。ESD保護用ダイオードは電圧サージを吸収して他の半導体製品を守り、定電圧ダイオードは定電圧源を他の半導体部品へ供給します。
絶対最大定格には何が載っていますか?
直流逆電圧VR、ピーク繰り返し逆電圧VRRM、平均順電流IF(AV)、平均整流電流IO、非繰り返しピーク順電流IFSM、接合温度Tj、保存温度Tstgなどです。絶対最大定格は、どの一つの値についても瞬時の超過を禁じた規格です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- n型半導体・p型半導体とは── 境目に性質が生まれる仕組み
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- 1東京エレクトロン:Diode / Discretetel.com abcd
- 2東京エレクトロン:N-Type Semiconductortel.com ↩
- 3東京エレクトロン:P-Type Semiconductortel.com ↩
- 4ローム:ダイオードの種類と用途 アプリケーションノート(英語版)fscdn.rohm.com ↩
- 5東芝デバイス&ストレージ:2-1. ダイオードの種類toshiba.semicon-storage.com ↩
- 6東芝デバイス&ストレージ:2-13. 各種ダイオードの特性と応用toshiba.semicon-storage.com ↩
- 7東芝デバイス&ストレージ:2-3. 整流ダイオードの順方向特性toshiba.semicon-storage.com ↩
- 8東芝デバイス&ストレージ:2-10. ショットキーバリアダイオード(SBD)toshiba.semicon-storage.com ↩
- 9東芝デバイス&ストレージ:2-4. FRDtoshiba.semicon-storage.com ↩
- 10東芝デバイス&ストレージ:2-11. SBDの逆回復特性toshiba.semicon-storage.com ↩
- 11東芝デバイス&ストレージ:2-5. 定電圧ダイオードtoshiba.semicon-storage.com ↩
- 12東芝デバイス&ストレージ:2-7. ESD保護用ダイオードと定電圧ダイオードの違い(1)toshiba.semicon-storage.com ↩
- 13東芝デバイス&ストレージ:ダイオードの絶対最大定格の項目toshiba.semicon-storage.com ↩
- 14東芝デバイス&ストレージ:絶対最大定格の瞬時の超過についてtoshiba.semicon-storage.com ↩