フルSiC/ハイブリッドSiCモジュールとは
フルSiCモジュールとは、スイッチもダイオードもSiCで作ったモジュールです。ハイブリッドSiCモジュールは、スイッチをシリコンのIGBTのまま残し、ダイオードだけをSiCへ替えたものです。 置き換えをどこまで進めるかが両者を分けます。
ダイオードだけを替えても逆回復の電流が消え、スイッチ側の損失まで下がります。製品化はハイブリッドが先で、フルSiCは鉄道車両の駆動用インバータから入りました。高耐圧帯でフルSiCが選ばれるのは、キャリア周波数の上限を上へ動かすからです。その代わり高耐圧のフルSiCでは、ボディダイオードに流れる電流による劣化と、短絡したときの余裕が設計を縛ります。
ダイオードだけ替えても、逆回復が消えてスイッチの損失まで下がる
Section titled “ダイオードだけ替えても、逆回復が消えてスイッチの損失まで下がる”パワーモジュールの中には、スイッチ素子とダイオードが対で入っています。誘導性の負荷を切った瞬間に電流の行き場が要るため、逆向きに流す経路をダイオードが受け持つからです。シリコンからSiCへ移るとき、この2つは別々に替えられます。ダイオードだけを先に替える道がハイブリッドSiCで、富士電機は低損失動作のXシリーズ/Vシリーズ1IGBTと、低損失動作のSiC-SBDを組み合わせています。
段階的な置き換えが成り立つのは、ダイオード側に損失を左右する要因があるためです。シリコンのダイオードは導通中に少数キャリアを溜め込み、逆向きの電圧へ切り替わる瞬間、そのキャリアが抜けるまで逆向きの電流が流れます。これが逆回復で、ダイオード自身の損失であると同時に、その電流を引き受けるスイッチ側のスイッチング損失にもなります。
SiCのショットキーバリアダイオードは、多数キャリアだけで導通します。少数キャリアの蓄積が実質ゼロなので逆回復の電流が小さく、ダイオードだけを替えてもスイッチ側の損失まで一緒に下がります。フルSiCはスイッチも替え、両側を多数キャリアだけで動かします。
ハイブリッドは三菱電機では1200Vの1点、富士電機では1700V級まで
Section titled “ハイブリッドは三菱電機では1200Vの1点、富士電機では1700V級まで”三菱電機のラインアップでは、フルSiCモジュールが定格電圧1200V〜1700V/定格電流75A〜1200A2、ハイブリッドSiCパワーモジュールが1200V/100A〜600A、HV-SiCパワーモジュールが1700V〜3300V/185A〜1200Aです。ハイブリッドが1200Vの1点に集まり、電流も600Aまでで止まっているのに対し、フルSiCは電圧も電流も広い範囲に展開しています。車載SiC/Siモジュール J3シリーズ(750V〜1300V/350A〜800A)も並んでいて、シリコンと組み合わせる構成は車載でも現役です。
定格帯の姿はメーカーのラインアップごとに異なります。富士電機のSiC-SBD搭載IGBTハイブリッドモジュールには3、1200V級の200A〜600A品とあわせて1700V級400A品(2MSI400VAE-170-53)があり、同社はこの構成が高耐圧、低損失、高周波動作および高温動作を実現する優れた特性を持つとしています。ハイブリッドが1200Vの1点に集まるのは三菱電機のラインアップの姿で、構成そのものは1700V級へも展開しています。
富士電機は、このハイブリッドモジュールの特長として、従来のSi-IGBTモジュール製品とのパッケージ互換4を掲げています。外形も端子配置も同じまま差し替えられることが、ダイオードだけを先に替える設計が実務で通る理由です。同社はスイッチまでSiCにしたAll-SiCモジュールでも、最新世代のトレンチゲートMOSFETで大幅な低損失化を図り、従来のSi-IGBTモジュールと互換のパッケージを使い、パッケージのインダクタンスを下げたとしています4。
選択は置き換えの度合いと費用の釣り合いで決まります。SiCの素子は面積あたりの費用が高いため、スイッチまで替えるフルSiCは効果も費用も大きくなります。既存のIGBT設計を保ったまま損失を削りたいなら、ダイオードだけの置き換えが現実的な一手です。
1200V級は、SiのMOSFETでは抵抗が高すぎる
Section titled “1200V級は、SiのMOSFETでは抵抗が高すぎる”耐圧1200V級のMOSFETは、Siでは抵抗が非常に高くなり実現が難しいため5、1200V級SiC MOSFETは産業用途や自動車用途などに広く用いられています。三菱電機は、このデバイスをSiCの優位性を大いに発揮できるものと位置づけています。ハイブリッドSiCがこの耐圧帯に厚く並ぶのは、スイッチ側をシリコンのIGBTのまま残す設計が、ここでまだ通用するためです。
チップ側の改良も進んでいます。三菱電機は、第二世代プレーナ型SiC MOSFETでJFET領域へのn型イオン注入、MOSセルの縮小、SiC基板の薄板化により、第一世代よりオン抵抗を30%以上低減できているとしています。開発中の第四世代トレンチ型は室温での特性オン抵抗が2mΩcm²程度で、最初の適用製品としてxEV向けのモジュールを計画しています。特性オン抵抗は面積あたりの抵抗なので、この値が下がるほど、同じ電流を流すのに要るチップ面積が小さくなり、SiCの面積あたりの費用という負担が軽くなります。
3.3kV帯では、SiC MOSFETがキャリア周波数の上限を引き上げる
Section titled “3.3kV帯では、SiC MOSFETがキャリア周波数の上限を引き上げる”SiCを用いると、定格電圧3.3kV以上の高耐圧MOSFETを実現でき6、MOSFETはユニポーラデバイスなので少数キャリアが蓄積せず、損失の極めて小さいスイッチングができます。一般に高耐圧システムは電流が大きく、電力損失による発熱を許容値以下に抑える必要からキャリア周波数(スイッチング周波数)を低く設定しますが、SiC MOSFETを使うと高いキャリア周波数のシステムが可能になり、高性能化や小形化などのメリットをシステムへ提供できます。
キャリア周波数は、インバータがスイッチを1秒間に入り切りする回数です。回数を上げるほど出力の波形が細かく刻まれ、フィルタやリアクトルを小さく作れます。一方で回数を上げると1回ごとのスイッチング損失が積み上がって発熱するため、シリコンではこの回数に上限がありました。フルSiCモジュールが高耐圧帯で選ばれるのは、その上限を上へ動かすからです。
3.3kV SiC MOSFETを搭載したモジュールの順方向特性を、同じ有効面積をもつとした場合のSi IGBTと25℃、125℃、150℃の3条件で重ねると、電流が低い領域では、立ち上がり電圧が存在するSi IGBTに対し、SiC MOSFETのオン電圧は大幅に抑えられています。HV-SiCが1700V〜3300Vという高い耐圧帯を占めているのは、この領域での効果が大きいためです。
フルSiCでも、ボディダイオードを常用の還流路にしない
Section titled “フルSiCでも、ボディダイオードを常用の還流路にしない”MOSFETは構造上、ソースとドレインの間に逆向きの電流経路を内蔵していて、これをボディダイオードと呼びます。スイッチがSiC MOSFETになっても、逆向きの電流はこのボディダイオードを通れます。それでもSiCのショットキーバリアダイオードを別チップで載せるのは、ボディダイオードが少数キャリアを使うバイポーラ動作だからです。
SiCの結晶中には、バイポーラ電流を流すとデバイス特性を劣化させる結晶欠陥が存在し6、チップの並列数が多い高耐圧・大電流モジュールほど、この欠陥を含む確率が高くなります。通電のたびに劣化が進む経路を常用の還流路にすると、モジュールの寿命がそこで決まります。
三菱電機は、通常の動作時にバイポーラ電流を避けるため、ショットキーダイオードをMOSセル内に内蔵したSiC MOSFETを開発しました。同社が第三世代品と呼ぶもので、搭載した最初のモジュールを2024年に製品化しています。ソース電極とコンタクトを形成している部分の一部にショットキー電極を作り込み、逆方向電圧がかかったときにユニポーラのショットキー電流を流して、ボディダイオードによるバイポーラ電流を抑える構造です。同社は、このMOSセルを組み込むことでサージ電流耐量も大きく向上したとしています。
ゲートをオフして逆方向電圧を印加すると、通常構造は約2.5Vを超えたところでボディダイオードによるバイポーラ電流が流れ、SBD内蔵品は約1Vからショットキー電流が流れます。順方向のドレイン電流とドレイン電圧の特性は、VG 15Vと17V、175℃の条件で、通常のSiC MOSFETと同等です。
2010年のエアコンでハイブリッドが先に入り、2013年の鉄道でフルSiCが続いた
Section titled “2010年のエアコンでハイブリッドが先に入り、2013年の鉄道でフルSiCが続いた”三菱電機は2010年にSiC SBDを適用したハイブリッドDIPIPMをエアコンへ搭載して製品化し7、2011年に1200A/1700V定格の大容量ハイブリッドSiCモジュールを開発して地下鉄車両の駆動用インバータへ適用しました。SiC MOSFETを使う側は2013年で、3.3kV定格のフルSiCモジュールを適用した鉄道車両用インバータを製品化しています。この3.3kVフルSiCモジュールは高速鉄道をはじめ多くの鉄道車両の駆動用インバータに適用され、営業運転に使われています。その後、SiC MOSFETは2015年に産業用IPMへ、2016年に民生用DIPIPMへ搭載されました。エアコンと地下鉄車両がハイブリッドの入口で、鉄道車両の駆動用インバータがフルSiCの入口でした。
インバータ単位の効果では、三菱電機は2007年にSiC MOSFETを適用した3.7kW級インバータを試作して損失を50%低減できることを示し、2009年には11kW級および20kW級のインバータを試作して、駆動条件によってはインバータの損失を70〜90%低減できることを実証したとしています。
オン抵抗を下げるほど、短絡耐量の余裕が減る
Section titled “オン抵抗を下げるほど、短絡耐量の余裕が減る”高耐圧SiC MOSFETで配慮が必要な性能に短絡耐量があり、印加する電圧が高い場合、短絡故障からデバイスを保護するには短絡電流をさらに抑える必要があります6。SiC MOSFETでは短絡時の電流の抑制がオン抵抗の増加を伴うため、これらの特性のバランスを考慮した設計が必須です。
短絡耐量は、出力が短絡した状態でゲートが入ったときに素子が耐えられる能力です。この関係を裏返すと、オン抵抗を下げるほど短絡時に流れる電流が増えます。フルSiCモジュールの損失を削る作業は、短絡したときの余裕を削る作業と同じ方向を向いており、選定ではオン抵抗と短絡耐量を対にして比べます。
関連するデータ・ツール
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- 結晶成長の工程ページ── SiC基板を作る側
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よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”フルSiCモジュールとは何ですか?
スイッチもダイオードもSiCで作ったモジュールです。三菱電機のフルSiCモジュールは、定格電圧1200V〜1700V/定格電流75A〜1200Aです。
ハイブリッドSiCモジュールとは何ですか?
スイッチはシリコンのIGBTのまま、ダイオードだけをSiCへ替えたモジュールです。富士電機の製品は、低損失動作のXシリーズ/VシリーズIGBTと、低損失動作のSiC-SBDを組み合わせています。
なぜダイオードだけ先に替えるのですか?
ダイオードの逆回復がスイッチング損失の大きな部分を占めるためです。SiCのショットキーバリアダイオードは多数キャリアだけで導通するため逆回復の電流が小さく、ダイオードだけの置き換えでも損失が減ります。
逆回復とは何ですか?
順方向に流れていたダイオードが逆向きの電圧に切り替わるとき、内部に溜まったキャリアが抜けるまで逆向きの電流が流れる現象です。この電流はスイッチ側の損失にもなります。
定格帯はどう違いますか?
三菱電機のラインアップでは、フルSiCモジュールが1200V〜1700V/75A〜1200A、ハイブリッドSiCパワーモジュールが1200V/100A〜600A、HV-SiCパワーモジュールが1700V〜3300V/185A〜1200Aです。
どちらを選びますか?
置き換えの度合いと費用の釣り合いで決まります。SiCの素子は面積あたりの費用が高いため、スイッチまで替えるフルSiCは効果も費用も大きくなります。ハイブリッドは既存のIGBT設計を活かしたまま損失を削れます。
フルSiCモジュールの中にもダイオードは入っていますか?
入っています。SiC MOSFETは構造上ボディダイオードを内蔵しますが、これは少数キャリアを使う経路です。そのため常用の還流路としてSiCのショットキーバリアダイオードを別チップで載せるか、MOSセル内にショットキー電極を作り込みます。
ボディダイオードを常用すると何が起きますか?
SiCの結晶中には、バイポーラ電流を流すとデバイス特性を劣化させる結晶欠陥が存在し、チップの並列数が多い高耐圧・大電流モジュールほどこの欠陥を含む確率が高くなります。
なぜ1200V級でスイッチをSiCへ替えるのですか?
耐圧1200V級のMOSFETはSiでは抵抗が非常に高くなり、実現が難しいためです。1200V級SiC MOSFETは産業用途や自動車用途などに広く用いられています。
フルSiCモジュールはどこで使われていますか?
鉄道車両の駆動用インバータです。三菱電機は2013年に3.3kV定格のフルSiCモジュールを適用した鉄道車両用インバータを製品化し、このモジュールは高速鉄道をはじめ多くの鉄道車両で営業運転に使われています。
ハイブリッドSiCモジュールはどこで使われていますか?
三菱電機は2010年にSiC SBDを適用したハイブリッドDIPIPMをエアコンへ搭載して製品化し、2011年に1200A/1700V定格の大容量ハイブリッドSiCモジュールを開発して地下鉄車両の駆動用インバータへ適用しました。
キャリア周波数とは何ですか?
インバータがスイッチを1秒間に入り切りする回数です。高耐圧システムは発熱を許容値以下に抑える必要からキャリア周波数を低く設定しますが、SiC MOSFETを使うと高いキャリア周波数のシステムが可能になります。
損失はどれだけ減りますか?
三菱電機は、2007年に3.7kW級インバータで損失を50%低減できることを示し、2009年に11kW級および20kW級で、駆動条件によってはインバータの損失を70〜90%低減できることを実証したとしています。幅は駆動条件に依存します。
ハイブリッドSiCは1200V級だけですか?
違います。富士電機は1200V級の200A〜600A品とあわせて1700V級400A品(2MSI400VAE-170-53)を出しています。1200Vの1点に集まるのは三菱電機のラインアップの姿です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- パワーモジュールとは── 筐体が解いている3つの課題
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- 2三菱電機:Power Modulesmitsubishielectric.com ↩
- 3富士電機:SiC-SBD搭載IGBTハイブリッドモジュールfujielectric.co.jp ↩
- 4富士電機:IGBTモジュールfujielectric.co.jp ab
- 5三菱電機:SiCレクチャーシリーズ第11回 産業用SiCチップ技術mitsubishielectric.co.jp ↩
- 6三菱電機:SiCレクチャーシリーズ第12回 高耐圧SiCチップ技術mitsubishielectric.co.jp abc
- 7三菱電機:SiCレクチャーシリーズ第2回 三菱電機におけるSiCパワーデバイス研究開発の歴史mitsubishielectric.co.jp ↩