コンテンツにスキップ

IPA乾燥とは

IPA乾燥とは、ウェーハに残った水をイソプロピルアルコール(IPA)へ置き換えてから乾かす乾燥方式です。 水とシリコンが接している時間そのものを縮めて、ウォーターマークを抑えます。運転の結果を決めるのは、乾燥雰囲気に含まれるIPAと水蒸気の濃度です。代わりに可燃性の蒸気を扱う火気の管理を抱え、表面張力を下げてパターン倒壊を防ぐ手段としては、7nmや5nmの世代で限界に近づいているとされています。

水のまま飛ばすと、残った水滴がシリコンを溶かす

Section titled “水のまま飛ばすと、残った水滴がシリコンを溶かす”

ウェットステーションのラインの最後には、ウェーハを乾かすユニットが付きます。SCREENセミコンダクターソリューションズは、乾燥ユニットを2つに分けています。洗濯機の脱水と同じく回転の遠心力で水を切る「スピンドライヤ」と、アルコールの蒸発する力で水分もいっしょに蒸発させる「IPAベーパドライヤ」です1。IPAはイソプロピルアルコールの略称、ベーパは蒸気の意味で、同社は現在はIPAベーパドライヤが主流だとしています1。

スピン乾燥のスピンドライヤは乾燥時間が短い一方、回転中のウェーハと空気の摩擦で静電気が起き、脱水の後にウェーハ上へ残る水模様、つまりウォーターマークというシリコンの錆びが出やすくなります。洗浄の良し悪しは、薬液で汚れを落とし切った後に水を抜き切る段階で決まり、IPA乾燥はその最後の数十秒を受け持ちます。

スピン乾燥とIPA乾燥
濡れた直後乾く途中乾いた後スピン乾燥残った水滴ウォーターマークIPA乾燥IPAへ置換跡が残らない純水IPAシリコンシリコン水和物の跡
スピン乾燥では大半の水が飛んだ後も小さな水滴が残り、その中でシリコンが溶けてウォーターマークになります。IPA乾燥は水をIPAへ置き換えてから乾かすので、水とシリコンが接する時間そのものが短くなります。

シリコンが露出した表面、たとえばゲート酸化膜を作る前のデバイス表面へ純水の水滴が残ると、純水へシリコンが溶け出し、水滴のふちではシリコンの酸化で生じたSiO2も溶けます2。水滴が乾いた跡にはシリコン水和物がクレータ状に残り、後で作るゲート酸化膜などの欠陥を呼び込んでデバイスの特性を落とすと言われています。乾き切るまでの間、シリコンは水へ溶け続けます。

大日本スクリーン製造と芝浦工業大学の共著論文は、水切りが不十分な場合に残留物が生じ、これが歩留まりを低下させる原因になっているとしています3。パーティクルも同じで、液膜や液滴が残って蒸発すれば、液中にあった粒子はウェーハ上へ残ります。IPAベーパドライヤについてSCREENは、静電気やウォーターマークの心配がない代わりに、アルコールガスが引火して火災を起こすリスクがあるとしています1。

マランゴニ乾燥は、表面張力の差でメニスカスを引き戻す

Section titled “マランゴニ乾燥は、表面張力の差でメニスカスを引き戻す”
マランゴニ乾燥の仕組み
引き上げIPA+N₂の雰囲気純水ウェーハ先端 表面張力が低い根元 表面張力が高いマランゴニ力
メニスカスの薄い先端ではIPAの濃度が高まって表面張力が下がり、根元との差が液を槽の側へ引き戻すと考えられています。水は蒸発する前にウェーハから離れます。

マランゴニ乾燥法では、ウェーハを純水で洗浄した後、洗浄槽から引き上げる際に、雰囲気を有機物(しばしばIPA)と窒素の混合ガスで満たしておきます。ウェーハと純水の界面にできるメニスカスは、先端の薄膜部分で根元より有機物の濃度が高まり、表面張力がより低くなります。根元との間に生じた表面張力の勾配が、マランゴニ力でメニスカスを根元へ引きつけ、水切りが促進されると考えられています。液面を動かしているのは、ポンプでも風でもなく、同じ液面の中にできた表面張力の差です。

Modutekも、IPA蒸気が水面に触れるところで表面張力の勾配ができ、水を蒸発させて跡を残すのではなくウェーハから引き離す4と説明しています。同社は、回転や加熱に頼らないのでチャンバーに可動部がなく、ウェーハ割れのよくある原因をなくし、IPAの消費も低く抑えられるとし4、乾燥中にオゾンを入れて微量の有機不純物を除く4こともできるとしています。

枚葉スピン洗浄の装置では、これを回転と組み合わせます。Rotagoni乾燥法では2、300〜1000rpmで水平回転しているウェーハの中心部に、純水の供給管とIPA蒸気を含むN2ガスの吹き出し管をペアで設けます2。純水ノズルを中心から半径方向へゆっくり動かし、ガスノズルがそれを追って薄いIPA蒸気を吹き付けると、中心から乾いた面がエッジへ広がり、遠心力とマランゴニ効果で純水のキャリオーバー層が20秒程度で除かれます2。スピン乾燥より回転数が低くてよく、ウェーハ上部に高速の乱流ができないので雰囲気汚染を受けにくくなります2。

運転のつまみはRhIPAで、乾燥を速める向きと置換を速める向きが逆になる

Section titled “運転のつまみはRhIPAで、乾燥を速める向きと置換を速める向きが逆になる”
雰囲気の2つの濃度
0305080100300RhIPA(%)Rhwater(%)乾燥時間はRhwaterで決まる乾燥時間はRhIPAで決まる乾燥を速めるIPA置換を速める
枠が測定した範囲です。RhIPA 50%より下では乾燥時間がRhwaterで、上ではRhIPAで決まります。乾燥を速めるならRhwaterを下げ、液滴のIPA置換を速めるならRhIPAを上げます。

現場のつまみは、雰囲気ガスの2つの濃度です。乾燥雰囲気ガスのIPA濃度(相対湿度RhIPA)と水蒸気濃度(相対湿度Rhwater)は、液滴の乾燥時間と液滴のIPA濃度に深く関わります。日本伝熱学会の2010年の論文は、雰囲気温度25℃で、RhIPAを30〜80%、Rhwaterを0〜30%の範囲で振って測定しました。現場の装置では、乾燥工程が180〜300秒ほどになると知られています。

指針は2本あります。1本目は、乾燥そのものを速める道です。RhIPAが0〜50%と比較的低い領域では乾燥時間がRhwaterだけで決まり、RhIPAが高い領域では逆にRhIPAだけで決まります。乾燥時間の短縮でウォーターマークを抑えるなら、Rhwaterを低くし、RhIPAの上げ過ぎを避けるのが有効です。

2本目は、水をIPAへ置き換える道です。J. Kooらの報告では、液滴のIPAモル分率が0.26(体積分率では0.6)に達すると、ウォーターマークの元になるSiの溶け出しが止まります。その濃度への到達時間は主にRhIPAで決まるので、RhIPAを高めれば短くできるというのが、数値解析による指針です。2本の指針はRhIPAという同じつまみを逆向きに引き、現場の運転条件はその折り合いの上に決まります。

代わりに抱えるのは、火気の管理と洗浄からの受け渡し

Section titled “代わりに抱えるのは、火気の管理と洗浄からの受け渡し”

1つ目は火気の管理です。IPAの蒸気へ火が移って火災に至るおそれがあるので、装置の設計と運用に十分な注意が要り、乾燥ユニットは可燃性の蒸気を室温で使う装置になります。清浄度の要求が高い洗浄に続く乾燥工程では、大気に触れて汚れるのを避けるため、窒素ガス中で乾かす方法も広まっています。

2つ目は、洗浄から乾燥への受け渡しです。日本半導体製造装置協会(SEAJ)の2012年版ロードマップは、ウォーターマーク対策としてIPA蒸気を使うマランゴニ乾燥と不活性ガスシール乾燥を挙げ、どちらも洗浄処理からの移行を滑らかに行わなければ効果を発揮できないとしています5。Al配線形成後のレジスト残渣除去では、水が残留した場合はAl配線の腐食が発生するので、水の残留を抑えて乾燥性能を高めるため、各社の設備メーカがN2雰囲気化やマランゴニ乾燥などのIPA乾燥方式を提供しています5。ウェット工程を持つ工場には、IPAの供給と排気の系統が常に付いて回ります。

表面張力を下げる道は、7nmと5nmで限界に近づいている

Section titled “表面張力を下げる道は、7nmと5nmで限界に近づいている”

IPA乾燥が解いている問題は、突き詰めると表面張力です。パターン間に残ったリンス液が作る毛細管力はP=2γcos⁡θ/DP=2\gamma\cos\theta/Dと表せます6。γ\gammaがリンス液の表面張力、DDがライン間の距離、θ\thetaがパターン部での接触角です。この力が曲げのモーメントを与え、最大ストレスが倒壊ストレスを超えたときにパターンが倒れます。

リンス液の表面張力
水エタノールパーフロロカーボン7222約10020406080表面張力(dyne/cm)
有機溶剤に替えれば表面張力は水の72から22、約10まで下がりますが、ゼロにはなりません。

倒れを抑える手は3つで、ライン間隔DDを広げること、アスペクト比を小さくすること、リンス液の表面張力γ\gammaを小さくすることです。NTT物性科学基礎研究所の生津英夫氏は、パターンサイズはデバイス設計の側で決まるので、表面張力を下げることが最も効率的だとしています。水は72dyne/cm、エタノールは22dyne/cmで、有機溶剤で最も低いと知られるパーフロロカーボンでさえ10dyne/cm前後の有限の値を持ちます。

SCREENホールディングスは2022年7月29日、北海道大学低温科学研究所の木村勇気准教授らとの共同研究で半導体洗浄時のナノ構造物の倒壊メカニズムを解明した7と発表しました。同社は、これまで倒壊は洗浄液を低表面張力の2-プロパノール(IPA)に置換してから乾燥することで防がれてきたものの7、7nmや5nmといったシングルナノオーダーの製造プロセスではIPAを使った洗浄でも倒壊を防ぐことが難しくなり、表面張力が小さい液体で洗浄・乾燥する方法には限界が近づいているとしています7。

この研究では、集束イオンビーム装置で半導体表面に加工したナノ構造物を切り出し、IPAとともに液体観察用の試料ホルダーへ封入する手法7を作り、透過型電子顕微鏡で観察しました。ナノ構造物はIPAがメニスカスを作った直後から動き始め、IPAの気液界面の変動に合わせて動きました7。倒壊は、ナノピラー間に残る水でピラー同士が付着し、乾燥時に先端部に残る液だまりがピラー同士を接着させる二段階7で起きていました。成果は2022年6月22日公開のACS Applied Nano Materials誌に載りました7。

リンス乾燥時の毛管力によるパターン倒壊への対策としては、表面張力の低い溶剤による乾燥や、超臨界CO₂乾燥の検討が進んでいます。IPA乾燥は、表面張力をゼロへ近づける道の途中にある到達点です。

IPA乾燥とは何ですか?

ウェーハに残った水をイソプロピルアルコール(IPA)へ置き換えてから乾かす乾燥方式です。SCREENは、アルコールが蒸発する力で水分もろとも飛ばすIPAベーパドライヤを現在の主流としています。

回転で水を振り切る乾燥と、どこが違いますか?

残る水滴の中身が違います。スピンドライヤは乾燥時間が短い一方、回転中のウェーハと空気の摩擦で静電気が起き、脱水の後にウォーターマークというシリコンの錆びが出やすくなります。IPA乾燥は水そのものをIPAへ置き換えるので、水とシリコンが接する時間を縮めます。

ウォーターマークとは何ですか?

シリコンが露出した表面に純水の水滴が残ると、シリコンが水へ溶け、水滴のふちではシリコンの酸化で生じたSiO2も溶け、水滴が乾いた跡にシリコン水和物がクレータ状に残ります。後で作るゲート酸化膜などの欠陥を呼び込み、デバイスの特性を落とすと言われています。

マランゴニ乾燥はどういう仕組みですか?

純水で洗浄したウェーハを引き上げる際に、雰囲気をIPAなどの有機物と窒素の混合ガスで満たす方法です。メニスカス先端の薄膜部分で有機物の濃度が高まって表面張力が下がり、根元との間の表面張力の勾配がメニスカスを根元へ引きつけて、水切りが促進されると考えられています。

現場では何を測りますか?

乾燥雰囲気ガスのIPA濃度(相対湿度RhIPA)と水蒸気濃度(相対湿度Rhwater)です。雰囲気温度25℃で両者を振った測定から、乾燥時間を縮めるにはRhwaterを低くしてRhIPAを上げ過ぎず、液滴のIPA濃度を速く上げるにはRhIPAを高めるという指針が出ています。

IPA乾燥の代償は何ですか?

火気の管理です。静電気とウォーターマークの心配を避けられる代わりに、アルコールの蒸気へ火が移って火災に至るおそれがあり、装置の設計と運用に十分な注意が要ります。

IPA乾燥の限界はどこにありますか?

微細なパターンの倒壊です。SCREENホールディングスは、7nmや5nmというシングルナノオーダーの世代ではIPAを使った洗浄でも倒壊を防ぐのが難しく、表面張力の小さい液体で洗浄と乾燥を行う方法は限界に近づいているとしています。

7件を表示
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7