吸湿レベル(MSL)とは
吸湿レベル(MSL)とは、樹脂で封止された部品について、防湿袋を開けてからはんだ付けするまでに許される時間を、番号で示した区分です。 英語のMoisture Sensitivity Levelの略で、耐湿レベルや実装レベルとも書かれます。パッケージが割れる原因は、保管中の吸湿と実装時の加熱の掛け算です。MSLはそのうち、どれだけ吸湿した状態で加熱工程へ入るかを時間で区切る番号で、管理の対象は袋を開けてから最後のリフローを終えるまでの経過時間になります。
吸った水分が、リフローの熱で界面を割る
Section titled “吸った水分が、リフローの熱で界面を割る”半導体のパッケージに使われるエポキシ封止樹脂は、空気中の水分をわずかずつ吸います。防湿梱包を開けた表面実装デバイスが保管や実装工程の雰囲気に曝されると、大気中の水分が樹脂表面へ吸着し、内部へ拡散していきます1。拡散は時間とともに進み、やがてチップやダイパッドと樹脂の界面まで届きます。
この状態でリフローなどの全体加熱によるはんだ付けを行うと、界面の水分が気化膨張します。界面の微小な間隙で水蒸気圧が急に上がり、チップやダイパッドの端面へ応力が集中して、樹脂の熱時強度を上回るとクラックが生じます。吸湿と加熱のどちらか一方であれば、樹脂はそのまま耐えます。MSLは、この現象を防ぐ目的で定められたJEDECの規格の一つです。
クラックの起きやすさは、加熱の温度でも変わります。曝露温度が220℃と260℃の場合を比べると、260℃では水蒸気圧が約2倍に上がり、樹脂強度が約1/2に下がることが、飽和水蒸気圧の温度依存性から分かります1。ピーク温度が高いほど、同じ吸湿量でもクラックの発生確率が上がります。
番号が大きいほど、許される時間は短い
Section titled “番号が大きいほど、許される時間は短い”ルネサス エレクトロニクスは、JEDEC規格に準拠したレベルごとの開封後の期限を、5〜30℃かつ70%RH以下の環境条件で、レベル2が1年、レベル2aが4週間、レベル3が168時間、レベル4が72時間、レベル5が48時間としています2。同社は製品ラベルに、JEDEC規格に準拠したレベルか、具体的な保管期限の記号のどちらかで期限を表記します2。
等級の番号が大きいほど余裕が増える目盛りとは逆で、MSLは番号が大きいほど時間が短くなります。1年を時間に直すと8760時間になり、レベル5の48時間の約180倍です。同じ表に時間と年という別の単位が並ぶほどの開きがあります。
この期限は英語でfloor lifeと呼ばれます。テキサス・インスツルメンツは、MSLの格付けがフロアライフ、つまり防湿袋から出してリフローするまでに許される時間を決めるとし3、MSLとフロアライフの対応を30℃で定める業界標準をIPC/JEDEC J-STD-033Cとしています3。
半導体以外の部品にもこの区分があります。日本ケミコンは、同社の積層セラミックコンデンサのMSL Levelを「1」とし4、開封後の保管には乾燥剤入りのデシケータを使うよう求めています。MSLはリフロー対応品を対象とする区分で、同社はフロー対応品であるリード形のシリーズを対象外としています。
時計は袋を開けたときに動き出し、最後のはんだ付けまで止まらない
Section titled “時計は袋を開けたときに動き出し、最後のはんだ付けまで止まらない”ソニーセミコンダクタソリューションズは、吸湿による品質への影響があるデバイスを、乾燥剤と湿度インジケータとともにアルミラミネート袋へ入れ、脱気と熱シールを行って外気から隔てています1。開封直後に表示湿度が30%を越えている場合は、不具合が発生している可能性があるため連絡してほしいとしています。
ルネサスは、防湿袋の開封後は5〜30℃・70%RH以下の環境で168時間以内に実装するよう求めています2。湿度インジケータの30%検湿部がラベンダー(ピンク)色へ変色していた場合や期限を超えた場合は、同社の半導体パッケージ実装マニュアルに記載の条件でベークするよう案内しています。
時計が止まる地点は、最初のリフローではありません。インフィニオン テクノロジーズは、MSLを防湿袋を開けてから最後のはんだ付け工程までに部品が袋の外にいてよい時間の区分5と定義しています。両面実装について同社は、1回目と2回目のリフローの間に吸湿が進みすぎると、上面側の吸湿に敏感なパッケージが損傷する場合があるとしています5。
袋そのものの丈夫さも期限の前提です。ルネサスは、防湿袋を通常の作業台やコンクリートなどの硬い部分へ角から落とすと、数cmレベルの高さでも容易に穴が生じる2ことが分かっているとしています。ソニーも、防湿梱包のわずかな傷でも梱包内へ湿度が進入し、推奨条件で実装した場合でもパッケージクラックが発生する可能性があるとしています。未開封の梱包でもラミネート袋からわずかに水分が透過するため、ソニーは長期の保管を避けるよう求めています。
期限を超えた品は、125℃のベークで乾かしてから使う
Section titled “期限を超えた品は、125℃のベークで乾かしてから使う”80ピンQFPの例では、125℃で20〜24時間程度のベークにより十分脱湿されます6。ただし125℃での脱湿に必要な時間は樹脂厚によって異なります。テキサス・インスツルメンツは、ベーク時間をデバイスの厚さ、MSLの格付け、ベーク温度に応じてJ-STD-033Cで確かめるよう求めています3。
条件になるのは、部品を入れている容器の耐熱性です。ルネサスは、耐熱トレイに耐熱温度の表示か「HEAT PROOF」または「熱」の表示があり、具体的な温度の記載が省かれている場合は125℃耐熱にあたるとしています。納入仕様書等で個別の指示がある場合を除けば125℃で24時間の加熱が可能です。同社は、耐熱温度表示を著しいトレイ変形が起きない温度とし、125℃を超えるベークはアウトガスによるリード腐食等が懸念されるため避けるよう求めています2。
エンボステープとリールは耐熱仕様ではないため、ルネサスはベークを避けるよう求め、開封後の許容時間を超えることが予想される場合は常温の乾燥炉(30%RH以下)での保管を推奨しています2。マガジンも耐熱仕様の対象外のため、耐熱容器への移し替えを案内しています。
ソニーは、防湿梱包を開けて実装へ回らなかった製品について、30℃30%RH以下での保管を求めています。界面水分濃度を適切な値まで下げるベーク条件はパッケージによって異なるため、必要な場合は営業担当へ問い合わせるよう案内しています。
レベルは、乾かして湿らせ、リフローを3回通す試験で決まる
Section titled “レベルは、乾かして湿らせ、リフローを3回通す試験で決まる”レベルの番号は、メーカーが自社製品を試験して定めます。テキサス・インスツルメンツは、MSLの格付けは製品の認定後に与えられ、パッケージの材料と組立工程で決まり、30℃・60%RHの一定条件を前提にするとしています3。ロームのダイオードのJ-STD-020 LEVEL 1準拠の試験は7、125℃・24時間のベーキングで乾かしたのち、85℃・85%RHで168時間かけて吸湿させ、そのうえでリフローを3サイクル通す順序です。リフロー条件は、プリヒートが150〜200℃で90〜150秒、ソルダリングが220℃で60〜120秒、ピークが260℃以下で30秒です。結果はPn/n=0/11で、同社は試験前後の電気的特性と外観の状態が同社の異常判断基準を満たすとしています。
インフィニオンも、J-STD-020に沿って最大許容リフロー温度で吸湿感度を試験し5、同社がMSLを付けた部品はリフローを3回通して試験しています5。J-STD-020は、表面実装デバイスを吸湿とリフローへの感度で分類する規格です。レベルの番号は、試験で通したピーク温度とリフローの回数を前提にした値です。
ソニーの代表的なLSI製品の信頼性試験項目の一覧では、はんだ耐熱性の欄に略号MSL、試験条件としてLevel-3(標準ランク)、規格としてJ-STD-020が記載されています。レベルの番号は製品仕様の一部として、静電破壊試験や温度サイクル試験と同じ表に載る項目です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”吸湿レベル(MSL)とは何ですか?
樹脂で封止された部品について、防湿袋を開けてからはんだ付けするまでに許される時間を番号で示した区分です。JEDECの規格の一つで、封止樹脂などが吸った水分がリフロー時に気化して体積膨張を起こし、破損に至る現象を防ぐ目的で定められました。
番号が大きいほど良いのですか?
逆で、番号が大きいほど許される時間は短くなります。5〜30℃かつ70%RH以下の環境で、レベル2が1年、レベル2aが4週間、レベル3が168時間、レベル4が72時間、レベル5が48時間です。
なぜ湿気で割れるのですか?
開封後に樹脂表面へ吸着した水分が内部へ拡散し、チップやダイパッドと樹脂の界面へ届くためです。リフローの加熱でその水分が気化膨張し、水蒸気圧が樹脂の熱時強度を上回るとクラックが生じます。
期限を超えた部品はどうしますか?
ベークで乾かしてから使います。80ピンQFPの例では125℃・20〜24時間程度で十分脱湿されますが、必要な時間は樹脂厚によって異なります。
袋のまま焼いてもよいのですか?
容器の耐熱性が条件です。ルネサスは、耐熱トレイに耐熱温度か「HEAT PROOF」または「熱」の表示があり温度の記載が省かれていれば125℃耐熱にあたるとし、エンボステープとリール、マガジンは耐熱仕様の対象外として、マガジンは耐熱容器への移し替えを求めています。
レベルはどうやって定めるのですか?
乾かし、決まった条件で湿らせ、リフローを通す試験で定めます。ロームのダイオードのJ-STD-020 LEVEL 1準拠の試験は、125℃・24時間のベーキング、85℃・85%RHで168時間の吸湿、リフロー3サイクルの順で、結果はPn/n=0/11です。
半導体以外の部品にもありますか?
あります。日本ケミコンは同社の積層セラミックコンデンサのMSL Levelを「1」とし、開封後は乾燥剤入りのデシケータでの保管を求めています。MSLはリフロー対応品を対象とする区分で、同社はフロー対応品であるリード形のシリーズを対象外としています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- JEDECとは── レベルの区分と試験手順を定めている規格団体の側
- リフローとは── 吸湿した水分へ熱を加える、当の実装工程の側
- 偽造半導体とは── 期限を超えた保管品が劣化品として市場流通品に混じる側
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- 1ソニーセミコンダクタソリューションズ:半導体品質・信頼性ハンドブック 第3版sony-semicon.com abc
- 2
- 3
- 4日本ケミコン:積層セラミックコンデンサのMSL(Moisture Sensitivity Level)についてchemi-con.co.jp ↩
- 5インフィニオン テクノロジーズ:インフィニオン製パッケージの実装に関する一般推奨事項infineon.com abcd
- 6ルネサス エレクトロニクス:半導体信頼性ハンドブック(日本語版)renesas.com ↩
- 7ローム:耐湿レベルについて(ダイオード)fscdn.rohm.com ↩