コンテンツにスキップ

スパッタリングターゲットとは

スパッタリングターゲットとは、スパッタリングで膜になる材料そのものです。 イオンを当てて原子を弾き飛ばす相手であり、叩き出された原子がウェハの上へ積もって膜になります。装置の条件が変えるのは積もり方で、何が積もるかはターゲットが決めます。そのため品質の勝負は二段に分かれます。純度と組成で膜の中身を決め、粒径・密度・裏板との接着・削れ方で、膜のばらつきと板の寿命を決めます。

ターゲットの中身が、そのまま膜の中身になる

Section titled “ターゲットの中身が、そのまま膜の中身になる”

スパッタリングは真空容器の中で行います。ターゲットと基板の間に電圧をかけ、微量のガスを入れてプラズマを立てると、プラズマのイオンがターゲットの材料をはじき飛ばし、飛んだ材料が基板に付着・堆積して薄膜になります1。半導体の工場では、加速したアルゴンのイオンをターゲットへ当てる形が使われます。

この経路では、ターゲットの組成が最後まで保たれ、ターゲットの中にある元素がそのまま膜の中の元素になります。不純物が混じっていれば、その不純物も一緒に叩き出され、そのまま膜にとどまります。結晶粒の大きさが場所によってばらついていれば、叩き出される速さもばらつきます。だから材料の純度と組織が、そのまま膜質になります。

マグネトロンスパッタリングの断面
ウェハ膜叩き出された原子不純物の原子濃いプラズマAr⁺ターゲットバッキングプレートSNS磁石掘れた溝はんだ
ターゲットから叩き出された原子は、混じっていた不純物ごとウェハへ積もります。濃いプラズマは磁石の形に沿って立つため、板は平らに減らず、その真下に溝が掘れていきます。

純度の桁の最上位には、Eleven Ninesと呼ばれる99.999999999%という水準があります2。シリコンウェハも、99.999999999%の純度のインゴットへ溶融して作ります。この桁が要るのは、半導体が微量の不純物で性質を作り替える材料だからです。意図して加えるものだけが働いている状態を作るには、意図しないものが桁違いにわずかである必要があります。材料メーカーの競争が純度の桁で語られるのは、その桁が最終的な膜と素子の性質へ素直につながるためです。

用途ごとに、品種と組成と純度の指定が分かれる

Section titled “用途ごとに、品種と組成と純度の指定が分かれる”

JX金属のスパッタリングターゲットは、半導体用スパッタリングターゲット、AlScスパッタリングターゲット、透明導電膜用、光学膜用、磁気デバイス用に分かれています3。配線に使う金属膜は低い抵抗と密着性を、透明導電膜は光を通しながら電気も通すことを、磁気デバイス用の膜は磁気的な性質を求めます。同じ「スパッタで付ける膜」でも、必要な組成と純度の基準が変わります。同社はHigh Purity Metalsという製品カテゴリも持ち、Low α Tinを扱っています。α線を出しにくい錫で、実装材料としての要求に応える品種です。半導体の材料には、電気的な性能とは別に、放射線の少なさという軸の要求もあります。

半導体用では、材料ごとに入る層と純度が決まっています。JX金属は、チタン(Ti)をアルミ配線のバリア層やハードマスク、ゲート電極、UBM、TSVに、銅(Cu)を純度6N(99.9999%以上)で銅配線のシード層とUBM、TSVに充てています。銅はスパッタリング中のパーティクルを低減するために開発されたとし、原料には自社の磯原工場で作る6Nの銅を使い、添加金属との溶解の知見を工程に組み込んでいるとしています4。タンタル(Ta)は純度4N5(実質5N以上)で銅配線工程のバリアとTSV、タングステン(W)は純度5N(99.999%以上)・密度99%以上でゲート電極、コバルト(Co)とニッケル(Ni)はいずれも5Nでゲート電極です。バリア層は配線の金属が周りへ広がるのを防ぐ膜で、シード層はそのあと銅を厚く積むための下地です。銅のシード層が6Nまで純度を上げるのは、この層が銅配線そのものの一部になるためです。

半導体の外では、組成の指定がそのまま製品の中身になります。東ソーはITOターゲットのSnO2含有量を「3~10wt.%を中心にご要望に応じて製造致します」とし、用途にディスプレイ、太陽電池、光を用いる半導体デバイスを挙げています。透明導電膜用のターゲットは酸化インジウムに酸化スズを混ぜた材料で、混ぜる量そのものが仕様になります。高純度化学研究所は、2002年からTMR素子向けのMgOターゲットの開発・製造を始め、「高純度」「高密度」「低パーティクル」を特徴にしているとしています1。MgOは次世代HDDメディアのテンプレート層や、TMRヘッド、MRAMなどの磁性デバイスに使う材料です。

光学膜では、材料の選択が寿命と速さの取引になります。反射防止フィルムの光学膜にはシリコン(Si)や石英(SiO2)のターゲットが一般に使われますが、シリコンは割れやすく寿命が短く、石英は成膜に時間がかかります5。デクセリアルズは高屈折膜向けに酸素欠損型の酸化ニオブと酸化チタンのターゲットを開発し、従来の金属ニオブと比べて酸化ニオブで2.3倍、酸化チタンで1.7倍の成膜速度を実現したとしています。

板は、金属を圧延するか粉末を焼き固めるかで作る

Section titled “板は、金属を圧延するか粉末を焼き固めるかで作る”

ターゲット材の作り方は二つあります6。ひとつはアルミニウム・チタン・銅などの金属材料から作るもので、素材は「ビレット」と呼ばれる長い棒の状態で母材メーカーから納品されます。もうひとつは、金属・酸化物・セラミックなどの原材料粉末から作るもので、目的に合わせて何種類かの粉末を一定の成分比率で混ぜ合わせ、板状に焼き固めます。

ターゲットの製造工程
金属材料原料粉末ビレット2000トンプレス圧延熱処理で再結晶刃物で切削数ミリ10〜20µm一定の比率で混合ICP発光分析ホットプレス砥石で研削Inはんだでボンディング超音波・X線
金属材料は圧延で潰した結晶を熱処理で再結晶させ、粒度を数ミリから10〜20µmへ下げます。粉末材料は組成を分析で確かめてから焼き固めます。どちらも表面を整えたあと裏板とはんだで接合し、接合面を非破壊で検査します。

金属の側では、まずビレットを2000トンプレス機にかけて薄く平らにし、そのあと圧延機にかけて必要な直径まで広げます。ビレットの状態での金属結晶の粒度は数ミリ程度と大きく、圧延機で潰すと結晶構造が破壊されて不揃いになります。そのあと熱処理をすると金属が再結晶化して、粒度の平均が10〜20ミクロン程度と小さくなります。デクセリアルズは、半導体の回路を作る膜処理では結晶粒をできるだけ小さくするほうが成膜中のダストを抑えられるとし、結晶粒度の制御を重視しています。粉末の側では、混ぜたあとに材料が均一に分散しているかをICP発光分析装置で組成分析し、粉末をカーボン製の型に充填して、ホットプレス機で高温・高圧のもとで焼き固めます。

表面が粗いままだとスパッタリング時の放電に影響し、成膜がうまくいかないことがあります。そのため表面を削って整え、その手段も材料で変わります。金属材料は刃物による切削加工、粉末材料は焼結後に砥石を用いた研削加工です。

できあがる板の大きさは幅が広いです。高純度化学研究所の丸型ターゲットは、径がφ25.4〜φ300クラス、厚みがt0.5〜約16mm、反りが±0.2mm以内です1。角形系は90〜1000mmクラスで、バッキングプレートは「φ1 インチ程度の小さな物から、2mを超える第7世代向け大型LCD用」まで対応するとしています。手のひらに乗る円板から畳より大きい角板まで、同じ「スパッタリングターゲット」という名前で呼ばれます。

粒の細かさと密度が、パーティクルと膜のばらつきに返る

Section titled “粒の細かさと密度が、パーティクルと膜のばらつきに返る”

粒度をそろえる理由は、叩き出される速さを場所ごとにそろえるためです。JX金属は、粒径が均一であることがスパッタリングのデータを安定させるとしています4。アルバックも高純度ターゲットで「金属組織の微細、均質化に留意した製造プロセスを採用」し7、タングステンターゲットでは結晶粒径のコントロールとガス成分の低減が可能だとしています。

もうひとつの数字が密度です。相対密度は、材料の中身がどれだけ詰まっているかを示す数字で、JX金属はタングステンターゲットを密度99%以上としています。東ソーのITOターゲットは、標準グレードとMS-ITOグレードの相対密度がいずれも99.9%です8。

アルバックは半導体用ターゲットの品質目標として「低パーティクル」「均質な膜厚分布」「高い使用効率」の三つを掲げています。パーティクルは膜の上に落ちる粒で、そのまま欠陥になります。同社はアルミニウムターゲットについて、不純物金属成分や酸素などのガス成分を低減した材料を供給し、スパッタリング時のパーティクル発生を抑制したとしています。純度の桁に加えて、粒径・密度・ガス成分といった組織側の数字も、同じ製品表に並びます。

裏板が熱を逃がし、接着のむらと冷やし方の反りが割れを招く

Section titled “裏板が熱を逃がし、接着のむらと冷やし方の反りが割れを招く”

ターゲット材は、スパッタリング装置にセッティングしやすいよう、バッキングプレートと呼ばれる板とはんだで接合(ボンディング)されて製品になります。ボンディングの材料は、以前は鉛を含んだはんだでしたが、環境への影響から、現在はインジウムに少量の錫を混ぜたはんだが使われています。インジウムはんだはターゲットの上にそのまま垂らすと弾かれて濡れにくいため、はんだ表面に超音波で微細な振動を与えて濡らしてから接合します6。

裏板が要る理由は熱です。ボンディングは「スパッタリングターゲットとバッキングプレートを強固に接着させること」で、「スパッタ中に発生するターゲットの熱を速やかに放散させることを主な目的としており」9、イオンがぶつかるたびにターゲットにたまる熱の行き先が裏板です。バッキングプレートの材質には、無酸素銅をはじめとする各種銅合金、スチール、ステンレススチール、アルミニウムおよびアルミニウム合金、モリブデンやチタンが挙がります。銅が並ぶのは、熱をよく通す金属だからです。

裏板の冷やし方と反り
平らに接合された状態直接冷却で反った状態ターゲットバッキングプレート冷却水熱接着のない所はんだ冷却水φ300で約2〜3トンの水圧割れ反り
ターゲットの熱は、はんだを通って裏板と冷却水へ抜けます。接着のない所では通り道が途切れます。裏板を水で直接冷やすと水圧がかかり続け、直径300 mmのターゲットでは約2〜3トンの力で裏板が反り、ターゲットが割れたり剥がれたりすることがあります。

接着の出来は数字で管理されます。高純度化学研究所は、超音波検査またはX線検査の非破壊検査で、製品中の気孔や欠陥の有無、形と位置を特定しているとし9、接着率の合格ラインを90%、平均接着率98%以上の実績を掲げています。超音波検査は、水中に置いた製品へ探触子から超音波パルスを送り、接合面から返る反射エコーで欠陥を探す方法です。接着の薄い場所では熱の通り道が細くなり、そこだけ温度が上がります。ボンディング材料にはメタルボンディング材(各種特殊ハンダ)のほか樹脂ボンディング材(非導電性レジン)もあり、同社は通常使用で真空中のガス発生を抑えるよう材料を選んでいます。協同インターナショナルは「冷却効率の均一化や割れに対する防止策等高品質のボンディング」に応えるとし10、大型UT検査装置(超音波探傷)を採用しています。接着の均一さは、そのまま冷却の均一さとして返ります。

冷やし方にも取引があります。バッキングプレートを冷却水で直接冷やす「直接冷却」と、装置側を冷やして熱伝導で冷ます「間接冷却」があり5、直接冷却は冷却効率が高い一方、裏板に水圧がかかり続けます。直径300 mmのターゲットでは、裏板が受ける圧力は約2〜3トンに及びます。その結果、裏板が反り、ターゲット材が割れたり剥がれたりする事態が起こることがあります。

スパッタリングの使用時によく起こるトラブルが、熱膨張差による反りが原因の割れ・剥がれです。固くて割れやすいシリコンなどは、5ミリ程度反るだけで格子状にヒビが入ってしまいます。ターゲットと裏板は別の材料なので、温まったときの伸び方に差が出ます。シリコンと銅は熱膨張率が大きく違うため、デクセリアルズは両者をつなぐはんだの厚さを調整して、反りで生じる応力を吸収する工夫をしているとしています。

磁石の形に沿って溝が掘れ、そこで板の寿命が決まる

Section titled “磁石の形に沿って溝が掘れ、そこで板の寿命が決まる”

ターゲットの削れ方には偏りがあります。マグネトロンスパッタリングは、「マグネットを用いて磁場の中に電子を囲い込むことで濃いプラズマ領域を作り」11、ターゲットに当たるアルゴンイオンの数を増やす方式です。当たるイオンが増えればターゲットから飛ぶ原子も増え、膜ができる速さが上がります。アルバックはこれをハイレートスパッタリングとも呼んでいます。

濃いプラズマが立つ位置は、磁石の形に沿います。だからターゲットは、表面全体が平らに薄くなるかわりに、その帯に沿って溝が掘れていきます。溝が深くなって裏板が近づいたところで、その板は寿命を迎えます。アルバックが品質目標に「高い使用効率」を挙げているのは、ここに理由があります。

使い終えた板には、まだ材料が残っています。松田産業は「スパッタリングライフを終えた故品を回収し、精製された貴金属を再びターゲット原料として再使用します」としています12。貴金属のターゲットでは、寿命を迎えたあとの回収と精製までを含めて材料が回ります。ターゲット材は、日本の材料メーカーが世界で大きなシェアを持つ前工程材料のひとつです。

スパッタリングターゲットとは何ですか?

スパッタリングで膜になる材料そのものです。プラズマのイオンが板の表面から原子をはじき飛ばし、その原子が基板に付着・堆積して膜になります。

なぜ材料の純度が重要なのですか?

ターゲットの中身がそのまま膜の中身になるためです。不純物が混じっていれば、その不純物も一緒に叩き出されて膜へ入り、そのまま膜にとどまります。

どんな品種がありますか?

JX金属の品種は、半導体用スパッタリングターゲット、AlScスパッタリングターゲット、透明導電膜用、光学膜用、磁気デバイス用です。

用途ごとに品種が分立するのはなぜですか?

配線に使う金属膜は低い抵抗と密着性、透明導電膜は光を通しながら電気も通すこと、磁気デバイス用の膜は磁気的な性質を求めるからです。必要な組成も純度の基準も用途ごとに変わります。

高純度金属も別カテゴリで管理されていますか?

JX金属はHigh Purity Metalsという製品カテゴリを持ち、Low α Tinを扱っています。α線を出しにくい錫で、実装材料としての要求に応える品種です。

どのくらいの純度が要りますか?

Eleven Ninesは99.999999999%という材料純度の水準で、半導体材料の純度は9が並ぶ桁で語られます。JX金属の半導体用ターゲットでは、銅が6N、タングステンやコバルトが5N、タンタルが4N5です。

ターゲットはどうやって作られますか?

金属材料から作る側は、ビレットを2000トンプレス機で薄く平らにし、圧延機で必要な直径まで広げ、熱処理で再結晶させて粒度の平均を10〜20ミクロン程度にします。粉末から作る側は、粉末を一定の成分比率で混ぜてカーボン製の型に充填し、ホットプレス機で高温・高圧のもとで焼き固めます。

バッキングプレートとは何ですか?

ターゲットの裏にはんだで接合される板で、スパッタ中にたまるターゲットの熱を速やかに逃がすのが主な役目です。材質には無酸素銅をはじめとする各種銅合金、スチール、ステンレススチール、アルミニウム、モリブデン、チタンが挙がります。

ボンディングの良し悪しはどう測りますか?

高純度化学研究所は超音波検査またはX線検査で接合面の気孔や欠陥を探し、接着率の合格ラインを90%、平均接着率98%以上の実績としています。

ターゲットの大きさはどのくらいですか?

高純度化学研究所の丸型は径φ25.4〜φ300クラス、厚みt0.5〜約16mm、反り±0.2mm以内で、角形系は90〜1000mmクラスです。バッキングプレートはφ1インチ程度から2mを超える第7世代向け大型LCD用まで対応します。

半導体のどこに、どの材料のターゲットが入りますか?

JX金属は、チタンをアルミ配線のバリア層やハードマスク、純度6N(99.9999%以上)の銅を銅配線のシード層、純度4N5のタンタルを銅配線工程のバリア、純度5N(99.999%以上)で密度99%以上のタングステンをゲート電極に充てています。

ターゲットはどこから削れますか?

マグネトロンスパッタリングでは、磁石が電子を囲い込んで濃いプラズマ領域を作り、その位置は磁石の形に沿います。その帯に沿って溝が掘れ、溝が深くなったところで板は寿命を迎えます。

12件を表示
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  11. 11
  12. 12