エミッション顕微鏡とは
エミッション顕微鏡とは、半導体デバイスへ電圧をかけたときに出る微弱な光を高感度カメラで検出し、電気の異常が起きている位置を絞り込む装置です。 EMS1と呼ばれ、EMMS、PEM、EMIとも呼ばれます。価値は、削る前に場所を絞れることにあります。ただし光るのは電流が集まった場所で、原因そのものとは限らず、手前の配線に原因が隠れていることがあります。光った点を回路のつながりでたどれるかどうかで、この装置の成果が決まります。
削る前に場所を絞れるかで、原因の究明率が決まる
Section titled “削る前に場所を絞れるかで、原因の究明率が決まる”不良品が1個返ってきたとき、現場が最初に困るのは場所です。ソニーセミコンダクタソリューションズは、故障症状を保ったままどこまで絞り込めるかで故障原因の究明率が大きく変化するとし2、高集積デバイスの中から直径数十nmの故障箇所を探す作業を、東京ドームの敷地に建った10階以上の建物へ落とした100円硬貨を探すのに等しいと例えています。
破壊解析へ入ると後戻りが難しいため、故障解析では可能な限り非破壊の解析技術を使います。エミッション顕微鏡は、その非破壊側の道具です。材料科学技術振興財団(MST)は、クラック、結晶欠陥、ESDによる酸化膜破壊、Alスパイクによるショートといった内部の欠陥を低損傷で捉えられるとしています1。電源電流が増えるリーク系の故障には、発光解析やOBIRCH法を主に使います。
光は、電界でキャリアが加速される所、再結合する所、配線が発熱する所から出る
Section titled “光は、電界でキャリアが加速される所、再結合する所、配線が発熱する所から出る”発光解析は、通電中のデバイスから出る微弱なフォトンを高感度カメラで捉え、光っている位置を画像に起こします。半導体の内部では、キャリアの再結合による発光、高い電界での衝突電離でキャリアが増えることに伴う発光、ホットキャリアが散乱するときの発光3などが起こる場合があります。
MSTは発光源を三つの系統に分けています。一つ目は、空間電荷領域でのキャリアの電界加速、電流集中、F-Nトンネル電流など、電界で加速されたキャリアが散乱して緩和するときの発光です1。接合のリークや絶縁膜の破壊があるところへ電圧をかけると、その箇所へ電界が集中して4ホットキャリアが生まれ、この種の光が出ます。二つ目は、pn接合の順方向バイアスやラッチアップのようなバンド間再結合による発光です。三つ目は、配線間ショートや配線の細りによる抵抗増大の熱放射です。
装置はデバイスへ何かを当てるかわりに、デバイスが自分で放つ光を待ちます。そのため、電流が流れる状態を作ることが前提です。チップ表面を露出させるため、パッケージを分解しチップのコーティング膜を除去する前処理が要ります。
暗室でバイアスをかけ、パターン像へ重ねて座標を付ける
Section titled “暗室でバイアスをかけ、パターン像へ重ねて座標を付ける”測定は暗室で行い、電流の異常が再現するようバイアスをかけた状態で発光像を取得し、あわせてチップのパターン像を取得して重ねて表示します3。装置は検出した発光を記憶し、光学像と重ね合わせて画面に出して異常個所を示します4。浜松ホトニクスのPHEMOS-Xも5、スーパーインポーズ機能として高解像度のパターン像へ信号像を重ねます。発光像そのものは暗闇に浮かぶ点の集まりで、チップ上の座標を与えるのはパターン像の側です。
MSTの装置は、1024×1024画素の高解像度冷却CCDカメラと、近赤外で高感度のInGaAsカメラを搭載しています1。検出波長範囲は400〜1600nm、発光箇所の位置精度は約1μmです。対物レンズは0.8倍、5倍、20倍、100倍で、検出深さは0.8倍で数百μm、100倍で十μm程度です。最大印加電圧はカーブトレーサ使用時に2000V、半導体パラメータアナライザ使用時に200Vです。
多層配線をよけるため、裏面から赤外で観察する
Section titled “多層配線をよけるため、裏面から赤外で観察する”配線層の積層化によって上層からでは配線層が障害になるため、チップの裏面を露出させてアプローチする必要があります2。対象チップの裏面を開口したうえで電気特性を保つ加工を、活き造り加工と呼びます。モールド樹脂の開封やウェーハ薄化に近い加工が、観察の前に来ます。PEM解析の観察方向には、表面と裏面の双方があります6。
検出器の選び方も、この面の選択と関わります。超高感度冷却CCDカメラの有効感度はおよそ200〜1000nm、MCTカメラやInGaAsカメラの有効感度はおよそ800〜2000nm付近です。シリコンを透過しやすい赤外光に強いInGaAsカメラのほうが近年のデバイス解析に有利です。可視域から近赤外域という測定波長に対して透明な材料が、対象になります。
発光点と原因の位置がずれることがある
Section titled “発光点と原因の位置がずれることがある”通常のトランジスタ動作でも電流が流れるため発光を伴います。得られた発光の意味は十分に吟味して解釈する必要があり、発光箇所と不具合位置が異なる事例もあります2。発光位置は電気の異常点の局在を示す情報で、回路情報と発光位置を合わせて原因箇所の特定精度を高めます3。
PEM解析が有効な故障モデルは、トランジスタ内のリーク不良6(ゲート酸化膜の異常やポリシリコン形成の異常など)、発光箇所の出力配線での配線間ショート不良、発光箇所の入力配線のオープンや高抵抗不良です。二つ目は光った箇所の出力配線に、三つ目は光った素子より手前の入力配線に原因があります。
発光で場所を絞れない不良もあります。ソニーセミコンダクタソリューションズは、素子の微細化と多層配線化に伴って各層をつなぐ配線ビアに起因する不良が増えており、エミッションやIR-OBIRCHなどの既存手法では絞り込みが難しいうえ2、剥離解析による2次元の観察でも確認できないことが多いとしています。
電圧をかけるだけで済むかわりに、光の意味をたどる仕事が残る
Section titled “電圧をかけるだけで済むかわりに、光の意味をたどる仕事が残る”デバイスが自分から光を放つため、こちらの操作は電圧をかけるところで済み、発光解析はAC・DCどちらの状態でも解析できます2。IR-OBIRCHでは反応が出た場所がほぼそのまま故障箇所になりますが、発光解析では光った点の意味を回路のつながりからたどる仕事が続き、複数の手法の併用が勧められます。加えて、電流の異常を再現できた状態でだけ光ります。PEM解析には、ATEとリンクし、所望の動作をさせながら発光を観察する方式もあります。
浜松ホトニクスは、PHEMOS-Xに超高感度カメラを2台まで搭載でき、発光と発熱、あるいは可視光と近赤外光という別々の検出波長域を1台の装置で扱えるため、試料や不良モードに応じて手法を選べるとしています。同社は、AIチップレット、HBM、2.5D/3Dパッケージなど先端パッケージの故障解析向けに、倒立型のエミッション顕微鏡iPHEMOS-DDXを開発し、2026年9月29日から世界の半導体メーカーと装置メーカーの受注を受け付けるとしています7。
こうして絞った故障位置を削って観察・分析する工程は、設計とプロセスの見直しへつなぐ最終段階です。発光点は、歩留まりや信頼性試験の結果を工程へ返すための出発点になります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”エミッション顕微鏡とは何ですか?
半導体デバイスへ電圧をかけたときに出る微弱な光を高感度カメラで検出し、電気の異常が起きている位置を絞り込む装置です。EMSと呼ばれ、EMMS、PEM、EMIとも呼ばれます。
どんな不良に向く手法ですか?
電流が余分に流れるタイプの不良です。電源電流が増えるリーク系の故障には、発光解析やOBIRCH法を主に使います。対象の例は、クラック、結晶欠陥、ESDによる酸化膜破壊、Alスパイクによるショートで、これらの内部の欠陥を低損傷で捉えられます。
光っている場所が故障箇所ですか?
発光位置は、電気の異常が集まっている位置を指す手がかりです。入力配線のオープンのように発光箇所と不具合位置が異なる事例があるため、回路情報と発光位置を合わせて原因箇所の特定精度を高め、複数の手法を併用します。
なぜ暗室で測るのですか?
対象が微弱な光だからです。暗室で、電流の異常が再現するバイアスをかけた状態で発光像を取得し、あわせて取得したパターン像に重ねて、発光点にチップ上の座標を付けます。
表面と裏面のどちらから観察しますか?
どちらもあります。配線層の積層化によって上層からの観察が難しくなるため、チップの裏面を露出させて観察する方法が使われます。PEM解析の観察方向には表面と裏面の双方があります。
検出器はどう選びますか?
波長域で選びます。超高感度冷却CCDカメラの有効感度はおよそ200〜1000nm、MCTカメラやInGaAsカメラはおよそ800〜2000nm付近で、シリコンを透過しやすい赤外光に強いInGaAsカメラのほうが近年のデバイス解析に有利です。
OBIRCHとどう使い分けますか?
信号の作り方が異なります。エミッション顕微鏡はデバイスが自分で放つ光を待ち、AC・DCどちらの状態でも解析できます。OBIRCHは赤外レーザで局所を温めて電流の変化を読み取り、IR-OBIRCHでは反応が出た場所がほぼそのまま故障箇所になります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”7件を表示
- 1材料科学技術振興財団:[EMS]エミッション顕微鏡法mst.or.jp abcd
- 2
- 3ローム:品質・信頼性ハンドブックfscdn.rohm.com abc
- 4ルネサス エレクトロニクス:半導体信頼性ハンドブックrenesas.com ab
- 5浜松ホトニクス:PHEMOS-X エミッション顕微鏡 C15765-01hamamatsu.com ↩
- 6東芝デバイスソリューション:半導体故障解析toshiba.co.jp ab
- 7浜松ホトニクス:iPHEMOS-DDX 開発のお知らせ(2026年9月)hamamatsu.com ↩