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フローティングボディ効果とは

フローティングボディ効果とは、MOSFETが動作する間に生じた電荷が、まわりから切り離されたボディ(チャネル下部)へたまり、しきい値電圧などの特性を動かす効果の総称です。 ボディの電位を固定すれば、この効果は収まります。厄介なのは、たまった電荷が電流を増やし、増えた電流がまた電荷を増やす正のフィードバックを持つ点です。一方でGAAナノシートのようにゲートが四方を囲む構造では、ボディへ専用の端子を引き出すこと自体が難しく、浮いたボディのまま設計する場面が広がっています。対処は、消すか、測って織り込むか、速度に使うかの3つです。

埋め込み酸化膜で切り離されたボディは、電位が決まらない

Section titled “埋め込み酸化膜で切り離されたボディは、電位が決まらない”

SOI MOSFETでは、埋め込み酸化膜(BOX)がチャネル下部のボディを支持基板から隔てます。ボディ領域はBOX層で基板と分離されているため、電位が固定されていません1。SOIは素子間の分離をSiO2膜で行い、従来のPN分離で生じていた寄生素子による誤動作や破壊を防ぐ構造です2。ボディが浮くのは、この分離のしかたの帰結です。

GAAナノシートでは、ゲートがチャネルを全周から囲む構造そのものが、ボディを電気的な端子から隔てます。

正孔がたまり、電流とボディ電位が互いを押し上げる

Section titled “正孔がたまり、電流とボディ電位が互いを押し上げる”
正孔の蓄積と正のフィードバック
ゲートソースドレイン埋め込み酸化膜(BOX)支持基板++++空乏層電子中性領域1 正孔がたまる2 ソース接合が順方向へ3 電子注入で電流が増える
インパクトイオン化で生じた正孔がボディ下部の中性領域へたまり、ボディ電位を押し上げます。その電位がソースとボディの接合を順方向へ寄せて電子を注入させ、増えた電流が正孔をさらに増やします。

インパクトイオン化で生じた正孔がボディ下部の中性領域へたまり、ボディ電位を正方向へ動かします1。上がったボディ電位は、ソースとボディの間のダイオードに対して順方向のバイアスとして働きます3。電子がソースからボディへ注入され、ボディを拡散してドレインに集められます。こうしてボディ電位が上がるとドレイン電流が増え、増えたドレイン電流がインパクトイオン化をさらに進めて正孔の蓄積を増やします。この正のフィードバックが、フローティングボディ効果という名前の中身です。

蓄積は、寄生バイポーラトランジスタ(PBT)によるブレークダウン電圧の低下も引き起こします。ボディ電位の変動やPBTは、小さなゲート電圧の変動で通常より大きく電位を動かし、多くのドレイン電流を流すことに相当します。この蓄積は長らく、SOI MOSFETの実用化を阻む課題になっていました。

電流が途中で跳ね上がるキンク、オフ特性が膨らむシングルラッチアップ

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キンク現象
ドレイン電流ドレイン電圧キンクボディが浮いた素子ボディ固定インパクトイオン化なし線形飽和領域
ボディが浮いた素子では、飽和領域の電流が途中で一段上昇します。ボディ電位を固定するか、インパクトイオン化を除いて計算すると、この段は現れません。

キンク現象は、飽和領域の電流-電圧特性が途中で上昇する現象で4、フローティングボディ効果の一種です。原因がインパクトイオン化の正孔にあることは、計算からも確かめられています。インパクトイオン化を除いて素子を計算するとボディ電位の動きは比較的小さく、出力特性にキンクは現れません3。

シングルラッチアップ現象もこの効果の一種で、オフ特性が凸に膨らみます。これが起こると、線形領域のしきい値電圧を高めに設計せざるを得なくなります。

中性領域が残る部分空乏でだけ、正孔はたまる

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部分空乏と完全空乏
PD-SOI(部分空乏)ゲート中性領域に正孔がたまるFD-SOI(完全空乏)ゲート20 nm以下正孔はソースへ抜ける空乏層中性領域ソース・ドレイン埋め込み酸化膜正孔
SOI層が空乏層幅より厚いPD-SOIでは空乏層の下に中性領域が残り、正孔がたまります。20nm以下のSOI層の全体が空乏化するFD-SOIでは、正孔はソースへ抜けます。

蓄積が起こるには、ボディが部分空乏化している、つまり中性領域が残っている必要があります。完全に空乏化すると、ソースとボディの間の障壁が下がり、正孔はソースへ抜けてしまいます。

SOI層の膜厚がチャネル空乏層幅より厚く一部のみ空乏化するものをPD-SOI、SOI層全体が空乏化するものをFD-SOIと呼びます。FD-SOIは、20nm以下の厚さのSOI基板を用いてMOSトランジスタを作り、SOI厚方向の全領域が空乏化するようにしたトランジスタです5。

ただし、150nm世代でSOI膜厚40nmという実用的な条件では、リーク電流を抑えるために基板の不純物濃度を上げる必要があり、結果としてPD型になる例があります。膜厚に加えて、不純物濃度もFD型かPD型かを左右します。

消すか、測って織り込むか、速度に使うか

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ボディへ端子を引き出せば電位が固定され、振る舞いは素直になりますが、面積と配線の余裕を支払います。ボディを浮かせたままにすれば、専用の端子や配線を省け、素子を小さくまとめられます。その代わり、キンクやシングルラッチアップ、ヒストリー効果といった非線形な振る舞いが設計に入り込み、タイミングやしきい値電圧の見積もりが難しくなります。GAAナノシートのアクセストランジスタでも、ゲートが四方を囲むためボディ端子の確保は難しく、特性を測って設計へ織り込む姿勢が定着しつつあります。

蓄積そのものを利用する設計が、第三の道です。FD-SOIでも、フローティングボディ効果を設計へ積極的に取り込み、高速化と低消費電力化を両立させる例があります。この効果は、サブスレッショルドスイングを急峻にする素子にも使われます。森貴之の博士論文は、この効果を使う急峻SSのSOI MOSFETはI-MOSより低いドレイン電圧で急峻な特性を起こせる点が魅力だとしつつ、1.0Vを切るのは難しいと考えられるとしています1。同論文のPNBT SOI-FETは、インパクトイオン化を使わずにこの効果を起こすためにボディ端子を設けています。

利用する側にも代価があります。同論文は、たまったキャリアがチャネル電位を保つためにヒステリシス特性を持つと考えられること、キャリアの蓄積と排出に時間がかかると予想され、動作速度に懸念があることを挙げています。キャリア寿命が短くなると注入効率が下がり、正のフィードバックとこの効果が起こりにくくなるとも考察しています。

フローティングボディ効果とは何ですか?

動作中に生成される電荷が浮遊ボディであるチャネル部にたまり、しきい値電圧を変化させるなどの効果の総称です。キンク現象や、寄生バイポーラトランジスタによるブレークダウン電圧の低下を引き起こします。

なぜボディが浮くのですか?

SOIでは埋め込み酸化膜が、GAAナノシートではゲートが四方を囲む構造そのものが、チャネル下部のボディを電気的な端子から隔てるためです。基板と分離されたボディは電位が固定されません。

キンク現象とは何ですか?

飽和領域の電流-電圧特性が途中で上昇する現象で、フローティングボディ効果の一種です。インパクトイオン化を除いて計算すると、ボディ電位の動きは小さく、キンクも現れません。

シングルラッチアップ現象とは何ですか?

フローティングボディ効果の一種で、オフ特性が凸に膨らむ現象です。線形領域のしきい値電圧を上げる要因になります。

どこに電荷がたまるのですか?

インパクトイオン化で生じた正孔がボディ下部の中性領域へたまり、ボディ電位を正方向へ動かします。上がったボディ電位はソースとボディの接合を順方向に寄せてソースから電子を注入させ、ドレイン電流の増大がさらに正孔の蓄積を増やす、正のフィードバックです。

完全に空乏化すれば、蓄積は止まりますか?

止まります。完全空乏化するとソース-ボディ間障壁が下がって正孔がソースへ抜けるため、蓄積には部分空乏化、つまり中性領域の存在が要ります。

この効果は常に厄介者ですか?

場面によっては、逆に生かされます。FD-SOIでもフローティングボディ効果を設計に取り込み、高速・低消費電力化に積極利用する例があり、急峻なサブスレッショルド特性を狙う素子にも使われます。

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